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私は聖女のドッペルゲンガー ~聖女は神殿から外に出られないので、代わりに冒険します~

作者: イ尹口欠

ドッペルゲンガーを召喚するのは5話目くらいです。

 身体が重い。

 手足が動かない。

 だが温かい。


「あーうー」


 声が出たものの、うまく喋ることができない。

 これは一体?


「聖女様、お乳の時間ですよ」


「!?」


 女性の声がして、私は軽々と持ち上げられた。

 そして口に甘い香りのする何かが入ってきた。

 私は思わずそれを力強く吸う。


 ごくごく。


 味はよく分からないが、温かい何かを飲み下していく。


 お乳?

 つまり私は――。


 赤ん坊になったのか。

 生まれて間もない間は目も開かない。

 たぶん、お包みに手足を固定されているから動けないのだ。

 生後間もないということは、うまく喋ることができないのも仕方のないことだ。


 しかし聖女って一体、どういうこと?


 ▽


 5歳になった。


 特別な聖痕を背中にもって生まれた聖女、それが私です。


 神殿で何不自由なく育てられている。

 本当の両親から取り上げられたらしく、乳母や侍女たちしか周囲にいない。


 広い神殿から外に出たことは無いが、言葉はすぐに理解できたし文字も早々と覚えて、神殿の図書室に入り浸る日々。

 この世界には魔法があり、魔物がいて、かつては勇者と魔王が争っていたとかなんとか。


 聖女に生まれついたのは偶然か、必然かは分からない。

 前世、日本で暮らした記憶がチラつく。


 死んだことは覚えているけど、神様に会ったとか、そういう記憶はない。

 私が前世の記憶をもって聖女になったことに、意味はあるのだろうか?


     ◆


 分からないことがたくさんあるけど、私は元気です。


 今の時間は退屈な勉強を終えて自由時間です。

 私は神殿の中庭で魔術の練習を日課にしていました。


「聖女様、あまり危険な魔術は使わないでくださいね。この前の木が燃えたような光の魔術はダメですよ」


 私つきの侍女イネスが「めっ」ってしてくるので、仕方なく集光の魔術は止めておくことにしました。

 レンズのように光を収束させて一点に集めると、高温となって発火するのは大発見だったのですが……。


 仕方がないので、燃えた木を再生させる回復の魔術の練習をすることにしました。


「光よ、聖なる光よ、新たな命を木に」


 私は木が大きく枝を広げて青々とした葉っぱをつけるイメージを脳裏に思い浮かべて、両手を焦げ跡の酷い木に当てて魔力を流し込みました。

 すると木の魔力と繋がります。

 繋がったところから、グングンと私の魔力を流し込んでいくと?


 木はズズ……と身震いした後、生きている部分から芽が生え枝となり葉っぱをつけました。

 続けると、どんどん木は大きく成長していきます。

 幹は太くなり、枝は増えて、元々の木よりも立派になりました。


「ああ、流石は聖女様! なんと素晴らしい!」


 侍女イネスが感極まった感じで感動しています。


 光は命。

 光は命。

 光は命。


 私は頭の中で唱えます。

 光属性の魔術は、単純な光学的な光以外に、生命に働きかける効果も併せ持ちます。

 あとは聖なる効果もあって、アンデッドなどを一撃で浄化したりもできるとか。


 まあアンデッドには会ったことがないのでそれは知りませんけど。

 代わりに私はこっそり浄化の魔術で身体を綺麗にする魔術を編み出していますが。


 魔力を使い切ると、私は木から手を離してその場に座り込んでしまいました。


 大きく広げた枝を見上げ、「よくもまあこんなに立派に……」と思わず呟きました。


「聖女様!」


 侍女イネスが私を抱き上げます。


「魔力を使い切りました。部屋まで連れて行ってください」


「はい、畏まりました」


 私はイネスに抱っこされながら、部屋に連れて行かれます。

 部屋に戻ると、薄めたMPポーションを飲まされます。

 少しだけでも魔力が回復すれば、自分で立って歩くことができます。

 一晩ぐっすり眠れば魔力は全快しますから、夕食がとれる程度にほんの少しだけ回復しておけばいいのです。


 魔力を使い切るまで木を成長させたのは、自分の魔力を成長させるためです。

 どうもこの世界では魔力を使い切ると、最大MPが少し増えるようなんですね。


 私は神殿の図書室でそのことを知ってからは、毎日中庭で魔力を使い切るようにしています。

 ただ普通の人はこのような訓練をしません。

 MPポーションが高価なので、普通の人は魔力切れで動けなくなると最悪、死亡してしまうからです。


 聖女とかいう特別な立場で良かったですね、ほんと。


 そうそう、聖女というのは背中に聖痕がある特別な女性のことを言います。

 神に選ばれし聖女は、いずれ成長すると神との交信を行うことができると言われています。


 神託はこの世界の神殿、つまり宗教において最重要とされています。

 だから神様の声を直接聞くことのできる聖女は神殿で下にも置けぬ存在というわけですね。


 ▽


 私は夜、光の屈折を利用して街を眺めることにしています。


 千里眼と呼んでいますが、この魔術は遮るものがなければどこでも覗き見することができる優秀な魔術なのです。

 単純な光学的な利用法なので、消費MPもごくわずかというコスパの良さ。


 そもそも隙間のない建物自体が少ないため、街の中ならどこでも覗き見できます。


 もちろん街の外も。


 ただ街の外は見ても面白いものがないので、もっぱら私は神殿の外の様子を伺う方が楽しいです。


 今日は酒場を覗き見することにしました。

 夜、一番賑やかなのはやっぱり酒場ですからね。


 今のところ街で見かけるのは人間族(ヒューマン)が最も多く、ついで山人族(ドワーフ)、稀に森人族(エルフ)といった感じです。

 人類には後、人魚族(マーメイド)鳥人族(バードマン)がいるのですが、両種族はなかなかお目にかかることができません。


 今日は珍しく、鳥人族(バードマン)が酒場に来ています。

 夫婦とその子供である男の子が、蜂蜜酒を飲んで、料理を食べています。


 周りのお客さんも鳥人族(バードマン)は珍しいのか、チラチラ見ていますね。


 私は彼らの翼をよく観察してから、……おっと魔力が減ってきました。

 残念ながらおねむの時間です。


 それではまた明日。

 おやすみなさい。


     ◆


 私は朝食の後、窓の外を眺めながら千里眼を使って神殿区画を覗き見していました。

 勉強の時間までの自由時間に神殿区画を覗き見するのは、ほとんど日課になっています。


 すると昨晩、見かけた鳥人族(バードマン)の少年が両親に連れられて神殿にやって来ていました。


 どうやら少年は7歳のようですね。


 この世界では、7歳になると神殿からクラスを授かることができるのです。

 メインクラスとサブクラスがひとつずつ、候補から選択できるんですね。

 そのため子どもたちは、7歳までに神殿教室で文字を学び終えなければなりません。


 メインクラスには親と一緒のクラスを選択するのが一般的なようで、職人の子は職人のクラスを、兵士の子は兵士のクラスを得るのが良しとされています。

 ただ稀に冒険者になるために戦闘系のクラスを選択したり、親とは違う道を行きたくて別のクラスを選択したりして、両親と揉めるケースも見受けられます。


 さて少年が儀式の間に入っていきました。

 扉の隙間から千里眼による覗き見を続行します。


 ふむ、少年は迷うことなくメインクラスとサブクラスを選択したようです。

 少年の身体をポワァと光が包み込みました。

 クラスを決定したときの光ですね。


 別名、神の祝福、だとか。


 さて私の目的は儀式の間にある巨大な石版、正式名称を識別盤と呼ばれる、クラスを確かめる石版で結果を知ることです。


 司祭の人に促されて、少年は識別盤に触れました。


 ほうほう、メインクラスは騎士、サブクラスは木工職人ですか。

 騎士のクラスは出世街道と聞いたことがあります。


 正式に騎士叙勲を受けるまではただの戦闘系クラスですが、叙勲されれば一代限りの爵位となります。

 少年の場合は鳥人族(バードマン)ですから、単純に集落の守り手として最も強い戦闘職を選んだだけなのかもしれませんが。


 儀式の間を出て少年のクラスを司祭が発表します。

 両親は嬉しそうに少年を抱きしめました。


 どうやら揉め事になるようなクラス選択ではなかったようですね。


 おっと、勉強の時間です。

 覗き見を打ち切って、私は机に向かいました。


 ▽


「そういえばイネスのクラスは何ですか?」


「突然、どうされましたか?」


「いえ、身近にいる者のクラスを私は知らないと、ふと気づいたまでです」


 イネスは「確かに聖女様に私のクラスを教えたことはありませんでしたね」と言いました。


「私のクラスは、メイドと暗殺者です」


「暗殺者?!」


 いきなり剣呑なクラスが飛び出してきてビックリです。


「え、なんで暗殺者?」


「聖女様づきの侍女ですよ、私は。身辺警護くらいできなければ、ひとりで居住区の聖女様の傍にいられるわけがないじゃないですか」


 そういえば私が神殿区画に行くときは、神殿騎士が付き添う決まりです。

 居住区画ではイネスしかついていませんでしたが、まさかイネスが戦闘系クラスを嗜んでいたからとは知りませんでしたね。


「じゃあ、他の侍女たちも何らかの戦闘系クラスを持っているんですか?」


「まさか。戦闘系クラスを所持しているのは私くらいなものですよ。だからこそ聖女様づきになれたのですから」


「はあ……」


「例えば料理人、絵描き、楽器奏者……基本的に平和なサブクラスばかりですよ?」


「へえ。メインクラスは全員、メイドなんですか?」


 イネスは大きく頷きながら「その通りです。メイドにあらずんば侍女にあらずです」と言いました。


「私も早くクラスが欲しいですね」


「聖女様はメインクラスが聖女に決まっていますから、サブクラスしか選択できませんね。どんなクラスがいいか、決められていますか?」


「魔術師系がいいな、とは思っています。そのくらいしか楽しみがないので」


「聖女様……」


 イネスは私が一生、神殿から出られないことを知っています。

 涙をグッとこらえて「きっと魔術師系のサブクラスがたくさん選択肢に現れますよ」と言ってくれました。


 毎日、魔術の訓練をしているので、出てこなければ困ります。


 例え一生、神殿から出ることが叶わないとしても――。


     ◆


 7歳になりました。

 今日はいよいよクラスを授かる日です。


 周囲もいつもより慌ただしく、私は普段よりも綺麗な服を着せられて居住区画から出ます。

 神殿騎士が数名、侍女も数名ずつついて、物々しい限りです。


 神殿区画に来た私に、司教様が「ようこそ聖女様。いよいよ聖女のクラスを授かる時が来ましたね」と声をかけてきました。


「はい。聖女のクラスを無事に得られるよう、私も祈っています」


「背中の聖痕はたしかに聖女のものです。ご心配めされるな。それに卓越した光の魔術の腕前に大量の魔力。必ずや聖女のクラスを得ることでしょう」


「……ありがとうございます」


「それでは早速、クラスを得る儀式の間に参りましょう」


「はい」


 たまに千里眼で覗き見しているので勝手知ったる儀式の間です。


「では早速、儀式を始めましょう。……神聖なる神よ、唯一の神よ、ここにある子にクラスを授けたまえ」


 ……割りと簡素な祈りですね。


 そんなことを考えていると、目の前にニュっとホロウィンドウのようなものが浮かび上がりました。

 あーこれが他人からは見えない、クラス選択画面ですか。


 メインクラスには聖女しか選択肢がありません。

 聞いていた通りでひと安心です。

 これで神殿で一生、ぬくぬくと生活できるわけですね。


 さてサブクラスは、と。


 おお、魔術系が軒並み揃っていますね。

 火魔術師や水魔術師のような単一属性の低級魔術師から、空間魔術師や時間魔術師などの上級魔術士までよりどりみどり。

 錬金術師もありますねえ。


 珍しいところでは召喚術師なんてものもあります。

 これはラッキーです。


 モフモフなペットを召喚できれば、この神殿生活に潤いも出るというもの。

 よし決めた、召喚術師にしましょう!


