第三話 カレー
カレーが好きというか、うまいカレーは好きだ。
……当然と言えば当然か。
「何だ、うまいカレー屋でも知ってるのか?」
私が不愉快になったのを察して、唐突に話題を変えたのか。
適当なことを言っているのならこのまま帰るだけだが、一応、確認しておく。
鍋敷は、相変わらずだよな、と小さく呟く。
「ほんと、食い意地はってるよな。 そういえば、昼飯に1500円くらいフツーに使うようなヤツだもんな」
「……逆にファミレスの500円ランチで済ませるお前の方が私には不思議だ」
上手いモノを食いたいと思うのは当然だろう。
借金をしていて、節約しなければならないというのなら話は別だが。
鍋敷が話を続ける。
「自衛隊のカレーっていうのがあるんだよ。 何でも、めちゃくちゃうまいらしい」
「海軍のカレーじゃないのか?」
「似たようなもんかもな。 で、そのカレーを食えるチャンスが再来週の水曜にある。 民間人が自衛隊の訓練に参加する企画が今度開かれるんだ」
自衛隊のカレー、か。
確かに、興味はある。
海軍のカレーならスーパーに売っているのを見かけたことがあるが、実際のものとはまた別物なのだろう。
私が食いついたことで、鍋敷が更に詳しい説明をする。
「ネットから応募できて、参加人数の定員は50人だったかな。 お前、仕事してないし平日暇だろ? 本当は俺も行ってみたかったんだけどな…… 良い経験になるんじゃないか?」
「……なるほどな。 行ってみる価値はあるかも知れん」
参加しなければ食べられない自衛隊のカレー。
私が今行っているグルメランニングとコンセプトが似ているし、何より、ブログのネタになりそうだ。
マックから帰宅し、パソコンを起動するとブログの更新をする。
カタカタとキーボードを叩く。
「まず始めに目的地を設定します。 目的地は、スマホのグーグルマップを使い、徒歩で表示された時間割る4が最適なジョギングのタイムとなります」
ランニングの速度は人によりまちまちだが、徒歩の4倍が無理のないペースだと私は思う。
具体的には、徒歩で24分かかる場所なら、走って6分、といった具合だ。
ふぅ、と私はモニターから目をそらし、メガネを外す。
ウェットティッシュでグラスを拭きながら、鍋敷の事を思い出した。
(……仕事か)
正直、会社を辞めてから再び仕事を探すことがここまで億劫とは思わなかった。
やはり一度、見知らぬ誰かと交流するようなイベントに参加するのは社会復帰の為の良い経験になるかも知れない。
私は、ネットの検索欄に自衛隊と記入し、ホームページにアクセスした。
訓練のイベント当日。
早朝、私は運動するならと、いつものランニングスタイルで家を出た。
電車を経由し、最寄りの駅から自衛隊の基地まで直通のバスが出ている駅まで移動する。
(……あれか)
遠目から、すでに何人かがバス停で待機している。