通信の魔道具
宿に帰ってフレウドを起こそうとしたけど、どうにもこうにも眠りっぱなしだ。明日になっても起きなかったら、悪いけど薬で起こすしかない。
とりあえずベードの上からソファーに移動させておいて待っててもらおう。僕はこれから明日の出発のために食材の買い足しだ。
本当はこの街でモイザに染色技術を覚えさせてあげるつもりだったんだけど、まだモイザは製薬を上げたいようで、染色は今はいいという感じだった。
ならばと次の街で使う時間で製薬と合成のスキルあげてもらって、そのあとに染色しようということになった。
さてと、商業者ギルド直営店にときたけど、まぁ買うのは3種の肉と野菜たちだな。特にキャベツは多めに買う。レイトがノビルからキャベツにと興味がうつったからだ。
ニンジンの細切りもあげたんだけど、キャベツの葉のほうがおいしいようだ。ノビルの根のほうがもっと嬉しいようだけど。
ベードの一番の好みは今のところ豚肉のようだ。生でもいいけど、焼いたのも好みのようで、僕の作った豚肉サンドを一緒に食べたりもする。
モイザ用にリンゴも買い足しておくかな。南端の街で買いためておいたけど、料理に使いたくなるかもだし、この際大量型の袋の一つをリンゴ用にしちゃおう。
結構な額になってしまったけど、なんだかんだ僕の手持ちは余裕がある。
それもこれも、無人露店の収入のおかげだ。毎日収入結果を水晶から遠隔で証明にリラを受け取ることで見てるんだけど、大体10万リラほどの結果になってる。
なにがどのくらい売れてるのかとかは詳しくわからないけど、どうしても知りたければ通信魔道具でトレビス商長に聞くこともできるだろう。
でも、今はそれはしないでおく。向うから用事がある時にでも一緒に聞いてみるつもりだ。向うだって忙しいかもしれないし。
「おや、スクーリ様、ご来店していただいてたんですね。ありがとうございます。」
「どうも、一応買いたい物は買ったので、ちょうど店を出るつもりだったんですけどね。」
まさかバンダー商長と鉢合わせるとは、というか外から店に入ってくるとはね。他にも10人くらいの人が店に入り、商品の補填を始めたようだ。
「おや、そうなのでしたか。お買い上げありがとうございます。ちょうど南端の街から輸入品が届きまして、こうして補填しているのですね。補填しているのですよ。普段わたしは付き添わないのですが、今回は新商品が数点ありますからね。あるんですよ。」
「新商品ですか?」
「はい、新たな食用草の2種、さらに数は少ないですが劣母蜘蛛の糸玉、加工済み食品となる茹で緑甘樹の実です。他にも質のいい劣蜘蛛の糸玉もありますので、これから陳列作業を行いますね。行いますよ。」
おぅ、どれも僕関係の商品じゃないか、なんてこったい・・・
「それにしても、やはり食用草は一見は雑草にしか見えませんね。見えませんよ。このあたりの雑草と思っていた草花にも、素材となるものがあるのでしょうか。これは詳しく見て回る必要が出てきましたね。出てきましたよ。」
「あの、ちょっと疑問だったんですけど、そういうの調べたかたっていないんですか?僕的には見つかっててもおかしくないと思ったのですが。」
「そうですね、雑草識別をする方がいないとは言い切れませんが、おそらく数30も行えば品質識別まで行えるようになるので、そこで飽きるかと思われます。どうやら南端の街も街外でこちらの野草素材を探しているようなのですが、うまくいってないようで、わたしたちの商品はスクーリ様の露店から購入させていただいたものになりますね。」
「そ、そうなんですか。なるほど、収入が多い原因が少しわかった気がします。」
ノビルやレモングラスを見つけた場所、もっとちゃんと教えてあげるべきだったかな?そういえば結構草原奥地だったはずだ。
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≪魔道具より通信が来ています:トレビス・テイワーカー:通信魔道具をおとりください≫
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おっと、タイムリーな感じで通信が来たな。というか通信が来たらわかると聞いてたけど、インフォメーションなのか。これ住人にも聞こえてるのかな?