 私は召喚術師を選択して、『これでいいですか?』という確認に『はい』を選択します。


 ポワァ、と私の身体が輝き、無事にクラスを授かったことを知らせます。


 司教様は「無事にクラスを授かったようですね。では識別盤でクラスを確認しましょう」と言って儀式の間にある大きな石版を指し示しました。


 そうです、この石版を使って得たクラスを確認するのです。

 私も例外ではありません。


 私は識別盤に触れると、


《メインクラス 聖女

 サブクラス 召喚術師》


 と無事に表示されました。

 良かった良かった。


「おめでとうございます聖女様。それでは広間にて、新たな聖女が誕生したことを皆に知らせましょう」


 そこからは忙しい一日になりました。


 まず聖女就任挨拶から始まり、街の有力者たちとの立食パーティー形式のランチ。

 挨拶に継ぐ挨拶でヘトヘトです。


 夕方は一服して、夜の晩餐会のために体力を温存しておきます。

 晩餐会には昼間には出てこなかった領主がやって来ます。


 黄金の長髪を揺らしながら、30歳くらいの美形の青年がやって来ました。

 どうやらこの美形が領主様のようです。


「はじめまして。聖女のクラスを授かりました、レティシアと申します」


 何気に本名を名乗るのは久しぶりです。

 親から神殿に売られて以来、名乗る機会もありませんでした。

 よく考えないでも、この名前だけが実の両親との唯一の繋がりです。


「うむ。初めまして、幼い聖女様。私はこの街を治める領主フィガロ・グリアハーキムだ」


 グリアハーキムとはこの街の名前です。

 間違いなく、目の前の人物はこの街の領主でしょう。


 晩餐会にはランチから引き続き司教様も参加されました。

 司教様も大変ですね……。


 きっと胃薬を合間に飲んでますよ。


 まあ兎にも角にも、私の聖女ライフが始まったのでした。


 あー早く召喚魔術を使いたい!!

 私の寂しい心を癒やすモフモフをぜひとも!!

 神様、お願いしますよ?!


     ◆


 翌日はずっとそわそわしながら過ごしました。

 勉強は上の空、日課の覗き見もしません。


 魔力は自由時間に全て召喚に使うつもりでいるのです。


 気力、体力、魔力が十分であることを確認して、私は自由時間の中庭で召喚を行うことにしました。

 念の為、と侍女イネスが神殿騎士たちを配置していますが、召喚術で出てきたものに襲われることもあると聞きます。


 うっかり自分より遥かに格上の存在を呼び出した場合などですね。


 私はモフモフしたものならなんでもいいよー、と神様にお願いしつつ、召喚術を発動します。


「来たれ、我が下僕(しもべ)。生涯の縁をもって汝を縛る。――ここに召喚せり!!」


 シュゴオオオっ!!


 黒々とした霧が人影を呼び出しました。

 あ、モフモフじゃないなコレ。


 術の感触で分かります。

 これは幻獣系ではなく、悪魔系の何かです。


 闇の濃厚な気配を感じ取ったのか、神殿騎士たちが身構えます。

 しかし私の感覚では、召喚されたものが逆らう気配を持っていないことが分かりました。


 神殿騎士たちを手で制して、私は黒い霧が晴れるのを待ちます。

 出てきたのは、――人影でした。


 人の形をした影です。


「聖女様、これは一体?」


 イネスが困惑しながら問うてきました。


「ドッペルゲンガーですね。これは便利なものを引き当てました」


「ドッペルゲンガーですか……これが」


 人影はニュルン、と私の姿になりました。

 鏡で見た私の顔そっくりです。

 多分、身体も聖痕もそっくりそのまま。

 服でさえまるっきりコピーされました。


 私はドッペルゲンガーと手をつないで、その場をクルクルと回りました。


「「さあイネス、本物はどっち?」」


 ユニゾンした声はまるっきり私のもの。

 イネスは顔面を蒼白にして「え、どちらと言われましても……え?」事の重大さを改めて認識したようです。


 そう、ドッペルゲンガーには強力な能力がいくつか備わっています。

 まず完璧な外見のコピー能力。

 次いで完璧な記憶や能力のコピー能力。

 そして別々に行動した場合に、記憶の共有能力を有しています。


 ドッペルゲンガーがコピーできるのは何も私だけではありませんが、行動原理は私が握っています。

 さあ、このドッペルゲンガーをどう使うかと言えば?


「さあ、行けドッペルレティシア。あなたは自由だ!」


 ドッペルゲンガーはニヤリと笑い、居住区画から出ようとします。


「待ちなさい! そちらが聖女様かもしれません! 神殿騎士、確保して!」


 イネスの悲鳴のような声が聞こえますが、ドッペルレゲンガーはそんなことでは止まりません。

 光と同化して移動する光速移動の魔術を行使し、ドッペルゲンガーは神殿騎士たちの包囲網をスルリと抜け出し、そのまま走り去りました。


「聖女様、これは一体、どういうおつもりですか!?」


 案の定、イネスが激怒しています。

 しかし便利ですねえドッペルゲンガーは。


 私の使うことのできる魔術ももちろん行使できるのですから。


「まあまあ、イネス。私のドッペルゲンガーを神殿の外に出しただけですよ」


「…………本当に、こちらにいる方が聖女様なんでしょうね?」


「それは神託を受ければ分かることでしょう? 神の声を聞くことばかりは、ドッペルゲンガーにはできません」


 そう、さしものドッペルゲンガーも悪魔系である以上は、聖女の最大のチカラである神託を受ける能力まではコピーできなかったのです。


 イネスは急ぎ神へのお伺いを立てる準備をしだしました。


 大急ぎですね?


 私はのんびりと待って、神託の儀式に臨むことになりました。

 神託の儀式は居住区画で行われます。


 私は祭壇に祈りを捧げ、神の言葉を待ちます。


 ――聖女よ、明日の天気は午前は曇天、午後からは雨だ。


 なるほど、明日は天気が悪いんですね。


 私はイネスに神託の内容を伝えると、「本当かどうかは明日、判明するわけですね?」と怖い顔で言いました。

 もうちょっと私のことを信用してくれてもいいのに……。


     ◆


 私は一晩、寒空の下で野宿をして冒険者ギルドに向かいました。

 定期的に光の魔術で身体を癒やしたので、野宿の疲れはほとんど消えてなくなりました。


 あ、私はドッペルレティシアです。


 昨日、神殿から逃げ出した今、こうして自由を謳歌しているわけですね。

 本体の代わりに。


 私は冒険者ギルドへ行くと、まず冒険者登録をすることにしました。

 受付カウンターの美人のお姉さんに挨拶をして、「冒険者になりたいんですが」と告げると、如何に冒険者が危険かをとうとうと説明されて暗に辞めるよう説得されました。

 しかし私は「光魔術師なので、回復魔術が得意です」と言った瞬間、受付嬢は私を逃さないように素早く手続き用紙を差し出しました。


 冒険者になる光魔術師は少ないのです。


 大抵は施療院に勤めて高給と安全が保証された仕事につきますからね。

 私は冒険を楽しみたいので、冒険者一択です。


 銅ランクの冒険者カードをもらい、首から下げます。

 冒険者のランクには銅、銀、金の三種類があり、銅は初心者から中堅手前くらいまでの幅広い層が所属しています。

 銀になるとパーティ単位で魔物と戦ったり、ダンジョンに潜ったりして稼ぎを貯めることができるようになるのだとか。

 金ともなれば凶悪な魔物と戦ったりできる国家級の戦闘能力をもった一騎当千のツワモノを指します。


 さて初心者の私は、まずパーティを組んでくれる人を募集することにしました。

 募集内容は「当方、初心者の光魔術師です。パーティ募集中。銅ランク」と簡素なものです。


 ひとまず今日は寝床の確保をしたいので、カウンターの受付嬢に「怪我人の治療を有償でしたいのですが……」とお願いすると、快くスペースを貸してくれることになりました。

 料金は施療院より割安です。

 なにせ初心者の光魔術師ですからね。


 それでも施療院の治療費が払えずに古傷に悩まされている冒険者には感謝されました。

 ささいな傷は安値で治すので、じゃんじゃんお金が貯まります。


 一日働いて銀貨20枚。

 正直、高いのか安いのかよく分かりませんが、皆が笑顔だということは治癒の魔術を安売りできたということでしょう。


 とりあえず宿代はできたので、受付嬢オススメの宿屋に泊まることにしました。


 雨が降っていたので、身体が冷えないように走って宿まで向かいます。


 宿に着くと、女将さんが布を貸してくれました。

 顔と髪を拭いて、布を返します。

 一泊銀貨一枚ということなので、やっぱりもう少し稼がなければならないようですね。


 食費と装備のことも考えれば、もっともっと稼がなければならないはずです。


 でも今日は疲れたので、これで休むことにしました。

 ドッペルレティシアの冒険は始まったばかりなのです。


 明日から本番ですよ!


 ▽


 パーティ募集には40人ほど応募がありました。

 ビックリですね。

 光魔術師の需要がこれほどあったとは……。


 とりあえず銀ランクの方々はお断りして、初心者の銅ランクのパーティを物色することにします。

 私は冒険者ギルドの会議室を借りて、面接を行うことにしました。


「どうか一緒に冒険しましょう! 報酬は三分の一をレティシアさんに支払いますから!」


 報酬を増やして釣ろうという方々が多いですね。

 怪我をした場合、施療院に行けばもっとお金を取られることを考えれば妥当なのかな?


 そんな中で、気を引かれたのは鳥人族(バードマン)の少年のいるパーティでした。

 そう、あのときの少年です。


「僕らはまだ駆け出しだけど、歳も近いし上手くやっていけると思うんだ。ゆっくりペースを上げていこうと思っている」


 真摯な態度が高評価です。

 私、この少年たちについていくことにしました。


 ▽


 まずはパーティの自己紹介です。

 最初は鳥人族(バードマン)の少年からでした。


「僕は見ての通り鳥人族(バードマン)だ。名前はカシウス・ネロ。メインクラスは騎士、サブクラスは木工職人だ」


 次に人間族の男女が自己紹介をします。


「俺はオルテガ。メインクラスは槍戦士、サブクラスは盾戦士」


「私はオリビア。メインクラスは剣士、サブクラスは斥候。オルテガとは双子なの」


 次に人間族の男性が自己紹介をします。


「俺はウルザ。メインクラスは氷魔術師、サブクラスは風魔術師だ。一応、パーティの最年長でリーダー役をやっている」


 最後に私が自己紹介をします。


「私はレティシア。メインクラスは光魔術師、サブクラスは召喚術士です。ただ召喚した召喚獣には逃げられてしまったので、目下捜索中です」


 嘘はいけないと分かっていますが、クラスを馬鹿正直に言うわけにはいきません。

 というかドッペルゲンガーである私には厳密に言ってクラスなんてありませんけどね。


「召喚獣に逃げられたって……それ大丈夫なの?」


「いずれ見つけたいですが、どこへ行ったやら。そんなわけで、私のサブクラスのことは忘れてくださいね」


 嘘をつくのは正直、後ろめたいですが……。

 仕方ないですよね?


     ◆


 ドッペルレティシアです。

 本体は今頃、退屈を持て余しているでしょうね。

 それとも怒られているのかな?


 私は今、パーティメンバーとともに薬草採集に来ています。

 先頭は10歳の双子オルテガとオリビア。

 しんがりを7歳のカシウスと15歳のウルザ。

 その間を私レティシアが守られるようにして進んでいます。


 ……ようにして、ではなく確実に守られています。

 多少の怪我なら私が無事なら治せますからね。

 間違ってはいません。


 そうそう今朝、リーダーの命令でウェストポーチとリュックサック、そしてナイフを購入しました。

 薬草採集に無手で参じるのは有り得ないのですが、リーダーに言われるまで気づきませんでした。

 神殿の外に出るのは初めてなので、その辺の常識をかなぐり捨てているんですよねえ。


 薬草は森の中にあります。

 さて、どこを探せば良いのでしょう?


