砂漠対策のために
宿屋に戻っていつものようにリプレさんにアイテムを売り払うことに。そのあと、40層より先のことを冒険者ギルド長である姉のアピエさんに相談に行くと言ったら、ちょっぴり微妙そうな顔をしていた。
なんでだろうとは思ったけど、行けばわかるわよと言われたので、お昼を済ませてから向かうことに。
受付で並んだけど、ギルド長はちょうど部屋にいるらしく、今なら大丈夫とのことですんなり話を聞くことができそうだと思ったんだけど・・・
「あらら、41層からのことが知りたいのねー?うーん、私としては教えてあげたいのだけど、あなたはDランクなのよねー。Cランクになれば魔物の個体名くらいなら教えてあげられるわ。詳しく教えるならBランクはほしいわねー。」
「えっと、知ってはいるけど教えられないということなんですか?」
「そうなのよ、ごめんなさいねー。面倒くさい規則なのだけど、勝手に教えたことがばれたら私ここにいられなくなっちゃうから。私じゃなくて他の冒険者に教えてもらうのはどうかしら?情報は確信できるものとは言えなくなるけど、対価次第では教えてくれる人はいると思うわよー。」
住人に聞くなら対価次第か、そりゃ情報は大事だ。何かしらの対価はほしいと思うよな。あとは対価不要で調べるなら、あまり気は進まないけどメニューから攻略情報のサイトを見るしかないか。
「でもこのギルドで砂漠の進み方なら教えてあげられるわよ。歩き方のコツとか、砂地にもぐられたときの対処とか。」
「ほんとですか?それならそちらはぜひ教わりたいです。」
「あ、でもこれも一応依頼という形になるから対価はもらうわよ?それはいいのかしらー?」
「ギルドの手ほどきなら、南端の街でも教わっていい手ほどきだと感じたので、信頼していますから。」
「そう、わかったわー。じゃあ二つの方法があるわ。一つは風術を使った砂地対処法。もう一つは土術を使った対処法よ。ちなみにどちらかの属性は持っているかしら?」
「いえ、炎と水は持ってるんですがどっちも持っていないですね。」
「うーん、そうなのね。炎ってことは火属性じゃないのねー。もしかしてだけど、炎よりもさらに上位のスキルを目指しているかしら?」
「どうでしょう、上のスキルがあるんだろうなとは思っていたんですけど、目指していたわけではないですね。火から炎になったのも偶然でしたし。」
「ふんふん、そうなのねー。それじゃあ3つの道をあなたに教えるわ。一つそのまま一つの属性か二つの属性を集中して強くする。絞れば絞るほど属性そのものの威力が増しやすいわよー。上位を目指すのも早いわね。
二つ、新しい土と風の属性を覚えるだけ覚える。これだといろいろできるようになって便利だけど、反面上位スキルになるのはとっても遅くなるわよ。特にほかに上位スキルがあるとかなり苦戦するわね。
そして3つ目、土と風の属性を覚えて、さらにそこから火、水、風、土を合わせた四属術というスキルを覚える道よ。ただ今あなたは一つ炎となってるから、四属術を覚えるのはかなり苦労すると思うわー。でもそれだけの価値はあって、どの属性を使ってもスキルが上がっていくわ。上げやすさは単体のスキルには及ばないけど、覚えられるスキルアーツの幅も広がると思うわー。
ただ、基本属性と言われてる四属性に恩恵がない場合もあるわ。その場合どんなに頑張っても覚えられないからごめんなさいねー。」
「えっと、四属術っていうスキルになったら炎は使えなくて火になっちゃう感じですか?」
「それはないわよ。ちゃんと炎のまま。でも他のスキルが上位になるには四属術が上位になるのを待つことになるわね。」
「それなら、できれば四属術を覚えたいですね。可能ですか?」
「ええいいわよ。ちょうど今日の予定が開いててよかったわー。私が直接教えてあげられるものね。」
「え?」
「さぁさぁいくわよー!久しぶりの訓練所でしっかりしごいてあげるわー!」
その発言はいろいろとやばいとおもいますが、そそくさと準備して部屋を出てしまったので、慌てて追いかけつつ、ベードとベードに乗ったモイザとフレウドがちゃんとついて来てるのを確認。
頭上からフスンという感じのため息が聞こえた気がするので、レイトも定位置にいると思う。
ギルド一階にギルド長が下りてくると、並んでいた冒険者も受付の人たちも、待機所の机で話してたはずの人たちも、急にしんと静まり返って、背筋を伸ばすかのように固まってしまっているように感じる。
ついていく僕が目立ちそうな感じなので、あんまりこっちを見ないでほしいなんて思いつつ、受付の奥の扉にと入っていく。
そのまま通路を抜けた先の大きな扉を抜けると、そこはすぐに何度か見た訓練場だった。
「この街の訓練場はギルド裏に併設してあるの。設備もかなり充実させてるわよ。死者の臭気に耐えるための訓練。湖での戦闘を考慮した水中訓練。溶岩の煮えたぎる火山環境への訓練。もちろん砂上訓練もあるわよー。王都の訓練場はこれよりもっとすごいけど、ここもしっかりやらないとディヴィジョンマウンテンでもバレーカタコンベでも素材集めなんて夢のまた夢だからねー。」
なかなかハードな訓練そうだけど、訓練で命を落とすとかはないんだろうか。僕は来訪者だから完全に死ぬということはないけど、結構不安だ。
