油術の話
牛とのもう一戦は、フレウドの油玉からのファイアボールで、燃えてるところをみんなで術法で囲むという同じ戦法。
倒れきる前に火を消されたけど、だいぶ消耗してたようで、そのままフリップスペースを込めた杖殴りでフィニッシュ。一戦目よりもだいぶ安定した。
火耐性が高いはずなんだけど、油を食らうと耐性が弱まるのかな?その辺も含めて今から調べるところだ。
資料室は腰ほどの高さの、カラーボックスのような本棚がいくつか置いてあるだけでなく、読みやすいように机と椅子も結構配置されてるし、それなりに広い。とはいっても今の使用者は人は僕達以外いないんだけど。まぁベード達もいるからありがたい。
棚上の文字で術法系統の棚を発見、火術、水術、土術、風術の基本4属の扱い方とか、扱いやすいスキルアーツの説明とか、そういうのばかりが目に付く。それぞれ書いた人が違うようだけど、今はそうじゃないんだよね。
属性の種類の本はっと、あったこれだ。30ページほどの本をめくっていくと、油属性の項目発見。さて目当ての情報はあるかな?
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相手の火に対する属性耐性を著しく下げるらしく、火属性系統との相性がいいが、逆に水、風、土、雷、樹など、多くの他属性の耐性を与えてしまうらしい。
また、油自体の攻撃性能は非常に低いらしく、滑りやすい性質を使ったトラップとして利用されていたそうだ。
なお、著者はこの属性を持つものを見たことがないため、これは過去の資料などからの引用である。詳しいことがわかる方は、ギルドへの報告をしていただき、資料の補填をしていただきたい。
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・・・なるほど、おおむね予想通り、火属性耐性を下げる能力はあるようだな。でもデメリットのほうが強すぎないかこれ?
ちょっと気になった油術の習得法とかは一切なかったし、それどころがギルドに報告して情報提供してほしいとね。うーん、まぁ見てしまったならしょうがない。
「フレウド、油術について、ギルド長に教えても平気か?」
「コ。」
うーん、まぁフレウドも大丈夫なようだし、面倒だけど一度下に降りてギルド長に会えるか確認しないとね。
本をもとの場所にしまって、資料室を出ようと思ったら、なぜか資料室にちょうどギルド長が入ってきた。
「おぅ、さっそく資料室使ってるんだな。目当ての情報はちゃんとあったか?王都から離れてるからろくな情報はなかっただろうけどな。」
「どうなんでしょう?一応必要な情報は得られたのですが、むしろ情報提供を求める文で終わっていたので、今からギルド長にお伝えしようかと思っていたのです。」
「あん?なんだその言い方、その情報を持ってるって言い方だな。何の情報なんだ?」
「はい、油術という術法です。」
「油・・・なんだって?なんでそんなふるくせぇ術法を君が?」
「いえ、僕じゃなくフレウドが覚えたんですよ。つい昨日の夜のことなんですけどね。ところで古臭いってどういうことですか?」
「あん?そうか君は来訪者だったな、すまんすまん。実はこの各街の資料ってのは、王都から受け取ってる資料と、各自の街が集めた資料の二つに分かれてる。君が見たのは属性の種類の本だろ?」
「え、そうですね。」
「それは王都が全体的な街に広めたものなんだけどな、広めたのが今ある街がすべてできた時、つまり結構過去の話ってわけなんだわ。あとはその資料が失われないように、各街で修繕したり写しをとったりしてるわけだ。」
なるほど、この資料は結構前の資料ってことなのか、きれいだからあんまり意識してなかったけど、ちゃんと残り続けるように作業してるのか。
「んで、その油術は似たようなのを使う魔物が、かなり昔はいたらしいんだけどな。俺たちの住むこっち側のやつらはいつの間にか絶滅。今はいたとしても、北側の奥のほうにしかいないんじゃないか?俺はさすがに知らん。その魔物が使っていた魔法が油だったらしいくらいしか知らん。」
「そ、そうなんですか。それにしては属性の相性は、憶測的に書かれているにせよ、結構きちんと記載されてますね。」
「あぁ、それはその時代の来訪者たちが調べたことらしいぞ。それを住人にも教えたって話だそうだ。」
え、そんな過去にも来訪者?あ、でも来訪者ってプレイヤーって意味なわけじゃないはずだ。この世界の住人ではない人種をそう呼ぶんだったはず。
「なるほど、その来訪者たちも死んでもよみがえる力を持ってたんですかね?」