 みんなは思い思いの場所に目星をつけて、既に採集に入っています。


 周囲を見渡しても、薬草の群生地はなかなか見当たりません。

 仕方ないですね、あまりやりたくなかったのですが……。


「リーダー、そこもう終わりましたか?」


「ああ。……どうした、レティシア。何も取ってないじゃないか」


「はい。今、やりますから」


「……? 何を言って……」


 リーダーが不審そうに見てきますが、今からやるのは裏技です。


「光よ命となりて、薬草を再生したまえ」


 私は両手を突き出して、先程までリーダーが採集していた薬草の群生地に魔力を送り込みます。

 薬草たちに光の魔力を照射すると、なんと薬草が再生していくではありませんか。

 私は再生した薬草を改めてナイフで刈り取っていきました。


 リーダーはポカンと口を開けて「なんだそれは……反則だろ」と呟きました。


 ええ、反則ですとも。


 ▽


「ゴブリンが来るよ!」


 唐突にオリビアが叫びました。


 薬草採集は十分な量が取れていましたが、規定の量だけでは暮らしていくのも難しいので、できるだけ沢山採集するのが鉄則です。

 そんな中、森での雑魚魔族ゴブリンが徒党を組んで襲いかかってきました。


 応戦するのは前衛三人。

 リーダーは魔術の準備をしておきますが、ゴブリン程度なら前衛だけで十分なんだとか。


 カシウスなんて私と同じ7歳なのに、一端に剣と盾を操りゴブリンを一刀両断。

 さすが騎士、強いですね。


 オルテガは槍と盾で安定してゴブリンを屠っています。


 オリビアも剣士として素早く一撃を繰り出した後、一旦引くというヒットアンドアウェイ戦法でゴブリンを撃破。


 7歳と10歳双子はゴブリンをあっさりと殲滅しました。


「よし、ゴブリンの魔石を取るぞ」


 リーダーの言葉に従い、前衛の三人はゴブリンの胸の中心辺りから赤い石を抉り出します。

 魔石は錬金術の触媒などに使われるため、ゴブリンの魔石は冒険者ギルドで換金できるのです。


 私はぼんやりとその光景を見ていました。

 何もサボっているわけではありませんよ、やり方を見て覚えているのです。


 ▽


 街に戻って冒険者ギルドで薬草とゴブリンの魔石を換金します。


 報酬はキッチリ五等分。


 私は薬草採集くらいしか手伝えませんでしたが、だからといって分前を減らされるようなことはありませんでした。


 銀貨3枚が今日の稼ぎです。

 初日に行った治療行為の方が儲かりますね……。

 まあ銀貨1枚で宿に泊まれるので、自転車操業ですがなんとかやっていけます。


 それにカシウス、オルテガ、オリビアはまだ7歳と10歳です。

 これから強くなるのが目に見えているので、将来有望なパーティといえるでしょう。


 さて私は宿に戻らずにこっそり神殿の方へ向かいます。

 初の冒険で味わった様々な経験を本体と共有するためです。


 神殿に入ると、私の顔を見てギョッとする神官たちがいましたが、スルーして神殿騎士に本体の元に戻ってきた、と伝えて居住区画に入りました。


「おかえりドッペルゲンガー」


「ただいま、レティシア。冒険者になった記憶、早速みてよ」


「ええ、じゃあこちらに手を」


 私は本体と手を繋ぎます。

 それだけで記憶を共有することができました。


 記憶を受け取るのは何もレティシア本体だけではありません。

 ドッペルゲンガーの私も、レティシア本体が神殿で過ごした記憶を受け取るのです。


 記憶だけじゃありません。

 本体は毎日、中庭で最大MPを増やしているため、能力もコピーすることで私、ドッペルレティシアの最大MPも増えるのです。


     ◆


 翌朝、私はパーティメンバーのもとへ顔を出しました。

 今日の依頼はなんでしょうかね?


 あ、私はドッペルレティシアですよ。


「ああ、レティシア。おはよう」


 椅子に座ってお茶を飲んでいるカシウスとオルテガ、そしてオリビアが挨拶をしてくれました。


「おはようございます。今日はどんな依頼を受けるんですか?」


「ゴブリンが多いからゴブリン退治だ。もし帰りに魔力が余っているようなら、レティシアは薬草採集をして欲しい」


 リーダーのウルザが受付カウンターから戻りつつ言いました。


 なるほど、光魔術を使えば魔力のある限り、薬草は取り放題ですからね。


 私達は屋台で軽食を摂ると、森に向かいました。


 ▽


「ゴブリン、左から3体!」


 オリビアが叫びます。

 対応のためにカシウスとオルテガがそれぞれ左に向き直り、迎撃の構えをとりました。


 今のところリーダーのウルザも私の出番もありません。


 森の奥にはゴブリンが沢山いて、休む間もなく連戦続きです。


「疲労が見えますね……回復してもいいですか、リーダー?」


「体力をか? それができるなら頼む」


「できますよ。光よ命に。彼の者達の体力を癒やしたまえ」


 両手を前に突き出して、三人の体力を回復させます。


「すげえ、疲れがぶっ飛んだ!」


 オルテガが笑いながら槍でゴブリンを貫きました。


 オリビアも「これは凄いね……」と苦笑しています。

 カシウスも「すごく助かる」と言いながらゴブリンを切り裂きました。


「ふうむ、どうやらレティシアを勧誘できたのは幸運だったらしいな」


 リーダーのウルザが唸ります。


 それからもゴブリンとの戦闘は続きました。

 やっぱり休む間もないので、私は定期的に体力回復の魔術を前衛にかけてあげました。


 結局、何もしなかったのはリーダーのウルザでした。


 最も、ウルザは魔術を準備しながら危険なら撃つ予定でしたから、仕事をサボっていたわけではないのですが。

 ゴブリン相手だと、氷魔術はオーバーキルになるようで、効率が悪いそうです。


 ▽


 街に戻って冒険者ギルドにゴブリンの魔石を大量に納品しました。

 あまりの量に受付嬢もビックリです。


「よくこんなに狩れたわね。……でも異常な量だわ。ゴブリンの集落がどこかにあるのかも」


「そうですね。この数は異常です。ほとんど間断なしにゴブリンに襲われ続けましたから」


「怪我は……ってそういえばレティシアがいたのね」


「ええ。彼女は大変、有能でした」


 リーダーのウルザが私を持ち上げます。


 しかしこの量のゴブリンを狩ってもまだまだゴブリンの気配があった、とオリビアも言っていたので、森の奥にゴブリンが集落を作っている可能性は十分にあります。


「ギルドマスターに報告しておくわね。お疲れ様」


 受付嬢から報酬をもらい、五等分します。

 今日の報酬は多めで、銀貨5枚になりました。


 さすが一日中戦い続けただけのことはあります。


 私は魔力を随分と消費したので、今日は大人しく宿に戻って食事をしてから休もうと思います。


 ▽


「聖女様。どうやら森の奥にゴブリンの集落が出来た模様。至急、神託でゴブリンの集落の位置、そして戦力を神様にお伺いください」


 夕食を終えた後、もう休むだけになった私の元へ、冒険者ギルドのギルドマスターと司教様がやってきました。


「……わかりました。至急、神託の儀式を行いましょう」


 そういえばドッペルゲンガーが薬草採集をしているとき、やけにゴブリンに遭遇したことを思い出しました。

 なるほど、森の奥にゴブリンの集落ができていたようです。


 私は神託の儀式を行い、ゴブリンの集落の位置を地図に記し、戦力を神様から聞き取りました。


 その戦力は――。


     ◆


 翌朝の冒険者ギルドは活気に包まれていました。

 どうやら大量のゴブリンが森の奥に集落を作っているらしく、戦力を集めているそうです。


 相手がゴブリンであるため、銅ランク以上のすべての冒険者が参加可能な任意依頼です。


 ただ報酬がいいため、リーダーは依頼を受ける気でいるようでした。


「相手はゴブリンだ。特殊個体はベテランの銅か銀に任せればいい。俺たちは雑魚の相手を存分にすればいいんだ」


 リーダーはそう言うと、参加の申込みを受付にしに行きました。


「大丈夫かな。特殊個体がこっちに来ないとは限らないと思うけど」


「ゴブリンってずる賢いからなあ……」


 カシウスとオルテガが心配そうにリーダーの後ろ姿を見ています。

 オリビアは緊張であまり喋りません。


「私がいるから、即死しなければ大丈夫ですよ?」


「怖いこと言わないでよ!」


 カシウスが苦笑気味に叫びました。


 ▽


 ゴブリンの集落の位置は聖女である本体が突き止めたようです。

 地図に従い、銀ランクのパーティを筆頭に森を進みます。


 途中途中でゴブリンとの遭遇戦がありましたが、流石は銀ランク、ゴブリンを鎧袖一触で片付けます。


 これはもしかして余裕なのでは?


 とか思っていたのですが、集落間近に来てその認識が誤りだということを悟りました。


 まず集落は木の柵に囲まれ、沢山の家屋がありました。

 ゴブリンの総数は百をゆうに超えるでしょう。

 そして特殊個体の数は、事前のミーティングで5体にものぼるという話でした。


 私達は気を引き締めて事に当たらなければならないようです。


 カシウス、オルテガ、オリビアを前衛に、決して前に出すぎないように注意しながらゴブリンとの戦いをするとリーダーが宣言しました。


 他の銅ランクも似たりよったりなようです。

 主力の銀ランクが集落に突入して、特殊個体を優先的に排除するという作戦です。


 戦いは静かに始まりました。


 銀ランクパーティが柵を乗り越えて次々と集落になだれ込んで行きます。


 私達は遅れて柵を乗り越え、襲いかかってくるゴブリンたちを迎撃する構えです。

 さっそく、5体のゴブリンが奇声を上げながら接近してきました。

 いつものゴブリンより手強い気がするのは、特殊個体がいるせいで各ゴブリンたちが連携しているためだと思われます。


 棍棒を失ったゴブリンはカシウスの盾に取り付き、別のゴブリンがカシウスを攻撃し始めました。

 幸い刃の潰れた剣でしたが、それでも傷を負うカシウス。


 ゴブリン相手に怪我をしたのは初めてです。


 私は即座に「光は命。彼の者の傷を癒せ」と唱えて、カシウスの傷を癒やします。


 カシウスは「助かった!」と声を上げて、盾をゴブリンにぶつけて窮地を脱しました。


 しかし10体以上のゴブリンが銅パーティの方に向けて走ってくるのを目の当たりにして、私達は固まってしまいました。


 そのときリーダーが「氷礫よ。降り注げ!!」と詠唱をすろと同時に、氷の礫がゴブリンたちに降り注ぎました。

 よく見れば氷の礫はひとつひとつが尖った角があり、当たりどころが悪ければ一撃でゴブリンの頭部を砕きます。


 さすがリーダー、なるほどこれはゴブリンにはオーバーキルですね。

 しかし現状ではちょうどいい数のゴブリンにちょうどいい殲滅力を発揮しました。


 ▽


 銀のパーティがゴブリンの特殊個体を倒したのか、途中から目に見えてゴブリンの動きが悪くなっていきました。


 そうなればこちらのもの。


 銅ランクパーティでもゴブリンたちを処理することが簡単になります。

 私達は集落に入り込み、ゴブリンたちを片っ端から倒していきました。


 討伐数がそのまま報酬になるとのことで、魔石をいちいち刳り出す必要はありません。


 討伐数はリーダーがカウントしており、銅ランクパーティーの中ではかなり上位の数を倒しているらしいことを途中で教えてもらいました。


 ▽


 戦いは終わりました。


 ゴブリンの死体がところかしこに転がっています。


 銀ランクパーティたちが勝どきを上げて、私達も歓声を上げて勝利を喜び合います。


 こうしてゴブリンの集落の殲滅戦は終わりました。


     ◆


 今頃、ドッペルゲンガーはゴブリンの集落を攻めている頃だろうか。


 私は神殿の居住区内で、退屈な勉強をしていました。

 勉強が退屈なのは、私が幼い頃に文字を早々に覚えて図書室の本を片っ端から読んだせいです。


 学習進度が正直、遅いんですよね。


 そのことを言ったら、「さすがは聖女様です。しかしもしも勉強範囲に漏れがあってはいけませんので、復習の意味でも勉強は普通の進度で行います」と家庭教師に言われてしまいました。


 まあ確かに本には著者が必要だと思った部分しか書かれていませんから、時折、漏れがあるのは事実です。


 とはいえ大半は知っていることをもう一度、勉強するというのはやっぱり退屈だと思うんですよね。


 ▽


 そんなこんなで勉強は終わり、自由時間になりました。


 中庭に出て、瞑想をするフリをしながら千里眼の魔術で森の奥を見ます。

 おお、凄い戦いだ!


