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06話 魔法と情勢

「魔力が極端に高い兵士を集めて、特殊訓練を課した精鋭部隊があるのね…ふむ…帝国の武器は魔力の高い兵士たちによる空中戦術か…なるほど…」


 さて、あれからあっという間に1週間が経った。


 改めて採寸して制服を買い直し、道具を揃え、校長との面談も無事済ませた。毎日欠かさず長時間トレーニングをし、筋トレをし、父の書斎にある文献や論文をひたすら読み漁り、勉強し、メモをしまくる毎日。


 さすが帝国陸軍上級大将の書斎というべきか、どの文献も難しすぎて完璧に理解するには辞書が不可欠だった。そのためやや時間をかけながらの勉強となってしまったが、自分でも驚くべきことに3日程度でそれも慣れてしまっていた。5日目にはもうほとんど辞書を使わずスラスラと読めるようになっており、本当に、我ながら驚いている。ツェペルン家の遺伝子恐るべし。


 またこうした勉強の中で、最近の情勢についても積極的に耳に入れるようになった。

 その内容は、お隣のグレニア=ロズヴァリー帝国の王子が先日士官学校を卒業されたなんていう小さな話題から、海を挟んで大陸にあるお隣トレニベア王国がそのお隣のケルニク共和国連邦とギスギスしているらしいことまで様々。

 特にこの両間では100年ほど前に、他国を大勢巻き込む程の戦争が起こっていた。最終的には、トレニベア王国へ多額の賠償金や領土縮小等を求める条約が締結され、戦争は終結に至る。

 以来ずっとギスギスしているわけだが、最近またちょっと関係が悪化しているらしい。来月にグレニア=ロズヴァリー帝国が仲介となり両間で会談が行われるらしいが、一体どうなることやら。


 どの世界でも世界情勢は似たようなものなのかと、ついぼんやり地図を眺めてしまう。


 前世の基準で見てみると、グランツェリア帝国はどこかドイツに似ている、ような気がする。しかし地図を見ていると、どこかスペインやイングランド、ポルトガルや日本にも似ているなと思う。

 この世界の歴史を見る限り、どうやらこの帝国は数百年前に統一がされていたらしい。我が家は一応公爵だが、あくまで一部地域として領地が存在しているあたりかつてのドイツとは違っている。その点、皇帝が国を治めているという体制は中国やかつてのロシアを彷彿とさせるし、植民地を持っているという点に関しても、さながら近代の帝国主義である。


 特定の国に似ているようで似ていない、前世を知っているからこそ、そのことに妙な感覚がしてしまう。


「兵器なんかをみてると、前世でいう19世紀くらいの感じなのかしら。魔法はあるけど皆が皆使えるわけではないようだし、一般的な魔力量であればほんの補助程度しか活用出来ないみたいね」


 そう、この世界には魔法というものが存在している。


 簡単なものであれば、ほんのちょっと物を浮かせたり動かしたり。難しいものであれば、幻影を作ったり空を飛んだり、バリアを出したりなんてことも可能だ。


 そして魔法を使うにあたり必要となるのが魔力。


 使えば減るが、時間が経てば回復するHPのようなもの。魔力の量は生まれつきのもので個人差はあるものの、成長するにつれ増えたり、老化によって減ることもあるという。


 前世で暮らしていた日本同様、グランツェリア帝国では毎年の健康診断が義務付けられている。

 しかし異なる点は、その健康診断の項目の中に「魔力値」があるということだ。


 魔力値とは、魔力量とその回復速度から算出された数値で、実用的に使用できる魔力とその強さの目安を可視化したものである。魔力値が高ければ高いほど実用的に使用できる魔法の幅が増えるため、将来の選択肢も少なからず増える。

 グランツェリア帝国では健康診断をもれなく無償で行っているということもあり、貧しい出身の者は魔力値があるかないかを特に注視しているらしい。


 グランツェリア帝国軍における平均魔力値は303.6。もちろん軍人だからとて皆が皆、魔力があるわけでも魔法を使えるわけでもない。しかし隣国のグレニア=ロズヴァリー帝国軍の平均魔力値が156.8ということを踏まえると、非常に高い数値だということがわかる。


 そのためか、グランツェリア帝国軍は魔力にモノを言わせた飛行戦が得意なようだ。


「まだ試作段階みたいだけど、魔力増強装置なんてのもあるのね。魔法の術式として銃火器の威力を高めるものも開発されてるみたいだし。後々この2つを組み合わせた新たな戦法を構想中……グランツェリア帝国軍は本当に優秀だわ」


