11話 誤解と謝罪
アンナ・エルツカヤの見解
「どうなってんだあれ!?!」
ぜえぜえと荒くした呼吸を必死に整えながら、私の親友・リュイは行き場のない自身の心境を全力で叫んだ。
「……っどれのこと…?教官…?それと…も、シャルロッテさん…?」
「全部!!」
午後の軍事訓練を終え、そのあまりの過酷な内容に疲れ果てたのち、地面に大の字で倒れ込んでから約30分。未だに動けないままでいる。
他の同期生たちも概ね似たような状況だったが、夕食の時間が近づいていることもあり、蹌踉とした足取りで一人また一人と帰っていった。現在ここに残っているのは、私・アンナと親友のリュイ2人だけである。
幸いこの場所を使って訓練をしていた班は私達が最後だったため、そのままダラダラと居据わっているというわけだ。
「っよく、…叫ぶ…元気残ってる…うらやまし…」
「いや…叫んでないと、やってらんない、だけ…喋るのも、辛い」
「……はは…」
この調子じゃ夕食も喉を通りそうにない。食べてもすぐに吐いてしまいそうだ。実際、昼食は軍事訓練中に全部出た。
「あの教官……いつか……いつか覚えてろ………」
リュイは一通り叫んだ後、今度は消え入りそうな声でブツブツと恨み言を並べ始めた。
それも無理はない。陸軍の幼年学校とはいえ、ここに通う者全員が必ずしも将校を目指しているとは限らないからだ。
カリキュラムの中には法律に関する講義も重点的に組み込まれている。専門性があり帝国内のどの学校よりも本格的に学ぶことになるため、中には政治家や官僚、弁護士を第一志望に考えて入学する者も多い。
また軍人を育てる以上は、魔法をはじめ医療など人体の安全に関わる事柄もしっかりと叩き込まれるため、卒業後に大学校へ進み学者や医者を目指す者もいる。
かくいう私達も、特に入隊を第一志望として考えていたわけではなかった。我々貧困な庶民にとってこの幼年学校とは、自身の身分を唯一格上げすることのできる一手である。そのため軍人という職業に強いこだわりがあったわけではない。
しかしこれではまるで、兵士の訓練そのままではないか。それもなかなかハードなやつ。どうやら担当教官は私達を根っからの軍人にする気らしい。
「………シャルロッテさん……凄かったわね……」
軍事訓練中の彼女の様子を思い出しながら、私はぼんやりと呟いた。その言葉に、リュイも頷くような仕草をする。
「…凄かった……」
それは今から数時間前のこと。
軍事訓練中の彼女は、本当に凄まじいものだった。ツェペルン家一族の人間、しかも本家のご令嬢ということで、ほかの同期生たちに比べ教官から厳しい目を向けられていたように思う。
しかしその扱いすら跳ね除けるほど、彼女は教官のあらゆる指導に対応していたのだ。
代々続く軍事貴族・ツェペルン家の娘という血統の強さを、今回私達はまざまざと思い知らされたのであった。
「…正直、温室育ちのお嬢様だと思ってたぜ。あんまいい噂聞かなかったし」
「だから、言ったじゃない…所詮は噂なのよ…」
「だな…すごくカッコ良かった…」
リュイは目をキラキラさせながら、ぼんやりとそう呟いた。
前日の発言から、リュイが彼女をあまり良く思っていないことは明らかだった。しかし、まさかここまで印象が変わるとは。予想と現実とのギャップに相当衝撃を受けたらしい。
「…戻ったら、ちゃんと謝らなくちゃね」
「…そうだな」
その後宿舎に戻ったリュイはシャルロッテへ盛大に謝罪した。
突然の謝罪と尊敬の眼差しを向けられたシャルロッテはというと、状況が読めず大変あたふたしていたのであった。




