金商を目指して
昼前だったけど、休憩ということで緑甘樹の実とリンゴのサンドを食べつつ、リンゴジュースを飲んでゆったり過ごした。
宿も落ち着くけど、自分の家だと思うとより落ち着けるな。現実の家もこのくらい広くならないだろうか・・・今の僕じゃ無理なのはわかってるけど。まぁこの世界でくらい豪遊を楽しもう。
そのためにも露店を蜘蛛達に頼りきりになってるけど、頑張ってもらわないとな。休憩してたらいつの間にか雨がやんでたので、土地を回って蜘蛛達の様子を見たけど、みんな結構楽しそうにやっていた。
糸玉を作ってる子達の中には、作り終えた後にリンゴを食べてるのがいたり、二種の木の実サンド食べてるのがいたり。
レッサーコック達は結構フル稼働で料理しているようだった。モイザが一つの料理セット小屋を占領してて、その後ろからレササが見てたから、あそこがレササの場所なんだろうな。
運び屋のハウレッジたちは作った糸玉や茹で緑甘樹の実と木の実サンドを、露店方面に運んでいるようだ。製作班と違い義務的面が大きいのかと思ったけど、種族のせいなのか運ぶことが楽しいようだった。
さすがにスカウトたちは楽しそうというよりは緊迫感のある感じだ。そんなにしっかり見張らなくても、変なやからはこの土地に近寄らないと思うけどなぁ。まぁ彼らなりの仕事だろうから僕が口出すのはやめておこう。
あまり露店付近に近寄らない感じで見て回ったけど、さすがに一度くらいは見ておこうと遠目に露店を見ると、なんか10人くらい並んでるように見える。
うーん、本当は店主が挨拶するべきなんだろうけど、スカウトの子が列形成しつつ、手足の動きでだけどあいさつしてくれてるようだ、ちょっと申し訳ないけど頑張ってもらおう。
リンゴと緑甘樹の樹をはやした場所のおかげで、家と露店は直接は見えない感じになってる。露店側から家のほうに行くと畑があるけど、ノビルとレモングラスのせいで畑というより雑草が生えてるだけという感じ。まぁそこ以外緑のない地面だからいいんだけど。
とりあえず自分の土地を再確認できたし、蜘蛛達の様子も見れたし、南の熊壁街に帰ろうかと家まで戻ったら、トレビス商長が待ち伏せしていた。
「お帰りなさいませ、スクーリ様。少しお時間いただいても大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。とりあえず家の中で話しますか。」
「いいんですか?ではお邪魔させていただきますね。」
まぁなんとなく狙われてたのはわかるけど、外で話すのもなんだからね。向かい合うように椅子に座ると、トレビス商長がさっそく話し始めた。
「とりあえず、こちらをお作りしたので、お渡ししたいと思います。スクーリ様とリュクス様での変化がないことが、一つの懸念事項でしたので。」
「これ、は・・・」
トレビス商長がポーチから出したのは、口部分のない兎の面だ。耳が垂れ耳仕様だけど、白色と鼻の形で兎とわかる。目の部分が開いてるのはちゃんと見えるようにってことだな。
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≪識別結果
垂れ耳兎の面隠し面 質:3B 耐久値:2800
所有者:なし 装甲:1
ロップイヤーラビットを象った面、識別阻害の術法が翔けられており、これをかぶれば別人のように見える。≫
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「実際には耳を垂らしたレイト様を基準に作ったのですが、違う種族の兎を象ったことになってしまいました。そちらは申し訳ありません。私どもではこれが限界でした。」
「えっと、これをかぶるんですか?」
「そうですね、スクーリ様を名乗る際に事前につけていただくのがいいかと思います。仮面を付ける場面、仮面を外す場面を見られますと、識別阻害が外れて、仮面をつけててもリュクス様であるとわかってしまうので、お気を付けください。」
「な、なるほど。」
いや、そこじゃなくて、こういうかわいらしいものは、僕にはどうかという話をしたかったんだけど。なぜか机の上にレイトが移動して、ジッと僕のことを見つめている。
・・・わかった、これで決めればいいんだろ。仮面をかぶり、後ろの留め具を付けておく。締め付けの感じとかはないし、上下方向になら簡単にずらせる。便利っちゃ便利だなこれ。
「お似合いだと思います。この形ならレイト様の視界の邪魔にもならないでしょう。」
「確かに、そうですね。」
視界の邪魔を気にするなら、ベードとかモイザをモデルにしてくれてもいいのに、なぜ長耳レイトなのだ。まぁ一番初めに従魔にしたからか。
「こういうのって、商業者ギルドでは結構付けられてるものなのですか?」
「そうですね。旅商をしている方でたまに面をしている方がいますよ。この街だとめったにいませんが、海と技のドワーフの街には面を付けてる方が多いそうですよ。」
「そうなんですか、それならつけてても変ではないですかね。」
他にも面を付けてる人がいるのは、作ってきてくれたことから分かってたことだけど、一応確認しておかないとね。
「さて、ここからが本題なのですが。リュクス様は今銀商ですけど、旅商はしていらっしゃらないんですよね?」
「そうですね、その街でいくらで売ったらいいかとかも難しいですし、何より旅商鞄を持っていませんから。」
「なるほど、そうでしたか。旅商鞄は店売りされているわけでなく、商業者ギルドで申し付けていただいて購入するものですからね。こちらから説明するべきでした。実はリュクス様は後は旅商を1度経験いただければ、金商ランクへの昇格試験を行うことができるのです。もしよろしければですが、この後商業者ギルドに一度来ていただいて、旅商としてこの街で販売してみていただけませんか?」