 ゴブリンは連携しながら冒険者たちに襲いかかってきています。

 中にドッペルゲンガーを見つけて、なんとなく楽しい気分になります。

 ふふ、こちらには気づいていないようですね。

 当然ですが……。


 さて駆け出しパーティの危うげな戦いを見ているよりも、銀ランクパーティの戦いを見学したいものです。


 集落の奥に視点を飛ばすと、銀ランクパーティが体格のいいゴブリンと渡り合っているところでした。


 なんとゴブリンのくせに魔術を使う奴がいます。

 いや、昨晩の神託でゴブリンシャーマンがいることは知っていたのですが、ゴブリンが魔法を使うのを見ると違和感が凄いというか……。


 しかし銀ランクパーティも負けてはいません。


 障壁を張って魔法を防ぎながら、前衛たちは縦横無尽に駆け回って特殊個体を追い回します。


 行け!

 そこだ!

 危ない!!


 手に汗握る攻防の末に、ゴブリンの特殊個体5体を全て倒しきりました。

 こうなるとあとは雑魚ゴブリンのみです。


 戦後処理に興味はないので、ドッペルゲンガーの無事だけ確認して千里眼を切りました。


 さて魔力はまだまだ残っています。


 私は魔力を使い切るために、中庭の木々に回復魔術をかけることにしました。

 実はこれまで一本の木に回復魔術をかけたことはあっても、複数の木に回復魔術をかけたことはありませんでした。


 今回の戦いを見て、ドッペルゲンガーは仲間を同時に回復する必要があるな、と思っての練習です。


 私は回復魔術を広範囲に広げるだけではなく、回復魔術を敢えてかけない木々も設定して、味方だけに回復魔術をかける練習をします。


 最初は全ての木々にまんべんなく回復魔術がかかってしまいましたが、途中からはちゃんと指定した木々にのみ回復魔術をかけられるようになりました。


 ふさふさになった木々を見て、庭師の仕事を増やして申し訳なく思いましたが、ドッペルゲンガーのためですからね。

 これで記憶を共有すれば、ドッペルゲンガーの回復魔術の使い勝手がよくなることでしょう。


 ▽


 私は魔力を使い果たして、侍女イネスに抱えられて自室に戻りました。

 薄めたMPポーションを飲み、夕食までの時間をのんびりと読書をしながら過ごします。


 ドッペルゲンガーが次に来るのはいつだろう?

 今日はきっと戦闘で疲れているから、明日かな?


 そんなことを考えながら、私は夕食を終えて、後は寝るばかりとなりました。


 そんな夜に、冒険者ギルドからお礼状が届いたとイネスが封筒を持ってきました。

 封蝋が押された封筒はまさしく冒険者ギルドのギルドマスターからのお礼状です。


 さっそく中を開けると、今回のゴブリンの集落の位置の特定、特殊個体の数と戦力の推定について、お礼がしたためられていました。


 ……いや、神託だからお礼は神様にどうぞ?


 そんなことを考えましたが、相応の喜捨もしているようですし、私がいちいち何か言えば無視できないでしょうから、無言でお礼を受け取っておくことにしました。

 地位が高いというのも考えものですね……。


 封筒にお礼状を仕舞い、イネスに預けます。


 特に見返すこともないでしょうから、どこかテキトーな文箱に仕舞われることでしょう。


 それにしても、ゴブリンの集落の殲滅に一役買ったというのは、自分にしても驚きでした。


 聖女ってもっとこう、当たり障りない神託をしたりしてまったり過ごすものだと思っていたのだけど、案外と血なまぐさい神託もするんだなーと認識を新たにしました。


     ◆


 こんにちは、ドッペルレティシアです。


 ゴブリンの集落を殲滅した私達は、ゴブリンの魔石を取るために死体を一箇所に集めたり、胸部の魔石を取り出したりと雑用に一日がかりで取り組みました。

 私は後ろから見学しつつ、疲れた人たちに体力回復の魔術をかけてあげる役目をこなします。

 疲労を直接回復する魔術は大層喜ばれましたよ。


 魔石を全て回収したら集落を焼き払い、鎮火を見届けてから街に戻ります。


 私は小まめに浄化を自分にかけていますから、綺麗なものです。

 パーティメンバーを含めて、他の面々はみな返り血や煤などで汚れています。


 さしもの私も残りMPが少ないので、浄化をかけてあげるわけにはいきません。

 それにパーティメンバーだけに限定してかけても、銀ランクパーティの人たちが「自分たちにもかけろ」と言い出したら、断るのが面倒じゃないですか。

 そういうわけで、ひとりだけこっそり綺麗なままでいることにしたのです。


 魔石を取る作業をしていないし、前衛ではないので綺麗であることに誰も疑問を感じないようです。

 しめしめ。


 ▽


 街に戻ってきた私達は、ゴブリンの討伐数を報告して報酬の精算を待ちます。

 ゴブリンの魔石の数を数えたり、貢献度の順位付けをしたりと、冒険者ギルドの職員たちは忙しそうにしています。


 それをぼんやり待つ私。


「僕たちは井戸で水浴びしてくるけど、レティシアはどうする?」


 カシウスが聞いてきますが、「私は汚れていないのでここで待ってます」と言って断りました。


 パーティメンバーを含めて、多くの冒険者たちが井戸の方へ行く中、銀ランクパーティのひとりが私の方へやってきました。


「ちゃんと挨拶するのは初めてだね。俺は銀ランクパーティ『竜牙一閃』のリーダーを務めている者だ。レティシアくん、君の光魔術は素晴らしいね。どうだい、是非ウチのパーティに入って欲しいんだけど」


 どうやら勧誘のようですね。

 私は「初心者ですから」と断りますが、なかなかしつこい奴です。

 何度も「銀ランクにこそ相応しい」とか言ってくるんですよ。


 結局、私のパーティメンバーが戻るまで延々と相手をする羽目になりました。


 ▽


 精算が終わりました。


 私達パーティは銅ランクパーティの中では討伐数第一位で、銀ランクパーティに継ぐ貢献度を認められ、それなりの額の報酬を得ることができました。


 皆は疲労困憊のようですが、祝勝会で酒場に繰り出すのだとか。

 私も誘われたので、酒場デビューです。


 蜂蜜酒、一度飲んでみたかったんですよね。


 料理をつつきながら蜂蜜酒をググっといきます。

 喉に酒精を感じ、ああこれがこの世界の酒かあ、と内心で感動に打ち震えます。


 何を隠そう、地球では酒造メーカーの営業マンとして色々なお酒を飲んだものです。

 この身体はまだ7歳なので、お酒はほどほどに控えて料理に集中します。


 銀ランクパーティも利用する酒場だけあって、料理も出来がいいのですよ。


 私を勧誘しようと銀ランクの冒険者たちが代わる代わるテーブルにやってきますが、パーティみんなが頑張って断ってくれています。

 便利な光魔術師を巡って喧嘩になりかけたりもしましたが、そこは私が「乱暴な人たちとは組みたくない」と言って抑えたり。


 私達はまだ子供なので、ほどほどのところで切り上げて宿に帰ります。


 パーティのみんなが私を心配してくれて、宿まで送ってくれました。

 いやあ、ほんとにいい子たちですねえ。


 ▽


 翌日は休暇です。


 私は本体と記憶の共有をするために神殿に向かいます。

 今回は念願のお酒を飲むことができたので、是非とも本体にも楽しい記憶を共有したいところです。


 相変わらず神殿に入るとギョッとする神官たちがいますが、気にせず神殿騎士に「本体に会いに来た」と告げて居住区画に入ります。


「やっほー。退屈してた?」


「そっちは楽しそうにお酒を飲んでたね? 早速記憶を共有しようか」


 どうやら本体は夜に千里眼で酒場を覗き見していたようですね。

 毎夜の日課とはいえ、いい趣味とは言えません。


 まあ本体は神殿から出られないので他にすることもあまりないのですが……。


 おっと、本体が私のために回復魔術を練習してくれていたようです。

 これでパーティの複数人に魔術をかけることができるようになりました。


「うーん、こっちのお酒ってあんな味がするんだ……勉強になるなあ」


「今更、酒の勉強なんてしても仕方ないでしょ」


「まあね。……ところでさ、ゴブリンを倒してないけど、経験値が入っているみたいなんだよね」


「私……召喚獣が得た経験値は召喚術師に入るから? あれ、もしかしてレベルアップしてる?」


「してるんだよねえ」


「へえ。それじゃあ私が外に出ているのもまんざら無駄じゃないね」


「とはいえ直接、攻撃していないから得られる経験値が少ないんじゃないかな? 私、中庭で攻撃魔術の研究をするから、また今度来てよ」


「分かった。こっちでも何か経験値を多く得られるように工夫を考えてみる」


 私は神殿を出て、宿に戻ってのんびりすることにしました。


     ◆


 レベルアップしたことによって、魔力が増えました。


 私は侍女イネスを伴って、自由時間に中庭で攻撃魔術の構想を試します。


 以前試した集光による発火は、時間がかかる上に魔力消費量も多いため、使えません。


 色々と考えたりベッドの上で試した結果、どうやら私には闇属性を扱う才能があるらしいことが判明しました。


 光の影には闇あり。

 どうやら光属性が使えると、自動的に闇属性も使えるのではないかと思うのですが、文献などにはそんなことは書いてありませんでした。


 そもそも光属性を使える人が少ない上、闇属性は忌避されているので表立って使えると言う人はいません。


 闇属性がつかさどるのは、光学的な闇と精神への働きかけ、そして死や邪悪といった負の要素を持っています。

 これなら攻撃魔術に転用しやすそうですね。


 まずは相手に負傷を与える魔術からです。


「闇よ、彼の者に傷を与えん」


 私が両手を差し出して木に向けて闇の魔力を照射します。

 すると闇の魔力が照射されている部分がどんどんと変色していき、次第に乾き崩れていきます。


「成功ですね」


「聖女様、今のは……!?」


 イネスが眉を吊り上げておぞましいものを見るような目で変色した木を見つめます。


「ドッペルゲンガー用に攻撃魔術も研究してみただけです。どうです、一発で成功しましたよ」


「どうです、じゃありません! 今のは闇属性の魔術ではありませんか!?」


 なんで分かったし。

 あ、もしかして暗殺者って闇属性を使えるのかな?


「もしかしてイネス、暗殺者は闇属性を使えるんですか? だったら効率のいい攻撃魔術などありませんか?」


「ええ、暗殺者は闇属性を多少使えます。とはいえ闇属性の魔術は危険なものも多いですが、直接的な攻撃魔術はほとんどありません。聖女様のなさったような攻撃魔術は見たこともありません」


「うーん、暗殺者は魔術師系クラスじゃないですからね。もしかしたらこういう使い方はできないのかもしれません」


「そうですね。しかし聖女様の魔術に関する創意工夫は恐ろしいものがありますね……」


 あんまり褒められている気がしませんね。

 しかしひとまず対象を崩壊させる魔術を完成させました。

 地味ですが、これで攻撃はなんとかなるのかな?


