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02話 両親の説得

「うぅん……」


 眉間に手をあてながら、父が唸る。


「突然無理なお願いをしてしまったことは重々承知しているの。でも、お願い。私、軍人になりたいのよ」


「…シャーリー、もう一度聞くけれど、本気なんだね?」


「もちろんよ」


 キッと、父の目を見据える。

 貴族出身の女性が幼年学校に入ることについては、この世界で、少なくともこの帝国ではなんの問題もない。特に、ツェペルン家は代々軍人として帝国に尽くしてきた軍事貴族。その一人娘が幼年学校に入ったとて、士官学校に入ったとてなんの不思議もないわけである。


 ただ一つ問題があるとすれば、たった一人の可愛い娘を軍人という過酷な状況に起きたくないという親心だろうか。


 ただでさえ心配性で過保護気味の両親なのだ。そう簡単に承諾してもらえるとは思っていないが、ここはなんとしてでも押し通さねばならない。私の命のためにも。


 私の真剣な様子に、父は再び唸り声を上げる。母も心配そうにこちらを伺っている。


「あなたは将来皇太子妃に、ゆくゆくは皇后になる女性なのよ。わざわざ軍人にだなんて、辛い思いをしなくても…」


「そうだよ。確かにツェペルン家は代々軍人としてこの帝国に尽くしてきた。けれど、お前には皇太子妃としての将来が約束されている。決して軍人にならなきゃいけないわけじゃない。ゆっくり学園生活を送ったって…」


 そう、言い淀む両親。自分の運命がわかっている私としては、両親の言葉を聞けば聞くほどに、なんとしてでも幼年学校に、ゆくゆくは士官学校へ入り士官にならねばという気持ちが強くなる。


 何せ、この世界があの乙女ゲームの世界である限り、私の将来は決して約束されていないのだから。婚約破棄・国外追放の可能性がある以上、そうなる前に、軍人として確固たる地位を築いておきたいという気持ちがある。


「お父様、お母様。私、皇太子殿下の隣に並ぶ者として、それに相応しい女性になりたいの。ツェペルン家として、皇太子妃として。強く凛々しく、殿下を支えられるような女性に…」


 適当にそれらしい理由をベラベラと話す。我ながら、これはなかなか良い理由ではないだろうか。悲しげな表情でそっと目を伏せれば、そんな私の様子にぐっとこらえる両親の姿がちらりと見えた。


「だからって、なにも士官学校を目指さなくても…あなたは十分強くて凛々しい女性だわ…」


「…お母様、言ったでしょう。ツェペルン家として、って…皇太子妃としてはもちろんだけれど、この家にとっても相応しい女性でありたいのよ」


 ツェペルン家の歴代当主は、決して男性だけではない。軍人として、帝国の大黒柱として在り続けるツェペルン家には、強く凛々しい女性当主が多く存在した。特に6代前の5代目当主は、女性でありながらツェペルン家の中でも最も魔力の高かった当主として語り継がれている。


 そんな我が家の事情を知り尽くしている両親だからこそ、私のこの言葉に声を詰まらせた。


「……」


 よし、あと少しだ。


「お父様…お願い」


 そう言ってうるうると目を潤ませれば、父の口から大きなため息が漏れる。



「……わかったよ」


ポツリ、と父が呟く。


「あなた…!」


 その言葉を咎めるように母が間に入るが、父はそれを一瞥し、静かな声で私に話す。


「ただし、やるなら徹底的に、だ。ツェペルン家の人間だからとて、決して優遇はさせないよ。それでも良いなら、好きになさい」


 私は、父の許可を得ることに成功したのだった。


「もちろんよお父様!徹底的にやるわ!ふふふ!嬉しい!本当にありがとう!」


 あまりの嬉しさで思わず体を跳ねさせる。勢いで父に抱きつき、母からは心配そうな面持ちでため息を食らった。


 残り1ヶ月。されど1ヶ月。そうだ、入学に備え、今から少しでも体を鍛えなくては!

 高ぶる気持ちをなんとか抑えながら、命の危険を回避できたという喜びを噛みしめる。


「それにしても、どうして急に幼年学校に入りたいだなんて言い出したんだい?」


 ふいに、父からそんな疑問を投げかけられる。


「そういえばそうよね。我が家の仕事に興味を示す様子も今までなかったし…どうしちゃったのかしら?」


 不思議そうに母が言う。

 将来婚約破棄されて国外追放された挙げ句命を落とす運命にあるから、それを回避するために士官学校に入って、地位を確立したかったの!

 なんて言えるわけもなく。


「えっ、えーと…突然自覚が湧いたのよ!私は皇太子妃になるんだっていう!ほら、入学までもうあと残り1ヶ月って考えたときに、改めて自分の在り方を考えたというか…!その、このままじゃダメだなって、突然ね…!」


 苦し紛れの、取ってつけたような理由である。突然投げかけられた疑問に、思わず目が泳いだ。咄嗟にそれらしい理由を並べられた私を褒めてほしい。

 そんな私のたじたじな言葉に両親はというと、なんの疑いもなく真に受けている。なんなら、ちょっとうるっときているようである。


「…シャーリーも、私達の気づかない間に大人になっていたんだね…」


「そうね…もうすっかり大人の女性だわ…」


 なんとか誤魔化すことに成功したようである。思わずほっと胸を撫でおろした。


「もう、何を言っているのよお父様、お母様ったら」


 ミッションは成功!これで、私の将来は安全だ。ツェペルン家の人間だからとて優遇はされない。がしかし、少なくとも他の人間と比べれば危険な目に合う機会は格段に少ないだろう。

 これで安全な軍人ライフ、もとい、キャリアエリート出世街道まっしぐらだ!


 ふふふ、とつい笑みが溢れる。断罪イベントなんて、運命なんて、この手で蹴散らしてくれるわ!





 この時は、私の人生があんなにもハードモードライフになってしまうなんて、微塵も想像できていなかったのである。

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