「さぁな、詳しくは知らねぇけどそうなんじゃないか?俺も詳しいことまで知らないけどな。ただ過去の来訪者たちは10年の時とともに消えたって話は知ってるけどな。それ以上知りたければ王都の図書館に行くしかないな。そこで情報拾えなきゃ他で拾うのは無理だという場所だな。」
「図書館ですか、まぁ王都にはいずれ行くつもりなので、その時も興味があれば行ってみます。えっと、それで油術はどうしたらいいでしょう?」
「おっと、そうだったな。とはいっても昨日覚えたばかりってことは、鶏くんも詳しくはわかってないんじゃないか?」
「コケ。」
あぁ、どうやらフレウドもそのようだな、詳しくはわかっていないって感じか。まぁ火術の強化ができるというのはさすがに本能的にわかったか。
「とりあえず油術を覚えたと思う行動、あと油術自体を俺が見て判断したいから、ちょっと面倒かもしれねぇけど、訓練所に付き合ってもらうぞ。」
「え、訓練所なんてあるんですか?」
「おぅ、この街にはあるぞ、北東の端っこで使用者はあんまいねぇけどな。四方を魔物の住む土地に囲まれてるんだ、いくら見通しはいい土地といえ、街が魔物に襲われる可能性はゼロじゃない。だから鍛錬できる場があるに越したことはない。」
「え、街の防壁を魔物が襲うことがあるんですか?」
そんな現場観たことないし、結構分厚い石壁、それも聖域の力があるらしいから、あんまり想像つかないんだけど。
「いや、可能性の話だ。少なくても俺だって見たことないし、俺の親も見たことはないっていってたぜ。記録としては襲撃されたことがあるらしいけどな。いつぐらい昔の話なのか俺も知らん。」
うーん、そんな昔にはなるけど、襲撃されたこともあるのか。ということは街を襲撃されるイベントが発生する可能性はゼロじゃないな。どこまで運営が仕掛けてくるのかはわからないけど。
おっと、あんまりメタなことを思うとせっかくのこの世界を味わえなくなる、それは一旦忘れよう。
「話をそらしてすいませんでした。えっと、とりあえずフレウドが油術ここで取得したと思う行動については、今ここで話してしまっても?」
「おぅそうだな。いったんギルド長室に行くか。」
ミエスギルド長の後に続いて、資料室横のギルド長室に入る。というか資料室に何か用があったんじゃないんだろうか?ちょっと申し訳ないことしなたな。
「よし、とりあえず先に鶏くんが油術を覚えた経緯を教えてほしい。」
「あ、そのまえに、資料室に何か用があったんじゃないんですか?なんか僕の用事になっちゃってすいません。」
「あぁ、そっちは大事な用じゃねぇからいいんだよ。きにするな。」
「そうですか、わかりました。とりあえずフレウドが油術を覚えたのは、多分ですけど料理で使った油を飲み干しちゃったんで、それが要因だとおもうんですよね。それ以外の心当たりはないですね。」
「そ、そうか、油を飲んだらっていうが、そうだな・・・その油はまだ熱かったのか?」
「そうですね、まだ料理後間もなかったので触れたらやけどはする程度の熱さだった可能性があります。」
「あー、それなら熱さも関係してそうだな。鶏くんはなんでそんなものを飲んだんだ?」
「さぁ、わからないです、欲しがったのであげたんですよね。その前に火術もちゃんと食べさせたのに。」
「あん?ちょっとまった。鶏くんにあげる餌は火術なのか?」
「え、えぇ、そうなりますね。僕のファイアボールがメインの食事です。」
「そうなのか、てっきり丸々鶏とおなじように、あそこの雑草についてる種みたいなやつなのかと思ったぜ。」
あぁ、そういえば結構あちらこちらに猫じゃらしみたいなの生えてたな。たしかエノコログサだったかな?特に用途なしだったけど、そういえば鶏の主食ってでてたっけ。なんかうっかり抜けてたな。
「もしかしたらそれが火の属性を持った影響なのかもなぁ。んで、油を飲んだのもその熱を食うために一緒に油を飲んだというところか。かなり偶発的に油術を取得したみてぇだな。こりゃ俺達人種が取得するのは難しそうかもな。まぁすべては使ってるの見せてもらってからだがな。」
「はい、大丈夫だよな、フレウド。」
「コ。」
「おう、大丈夫みてぇだな。んじゃ歩かせるのも悪いし、転移で訓練所まで行くぞ。」
「えっ!ミエスギルド長も空間術使えるんですか?」
「まさか、俺は使えねぇよ。でもこの街は南の交易中心地だから、結構無理が通ってな。俺の部屋から訓練所までの転移術式こめた魔道具があるんだわ。ほらそこの一角だけ赤いのしいてあるだろ。訓練所のほうに逆方向のもあるぞ。」