 脳内で、ゴブリンとの戦闘をシミュレートします。


 うーん、やっぱり相手が崩壊するまで時間がかかりすぎているような気がしますね。

 これ魔術を照射している間に攻撃されて怪我をするような気がします。

 実戦的なことを考えたら、当てたら即死させるような魔術じゃないとダメなんじゃないでしょうか。


 いっそ相手の生命力を奪うような、デバフを同時にかけるような魔術の方がいいのかな?


 生命吸収のイメージで、再度魔術を行使します。


 木は徐々に枯れていき、私は体内にみなぎるものを感じるようになりました。

 生命力を奪っているのでしょう。

 反面、魔力は減少しているので、アンバランスですね。


「聖女様! いたずらに命を弄ぶのはどうかと思います!」


「ええ? でもそんなことを言われても……」


「木も生きているではありませんか。闇属性の魔術の結果はご覧の通り、酷い有様になるので他の侍女や神殿騎士らに見咎められたら、聖女様の印象が悪くなりますよ!」


 む、それはちょっと嫌ですね。

 一生を神殿で過ごす以上、この神殿に住まうすべての人達との関係性を悪くするような行動は慎むべきです。

 闇属性が使えることはドッペルゲンガーに記憶共有で伝えて、研究はあちらに任せた方が良さそうですね。


 私は枯れかけた木に回復魔術をかけて治します。

 ええい、今日はこのまま全魔力を使い切りましょう。


 魔力を使い切った私は、イネスに抱っこされて自室に戻りました。


 ▽


 光属性と闇属性が扱えたのなら、別の属性も扱えないでしょうか。


 私はベッドの上で密かに魔術の練習をします。

 しかし風を起こそうにもうんともすんともいわず、水を出そうにもやはり何の変化ももたらすことはできませんでした。


 ライターの火をイメージして指先に火を灯そうともしましたが、何の変化もありません。


 ……うーん、やっぱり光と闇しか使えないのかな?


 レベルが上がれば、新しい召喚獣を召喚できるので、攻撃能力はそれに期待でしょうか。


 ドッペルゲンガーが上手く経験値を稼いでくるといいのですが……。


     ◆


 おはようございます、ドッペルレティシアです。


 今日は冒険者ギルドで普通に薬草採集の依頼を受ける予定です。

 ゴブリンの集落を陥落せしめたので、森の危険は減ったと思うのですが、反面、収入も減ることになります。


 不意のゴブリンとの遭遇戦がなくなったと思うので、魔石による収入が減るわけですね。

 まあ集落殲滅の報酬が多かったので、その分だと思うしかないのですが。


 後は光魔術師の先輩に経験値の稼ぎ方を聞きたいところです。

 施療院の人とかレベルアップ、どうしているんでしょうね?


 ▽


 銀ランクのお姉さんことニーナ先輩にお話を伺いました。


「ニーナ先輩、光魔術師ってどうやって経験値を稼ぐんですか?」


「え? それは傷を回復することで経験値を稼ぐしかないんじゃないかなあ」


「あれ、じゃあ回復魔術で経験値を得られるんですか?」


「そうよ。気づいていなかった? そういえばまだ銅ランクの初心者だったものね。あれだけ見事に魔術を使いこなしているから忘れがちだけど」


「そうだったんですか……でも仲間に怪我をしろとはいえませんし困りましたね」


「なに言っているの。自分の指をナイフで傷つけて、それを治せば経験値になるわよ」


「えっ!? ニーナさんそんなことしているんですか!?」


「……魔力が余ったときとかたまにやるわ。あんまり見られたくない光景だけど」


「へえ。施療院の光魔術師もそういうことをするんでしょうか」


「いやあ、施療院は忙しいからそんなことはしないでしょ。多分、日々の業務で手一杯だと思う。だからレベルアップも早いんだろうけど」


「なるほど……ますます冒険者に光魔術師が希少な理由が分かりました」


「でしょう?」


 私はニーナ先輩にお礼を言って、パーティの元に戻りました。


 カシウスが「どうだった?」と聞いてくるので、ニーナ先輩から聞いた話をします。


「僕らが怪我をしたら経験値になるのか……それは確かに微妙だね」


「基本的に怪我をしないように立ち回ってるもんな、俺ら。盾役がふたりもいるし」


 オルテガも顔をしかめます。


 やっぱり自傷して回復魔術を使うようにするしかなさそうですね。

 いや、ちょっと待って下さい。

 ゴブリンの集落を殲滅したとき、私は回復魔術をほとんど使っていませんでした。

 それでもレベルアップするほどの経験値を稼げたということは……体力回復の魔術でも経験値が得られるのではないでしょうか。


 リーダーに話してみると、「その可能性は十分にある」とのこと。


「レティシアの体力回復の魔術、ニーナ先輩は使えないんだろう? ならもしかしたらレティシア先輩が知らないだけで、体力回復の魔術で経験値が得られるかもしれない。今日はそれを試してみよう」


 おっとやぶ蛇です。

 私自身、経験値が得られているかどうかは分かりません。

 経験値を得た実感を得られるのは、本体の方なのです。


 ……今日は記憶共有に帰ろうかな。


 結果はお茶を濁して「経験値を得られているかも知れないけど、回復魔術より少ないかも知れない」と誤魔化しておきました。


 ▽


 夕方、私は神殿に向かいました。

 いつも通り神殿騎士に「本体に会いに来た」と告げて、居住区画に通してもらいます。


「お疲れー。経験値、結構入ったね。何をどうしたの?」


「あ、経験値がちゃんと入ったんだね? じゃあ記憶共有しておこうか」


 私は本体と握手して、記憶を共有します。


 え、私って闇属性の魔術が使えたんですか?!

 まったく気づきませんでしたよ。


「というか、メインクラスが光魔術師だって名乗っているからいまさら闇属性の魔術、使えないんだけど」


「それなんだけどね、レベルアップしたから新しく召喚獣を召喚できるようになったんだよ」


「あ、そうなんだ? それじゃあ攻撃的な召喚獣を呼べるといいね」


「うん。今日は神殿に泊まっていく? 明日、召喚をするけど」


「どうしようかな。明日も薬草採集があるから、パーティに休むって伝えないといけないんだけど」


「神殿から使いが行ったらおかしいよね」


「おかしいね。うーん、結果だけ知れればいいから、明日また来ることにするよ」


「そうだね、その方がいいね」


 というわけで、本体の召喚には立ち会えませんが、戦力増強は確実でしょう。


     ◆


 中庭に侍女イネスと、念の為に神殿騎士たちを配して召喚を行います。


 気力、体力、魔力、すべて万全な状態です。

 これならばきっといい子が呼べるでしょう。

 できればモフモフがいいな、とも思いますが、戦える強い子を召喚してドッペルゲンガーにつけてあげたいという気持ちもあります。


 ……その方が経験値効率はいいはずだからね。


 攻撃役の召喚獣は当然、ゴブリンなどを倒して経験値を得られます。

 わかりやすく稼げるわけですね。


 銀ランク冒険者のニーナ先輩とやらに教わった自傷行為による経験値稼ぎもできなくはないですが、できれば痛い思いはしたくはありません。


 さて早速、召喚といきましょう!


「来たれ、我が下僕(しもべ)。生涯の縁をもって汝を縛る。――ここに召喚せり!!」


 ズモモモ……と黒い霧が発生します。

 あ、またこの展開か。


 モフモフは期待できそうにありません。

 さて何が出てくるのかな?


 老人の顔にライオンの身体、背中にはコウモリの翼、そしてサソリの尻尾をもつ幻獣。

 マンティコアです。


「身体はモフモフしてますけど、それ以外のパーツが可愛くないですね……」


「好き勝手言いおるわい。ワシを召喚しておきながら可愛くないじゃと」


「うわ、喋った?!」


「そりゃ喋りもするわい。マンティコアだと分かっておりながらそんなことも知らんのか」


「マンティコアは高い知能と魔法の知識を持っているとは知っていますが、人類共通語を話すとは知りませんでした。失礼しました」


「ふむ、まあよい。召喚術師、ワシはお主のために働いてやろう。レベルからして既にもう一体、召喚獣がおるじゃろう。見当たらんようじゃが、どこにおる?」


「あ、それならドッペルゲンガーです。今は私の姿で神殿の外で冒険者をやってもらっています」


「神殿? そういえばここは神殿なのか。神殿騎士があんなにも……お主、何者じゃ?」


「私の名はレティシア。メインクラスは聖女です」


「……なるほどのう。神殿からは出られぬ身か」


「そこまでご存知でしたか」


「よかろう。だいたい事情は分かったわい。それではワシはドッペルゲンガーにつく方が良いか?」


「はい、お願いします」


「それではドッペルゲンガーが戻ったらまた呼び出してくれ」


 私はマンティコアを送還します。


「さすがは聖女様、人類共通語を喋ることができるマンティコアということは、歳経た個体でしょう。きっと強力な召喚獣です」


 イネスが言いました。


 確かに年寄りっぽかったですが、若くてもマンティコアの顔は老人なので年齢のことは分かりません。

 しかし召喚術師として、並々ならぬ実力を持っていることは分かりました。

 あれはアタリの部類ですね。


 身体はモフモフなのにそれ以外が可愛くないのが減点ですが……返す返すも惜しい。


 ▽


 夜、ドッペルゲンガーがやって来ました。


「こんばんは。召喚はどうなりました?」


「今、呼び出しますね。召喚!」


 ズモモモ……と黒い霧とともにマンティコアが現れます。


「わあ、マンティコアかあ。胴体はモフモフしているけど、それ以外が可愛くないですね」


「ほっほっほ、本体と同じことを言いおるわ」


「うわあ、喋った?!」


 先に記憶共有しておくべきでしたね。


「重ね重ね失礼しました。さあ、ドッペルゲンガー、記憶共有しましょうか」


「あ、はい」


 私とドッペルゲンガーが握手します。


「これで私もマンティコアを召喚したりできるようになったね」


「ドッペルゲンガーでも召喚と送還ができるんですか? それじゃあ冒険に連れていくことが出来ますね」


「召喚獣には逃げられたことになっているから、たまたま戻ってきたことにしようか」


 ドッペルゲンガーがマンティコアと打ち合わせをはじめました。

 何にせよ、攻撃魔術を使う召喚獣が増えたことで経験値稼ぎが加速します。


 楽しみですね?