おっとそれより通信魔道具をとらないと。バンダー商長にも許可を取らないとね。
「あ、すいません、トレビス商長から通信が入りました。ここで出ても構いませんか?」
「そうですね、ここだと他のお客様やわたしどもにも内容が伝わってしまいます。一度通信を受けていただいて、再度折り返すよう伝えていただいたほうがいいですね。いいですよ。」
「わかりました、ありがとうございます。」
とりあえず通信魔道具を取り出すと、通信に出る、通信に出ないの文字が浮かんでる。通信に出るに触れると、通信魔道具にトレビス商長の顔が浮かび上がった。
「スクーリ様、お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」
「あ、お久しぶりです。申し訳ないですが、今出先なので、一度宿に戻ってからかけなおします。」
「お忙しいところでしたか、申し訳ありません。こちらは用事が済み次第で大丈夫ですよ。」
「こちらの用事は終わっていますので、すぐに宿に戻れますよ。ではいったん切らせてもらいます。」
「了解しました。ではお待ちいたしますね。」
通信魔道具の通信終了の文字に触れて、通信はいったん終了。
「そういうわけなので、僕は宿に戻ります。明日にはこの街を出るつもりなので、ありがとうございました。」
「おや、そうなのですか、少し残念ですね。残念ですよ。ですが、またのお越しをお待ちいたしますね。」
「はい、またこの街に来た時には必ず。」
軽くお辞儀した後、急ぎ足で宿にと戻った。宿が近くて助かった。
部屋で椅子に腰かけて、通信魔道具の通信開始の文字をつつくと、トレビス商長とアーバーギルド長の名前が表示される。当然トレビス商長の名前をタップする。
通信開始までお待ちくださいの文字が少し表示されたが、すぐにトレビス商長の顔が通信魔道具に映る。
「お待たせして申し訳ありませんでした。どういった話ですか?」
「こちらこそ突然申し訳ありません。今は宿ですよね?」
「そうですね、今は僕とレイトたちだけです。」
「ではリュクス様、お話はリュクス様の従魔の子蜘蛛達が成体に成長したことの報告です。お伝えするように伺っておりましたので。」
「おぉ、その話ですか!詳しくお聞かせいただいてもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。20匹のうち13匹はレッサースパイダーのままですが、4匹がレッサースカウトスパイダーとなり、3匹がレッサーハウレッジスパイダーに進化しております。どちらも糸玉を作らない個体のようですね。」
「レササがマザーとして役割分担したのですかね?」
「たしか新しいマザーの子ですね、モイザ様の子たちにもしっかりと役割分担しているようでしたよ。」
おぉ、しっかりマザーとして頑張ってるのか。結構急だったけど、種族が変われば意識も芽生えるのかな?それとも引継ぎの短い間にモイザに叩き込まれたか。
「しっかり見ていただいてるようでなんだかすいません。」
「いえいえ、いいのですよ。むしろ蜘蛛達のおかげでさらにこの街がにぎわったと言えますからね。拡張区画の住居にも新たな人が増えていますし、採石作業者もリュクス様の店の商品のために、より多くの採石をしていただけるようになりました。近々もう一つ採石洞を掘る予定になったほどですよ。」
うーん、南端の街が発展していくのか。まぁ街的にはいいことなんだよね。
「それはすごいですね。どんどん賑わいを増していくんですね。」
「そうです!リュクス様のおかげでこの街がさらに発展したのです!もちろんリュクス様や他の来訪者の方々だけに頼らず、私達住人でこれからも発展させるつもりですよ。」
あぁ、そういえばリンゴからつくる酢やオイルも来訪者の発明なんだっけ。トレビス商長も思うところあるのかな?