「なるほど、あれはそういう魔道具なんですね。ただのじゅうたんかと思いましたよ。」
ほんと、見た目はただのじゅうたんなんだけど、確かに表面の模様は複雑で、術式だといわれるとそう見えてくる。
「まぁ見た目はこんなだが、ここに固定してあるから動かせないんだぜ。魔素を流すだけで動くけどな。んじゃ、いくか。」
ミエスギルド長はそういうと、赤いじゅうたんの上に乗る。絨毯が光りだし、さらにミエスギルド長の周囲も光りだす。
すぐにギルド長周囲の光が消えると、その場にその姿はなくなった。でもまだ絨毯は光ってる。では僕も行くか。
絨毯に乗ると、すごくまぶしい感じに思わず目を閉じる。すぐにまぶしい感じがなくなって目を開くと、床も壁もごつい石で覆われた、広い空間の一角に風景が変わる。
その場からずれて、さっきまでいた足元を見ると、青いじゅうたんのようなのが敷かれていて、まだ光を放っている。ベードと頭の上に乗ったフレウドもそこから光とともに出てくる。
転移してるところを見るとこんな感じなんだ、結構派手だな。でもこんな風に日常的に使われてるから、変ではないのかな。
「おう、それじゃあ鶏くん、こっちの準備をするから少し待ってくれよ。」
「ココ。」
ミエスギルド長は絨毯近くの一角にある水晶を触ると、腰ほどの高さの石壁に仕切られた空間の中心に、どこからともなく大きな十字型の藁が現れた。
「とりあえず標的を出しておいた、仕切りの中で術法使ってくれ。そうすれば危なくない。」
「了解しました。とりあえずフレウド、行こう。」
「コ。」
フレウドよ、別に歩くのが嫌というわけではなかったのか。自分で歩いて仕切りの中に入ってくれた。念のため僕も仕切りの中へ。
標的を前に、フレウドは両翼をくちばしの前に構える。大きくくちばしを開くと、その3点の中心に野球ボールくらいの液体の球体ができ上った。
両翼を前に突き出すと、その球体はまっすぐ標的にぶち当たる。匂いとかはしないけど、べとべとしてそうなあの見た目はまさしく油だろう。
ミエスギルド長はその一部始終を見た後、何やら手元の円形のガラス板を見つめていた。
「なるほど、おおむね情報通りの性能だな。著しい火耐性の減少はするが、水、風、土、雷の耐性は上昇か。この感じだと、液体量や油質によって持続時間も変わるようだな。今は半刻も持たない程度か。」
「なるほど、そのガラス板で確認できるんですか。便利ですね。」
「あぁ、これも魔道具の一つでな、その標的の中の魔道具と連動させてある。それと、もう2体ほど出すから、そっちにもかけてもらっていいか?」
「ココ!」
右翼を大きく上げて、胸元をポンとたたく。任せろと言わんばかりだ。
「ほぅ、いいへんじじゃねぇか。んじゃ2体出すぞ。」
「コケッ。」
すでに油を当てた標的の左右後方に、同じ形の標的が現れる。それぞれにフレウドが油弾を当て終えると、ミエスギルド長も仕切りのなかに入ってきた。
「ま、この魔道具の結果だけじゃ俺が満足できねぇからな、少し試させてもらうぜ。んじゃ、証明を出してくれ。」
「あ、はい、わかりました。」
僕が証明を出すと、ミエスギルド長も証明を出して重ねてきた。70万はあったはずのリラが180万を超える金額になっている。
「いっ、こ、こんなにもらえるんですか?」
「まぁこんなもんだろ、この後の実験費用も含めたらな。どうする?君も見ていくか?内容によっちゃもう少し出してもいいぞ?」
「い、いえ、遠慮しておきます。」
「そうか、残念だ。なにかわかったら次あった時に教えよう。俺の部屋に飛んで帰るもよし、そこから施設外に出るもよし、他の仕切りで何か練習するもよしだ。さっきの俺のいじってた魔道水晶で受付できるぞ。」
「もしかして、結構派手な術法使っても平気なんですか?」
「おう、耐久性はこの施設高いぞ。この仕切りの中から外には、攻撃を通さないからな。もちろん高さを超えるような技でもちゃんと防ぐぞ。」
おぉ、なるほど、ここで少し術法練習とかするのもいいかもしれないな、でもそれは今日は止めておこう。
「うーん、ちょっと試しても見たいですけど、今日は帰っておきます、ちょっとおなかすいてしまいました。」
「おう、おつかれさん。」
うーん、明日にでももう一度来るかな?北東の施設って言ってたし、ちょっと普通に外に出てみるか。
石の色そのままの壁じゃなく、扉だけは青色に染色された石で、そこを開いて外に出る。外はすぐ大通りで、左側を見ると遠目に北門が見えた。
大体の場所はわかったけど、このまま歩いて宿に帰っちゃうか。