「あれ、意外です。ここでトレビス商長ならポーチから旅商鞄が出てくるものかと思ってたんですが。」
「旅商鞄はアイテムポーチには入れることができない物なんですよね。アイテムバッグならば持ち運べるのですが、正式な手続きも踏んだほうがいいので、今回はお持ちしませんでした。」
「なるほど、それもそうですね。僕はこの後すぐでも大丈夫ですよ。」
「そういっていただけると助かります。では商業者ギルドまで行きましょうか。」
トレビス商長に連れられて、商業者ギルドに向かう。頭上にレイト、後ろからベードが付いてきてるけど、モイザは僕に50個ほどの木の実サンドを渡してきた。まぁ、なんというかありがとうと思いつつ、錬金セットを用意したら家で製作していたいようだった。フレウドは庭で駆け回るならぬ転がりまわっていた。声をかけたけど、ここでまだ動いていたいようだった。ちょっと窮屈にさせすぎたかな?まぁ帰ってからまた聞いてみよう。
商業者ギルドに入ると、誰もいない受付だった。受け付け奥側にトレビス商長が陣取り、さっそく話を始めた。
「では、他の街と同じような段取りで進めさせていただきますね。ようこそ商業者ギルドへ。本日はどのようなご用件ですか?」
「えっと、旅商を始めたいと思い来ました。」
「旅商ですね。わかりました。旅商鞄はお持ちでしょうか?」
「いえ、もっていないです。」
「では、証明をお出しください。銀商以上であることを確認いたしましたら、旅商鞄をお売りいたします。」
言われるままに証明を提示すると、すぐさま確認して頷いてくれた。
「はい、確認いたしました。旅商鞄をお持ちの場合でも、証明を見せることになりますのでよろしくおねがいしますね。あと、旅商鞄なのですが、そのままお譲りいたしますので、こちらをどうぞ。」
受付下から旅商が背負ってるのと同じ、茶色の背負いリュックを取り出して、僕に押し付けるように渡してきた。
「え、あの・・・」
「では続けますね。本日はどのような品をお売りになりますか?というように聞かれるので、品質、量は不問ですが、売る商品をお教えください。その商品を旅商鞄に移していただいたら、商業者ギルドでの対応は終了です。
当然ですが、申請した商品以外は販売してはいけませんし、申請しても通らない商品もありますのでご注意くださいね。」
「あ、はい、わかりました。」
旅商鞄をただでくれた件は触れさせない気だね。まぁいいだろう。ところで何を売るべきか。
「ところで、僕が持ってるもので何が売っていいのか、どのくらいの値段で売ればいいかよくわかっていなくて・・・」
「なるほど、基本的にですが種や苗は旅商の販売は禁止されています。不安でしたら、リンゴ酢のような加工素材はどこの街でも大丈夫でしょう。転売しても問題ないですよ。むしろ旅商の方のほとんどが転売業ですからね。お値段は商品を伝える際に質まで報告すれば、商業者ギルドで伺ってしまって大丈夫ですよ。もしかしたら現物の開示を求められるかもしれませんが。」
「なるほど、ありがとうございます。じゃあとりあえず片栗粉を売ろうかと思います。質は3Bですね。」
「片栗粉ですか!?最近来訪者の方が開発されたというあれを仕入れたのですね!ぜひ私に売ってください!・・・ではなく、この街でお売りください!えっと、いくらで売ればいいかですよね。そうですね、1量800リラですかね。」
「え、そんなにですか?輸入先だとおもう南の熊壁街でもこのガラス箱一つで300リラでしたよ。」
ポーチから取り出した弁当箱のようなガラス箱に片栗粉が入ってる。あんまり大きくはないけど、一つでもしばらく持つほど十二分の量が入ってる。なのに勢い余って買いすぎたので、売りに出そうと思ったわけだ。
「私達住人ですと、輸入馬車待ちになってしまいますし、来訪者の方でも転移料金を考えればこれでもお安いかと思います。しかし、あまり量使うものではないはずなので、このくらいの値段が妥当だと思います。」
そっか、僕は自分の転移できたからただだったけど、普通は転移だって料金かかるんだもんな。馬車だとこの街まで運ばれるのは結構な時間かかるだろうし。
「わかりました。じゃあその値段で売らせていただきます。」
「他商品の登録はよろしいですか?」
「はい、とりあえず片栗粉だけ売らせてもらいます。」
「ではこれで登録完了です。この街で3日間の間、旅商鞄から片栗粉を売り出すことができますよ。旅商鞄は30種類、5万という量も入りますので、お気軽にお使いください。それと、商品を入れるのは基本的に商業者ギルド内でお願いしますね。」
「了解です、じゃあここで移しちゃいますね。」
片栗粉しか入ってないポーチと旅商鞄を触れ合わせて、とりあえず500ほど移しておく。1000はほんとに買いすぎたと思う、反省・・・
「旅商は基本どこで売り出しても構いませんが、通りでは端のほうでお願いしますね。またしつこく一人の方を追ったりとかも禁止されています。最もスクーリ様なら大丈夫でしょうけどね。もし気になるようでしたら、商業者ギルド付近で販売を行ってください。」
「そうですね、その辺は大丈夫です。じゃあお言葉に甘えて、とりあえず、近くで旅商経験してきます。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
旅商鞄を背に、商業者ギルドを出る。さて、店員としてならしっかり人対応しないとな。その辺は現実で培ったのを生かすしかないな。