     ◆


 おはようございます、ドッペルレティシアです。


 昨晩はマンティコアが失踪した理由などを打ち合わせて、宿に戻ってきました。

 今は送還してありますが、私が召喚すればマンティコアが出てくることができます。


 かなり強力な召喚獣ですから、パーティの戦力アップに貢献することでしょう。


 冒険者ギルドへ行くと、みんな揃って難しい顔をしていました。


「おはようございます。何かあったんですか?」


「おはようレティシア。それが……」


 話を聞くと、どうやらここグリアハーキムの街の傍にダンジョンが発見されたそうです。

 冒険者たちは我先に新しいダンジョンに向かい、宝箱を漁りに行ったのだとか。


「あ、私のせいで出遅れましたか?」


「いや、そうじゃないよ。僕らはまだ子供だからダンジョンは危険だろう? でもリーダーが……」


「確かに俺を含めて10歳前後の若いパーティだ。でもカシウスもレティシアも7歳にしては強力なメインクラスを持っているし、オルテガとオリビアは10歳ながら安定した実力を持っている。ダンジョンに行ってもいいと思うんだ」


 なるほど。

 薬草採集ばかりしていますが、リーダーのウルザはダンジョンに行きたいようですね。


「じゃあ一度、試しに第一階層だけでも行ってみませんか? 昨晩、実は召喚獣が私のもとに戻ってきたんですよ。レベルが上がったから主に相応しくなったって」


 オルテガが興味をもったようで、「へえ? そういえば逃げられた召喚獣って結局、なんだったんだ?」と問います。


「マンティコアでした。魔術が使えるんですよ」


「マンティコアだって!? 凄いじゃないか!!」


 興奮した様子で声を上げたのはリーダーでした。

 魔術師であるリーダーはマンティコアの凄さを知っているようです。


「マンティコアは多種多様な魔術を使う強力な幻獣だ。パーティに凄腕の魔術師が増えたようなものじゃないか。やっぱりダンジョンに一度、アタックしてみるべきだと思うよ俺は」


「リーダーがそう言うなら、一度だけ行ってみるか……」


 オルテガが仕方がない、と言った風に槍と盾を手に取りました。

 オリビアがそれを見て剣をとります。


 カシウスは不安そうですが、他のみんなが行ってみようということになってしまったので、行くしかなくなってしまいましたね。


「大丈夫ですよカシウス。とりあえず試しに第一階層だけ見て帰ってきましょう」


「うん、そうだね……」


 やっぱり納得がいかないらしいですが、パーティの和を乱すのは気が引けるのか、結局剣と盾を手にして行く気を見せました。


 さあ、初めてのダンジョンですよ!


 ▽


 ダンジョンの入り口は賑わっていました。

 ここぞと商売に走る冒険者もいて面白いですね。


 とりあえず情報収集は基本です。


 第一階層の様子を既に入ったことのある先輩たちに聞いて回ります。


 銀ランクのニーナ先輩がいたので、私は話を聞きに行きました。


「ニーナ先輩、もうダンジョンには潜られましたか?」


「あらレティシア。そっちもダンジョンアタックしに来たの? 子供ばっかなだけに無鉄砲ね」


「やっぱり危ないのですか?」


「そうねえ。第一階層にも罠があるから、斥候の子次第じゃない?」


「へえ。罠ですか……一応、ウチのオリビアのサブクラスは斥候ですけど」


「斥候系クラスは必須ね。でも経験がないんでしょう? 他のパーティで修行したりした方が危なくないんだけど……」


「罠がネックになるんですね。魔物はどうですか?」


「第一階層の魔物なんてたかが知れているわ。あなたたちなら大丈夫」


「なるほど、ありがとうございます」


 どうやらオリビアの斥候経験のなさが問題になりそうですね。


 私達は情報を持ち寄り、第一階層に挑戦するか話し合いの場を設けました。


「第一階層から罠か……ちょっと厄介だな」


 さしものリーダーもオリビアの経験不足を危惧します。

 オリビアは逆にムキになって「罠くらい斥候の私がなんとかする!」と強気です。


 結局、やれるとオリビアが豪語する以上は、一度入ってみることになりました。


 さあ、どうなるかなダンジョン探索。


     ◆


 入り口をくぐった後、私達は不思議なことに草原に出ました。

 ダンジョンは自然を模したフロアを作り出し、その広さはダンジョン自体よりも広く、空間の歪みがあるのだと、なにかの本で読んだことがあります。


 もちろん、読んだのは本体ですが。


 草原は膝のあたりまで草が伸びています。

 足元を除いて見通しはいいため、他の冒険者パーティや魔物がよく見えますね。


 私はみんながダンジョンを観察している間に、マンティコアを呼び出すことにしました。


「召喚、マンティコア」


 ズモモモモ……。

 黒い霧とともにマンティコアが現れます。


 カシウスが「うわ、デカい! これがレティシアの召喚獣か……」と驚いた様子。

 他の面々もマンティコアの威容に距離を置きました。


「我が主よ、ここはダンジョンではないか。幼いお主には厳しい戦場と愚考するが、如何に」


「第一階層をちょっと体験したら一度、外に出る予定です。ダンジョンを体験しておきたいだけですから」


「なるほど。ではワシは攻撃はほどほどに支援に回った方が良さそうじゃな」


「そうかもしれません。判断は任せますよ」


 頭脳明晰なマンティコアですから、下手に指示するよりも任せた方がいい結果になるような気がします。

 私達の会話をポカンと口を開けてみんなが見ていました。


 リーダーが「ちょっと待ってくれ。人類共通語を喋るマンティコア? それってかなり歳経た強力な……エルダーマンティコアじゃないのか?」などと言い出しました。

 リーダーの言う通り、私のマンティコアは歳を取っており、通常のマンティコアよりも強力です。


「ワシは確かに長い年月を幻獣界で過ごしてきた。その過程で人類共通語を喋ることができるようにもなったが、ただそれだけのことよ」


「そうですね。おじいちゃんなのは否定できません。歳経た分だけ普通のマンティコアより強いのは確かですよ」


 リーダーは「そんな簡単に言うけど……凄いことなんだぞ?」と呆れた様子で呟きました。


「それでどうする? レティシアの召喚獣が凄いのは分かったけど、進むのか?」


 オルテガが槍を弄びながらリーダーに問いました。


「ああ、そうだね。レティシアがいるから軽い怪我なら治せるし、エルダーマンティコアがいるから戦力も盤石だ。懸念は罠だけだけど、そこはオリビアを信じよう」


「任せてよ。罠くらい、斥候の私が見つけ出してやるからさ」


 言葉は威勢がいいですが、オリビアは緊張した面持ちで言いました。


 ▽


「そっち! 足元に罠があるから踏まないように気をつけて!」


「くそ、手強いな!」


 オリビアがトラップを探し当てますが、私達はそれどころではありません。

 コボルトの集団と戦闘になっているのです。


 オルテガがシールドバッシュを放ってコボルトを吹き飛ばしますが、すぐに体勢を整えて後衛に回り込もうとしてきます。

 足の早い犬頭のコボルトは、鋭い爪と牙で襲いかかってきます。

 前衛が崩れいないと見るや、後衛に回り込んでこようとする辺り、嫌らしい戦い方をしてきますね。


 回り込もうとしてきたコボルトたちを、マンティコアの前足が薙ぎ払います。


「ワシの方に来ても無駄じゃろうて。……時の流れよ、彼の者らだけに遅い流れを。さあ、後はお主らで片付けよ」


 急激に動きが遅くなったコボルトたち。

 どうやら動きを遅らせる時の魔術をマンティコアが使ったようです。


 動きが遅いコボルトはもう怖い相手ではありません。

 前衛たちが武器を手に手にコボルトを倒します。


「助かったよマンティコア。レティシアの召喚獣がいなければ、後衛に被害が出てたね……」


 カシウスが疲れた顔で言いました。


「時間を遅らせる魔術? さすがはエルダーマンティコア、いなければコボルトに八つ裂きにされていたかもしれない……」


 リーダーはうつむきながら、悔しそうにしています。

 ダンジョンの難易度は思ったよりも高く、第一階層でさえ罠があり、魔物はマンティコアの支援がなければ倒せません。


 まあ逆に言えば、マンティコアの支援を当てにしてパワーレベリングできると考えれば、そう悪くないのですけどね。


「怪我をした人は申し出てください。治しますよ」


「すまん、顔を引っかかれた」


 オルテガが爪痕の残る顔を見せます。

 血が流れていて痛そうですね、とっとと治しましょう。


「光よ命となりて彼の者の傷を癒せ――」


 私はオルテガの傷を治しました。


「よし、マンティコアがいれば戦えることは分かりました。リーダー、もう少しここで鍛えていきましょう。こんな機会、なかなかないですよ?」


「そう言ってくれるか。そうだな、何も得ないまま逃げ帰るのも違う気がする。存分に頼らせてもらおう」


 リーダーが顔を上げました。

 みんなも気合を入れ直し、第一階層で修行をする気になったようです。


 肝心のマンティコアは「やれやれ、子供たちにはまだ早い戦場じゃが……できるだけ支援に回るとしよう」とため息交じりに呟きました。


     ◆


 ドッペルレティシアです。

 あれからマンティコアの支援のもと、なんとか魔物を倒しては経験値を稼ぐパワーレベリングに興じた私達は、確実に強くなっていました。


 コボルトの素早さに慣れた前衛たちは、もう後衛にコボルトたちを回り込ませることはありません。


 この階層には他に黄金の毛並みをもつゴールドタイガー、巨大なカマキリであるジャイアントマンティス、空から襲いかかってくる凶鳥ヒュッケバインなど、今の私達には荷が勝ちすぎる相手が満載です。


 それでもマンティコアがいるだけで、戦闘は格段に楽ができます。

 草原に潜み、奇襲を狙うゴールドタイガーには牽制のために地属性の攻撃魔術を放ったり、ジャイアントマンティスの片方の腕を風の刃で吹き飛ばしたり、ヒュッケバインにはダウンバーストで地面に叩き落としたりと、大活躍です。


 それでも怪我をしたり、体力を消耗する前衛たちに回復魔術をかけて私は経験値を稼ぎます。

 昼過ぎには安全マージンを考えて撤退することにしました。


 マンティコアを送還してからダンジョンから出ると、外の気持ちのいい風に人心地つきました。


 リーダーは「今日はこのくらいにしておこう。どうも俺たちにはまだ早かったようだ。皆を危険に晒してすまない」と恥ずかしそうに謝ります。


「いや。結果的にはレティシアの召喚獣のおかげでなんとかなったし、オリビアも罠をちゃんと発見できてた。悪いことは無かったよ、いい経験だった。レベルもかなり上がったし、ゴールドタイガーの毛皮は高値で売れるだろうし、良いことづくめだったよ」


 オルテガがリーダーを擁護します。

 カシウスも「最初は怖かったけど、コボルトにも目がなれたし、……入って見てよかったと思う。また何年かして腕を上げたら挑戦したいと思うよ」と言いました。


 オリビアは「もっと罠に対する感度を上げるために、冒険者ギルドの講習を受ける。今度は皆に安心してダンジョンに潜れるようにしておくから」と言ってくれました。


 みんな前向きですね。

 ダンジョンに入って良かったと思いますよ。


 さてマンティコアを引き連れて子供パーティが第一階層を有利に戦っていたのは他のパーティも見ていたようで、その後、私の熱烈な勧誘合戦が勃発するのは別のお話です。


 ▽


 勉強を終えた私は、午後に領主様との面談を控えていました。


 今頃、ドッペルゲンガーはマンティコアを連れて冒険の最中でしょう。

 羨ましいですが、記憶共有するまでの我慢です。


 記憶を共有してしまえば、自分自身が冒険者になって冒険をする体験ができるのですから……。


 昼食を終えたら、領主様が神殿にやって来ました。


 居住区の応接室は私に神託を依頼する人との話し合いのために設けられています。

 同席する司教様と一緒に、領主様を待ちます。


 やがて応接室まで案内された領主フィガロ・グリアハーキムが入室しました。


「今日は私のために時間を割いてくれてありがとう」


「いえいえ、多忙な領主様こそわざわざご足労いただき恐縮です」


 司教様がほくほくした笑顔で領主と雑談を交わします。

 これは相当多額の喜捨があったのでしょうか。


 雑談はしばらく続き、しかし自然に本題に入ります。


「さて、聖女様には神託をお願いしたい」


「はい、どのようなことを神様に伺えばよろしいのでしょうか?」


「隣国が食料を買い集めているらしい。お陰で食料がやや値上がりして困っている」


「まあ、それは困りましたね」


 ……それってさあ、戦争の準備じゃない?


「隣国がどのような意図で食料を買い集めているのか、神様にお伺いしてくれないだろうか」


 ほらほら、領主様も戦争の準備を疑っているよ!

