旅商経験
旅商をするといったものの、正直呼び込みをするのはあんまり好きなわけじゃない。わざわざ自分から目立つようなことするわけだ。
パソコン画面のMMOだったら、人混み感を直接感じなかったからよくやってたけど、ここだとほぼリアルに感じるから、この間も人酔いしちゃったんだよな。
まぁしょうがない、別に現実でも呼び込みの仕事の経験はある。仕事だと頭を切り替えて、やるだけやってみますか。商業者ギルド前の大通りは結構人通りも多い。ちらほらと商業者ギルドや隣の直轄店に入っていく人もいる。
ギルド周辺には3人だけど、僕以外にも旅商の人がいる。それじゃあほかの旅商の人と同じように、やってみますか。
とりあえず僕が旅商してる間、レイトは頭上でもいいけど、ベードは僕の後ろでゆったりしててくれよ。
「いらっしゃいませ!輸入品の片栗粉を販売しております!直轄店でかった品質の安定したものですよ!1量800リラです、いかがですか!」
展示ケースなしなら、こうして自分の売る商品を口に出して呼び込むしかないわけだ。展示ケースがあれば、そこに商品を展示するだけでもいいみたいだけど、なんか買う暇なく外に出てきちゃったからな。
なんて考えてたらさっそく一人近寄ってきた。片栗粉2つですね。ありがとうございます!1600リラを硬貨で証明に受け取って、旅商鞄から片栗粉を二つ取り出してお渡しする。
コンビニバイト時代に比べれば、このくらいはなんてことはないな。って、なんかすでに後ろにお客さんいるんだけど?
え、片栗粉なんて珍しい素材を売ってるって叫んでる人いるんだけど?いや、お客さん増えるのは、商人としてはありがたいんだけど・・・
はい、接客します。仕事モードに頭を切り替えよう。まさかゲーム内で仕事してる意識する羽目になるとは。
僕が売り子してる間にわらわらと集まってきた周囲の人たちは、いつの間にか列形成に出てきた商業ギルドの人たちによって、大通端にきちんと列を作ってくれていた。
ありがたいんだけど、列形成してる人がトレビス商長に見えた気がした。そしてなぜか列が進むとお客として並んでいたようだ。何をしているんですか、言ってくれれば普通に差し上げるのに。
まぁ50も購入してくれたからいいだろう。トレビス商長もふくめ、300人くらいは捌いただろうか。200人くらい対応したところで、並ぶのを止めてもらって置いたのがよかったな。ギリギリ売り切れ寸前に全員に販売できたよ。
終わったところでトレビス商長が寄ってきて、声をかけてくれた。
「おつかれさまです。大盛況でしたね。」
「いや、他の旅商の人に申し訳ないですよ。ほら、あそこの人もこっちじっと見てますし。」
「いえ、あれは少し違うかと・・・少しお呼びしてもいいですか?」
「え、はい、大丈夫ですよ。」
じっとこちらを見つめる旅商と他2人の旅商も、トレビス商長が呼ぶとすぐに駆け寄ってきた。
「お、俺にも50、いやできれば100買わせてほしい!さすがに南樹壁の街まで輸入されるのはまだ先の話だろう?ここで買って転売させてもらいたい!」
「南の肉の街にはどのくらいで届きそうかわかるかね?もし不明なのであれば10を買っておきたいのだが。」
「ここの街にほぼいついてしまってる身だが、30はぜひ買わせてほしい。」
「え、えぇと、今の鞄内だと、もう数個ほどしか残っていませんので、一度ポーチから鞄に入れないと。」
「いえ、大丈夫ですよ。私がいますからね。もしスクーリ様がよければ、ポーチから直接でいいので、ぜひお売りいただけますか?」
「わかりました。では南樹壁の街の方に100、肉の街の方は僕も不明なので10、最後の方は30ですね。」
それぞれ3人に証明を重ねてもらい、必要分のお支払いしてもらって、お相手とポーチを重ねてそれぞれ受け渡す。満足げな顔をして、それぞれまた売り子をしていたところに戻っていってしまった。
「おつかれさまです。少しギルド内でお休みされますか?金商への昇格試験について説明いたしますよ。」
「ありがとうございます。じゃあ聞かせてもらいたいです。」
とりあえずトレビス商長と商業ギルド内へ。誰もいない受付を通り、そのまま奥の扉から商業長の部屋にと案内された。座るように促されたので、僕は椅子にと座る。ベードは横で伏せてゆったりムード。さっきまで少し緊張してたかな?
「さて、金商への昇格試験なのですが、3つの試験があります。1つが旅商として100人以上の方と取引していただくこと。こちらは今終わりましたね。1つが露店で500人以上の方と取引すること。無人露店でも大丈夫ですので、こちらも問題ありません。そして3つ目が1日で50万リアを稼がれること。こちらも達成していますので、リュクス様は金商にランクが上がります。おめでとうございます。」
「えっと、ありがとうございます?」
いまいち実感わかないけど、旅商することそのものが試験の一つだったのか。
「では早速ですが、リュクス様の土地に店舗建設の予定を・・・」
「え、ちょっと、はやすぎませんかね?」
「そうでしょうか?最近はリュクス様の露店のおかげで、犬皮や狼皮の納品依頼もはかどっています。店舗になれば、さらに賑わうことでしょう。そして店舗としてしまえば、露店前の列もできなくて済みますよ。」
「あ、なるほど、それもそうでしたね。列ができてしまってるのは少し申訳ないと思ってたので、ここはおとなしく店舗建設をお願いします。」
「わかりました。店舗の形や大きさなどにこだわりはありますか?」
「あまり大きすぎないように。1階建てで30人も中に入れれば十分じゃないでしょうか。形などは、お任せしてしまっても?」
「了解しました。もう少し大きい店舗がよいかと思いますので、少しだけ大きく致しますね。」
そんなかんじであれよあれよと店舗建設の話が進む。さらにコネクションストレージの設置も決まった。ストレージにしたのは蜘蛛達が使いやすいようにだ。
あんまり大きいのはちょっとと思ったけど、まぁ使いやすいほうがいいだろう。お金はあるんだけど、なんか安くされちゃったみたいだし。
さすがに店舗とストレージの設置に3日はかかるらしい。僕は一度南の熊壁街に戻って、熊以外の付近の魔物と戦ってみることを伝え、商業者ギルドを後にした。
自宅に戻るころには日が完全に沈んでしまっていた。蜘蛛たちに明日から店とストレージの建設が始まることを伝えて、今日は自宅で寝ることにした。