北の熊壁街到着
森を進み、北の壁まで到着、どうやらちょっと門から外れてたみたい。でも何とか門は見える。門に着いたら門を3回ノック。
「冒険者です。南から抜けてきました。」
ガガガと門が開く。僕が通り過ぎるとすぐに門が閉められた。門兵の人たちに証明を見せる。あとレイトの従魔証を識別してもらう。
ここでいつもならベードがいることを伝えて、門兵の人が驚いたりするところなんだけど、今はレイトしかいない。
冒険者ギルド、商業者ギルド、そして今一番大事な教会の場所を門兵の人に教えてもらい、教会がすぐそこにあることが分かった。
門から右に少し進んで、向かい側のあの建物といわれてたけど、ここの教会には屋根に十字架ついてないのか。そのかわりなのか、入口からかなり上のほうに大きな時計が付いてる。
まぁでも教会っぽいといえば教会っぽい建物だな。中に入ると神官の人が入り口横にいた。お辞儀をしてきてくれたので、僕もお辞儀は返しておくけど、話もせずに、教会内でさっそく自宅に帰還転移した。
転移して帰ってきた簡易神殿にはベードはいない。リビングのほうに移動していた。伏せてるし、モイザの糸で腹巻されてるけど、顔は元気そうだ。
「モイザとフレウドは看護ありがとう。ベードは大丈夫か?というかなんかいろいろごめんな。僕の対処もよくなかった。」
「ばぅ。」
そんなことはないって言いたいのか。そうだろうか。直線的に来てたから多分スロウダウンだってかけれただろう。あの時先に思いついたのが壁のほうだったから、突破されて焦ってスロウダウンのことを忘れていた。
「そもそも僕たちが乗ってたら、ベードだって動きにくいよな。」
「ばぅわぅ!」
「え、むしろ乗られながら戦うのは楽しいのか?」
その僕の言葉に強くうなずいた。そうかあの戦い方がいいのか。モイザが糸をほどいてベードが立ち上がる。もう動いて大丈夫なのか。
「もう動けるのか?じゃああれでもちゃんと動けるように、もっと練習しないとな。とりあえず次の街に進んじゃったから、そこでいい練習場を探そう。モイザとフレウドも動けるか?」
「ばう。」「――――!」「コ。」
「よし、僕の魔素的にも北の熊壁街に戻れそうだ。トランスロケーション。」
自宅の簡易神殿から視界が白転して、さっきの教会の風景にと変わる。うっ、思ったよりもきつかったか?魔素消耗による疲労が結構体に来ちゃった。
「くぅん?」
「大丈夫だベード、お前の怪我に比べたら全然さ。さて、宿を取ろうか。いったん冒険者ギルドに行くぞ。ベード達自宅の3人は後で冒険者ギルドで従魔証の提示しろって、門兵の人に言われちゃったからな。」
まぁ門外から来た人や、門外に出る人を対応するのが門兵さんたちの仕事だ。すでに町中に入った僕たちの対応は管轄外なんだろう。目の前を通り過ぎるんだけどなぁ。
門向かいの中央へ突き抜ける大通りを進む。中央看板のある十字路の大きな広場に到着。ここの北西に見えるあの建物が冒険者ギルドだな。ちょっと大きい気がするけど、他の街と同じ見た目だからすぐわかった。
受付の数が9つになってる。なるほど、建物が大きい気がしたのは気のせいじゃなかったか。どこも列8人くらい並んでるから、さっさと並ぶか。列の進み具合としては速いもんですぐ受付することができた。
「らっしゃい。冒険者ギルドへ。依頼を受けるか?依頼するか?」
「いえ、ちょっと違うんです。従魔を街にいれたので、その報告と従魔証識別をしてもらいに来ました。」
「従魔・・・そりゃ、俺達一階受付には無理だな。二階受付でもきついか。ギルド長につなぐ、少し待ってろ。」
そういうと手元の通信魔道具でギルド長に従魔証識別が、とか話してる。でもすぐに話が付いたみたいだ。
「今はあいてるそうだ。ギルド長室に上がってくれ。場所はわかるか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
従魔識別してもらうまで隅で待っててと伝えてたベードたちを連れて3階へ。他の冒険者ギルドと同じ場所に、ギルド長室の文字看板がある扉がある。ノック三回。
「失礼します。」
「どうぞ、お入りくださいー。」
「えっと、失礼します。」
声でもちょっと思ってたけど、中に入ると紺色髪の女性が出迎えてくれた。女性のギルド長なのか。商長では見てたけど、冒険者ギルド長は今までそういえば男性だったな。なんかてっきり男性なのかと思ってたよ。
「はいどうもー。あなたが従魔契約者の方ですねー。えぇっと、リュクス・アルインさんですねー。私はこの北の熊壁街のギルド長をしています、アピエ・グリニャルといいます。よろしくお願いしますねー。」
「はい、よろしくお願いします。」
なんというか気の抜ける人だ。今まであった3人のギルド長とは全然雰囲気が違うな。なんというか、覇気がない?