「そうすればリュクス様の露店もますます収入が上がります。そうすれば商業者ランクを上げれますので、店舗を所有することもできますよ。そこまで行けば露店での人混みになる心配もなくなりますよ。」
「そうなんですか?むしろ店になると逆に人混みになりそうですが・・・」
「いえ、金商となると店舗をもてるだけでなく、コネクションボックスやコネクションストレージという、別の場所からそこに入れた素材や製品を取り出せる、収納箱か収納倉庫を持つことができるのですが、そちらに商品を入れることで店舗に商品を補填することができますよ。」
なるほど、それで人混みになった場合も、店舗内だけで済むってことなのかな?それなら露店に並んでたりするよりもありかもしれないな。
でもそれよりなにより気になるのはコネクションボックスってやつだ。
「コネクションボックスですか?もしかしてそれって、低位の空間術とかでもその中身を取り出せるのですか?」
「低位の空間術ですか?そうですね、わたしですとそこまで詳しくお答えできませんが、アーバー様は空間術をお持ちなので、伺えばわかると思います。おそらくこの時間なら通信できると思いますよ。アーバー様に通信をかけてみてください。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「いえいえ、では私はこれにて失礼いたしますね。」
トレビス商長との通信が切れて、通信魔道具にはまた通信開始の文字がうつるだけになる。アーバーギルド長は忙しくないだろうとは言うけど、こっちからかけていいのかね。
まぁ、忙しければ忙しいって言われて終わりになるはずだ。それなら持てるようになってから空間術で取り出せるか試せばいい。そうおもって通信をかけたんだけど。
「なんじゃ、おぬしから通信してくるとはの。儂になんのようかの?」
「アーバーギルド長、おひさしぶりです。今日は空間術について聞きたくて通信しました。実はコネクションボックスのことを聞いたんですけど、コネクションボックスからなら、僕くらいの空間術でも遠くから取り出せるようになりますかね?」
「ほぉ、まさかもう金商になったのかの?儂もだいぶあの露店に世話になってるからの。」
「いえ、まだ金商ではないのですけど、今日トレビス商長との話で聞いただけなんですよ。」
「なるほどの、ならば結論を教えると、今のおぬしでもコネクションボックスから取り出せるはずじゃが、そんなことをせずとも専用のアイテムポーチがあればそこから取り出せるぞ。トレビスも知っておるじゃろうが、あえていわなかったのかの。」
あれ、そうなのか。あっけなくわかったことだったな。わざわざアーバーギルド長に声をかけねきゃよかったか。
「あの、なんかこんなことだけで通信かけてしまいすいませんでした。」
「ぬぅ?別にええんじゃよ、空間術の資料は数人規模で展開する術式ばかりで、個人のスキルアーツなどの資料はほとんどなかったじゃろ?」
あぁ、確かにその通りで空間術は術式を組み使用するのが基本らしく、アーバーギルド長のような個人で持ってる人はいないわけではないが、後天的に覚えることはないとされてるために、スキルアーツまで資料として残しているのは王都とだけらしい。
「アーバーギルド長がいらっしゃるんですから、南端の街だけでも資料で残せばいいと思うんですけどね。」
「すまぬのぅ、儂の空間術も師匠からの教えじゃが、師匠はそのさらに師匠教えで、むやみにスキルアーツを書き残さぬようにとのことなんじゃ。既に必要最低限は王都に残したから、それ以上は不要ということらしい。」
「なるほど、そういうことだったんですね。」
「まぁの、じゃがおぬしのように才あるものには、よく教えるようにとのことじゃからの。せっかくじゃから、今どのくらいなのか教えてもらおうかの?」
「わかりました、あれだけで通信終了というのもなんですよね。今は時空術がレベル6になったところです。それと空間術でフリップスペースというスキルアーツを使えるようになりました。」
