眠りの地
昨日の夜は料理にフレウドの油術で出した油を使えるか聞いてみたけど、微妙そうな感じで拒否されてしまった、料理に使うのには適してないのかな?
でもすぐに申し訳なさそうに卵を1つ産んで渡してくれたので満足。というかフレウドは任意に卵を産めるのか。まぁ産みたいときに産んでくれればそれでいい。これからも産んでくれたときは、おいしくいただくことにしよう。
さて、今日はこれから眠り羊に挑むつもりで、すでに眠りの地の街道を進んでる。時折遠目に見える羊は、どす黒い毛並みをしているのだが、その毛はどう加工しても失敗となってしまうような端材扱いらしい。
羊の毛が取れなくて残念と思ったけど、この街の北方面の次の街、熊壁街から南の四色の地といわれる場所の羊たちからなら、羊毛素材がドロップするみたいだ。
まぁ使うとしたらモイザくらいだろうから、そこまで目指すのは次の街行ってからだな。すぐにほしいなら店には売ってたわけだし。
羊肉がほしいわけでもない、ただ3方向のメイン魔物たちを倒してきたので、ヒツジとも一度戦おうと思ったという感じだ。
「それにしても冒険者がいないな。馬車はめちゃくちゃ通るのに。僕達にはありがたいことなんだけどさ。」
「ばぅ・・・」「コ・・・」
なんというか、レイトはいつも通りスースー寝息立ててるけど、ベードとフレウドもかなり眠そうだ。情報通りこんな離れてる街道でも影響力があるのか。
ならば人も少ないし、この辺で眠り羊に挑むとするか。さてどこまで行けるのか。
できる限り他と離れてる一匹に識別できるほどには近寄る。くっ、結構来るなこれ、眠くなってくる・・・
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≪識別結果
スリーピングシープ 危:E
何をされても永遠に睡眠し続けている羊、しかしその羊に近づくもの、その姿をまじまじと見るものを、永遠の眠りに堕とす≫
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これ以上近寄るのは危険だと思う、ならこの距離から左手を構え、ファイアアロー!
突き刺さる火の矢に動じず、その場にヒツジは寝続ける。効いてるのかこれ?わかりづらすぎる。
「これならどうだ、ファイアボール!」
飛距離は同等でも、威力はこちらのほうが上だ!炎上効果もついてくる。動かない標的に命中させるのはわけない。
羊に命中した火の玉、そのまま燃え続けているのだが、寝続けてるのを見るとどうにもこうにも・・・
「きついなこれ、集中力が・・・」
声を出さないとやってられないほど眠い。というかベードも船こいでるし、ベードの頭上のフレウドは完全に眠ってる、これ以上は長居できないか。
「ベード、撤退するぞ。まだ動けるか?おい!大丈夫か?」
「ばぅっ!?ば、ばぅ・・・」
大声で聞いた上に、体をたたいてようやくはっとしたように声を返してくれた。なんとか街道付近まで移動してきたけど、眠すぎて限界だ。使いたくなかったけど使うべきだなこれ。
ポーチから取り出したのは苦味草の丸薬を4つ、そのうち2つを噛みしめる。
「ウゲッ、ニガ、ほんと苦い、もう噛みたくなかったんだけどな・・・ベード、お前も噛んどけ、その調子だと歩くのきついだろ?」
「ばぅぅ・・・ぐっ。」
あまりの苦悶の表情、やっぱ苦いよな。こんなの食いたくなかったよな。宿でも嫌がってたもんな。
でもおかげで僕もベードも眠気は覚めた。ベードはどこかしょぼくれた表情ではあったけど、眠そうな感じは消えたようだ。
いわゆる眠気覚ましのこの薬、眠い時にはしっかり効くし、眠気の抵抗力も少しの間だけ上がるこれ。問題点はこの苦さというわけだ。
宿出る前にと噛んだんだけど、不味すぎてせっかく食べた朝食が台無しだった。もう一度使わないといけないとは、散々だな。
燃えてた羊の炎はいつの間にか消えてるようで、遠目でもすやすや眠ってるのがわかる。また眠くなると厄介だから、あんま見ないでおかないとな。
「さて、どうするか、ほんと情報通りなかなかに火に対する耐性が高いみたいだな。基本の四属性は全部耐性が高いらしいけどな。」
「ぐぅ・・・」
フレウドの油術からの燃やすコンボも、今は眠ってるから難しい。ということは情報にあったように、こいつらを倒すなら苦味草の丸薬を噛みつつ、物理的な攻撃をしろということか。
「ベード、待機しててくれ。あいつだけは仕留めてくる。眠くなり始めたら門付近まで移動しててくれ。」
「ば、ばう。」
突っ込む前に、丸薬を奥歯でいつでも嚙めるようにしておく。杖を両手に構えて、一気に駆けよる。杖の先に力を集中させろ!
「フリップスペース!」
動かない羊の真上からたたきつけるように一撃を与える、相手を跳ね飛ばすこの技は、術法の中でもどちらかといえば物理的なはずだ。
羊の様子を見てみると、どうやらこの一撃で絶命したようだ。さっきの火術のダメージも残ってたかな。
あぁ、でももう正直うんざりだ。こんな苦いの噛みながらの狩りなんてやってられない。
「帰るぞベード、ちゃんとフレウドも起こさなきゃいけない。ここで丸薬で起こすのはかわいそうだからな。」
「ばぅ。」
「あと、きついと思うけど、明日にはここを一気に駆け抜けてもらうつもりだ、眠らないようにな?眠そうなら・・・わかってるな?」
「ばう!ばう!」
なんというかとんでもなく驚いた顔をしながら、首を横にも縦にも振りまくっていた。了解だけど、もうあんなの噛むのはこりごりってことだね。
僕もこりごりだけど、ここ抜けるなら馬車に乗らない限り必須になりそうだな・・・