「兎ちゃんもすでにこちらまで情報は入ってるんだけど、よければ4匹皆さんこちらで見てもいいですかねー?」
「えっと、大丈夫ですよ。」
「はぁい、ありがとうねー。じゃあまず兎ちゃんから。頭の上にいて可愛いですねー。」
あぁ、レイトは今は完全に気配消してたと思うけどやっぱり見えてたのか。レイトも少し警戒気味に気配を見せる。
「あらら?うふふ、なるほどね。今はそれでいいということにしておくわねー。じゃあ次狼ちゃん!あらら?能力が体の大きさに見合わない感じね。もう少し今の体に慣れるために、戦っていったほうがいいかもしれないわねー。蜘蛛ちゃんと鶏ちゃんは、まだ進化したばかりなのかしらね?初めて見る種族の子達だけど、これならもう少し能力があってもいいと思うわねー。」
そ、そんなところまで見えてるのか。なんというか雰囲気に似合わない人だな。侮りがたし。
「これでオッケーよ。みんなお疲れ様。」
「あ、そうだちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「どうぞー。私で教えられることなら、何でも答えちゃう。」
「えっと・・・まずベードも泊まれるような宿はこの街にありますか?少しこの街を拠点にして、本格的な特訓をする予定なんです。」
「あらら?それならちょうどよかったわねー。この街の北には大きなダンジョンがあるのよ。南の熊もそうなんだけど、東西の魔物にはあまりちょっかい出さずに、ダンジョンにもぐる冒険者がこの街には多いのよ。」
「ダンジョン!なるほど、それは良さそうですね。」
MMORPGのど定番ダンジョン!ついにこのゲームで僕も入れる時が来たか!
「もしダンジョンに行くなら、ここから北のほうにある山の看板の宿に泊まるといいわよ。生産宿なんだけど、ダンジョンの品をもって帰ってこれたら、店主の人が喜ぶわよー。」
「なるほど、ありがとうございます!ところで、ダンジョンには何かルールとかあったりしますか?」
こういう時、ダンジョンがある!すぐ潜ろう!とできない場合がある。そういうのはよくやってきたやつだ。
「あらら?もしかして今ので気づいちゃったのかしら?そうよ、ダンジョン内は普通の場所とは全然違うの。もしダンジョン内の素材がほしいなら、専用のポーチを買わないといけないわ。」
「専用のポーチですか。」
「えぇ、これが結構お高くてね。それも基本は王都でしか売っていないの。この街で買うのはできなくはないのだけど、なかなか難しいと思うわ。」
「王都、ですか?」
「えぇ、ダンジョンの向こうは王都よ。」
ほう!もしかして王都は結構近いのか!?ダンジョン攻略したら王都とか結構熱いじゃないか。
「僕は来訪者なので王都を目指しているんですよね。ダンジョンを抜けれたら王都なんですよね?目標が近い感じがします。」
「あらら?全然近くないわよー。北にあるダンジョンは2つ、一つはすぐに見える山、その名もディヴィジョンマウンテン。なぜか中央を遮る大きな壁があってー、階層が分断されているの。50階と100階は分断されていないから、すぐに向かうなら50階で向う側に行って、降りていくといいわよ。」
「50階、結構遠いんですね・・・もう一つのダンジョンがあるんですか?」
「えぇ、バレーカタコンベ、こっちは東西には山より広いわよ。地下75階の谷底からしか王都方面には行けないわ。この二つのダンジョンのせいでまっすぐ王都には行けないの。もしダンジョンを通らないなら迂回するしかないわ。そっちのほうが早いかもしれないけどねー。」
