砂地対策習得
がっつり集中してやって、土も風も大体50発ほど矢を撃つことでスキルを習得することができた。まだ行けるけどなかなか魔素を消耗したっぽいな。
言われてた通り柵をノックしてアピエギルド長を呼んでスキル発現したと言うと、結構驚かれた。
「あらら、もう終わったの!?それに思っているよりも元気そうねー。魔素補填薬も用意しておいたんだけど、飲むかしらー?」
「いえ、まだ大丈夫です。もっと消耗したら飲ませてもらうかもしれません。それと魔道石なんですけどどうしますか?」
「まだ飲まなくて大丈夫なのね?わかったわー。あ、魔道石はまだ持っててね?モイザちゃん、もう水晶の操作はわかるのよね?」
「――――。」
「それじゃあご主人様のほうにご指導してくるから、さっき言ったように頑張るのよー。フレウドくんもね?」
「コ・・・」
モイザは比較的平気そうだけど、なんかフレウドはぐったりしてる?何をしてたかは見てないし、そもそも区画は中が見えないようになってたけど、結構ハードな訓練してたのか?
「さぁやりますよー!四属術にするのはまた時間かかっちゃうから、まずは砂地対策から入るわよ?」
「はい、お願いします。」
僕用の区画の柵の中に入ると、アピエギルド長はさっそく水晶をいじる。操作が終わると、僕が矢をめった刺しにして穴ぼこだらけの十字の的が床下にしまわれた。そうすると足元の床が急に砂地に代わって、少し体勢を崩しそうになった。
「あらら、ごめんなさい。もうちょっと柵によっておかないと砂地になるって言っておけばよかったわー。」
「大丈夫です、ちょっとびっくりしただけなので。」
「砂地をそのまま歩くだけならこのまま歩く練習してもいいのよー。でも今回は術法を使ってがっつり走れるようにするって話よー。まずは風術から説明するわねー。イメージとしては靴全体、もしくは靴の裏に風を纏う感じ、ウィンドシューズってスキルアーツよー。風を使って不安定な足元にクッションを置くのが目的ね。」
アピエギルド長は説明しながら砂地を軽々と走って見せてくれた。風の靴か、うまく使えば水の靴とか火の靴とかもできるのかな?いや、火の靴はなんか足燃えそうだからやめておこう・・・
「地面があればこれでもいいけど、使っても水の上を走れたりはしないってことを注意しておくわー。水の靴を作ったりしても駄目。もし水の靴を使うなら溶岩地帯とかかしらねー。
もうひとつの土術のほうも教えちゃうわね。土術でやるのはサンドアダプテーションという砂地への順応を促すスキルアーツよー。これは体全体にかける補助魔法だから、イメージは体全体を砂から守ると考えれば使えると思うわー。使っていればほとんど地面と同じ感覚で走れるようになるわよー。」
「二つの術法を聞いたんですけど、違いは何かあるんですか?」
「良い質問ね!ウィンドシューズは消耗が少なくて長続きするのだけど、足にしか使ってないから転んだりすると厄介なことになるわー。体全体にかけるウィンドクッションなんてのもあるけど、初めのうちは使うの難しいと思うわー。ただ一応砂地以外でも深い草地とかでも少し効果を見込めるわねー。
サンドアダプテーションは砂地専用!転んだりしても体全体にかけてるから大丈夫!腕が砂に埋まっちゃうとかもないはずよー。でもかけるときにも、かけ続けるのに結構な魔素を消耗するのが難点かしらね。正直砂と泥の順応補助魔法があるけど、例えば水とか炎とか突風みたいなのにはうまく作用しないのよー。アダプテーションは土術専用だと今のところ結論されてるわ。もしかしたら使える人がいるかもしれないけどねー。」
ふむふむなるほど、そういう違いがあるのか。歩くだけを考えればウィンドシューズのほうが便利そうかな?でも戦闘面を考えれば体全体にかけておきたいところというかんじか。
「それじゃあどっちも試してみますね。楽そうなのはウィンドシューズかな?」
「え、ちょっとまって?今スキルを習得したばかりでしょー?今教えたのはやり方だけ!魔道石を使って覚えたスキルはそのまま魔道石を使って無理やりっていうのを継続して練習して、長い時間しっかり続けて、魔道石を使わなくてもできるようになってからちゃんとやるものよー?」
「そう、なんですか?まぁ物は試しに。」
風はフレウドのを見てたし、自分でもアローを作ってるときにどんな感じかはわかる。靴の上から風で靴を包み込むイメージで。
「ウィンドジューズ。お?おぉ!おおおお!」
すごい!ちょっとふわりと浮くような感覚!砂地に直接足が触れてないからか本当に軽やかに走れる!これなら砂地以外でも普通に日用的に使ってもいいレベルだな。
「な、なんでできちゃうのかしら?リュクスさんは来訪者なのよね、もしかしてそれに関係があるのかしら。他の来訪者の方にも聞いてみる必要がありそうね・・・」
「えっと、もう一つのサンドアダプテーションを試しても?」
「え、あ、えぇ!大丈夫よー。試すだけなら大丈夫・・・」
なんかつぶやいてるけどとりあえずやってみちゃうか。えーっと、体全体を砂から守ることをイメージするんだっけ?なんか全身を守るオーラみたいなのはよくゲームにあるもんな。あの感じをイメージして。
「サンドアダプテーション。」
んん?なんというかうまくいったのかわからないな。しょうがないと思い切り砂地に向かって背中から倒れて見る。おぉ?砂の感じが一切しない?ゴロゴロと転がってみたけど一切ローブに砂が付いたりもしてないぞ!