 床に座り込みながら、父の書斎からかき集めた論文を読み漁る。ノートやらペンやら、論文やら本やら地図やら、自身の健康診断結果やらが床中あちこちに散乱していた。


 一人で勉強するから、と言ってソフィアを下がらせたのは正解だったなと独りごつ。

 もしこの散らかった状態を彼女に見られたとしたら。彼女は私に甘いので文句こそ言わないが、「お嬢様ってば本当に仕方がありませんね〜」なんて言いながら嬉しそうに子供扱いしてくるのは間違いない。

 それってすごく恥ずかしい気分になるというか、前世と合わせればもういい歳なのに、こんなこと言われる私って…などと自己嫌悪してしまうのだ。


「去年の健康診断の結果だと、確か私の魔力値は589.0。成長するにつれて増えていくこともあるっていうし、帝国が得意としてる魔力ゴリ押し戦法と相性が良いのは確かね」


 魔法については、この帝国内のどの学校においても、魔力のある児童に対し座学と実技による教育が義務化されている。幼年学校でももちろん、普通学をはじめ軍事学、魔力のある者は魔法学を1から教わる。士官学校に入れば、恐らく専門的な術式等も学ぶことになるだろう。


「そういえば、リトはどれくらい魔力があるのかしら。幼年学校は魔力が高ければほぼ合格みたいなところだけど、リトはすごく勉強を頑張っていたようだし、あまり高くはなかったのかしら」


 うーん。気になる。


 この世界では魔力がある者・魔法が使える者の方が、割合としては格段に少ない。だからこそ魔力値が重視される反面、特にデリケートな話題というわけでもない。

 例えるなら、身長何センチだった?程度のデリケートさだ。聞かれて平気な人は平気だし、嫌な人は嫌だしという程度。


「よし、本人に聞いてみよう」


 恐らく父の書斎か、ハウス・スチュワードのハンスに聞けば診断結果を教えてくれるのだろうが、本人を介さずというのはさすがに気が引ける。

 いずれ幼年学校へ行けばわかることなのだが、せっかくならリトとお喋りがしたかった。ちょっとした口実だ。


 さっそく床に散らばったものをまとめて、片付ける。論文や本を元あった棚に戻し、ノートとペンを持って父の書斎を出た。





 廊下に出て屋敷内をウロウロしていると、客室から何やら話し声が聞こえてきた。


 はて、誰が来る予定でもあっただろうか。両親からは何も言われていなかった気がする。急な来客だろうか。扉は解錠されているらしい。隙間からそっと中の様子を覗こうとする。



「あれ、お嬢様。何をなさってるんですか?」


 背後からの突然の声に、思わずビクリと身体が跳ねた。


 ぱっと勢いよく振り返ると、そこには私が会いたがっていたリトが立っていた。


「リト!びっくりした…」


「あっすみません、驚かせてしまって。まさかそこまでびっくりなさるとは…」


 私があまりに驚きすぎたせいか、リトはやや申し訳なさそうに謝った。


「いえ、いいのよ、こっちこそごめんなさい……あら、その鉢は?」


 よくよくリトを見てみれば、その手にはなにやら、紫色の小さな花が咲いた鉢植えを抱えていた。


「ああ、これは庭師のルイさんにいただいたんです。デルフィニウムの苗が余ったからって、わざわざ鉢植えにしてくださって。別棟にでも飾ってくれって言ってました」


 そう言うと、リトは嬉しそうにふにゃりと笑った。改めて、本当に穏やかで愛らしい笑い方をするなと、こちらもつい笑顔になってしまう。


 この屋敷の西側にある別棟には、我が家の使用人たちが暮らしている。きっとこの鉢植えはその別棟のどこかに飾られるのだろう。リトのことだ、皆に見てほしいと使用人通路の出入り口にでも飾るのかもしれない。


「素敵ね。きっと華やかになるわ。あ、ちゃんと日光の当たる場所に置かないとだめよ、窓のあるところにね」


「あっそうか…出入り口の脇に置こうと思ってましたけど、あそこは日光がないからダメですね。…それじゃあ、1階の廊下にすごく大きな窓があるので、そこにします」


「このお花はリトが世話をやるの?」


「ええ。入学までは僕がお世話をしますけど、その後は他の使用人さんたちが交代で見てくれるそうです」


「そう。きっと帰ってくる頃には随分大きくなってるでしょうね。今から楽しみだわ」


「ええ。僕も本当に楽しみです」



 そう二人で笑い合っていると、背後の扉が開く音がした。

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