 これは他人事ではありません。

 この街が襲われたら、私のまったり神殿生活が脅かされるのです。


 いや、隣国も同じ宗教を信仰しているはずだから、聖女である私を悪いようにはしないとは思いますが……それも戦争のために神託を使わなければ、の話です。

 領主様のために神託を使ったのがバレれば、私の身の安全も確実とは言えなくなりますからね。


 とはいえ、ドッペルゲンガーもいるこの街を危険に晒すのは気が引けます。


「かしこまりました。神様にお伺いを立てましょう」


「おお、やってくれるか。頼むぞ聖女様」


 私は侍女イネスに先導されて、神託の儀式の間に向かいます。

 さあ神様、隣国はどのような理由で食料を買い集めているのでしょうか?


 ――戦争の準備。狙いはグリアハーキム。


 うっわ、最悪ですよこれ!?


 私は平静を装い、応接室に戻ります。


「聖女様、どうであった?」


「はい。……隣国は戦争の準備をしています。狙いはこの街、グリアハーキムです」


 司教様は驚きに口をポカンと開け、領主様は苦い顔をしました。


「やはりそうか……。こちらも戦争の準備をせねばならぬな。ありがとう、助かった」


 席を立った領主様は、内心の焦りを隠しながら神殿を出ていきました。


     ◆


 隣の都市国家リッツァアーロイとこの街グリアハーキムは長年に渡って確執がありました。


 国境問題、河川の利用問題、農村の支配権、などなど。

 ことあるごとにグリアハーキムとリッツァアーロイは揉めに揉めて、ついに今回は戦争になることになってしまいました。


 神託のお陰でグリアハーキムも戦争の準備時間を取れることになりましたが、食料の値上がりは止まりません。

 私の食事も少し品数が減ったような気がしますが、多分、気の所為ではないでしょう。


 神殿の自治のために神殿騎士たちがいるのですが、彼らは戦争には参加しません。

 あくまで神殿を守るためにいるのです。


 ですが冒険者はきっと戦争のために徴発されているでしょうね。

 ドッペルゲンガーとマンティコアが心配ですが、こればかりはどうしようもありません。


 ていうか正直なところ、マンティコアがいればかなりの戦力アップにつながるため、ドッペルゲンガーを冒険者のままにしておくのはアリだと思うんですよね。


 銀ランクパーティひとつ分くらいの働きはしてくれるでしょうし、ドッペルゲンガーの回復魔術も聖女仕込みの強力なものです。


 これで負けるならリッツァアーロイに強力な銀ランクパーティや金ランクパーティがいたときだけでしょう。

 それは運が悪かったとしかいいようがありません。


 ……いかんいかん、もう負けることを考えちゃってるよ。


 勝つためにはもう一手、打つことにしましょう。


 なぜか先日、大量の経験値を得てレベルアップしていたので、新たに召喚ができるようになっているのです。


 ドッペルゲンガーの報告待ちだったのですが、そうも言ってられなくなりました。

 ここ数日、ドッペルゲンガーは神殿に戻ってきていません。

 この大変なときに何をやっているやら……。


 私は侍女イネスと神殿騎士を集めて、中庭で召喚に臨みます。


「来たれ、我が下僕(しもべ)。生涯の縁をもって汝を縛る。――ここに召喚せり!!」


 赤黒い炎とともに現れたのは、三首の巨大な犬、ケルベロスでした。


「モフモフですね」


「聖女様! お気をつけくださいっ!!」


 神殿騎士たちも油断せずに、剣を抜き緊張した様子を見せます。


 まあ地獄の番犬とも呼ばれるケルベロスは、幻獣ではなく悪魔系とされているので仕方がない反応かもしれません。

 しかし私には分かります。

 召喚術師である私とケルベロスとの間にはちゃんとパスが通っており、私の命令に従う確信があります。


「ケルベロス、伏せ!」


「「「ガルルルル……」」」


 ケルベロスは私の言う通りに伏せをしました。

 間違いありません、ちゃんと命令を聞くいい子ですよ!


「皆さん、剣を収めてください。ちゃんと命令を聞くので、ケルベロスに危険はありませんよ」


「さすがは聖女様……あんな巨大な獣を意のままに操るとは」


 神殿騎士たちが口々に私を畏れ、剣を収めていきます。


 強さでいけばマンティコアと大差ないこの子をドッペルゲンガーに渡したいのですが、なかなか戻ってきませんねあの子。


 今夜辺り、千里眼で探してみましょうか。


 ▽


 酒場では戦争前だからか、たくさんの冒険者たちで賑わっていました。

 その中にドッペルゲンガーがいました。


 ドッペルゲンガーは何やら銀ランクパーティに囲まれて困っている様子です。

 いつもは断ってくれているパーティメンバーたちは銀ランクパーティの面々に追いやられています。


 一体、何があったんでしょうか?


 ううん、声が聞けたら状況が分かるのですが、私の千里眼は遠くの光景を見ることしかできません。


 そうだ、闇属性は精神に働きかけることができたはず。

 テレパシーのようなことができないでしょうか?


 私は試しに闇の魔術のイメージを整えます。


「闇よ、私の念を彼の者に伝えよ」


 ――新しい召喚獣を呼んだから一度、神殿に戻ってきなさい。


 どうやら伝わったようですね。

 ドッペルゲンガーは不思議そうな顔で左右を見渡しています。


 私は満足して千里眼を打ち切りました。


 さあ、明日あたりにドッペルゲンガーが戻ってきたらケルベロスもあちらに渡しましょう。


 戦争ではマンティコアとケルベロスがいれば勝てる可能性が格段に上がりますからね。


     ◆


「おはようございます。本体、昨晩のあれは何ですか?」


「ちゃんと通じて良かったです。まずは記憶共有しましょうか」


 私はドッペルゲンガーと握手します。

 ドッペルゲンガーはしばらくうんうんと唸っていると、急にパッと顔を上げました。


「なるほど、闇属性の魔法でテレパシーとはさすが本体。良い思いつきです」


「そちらこそ大変だったようですね。まさかマンティコアが大人気で勧誘合戦になっていたとは……」


「そうなんですよ! もうみんな話を聞かない人が多くて困っていたんです。それにしても戦争ですか……冒険者にはまだ話は来ていませんが、食料の値上がりが不穏だという噂は流れていましたよ」


「まったく銀ランクパーティたちにも困ったものですね。戦争ではケルベロスとマンティコアを前面に出して勝利に貢献してください。パーティメンバーのお守りは今回に限っては忘れた方がいいですよ」


「えー? でもそんなことをしたら、ますます銀ランクパーティからの勧誘が酷くなりませんか?」


「でも戦争に負けると私に危険が及ぶ可能性もありますからね。この戦争、勝ちに行ってください」


「ふむ……仕方ないですね」


 ドッペルゲンガーは納得したようです。

 これで当面の目的は果たしたので、後は私はのんびりと戦争の経過を眺めるだけですね。


 ▽


 こんにちは、ドッペルレティシアです。


 今日も今日とて薬草採集です。

 とはいえ大抵は昼過ぎに終わるんですけどね。


 みんな前回のダンジョン探索では力不足を痛感して、空き時間は冒険者ギルドの講習を受けたり、訓練場で訓練をしたりして過ごしています。

 私はそんなみんなに体力回復の魔術をかけて経験値を稼いでいます。


 夜は夕食をみんなで取ります。

 マンティコアを見た銀ランクパーティの勧誘が激しくて、ひとりで夕食を取るのが難しくなっていたからです。


 まあみんなが防波堤になっていたのも最初の頃だけですけどね。

 今では平気でみんなを押しやって私のいるテーブルに座る始末。

 人気者は辛い、とか言ってられなくなりました。


 そして本体の安全のためにも、戦争で大活躍を約束されていますからね。

 ケルベロスまで従えているところを見られたら、そりゃ勧誘合戦が更に酷くなることは目に見えています。


 ……はあ、今から憂鬱です。


 ▽


 数日後、冒険者ギルドが賑わっていたと思ったら遂に領主様から戦争への参加命令が下りました。


 ランクに関わらず参加必須です。

 嫌な人はこの時点で逃げますが、私はもちろん参加する気でいたので驚きもなく受付で名前を書いてきました。


 パーティメンバーたちも参加するようですね。

 私が参加するから、というよりも彼らはこの街の出身者ですから、戦争に協力するのは当然といった態度です。

 子供パーティと揶揄されることも多いですが、その辺はキッチリ冒険者なんですね。


 さて領主様が戦争を発表したことで、街はにわかに活気づいてきました。


 徴発される兵力はなにも冒険者ギルドだけではありません。

 後方支援に施療院の光魔術師、任意参加ですが職人ギルドや商人ギルドにも戦争への有形無形の協力要請が行っているはずです。

 住民たちにも戦争参加を呼びかけていますから、最終的にどれだけの兵力が集まるのか見当もつきません。


 私たち冒険者は戦力の核である騎士、兵士との協力体勢を組むべく、領主館の訓練場で連携の訓練をさせられます。

 ちゃんと食事や給金も出ますから、実入りは薬草採集に行くのとさほど変わらないですね。

 それだけの出費を領主様ができるというのも凄い話ですが……。


 私は早々にケルベロスとマンティコアを召喚して、周囲の度肝を抜きました。


「ケルベロス!? いつの間に召喚できるようになったんだレティシア!?」


 リーダーたちが騒ぎますが、もちろん銀ランク冒険者たちも騎士や兵士も騒ぎます。


「君、ちょっとこちらへ。メインクラスが光魔術師でサブクラスが召喚術師? それで銅ランクなのかい?」


 騎士に詰問されるようにして私は単独での行動を許可されました。


「リーダー、他のみんなも聞いてください。私は戦争のためにケルベロスとマンティコアを前線で運用します。そのため援護に私が動きますから、みんなは私抜きで戦ってください。くれぐれも大怪我なんてしないように気をつけてくださいね?」


「レティシア、それでいいのか?」


「はい。戦争は勝ちに行きます。みんなと一緒ではケルベロスとマンティコアはチカラを発揮できません……それは多分、銀ランクの冒険者と一緒でも変わらないでしょう。私はなんとしてもこの街を守らなければならないんです」


「なんとしても?」


「ええ。私の生まれ育った街ですから」


 私の覚悟が伝わったのか、みなは無言で頷きました。


 さあ、戦争ですよ!!


     ◆


 お疲れさまです、ドッペルレティシアです。


 戦争は、平原での総力戦となりました。


 私は右翼側にひとり、銀ランク冒険者に混じって召喚を控えているところです。

 銀ランクの人たちは「ほらやっぱり君はこっち側だった」と言わんばかりの態度で接してきます。

 ウザいのですが、彼らの言わんとすることも分からなくもないのです。


 この戦いでどこまで活躍できるかは未知数ですが、ケルベロスとマンティコアを突っ込ませれば敵左翼は瓦解することでしょう。


 それだけのポテンシャルが私の召喚獣たちにはあるのです。


 正確には本体の、ですが。

 私自身だって、本体の召喚獣ですからね。


 リッツァアーロイの騎士が一騎だけ前に出てきて、口上を述べます。


「我々リッツァアーロイは怒っている。今までの数々の非道を我々は許さない。グリアハーキムは今日、リッツァアーロイに屈するのだ!!」


 対してグリアハーキムの騎士も一騎だけ前に出て、口上を述べます。


「先に戦争の準備を始めた卑怯者どもの集まりよ。今日、貴様らは敗北を知るだろう。リッツァアーロイは我らグリアハーキムの前に膝をつき(こうべ)を垂れて許しを乞い願うのだ!!」