「フリップスペース?なんとなくはわかるが、儂は使えぬ術法じゃの。一応どのような技か聞いてもよいかの?」
「大丈夫ですよ、今は杖を用いて技を使用しているのですが、杖の先に弾き飛ばす意識を集中させます。そうすると杖先に歪みのある空間ができる感じです。」
「なるほどの、その空間は吹き飛ばし能力のある空間というわけじゃな。それだけできるのじゃったら、転移まではもう少しじゃろうか。
儂が思っているよりもスキルのレベルが低かったのじゃが、おそらく時術との兼ね合いがあるからじゃろうな。しかしレベル以上にできることは多そうじゃの。」
なるほど、レベルが上がりづらいけど、ある意味上位スキルだからな。もう少しで転移まで行けるならありがたい。
「ちなみに転移の術ができるようになったかどうかは、どうしたらわかりますかね?」
「そうじゃの、簡単なところから始めるのじゃったら、右手に握ったものを、握った左手に移すことから始めるとよい。それならおそらく今のおぬしでもできるじゃろう。あとはだんだんと距離を離していくのじゃ。
楽に遠くに移動させる場合には教会を使うとよいぞ、教会内からおぬしの家の簡易神殿にものを送るのじゃ。送れなければ手元に残るからの。送れるようになれば、逆に簡易神殿の部屋にあるものを、手元に転送することもできるようになるじゃろうな。」
おぉ、そこまでできたら便利だな。ちょっと頼みづらいけどトレビス商長においてもらって、畑で育てた素材を転移できるってことか。
「素材のような物を送れるようになったら、次は生物じゃな。おぬし自身から始めるとよい。ただし、教会からおぬしの簡易神殿、もしくはその逆から始めるのじゃ。どこでもできるようになる道はかなり遠いはずじゃ。」
「わかりました、ありがとうございます。とりあえず手から手に移動できるかやってみますね。」
「ほほっ、頑張るのじゃぞ。もしイメージだけで発動しなかった場合は、トランスポートと言葉に出すとよい。簡易的な転移、転送はこれで大丈夫のはずじゃ。」
簡易的か、簡易神殿や教会間の空間転移は難しいほうじゃないってことだよね。ならこの後から少し頑張ってみるか。
でも、明日に出発する予定は変更するつもりはない、せっかくみんなと話して決めたことだし。
あ、そうだ、ついでというとあれだけどもう一つ聞いておくか。
「ありがとうございます、それともう一つ聞きたいのですが、実は新しい従魔のフレウドが眠り羊のせいで寝てしまったんですが、明日までに起きるんですかね?」
「ぬぅ?新しい従魔とな・・・まぁよい、どのくらい接近して、どの程度の時間対峙してたかにもよるが、よほどでなければ明日の朝には目が覚めるじゃろう。」
「そうですか、ありがとうございます。このまま起きなかったら苦味草の丸薬で起こさないとだめかと思ってたので、安心しました。」
「ほほっ、あの味は従魔にもきついじゃろうからの。儂じゃってもう使いとうないわい。」
「僕もそうなんですけど、明日走り抜けるためにも使わなきゃダメそうなんですよね。」
「ぬぅ、そうじゃの・・・おぬしができるかどうかはわからぬが、フリップスペースという技を大きく広げて、自分を包むようにイメージするのじゃ。もしうまく作ることができれば、羊の眠気をはじいて守ってくれる空間になるはずじゃ。そうすれば苦味草なしで突破できるぞ?」
「な、なるほど、明日やってみたいと思います。いろいろありがとうございました。」
「ほほっ、別に良い。もしまた聞きたいことがあれば、大体今と同じ光と深の刻の頃を目安に通信するとよい。ではまたの。」
「はい、またよろしくお願いします。」
アーバーギルド長との通信を終了。結構いろいろいいこと聞けちゃったな。しかも転移までも思ったより近かったみたい。ちゃんと育ったレササの子供たちとも会いたいし、頑張ろう!
次回ここまでの振り返りのため世界設定