うぅん、カタコンベか。つまり出るのはアンデット系なのか?ちょっといやだなぁ。そのうち出会ったなら戦うつもりではいるけど。やっぱり山ルートがいいかな。
「えっと、王都に行きたかったら、やっぱりダンジョン内で宿泊まりが必要ですか?」
「そうなるわねー。そういうのならこっちの商業者ギルドでも売ってるわよー。私達住人は帰還石をもって、日帰りか徹夜2日とかで入るから、あんまり買わないんだけどねー。それにある程度まで行くと、階段に転移できるようになるし。」
なるほど、そういう探索法もアリなのか。階段への転移か、ということは階段付近は安全エリアってことだな。その辺で寝泊まりするんだろうな。
「宿に泊まって転移で行き来して攻略するのもよさそうですね。」
「そうもいかないのよー、転移にはお金かかっちゃうからね・・・ってあなたの話を忘れてたわ。あなたならそれできちゃうのよねー。」
ちょっと悩むようにした後に、意を決したのかちょっときりっとした顔になる。
「わかったわ。私の持ってるダンジョンポーチ、一つゆずるわ。これでさっき言った宿の店主に素材を譲ってちょうだい。いいかしら?」
「別に僕は構わないですけど・・・」
「そういってくれると助かるわ!あそこの宿は私の知り合いのお店なの。ダンジョン素材を使っていろいろしたい様なのだけど、ダンジョン素材はほとんど王都方面に流れちゃうのよね。こっちのほとんどの人たちは潜って特訓するくらいだわ。この街は熊減らしの依頼がありますからね・・・」
熊減らし・・・そうか、あの熊もほっときゃふえちゃうのか。増えすぎて危険になる前に減らすことも必要か。
「はいこれ、ダンジョンポーチよ。これを持ってるだけでいいの。あとはどんな倒し方しても、その魔物の素材が一つ以上ポーチに入ってるはずよ。」
渡された袋型ポーチは今までのアイテムポーチよりもぜんぜんでかい。さすがに旅商鞄ほどじゃないけど。
「それに500種類、1万個の素材が入るわ。かなり特殊な加工がされてるものなのよ。実はダンジョンの魔物はどんな倒し方しても死体が残らないわ。その死体が消える前にポーチが素材を拾うのよ。周囲5メートルくらいならポーチが検知して素材にしてくれるわ。たとえ燃え尽きていようともね。」
おぉう、どういう仕組みなのか、ほんと気になる所だな。というかもう一つ気になることがある。
「魔物の死体が残らないっていうのは?」
「ダンジョンに死体が吸われるというのかしら?倒しても1日たつと同じ種類、同じ量の魔物が、同じ層に配置されてるのよね。ずっと減ることがないの。でも逆にそれ以上には増えないのよ。それにダンジョン外にダンジョン内の魔物は出てこないの。それどころか魔物たちは違う層にも近寄らないわ。だからダンジョンは囲ったりしていないのよね。」
うーん、なるほど、ますますダンジョンらしいという感じだ。ゲームとしてみればあんまり何とも思わないけど、この現実味のあるフルダイブVRだからちょっと違和感を感じる。まぁそういうものだと思うしかないのだけどね。
「それじゃあ早目に宿に行くといいわよ。なんだかんだ人気の宿だからね。一番の大部屋は埋まっちゃってるかも?」
「おっと、それはいけない。それではすいませんが失礼しますね。」
ちょっと慌てるようにギルド長室を出る。宿の確保は最優先だ。もし戻りながら攻略するなら、さすがにいちいち自宅に戻って寝るなんてのはごめんだからな。
まぁ宿がダメでもダンジョン寝泊まりというのも乙かもしれないけど。