 騎士ふたりはにらみ合ってから、自陣に戻っていきました。

 そしてドラが派手に鳴らされました。

 いよいよぶつかり合いですね。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 両軍が雄叫びをあげます。

 全軍が、互いの全軍が前に進み出て、まずは魔術と投げ槍の応酬から始まります。


 私はケルベロスとマンティコアを召喚しました。


「な、なんだあれは!?」


 敵軍はいきなり現れた巨大な召喚獣を見て、動揺します。

 そりゃそうですよ、ケルベロスもマンティコアも全高は軽く2メートル以上ありますもん。

 こんな化け物、相手にする予定はなかったでしょうね。


「さあ、ケルベロス、突撃です。マンティコアはその支援を。私は二体に疲労と負傷の回復に徹します!」


「「「ガルルルルッ!!」」」


「了解した。ワシらのチカラをおおいに見せつけてやるとしようぞ!」


 魔術や矢、投げ槍が飛び交う中をケルベロスが一騎駆けします。

 単騎特攻、少々の傷は私がすぐに癒やすことができます。

 召喚獣にはパスが繋がっているため、そのパスを通じて魔術を行使することができるのです。


 だから距離は関係なし。

 目の前にいるかのように回復魔術を使うことができます。


 マンティコアもケルベロスの後を追います。

 こちらは空を飛び、空中から魔術を放ってからケルベロスの通った後に降り立ちます。


 ケルベロスはみっつの首から黒い炎を吐き出しました。

 前方にいた敵兵を焼き殺していきます。

 勇敢な敵の兵士が斬りかかってきますが、ケルベロスはそれを前脚で叩き潰しました。


「時よ、加速した時の流れに彼の者に」


 マンティコアがケルベロスに加速の魔術をかけます。

 するとケルベロスだけが早送りになったみたいに変な動きをし始めます。


 前脚で敵兵を薙ぎ払い、三首の吐く黒い炎が広範囲を薙ぎ払い、敵の左翼は瓦解したも同然です。


 私の周囲の銀ランク冒険者たちはポカンと口を開けて私の召喚獣たちの活躍を眺めていることしかできません。


 私は体力回復の魔術をケルベロスに送り込み、さらなる戦闘継続を命じます。

 今度は敵陣中央の後方、つまり指揮官のいる辺りを狙うように闇属性のテレパシーで命令しました。


 ケルベロスは素早い動きで進路変更し、敵司令官を狙いに動きました。


 しかし流石に敵陣中央の後方、騎士の数が多い!

 投げ槍が雨あられと飛んできてケルベロスに多くの傷をつけました。


「光は命、彼の者を癒せ!」


 私はパスを通じてケルベロスを回復させます。


「なんだ、このケルベロス、傷が回復して――うぎゃあ!!」


 投げ槍を無視してケルベロスは騎士にガブリと噛みつきます。


 そして空からはマンティコアが石の雨を降らせました。


「後方支援を! 施療院の光魔術師の元へ――うわあ!?」


 ケルベロスの黒炎とマンティコアの石の雨で敵の命令系統はズタズタの模様。


退()け! もうこんなの、戦争にならん!」


 ジャーン、ジャーン、ジャーン、とドラが三回鳴らされると、敵兵が背を向けて逃げ始めます。


「よし、敵軍は潰走し始めた。追撃だ!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 遂にグリアハーキム軍が前進します。

 ていうかまだ留まっていたんですね、全部、私がやっちゃったようなものじゃないですか。


 私はこれ以上は不要だと判断して、ケルベロスとマンティコアを自陣に戻します。

 帰ってくるついでにまた沢山、殺しましたがそれはご愛嬌。


 かくして戦争は圧倒的な大差でグリアハーキムの勝利となったのでした。


     ◆


 どうも、ドッペルレティシアです。


 戦功第一位となった私は、冒険者ギルドではなく領主館にて褒賞を受け取ることになりました。


 マズいですね、領主様は聖女であるレティシアの顔を知っています。

 召喚命令を無視するわけにもいかないので、大人しく褒賞を受け取りに行きます。


 行ってみて少しだけ安心しました。

 領主館には騎士たちが沢山いるだけで、冒険者はいなかったのです。

 冒険者で呼び出されたのは私だけのようですね。


 これなら別に私が聖女だとバレても、テキトーに誤魔化すことができるかもしれません。


 いえ、誤魔化して見せましょう。


 領主様が現れました。


 私たちはみな顔を伏せて膝をついています。


(おもて)をあげよ」


 顔を上げた私を見て領主様がギョッとするのを確認して、私は闇属性のテレパシーを行使します。


『私は聖女様の召喚獣ドッペルゲンガーです。聖女様本人ではないので、そこのところお願いします』


「!?」


 領主様は目だけで左右を探り、私に目を止めます。

 私は小さく頷きを返すと、理解したといった顔になりました。


 よし、上手くいきました!

 これで私が聖女であることはバレません!


「戦功第一位、銅ランク冒険者レティシア、前へ」


「はっ」


「そなたの召喚獣には助けられた。リッツァアーロイとの前哨戦をたったひとりで勝ちにした功績は非常に大なり。褒賞として、何か望むものはあるか?」


「私は自由を愛する冒険者。望むものは金貨のみでございます」


「なるほど、不自由を強いるような褒賞は不要というわけだな。よかろう、そなたには金貨を渡す。額は後ほどということにさせてもらおう」


「はっ」


 その後は、騎士たちに褒賞を渡していきます。

 村などの領地を持っている騎士には税金を軽くしたり、領地の加増をしたりと、様々です。


 一通りの褒賞の受け渡しが終わった後、私は領主様に個人的に呼ばれました。


 個室では、領主様と会計係から金貨の詰まった袋を頂戴しました。


「この者と話がある。他のものは全員、外に出ておれ」


「しかし領主様、それは危険では……」


「たったひとりでリッツァアーロイを退けた召喚術師だぞ。そなたらがいようとも私を殺すことなど容易いに決まっておる。そんなことよりも大事な話があるのだ」


「はあ……」


 騎士たちと会計係は不承不承、部屋を出ていきました。


「まったく……お主の顔を見て驚いたぞ。ドッペルゲンガーというのは本当なのか? 本人ではないのだな?」


「はい、領主様。私は聖女レティシアの第一の召喚獣ドッペルゲンガーです。神殿から出られぬ聖女様のために、見聞を広めるために神殿の外で冒険者をしております」


「ふむ? そなたが冒険をして、聖女様にその話を聞かせるということか?」


「いいえ。ドッペルゲンガーには記憶の共有能力がありますので、定期的に聖女様には冒険の記憶を差し上げております」


「なるほど、そういうことか。よく分かった。なんにせよ、今回の戦争では助けられた。今後もよろしく頼むぞ」


「はっ」


 領主様と個人的なお話をしてから、私は冒険者ギルドに向かいました。


 ▽


 冒険者ギルドの口座に金貨を預金すると、あちこちから私に「戦功第一位おめでとう」の声がかかります。


 受付嬢からは「今回の活躍で、レティシアさんは銀ランクに昇格しました」と言われ、冒険者カードが銀色になりました。

 これは勧誘活動に拍車がかかりそうですね……。


 かと思いきや、戦勝の宴では、なぜかパッタリと勧誘の声がなくなりました。


「てっきり勧誘が激しくなるものだと思ったのですが……」


 首元の銀色になった冒険者カードを弄りながら首を傾げていると、リーダーが「レティシアはやりすぎたんだよ」と教えてくれました。


 どうやら自分たちより強いレティシアを勧誘するのは無理があると考えたのだとか。

 なるほど、戦争で大活躍しすぎたのが功を奏したようです。


「しかし私だけ銀ランクになっちゃいましたね」


「何、数年ほど待ってくれ。俺たちも追いつくから」


「ええ、期待していますよ」


 私は無事に、今のパーティに留まることができました。


     ◆


「そなたの召喚獣には驚かされたぞ、聖女様」


「事前に説明もなく申し訳ありません、領主様」


 領主様との晩餐で、ドッペルゲンガーについて言及されました。

 まだ記憶共有をしていないので分かりませんが、どうやら無事に戦争を勝利に導いたようですね。


「神託の聖女には戦争のことを教えてもらい、召喚獣には戦争の勝利をもたらされた。正直、用意したお礼の品に見合うのか自信がないのだが、受け取って欲しい」


 従者たちが運んできたのは、山のような絹の反物でした。

 輝くような生地は、さぞ高かったでしょうに。


「これは王族も召されている絹の反物だ。聖女様には神託のお礼として受け取ってもらいたいのだ」


「はい、ありがたく。これは素晴らしい手触りですね」


「うむ。最高級の品だからな。戦争では出費も多かったが、リッツァアーロイからの賠償金でむしろ利益が出た。あちらはさぞケルベロスとマンティコアを恐れているようだな」


「私の自慢の召喚獣ですもの。当然ですね」


「そなたがグリアハーキムの神殿の聖女で良かったと心の底から思っている」


「どうやら領主様も私の召喚獣を恐れておられるようですね」


「もちろんだ。そなたの召喚獣、あれは二体とも恐ろしいチカラを持っていた。そもそも召喚術師のクラスが希少であるのに、あれだけチカラある召喚獣を従えているのが異常なのだぞ」


「そうですね……。ところで今回の戦争では多くを私の召喚獣が殺したようで、レベルアップしたのです。また新たな召喚獣を呼べるようになりました」


「……まったく嫌なことを聞かせてくれる。次は何を呼び出すというのだ」


「さあ。召喚される召喚獣は神のみぞ知る、ですからね」


「ならばそなたは次に召喚されるのが何なのか知っているのか?」


「まさか。神託をそんな個人的なことに使ったりしませんよ。それに予め分かっていると、召喚のときの楽しみがなくなります」


「そういうものか……」


 領主様との晩餐は、戦争と召喚獣の話題ばかりで終わりました。


 ▽


 翌日の自由時間、私は中庭で新たな召喚を行う準備をしていました。


 侍女イネスは神殿騎士らを配置して安全に配慮してくれています。


 ……よし、気力、体力、魔力、いずれも万全ですね。


「来たれ、我が下僕(しもべ)。生涯の縁をもって汝を縛る。――ここに召喚せり!!」


 ズモモモモ……。

 またも黒々とした霧が噴出します。


 なんというか、また邪悪系ですかね?


 山羊の頭と竜の頭を追加でもち、蛇の尻尾をもつ獅子です。

 いわゆるキマイラですね。

 獅子と山羊と竜の三首です。


「格好良いですね」


「聖女様! お気をつけください!」


「大丈夫ですよ。ちゃんとパスは通っていますから」


 私は獅子の頭を撫でます。

 キマイラはわざわざ体勢を低くして撫でられてくれました。

 いい子ですね。


「さてこの子も強そうですね。ドッペルゲンガー用にしましょうか」


 純粋なモフモフ要素がないのが気になりますが、私の召喚獣は強力な個体ばかりです。


 もしかしたら転生者だからですかねえ?


 それとも毎日訓練して得た大量のMPでしょうか。


 まあ何にせよ、役立たずを召喚するよりはマシなのでいいのですが……。


 ▽


 翌日、ドッペルゲンガーがやって来ました。


「こんにちは、本体」


「こんにちは、ドッペルゲンガー。戦争では大活躍だったそうですね。早速、記憶共有をしましょう」


 私たちは握手します。


 うわ、これは酷い。

 完全にひとりで敵軍を撤退に追い込んでいます。

 そりゃ領主様もびっくりしますよ!


「本体、キマイラとはまた強力なのを召喚しましたね」


「有効に使ってください。仲間を守るんですよ」


「過剰戦力だと思います……」


 ドッペルゲンガーは困ったような顔をしました。


半端な長さなので短編で投稿します。

実は長編連載の形式でプロットを練っていたのですが、……ドッペルゲンガーが街から離れると記憶共有できないというネックもあって敢え無く続きを書けなくなりまして。

色々考えた末に短編で投稿してもう触らないことにしました。


長編は『スカジャンのシガン』があるので、興味ある方はそちらをご覧になってくださいね。


それではまたどこかで!

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― 新着の感想 ―
[一言] せっかく絹の反物をもらったので、ドッペルちゃんとお揃いのフリフリ衣装を作ってはいかがかな? レティシアちゃんが白で、ドッペルちゃんが黒で、某プリティでキュアキュアな魔法少女(初代)とかやって…
[良い点] 語り方かわいいですね… ゆけ! どっぺるレティシア! 本体がちょっと可哀想でした。 こっそりどっぺるレティシアと入れ替えしないのかな?
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