「あらら、不安にさせちゃったかしら?でも大丈夫、通常は訓練で命を落とすことは絶対にないわよー。ただ対人訓練で故意に相手を殺そうとしたらその限りではないけど、そんなことはあなたはしないわよねー?」
「そんなことしたくもないので大丈夫です。」
まさかとは思うけど、住人間でそういう事件があったのか?だとしたら怖すぎる話だ。アピエギルド長ならそういうことするなんてまずありえないだろうから、今はあんまり考えないでおこう。
話しながら訓練場の一角の柵の中にと入って、アピエさんが水晶をいじって十字の的を出した。もう訓練する準備万端といった感じだ。
「それじゃあまずは風術と土術を覚える訓練から始めましょうかねー。これを渡しておくわ。」
「なんですか、これ?」
渡されたのは矢印の形になっている緑と黄色の透明な石だ。
「それは攻撃用の魔道石よー。商業者ギルドのお店で売ってるのだけど、見てはいなかったのかしら?」
「見てなかったですね、すいません。」
「いいのよいいのよー。こうして一応用意しておいて正解だったわ。でも貸すだけだから必要なら後で買っておくといいわよ。この魔道石は持っている人から魔素を吸って、無理やり属性をつけて放つものなのよ。一回ごとに魔素はたっぷり吸われちゃうけど、恩恵があればこれで確実にスキルとして覚えられるわ。ただスキルとして発現してもちゃんとスキルアーツが使えないとかよくあるのよ。だからこれをそのまま使ってしばらく攻撃用スキルアーツを使うのよ。」
「なるほど、例えばどんな感じの攻撃スキルアーツが使われるんですか?何か指定があったりとかしそうなものなんですけど。」
「そうね、一番多いのはその矢印は矢がイメージされたものなの。だからまずアローのスキルアーツから入る人が一番多いわね。アローの形を形成しやすいように一応作られてるけど、たまに扱いやすいからってボールを無理やり作ってる人もいるわね。他のを作る人もいるでしょうけど大体この二つを使うと思うわ。でもあなたは好きにやってみていいのよ、ただどっちかのスキルを覚えるまではどっちか一つに集中してね?」
「わかりました、何となく土から入ってみます。あ、でもその前にちょっといいですか?」
「あらら、何かしら?大丈夫よー、時間はあるから待ってるわ。」
「ベード、フレウド、モイザ、見てるだけは退屈だろ?お前らはどうする?」
「ばぅ!」「――――・・・」「コ。」
ベードは待機上等と言わんばかりにその場で伏せるけど、モイザは申し訳ないけど、できれば何かしていたいという感じ。フレウドは当然暇すぎ勘弁、だったら寝るといった感じ。
「ベードは見ててもいいけど危ないから端によっててくれよ?モイザとフレウドは・・・」
「あらら、なら私がもう一つの場所で見ててあげちゃおうかしら?的あてでもしてれば少しは気が晴れるかしら?」
「良いんですか?」
「いいのよいいのよー、せっかくだし蜘蛛ちゃんと鶏くんの力も見ておきたいし。本当は兎くんの実力を見たいのだけどねー・・・」
「きゅ・・・」
「それは、勘弁してほしいみたいですね。じゃあお願いしちゃいますね。」
「わかったわー。あ、でも訓練場の的の操作方法とかはわかる?」
「大丈夫です。何度か使ったことがあるので。」
「そう!それじゃあ奥のあっちにいるから、土と風、どっちも覚えたら柵をたたいて声をかけて頂戴?言っておくけど、そんなすんなりとは覚えられないからねー?」
「そうでしょうね、がんばります。」
「あ、言い忘れてたわ。1000回やってもスキルが発現しなかったら、それは恩恵がないということが確定するわ。その際も言ってちょうだいね。」
そういって手を振るとモイザとフレウドを器用に両腕に抱えて奥の方の柵にといってしまった。ちょっと二人ともあたふたしていたので、抱えるのは勘弁してあげてほしかったな。
さておき、集中しようか。イメージはやっぱり矢が一番しっくりくるかな?黄色い矢印の石を右手の2本の指で挟んで、左手を構えて弓を引くイメージ腕を動かす。
スッと体から力が抜けていく感覚がわかる。魔道石に魔素が吸われているんだろう。でもしっかりと魔道石から左手にかけて茶色い土の矢ができ上った。あとは的に向けて、放つ!
「あ、やば!」
思わず放つ瞬間いつものように指を開いてしまい、挟んでた魔道石を落としかけた。落とす前にキャッチできたからよかったものの、変な動作のせいで的じゃなく地面に土の矢が刺さっているのが一瞬見えた。
これじゃだめだな、少し変えよう。放つイメージのために指を開いてしまうのはもはや癖。なら魔道石は小指と薬指の間に挟む。そして土の矢をつがえた後、人さし指と中指を開いて放つイメージ!
「よし!うまくいった!」
ガツンという音とともに十字の的に土矢が命中してるのがわかる。ただ貫けずにちょっと刺さってるだけという感じ。そして消滅後は当然刺さり跡なんてないわけで。
「とにかく続けないと・・・ん?」
なんか後ろから違和感がすると思って振り向くと、ちょっとそわそわと僕よりさらに奥を見てるベード。まさかモイザとフレウドを羨ましいと思ってるのか?
「ベードもあっちに行っておくか?」
「ば、ばぅばぅ!」
ん?僕のことをしっかり見ておくみたいな感じか?そわそわした感じは消えてもうしっかり地面に伏せなおす。そのままならいいけど集中力は乱さないでくれよ?