「おぉ!うまくいったみたいです!すごいですね、砂が一切つかなかったですよ?」
「え、えぇ、そ、そうね。まさかそんなことするとは思わなかったけど、そういうスキルアーツなのよー。ところで、狼くん、確かベード君だったかしら?転がってるのを羨ましそうに見てたわよ?」
「ば、ばぅわぅ!」
ベードは端っこだったこともあって砂地じゃない床の上にいた。そして断じてそんなことは!みたいに言ってるけど、尻尾が不規則に揺れてるぞ。
「砂地で転がりたいなら転がっててもいいぞ?あ、付いた砂って後からサンドアダプテーションで剥がせますかね?」
「え、えぇと、どうかしら?そこまではわからないけど、砂がつくの気になったのなら癒し術のウォッシングかけてあげるからやらせてあげたらいいと思うわー。」
「だ、そうだぞ?どうする?」
「ば、ばぅ・・・ばぅ。」
そこから動かないという強い意志を感じる。犬じゃないもんな、誇り高い狼だもんな。でもやりたいことしていいんだぞ?
「ふふふ、今のは私でもわかったわ。がまんするみたいねー。ならご主人様のリュクスさんはすぐにでもきっちり四属術頑張ってもらうわよ?」
「大丈夫です。お願いします。」
「まぁそうは言っても結構やることは単純なのだけどね。火、水、風、土の術法を同時に使う、それだけよ。試しに見せてあげるわね。」
そう言うと砂地の地面を元の床にと水晶を操作して戻し、さらに十字の的を一つ出す。砂地状態だと的は出せないのかな?もしくは別の不都合があるのか。
アピエギルド長が的に対面した状態で両腕を広げ、集中し始めたようだ。その両腕から少し浮いたところに、火、水、土、風の矢が浮かび上がった。
「フォースエレメンタルアロー!」
四属性の矢が掛け声とともに十字の的に向かって発射され、的を貫いてしまった。
「どうかしら?久しぶりに使ったけどうまくいったほうだったと思うわー。」
「す、すごいです。今のを僕がやる、ということですか?」
「今ほどの威力がなくても平気よ。でもすべての矢の威力を同じにするの。そうじゃないと四属術のスキルは習得できないのよー。できるかしらね?」
「・・・やってみます。」
「もし風と土も一緒に作るのが難しかったら、魔道石を握っておくといいわよー。」
なるほど、それでまだ受け取ってなかったのか。一旦ローブのポケットにしまっておいちゃったけど、とりあえずこれもそのまま持たずにやってみるか。
とはいってもあんな風に手の周りに矢を浮かすのはちょっと僕のイメージだと難しい。左手を前に構えて、右手を添えて4本の矢を引き絞るイメージ。
「ぐっ、難しい・・・」
炎と水の2本の矢は出来上がるけど、風と土の矢はでき上らずに霧散してしまった。
「あらら、番える体勢でアローをまた使ってるのねー。さっきの二つのスキルアーツを見て、てっきりもう番える形はとってないのかと思っちゃったわー。その体勢でもちゃんとできるのだけど、やっぱり炎の矢に力が行き過ぎて土と風が固定されてないわねー。」
「なるほど、威力も合わせなきゃいけないし、だから炎にすると四属術は難しいというわけなんですね。」
やばい、これはかなりの長丁場になりそうだな。
「左手に魔道石を握っておくといいわよー。頑張って、アドバイスくらいはしてあげる。」
「ありがとうございます。」
左手に土と風の二つの魔道石を握る。そしてもう一度番えようとしてみる。今度はうまく土と風の矢も出来上がるけど、明らかに炎の矢だけめらめらと燃え上がり太さが大きい。
「炎の矢に力が行き過ぎてるわ。もっと炎だけを抑えて!矢のほうのイメージは完璧だから、抑え方は小さな火をできるだけイメージするのよ!」
「はい!」
アピエギルド長にも言われてしまったけど、ありがたいアドバイスだ!矢にするのはもはやこの動きで十分できる。ならとにかく小さい火をイメージ!
くっ火の矢は小さくなったけど、他の矢まで小さくなってしまった。水と土と風は強くなってくれ!あぁ炎が強くなっちゃった!やりなおし!
そんな調子で番えるのを何度も行い、ようやくいい感じに整った4本の矢ができ上ったので的に発射したのだけど、明らかに炎の矢だけめり込みが強いのがわかる。
これでもダメなのか、いや、まだまだ!どんどん番えよう!今のイメージが残ってるうちに。