鶏の卵を求め
そんなわけで、冒険者ギルドに到着。受付7つは7,8人ほどの列ができているので僕も後ろに並ぶ。まぁすぐに僕の番が来るけど、ベードはギルドの隅っこで待機させておいた。またぶつかったらなんだしね。
受付の人に資料室に入っていいかを聞くと、了承されたけど、従魔も一緒で大丈夫かを聞くと、少し渋い顔をされた。
少々お待ちくださいと言われて、ぼそぼそと連絡魔道具で通話しているようだ。小さくギルド長と聞こえたので、相手は誰なのかわかっちゃったけど。
そして一度ギルド長室へどうぞといわれてしまった。なぜなのだ・・・ダメなら駄目とここで言ってほしいものだけど、まぁ来いと言われたからには行こうか。
「おぅ来たな、資料室が見たいんだろ、別に従魔と一緒に見てもいいんだが、その前に一つ言いたいことがあってな。」
「は、はぁ、なんでしょうか?」
「リュクスだっけ、君がいまだに冒険者ランク最下位のHなのはなんでだ?」
「え、なんでといわれても、依頼をこなしていないから、ですかね?」
「いや、依頼をこなしていなくてもだ、君は王都にも有利になるような情報をもたらしたんだぜ?普通その時点でランクアップしなきゃいけないわけだ。アーバーのじじいは固すぎるんだよな。もっと柔軟にいかねぇから商業者ギルドが有利になっていっちまうんだよ。」
「は、はぁ、そうなんですか。」
急に何の話なんだろう?僕のランクの話じゃなかったのか?
「君も気づいたと思うけど、この街の大通りは露店少ないだろ?あれ露店出してるのは実は金商クラスのお抱えになってる商業者くらいなんだぜ。他は全部横道に出させてるのさ、俺の権限でな。金商クラスだと大通りの露店部分まで土地権限持ってるから手が出しにくいけどな。それでも有利になりすぎないような品しか出せてねぇぞ。」
「大通りの露店が少ないのはギルド長がそうしてたからなんですか・・・」
「そういうわけだ、南端の街みたいに大通りで買い物させまくるのもいいとは思うんだが、この街は人が多すぎて狭くなる。しっかり広い道でないと君みたいな場合とか、馬車通る時とか、困るだろ?」
「まぁ、それもそうですね。」
確かに、あれだけの人通りだ、両端に露店があったら人混みがやばいだろう。ちゃんとそれを避けることを考えてるのか。大通りは人だけの重要な道じゃないからなぁ。
「そういうこった。あ、話それちまったな。君のランクをDとするから、よろしく。これでいちいち受付に確認しなくても、どこの街でも勝手に資料室入って大丈夫だぜ。もちろん狼くんや兎くんも一緒にね。」
「な、なるほど、急激に上がっていいのか不安ですが、ありがとうございます。」
「あん?大丈夫だろ?君は識別試験も突破してるとある、十分資格はあるぜ?」
「そ、そうですか。ではとりあえず資料室お借りしますね。」
「おう、じっくり見ておけ、あとおすすめは牛より先に鶏だ。」
「え、僕魔牛を倒しに行くって話しましたっけ?」
「ん?さぁどうだったっけな、どうでもいいだろ?」
うーん、なんかすごい不思議な感じだけど、まぁ確かにどうでもいいか。それはこの後調べを付けてから決めることだからね。
そして現在いるのは街の東側に広がる丸々草原、ちなみに南が切り裂き平原、西が魔牛荒野、北が眠りの地らしい。なんかどこもそこにいる魔物によってつけられた名前だな。わかりやすくていいけど。
で、丸々草原に来た理由は鶏討伐だけど、もう一つ理由がある。それは卵だ。
直轄店でも売っていた卵、どうして僕は買わなかったんだろう卵。卵は万能食だというのに。あんま回収できなかったら帰ったら買っておこう。
そして丸々鶏の卵の収集方法なんだけど、これはただ討伐するだけじゃ手に入らない。一日のちょうど光の満つ刻のころ、つまり今頃になると鶏たちは卵を産む。その後はなぜか卵に見向きもしないので、回収し放題だそうだ。
ただし、丸々鶏も縄張り意識の強い魔物だ。しかも仲間意識も高いらしく、お互い不干渉な兎とか豚と違い、一匹が気づくと周囲の何匹もが襲い掛かってくるそうだ。
一匹一匹は大した強さではないが、数が数なので対処を誤ると結構面倒な相手らしい。そして当然、門の近くなほど卵確保の冒険者の競争率も高い。なので人が少ないかなり奥のほうまできて、体を伏せて待機中だ。
「コッコココ!」
来た、この鳴き声とともに鶏たちは卵を産む。そして生んだ後なぜか少しだけ走ってその場を離れる、生んだ卵に対して興味を持たないというわけだ。この走り去る瞬間が狙いだ。
僕はあんま早くないけど、できるだけすばやく卵を回収していく。そこらじゅうの鶏がどんどん卵を産んでるので急ぐ必要がある・・・でも気配も消さないといけない。
「コ?ココ!コココ!」
そう、気配を消すのを怠るとこんな風に気が付かれてしまう。30個は取ったけれど、ついに気づかれてしまったか。全部いったんポーチに詰め込めば、割れる心配はしなくて済む。さぁ戦闘態勢だ。まずは識別!
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≪識別結果
ラウンドチャビーチキン 危:G
丸々とした鶏、その丸さを武器に転がる攻撃を得意とする≫
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よし、情報通りだな、すぐには正確に何匹来るかはわからないけど、これなら僕一人で行けるはず。ちなみにベードは結構遠くで待機してもらってる、レイトもベードの上というわけだ。
レイトがベードを僕の援護するかどうか決めてくれるようなので、そうならないようにできうる限り僕が仕留めるつもりだ。
「行くぞっ!」
一匹が気づけば、周囲の30を超える鶏たちもリンクして襲い掛かってくる。草原の中に突っ込んできた僕は包囲状態というわけだ。
でもまだまだ距離はある、まずは落ち着いて、僕に気が付いた一番近い一匹に左拳を突き出し、照準を定めて火を引き絞る。
「ファイアアロー!」
火の矢が貫いたその一匹はその場に転がり、完全に動かなくなった。前情報通り火への耐性もないし、一匹を倒すのは容易だな。
問題はこの数だ、ファイアメモリアルを使えば倒せるだろうけど、それじゃ素材が回収できないだろう。火術系を攻撃に使う場合、威力が高いけど、素材が残りにくい難点があるってのはもうわかってることだ。
だからこそ近寄られる前にできうる限り倒す!ファイアアロー乱れ打ちだ!とりあえず正面の10匹を狙いつつ、どんどんとファイアアローを放つ。
転がるように近づく鶏たちの体を貫き、次々と倒していく。次は左右だけどまず左の8匹!さらに右の7匹!最後に背後の11匹!
ってやばい、かなり近づかれてる、でもファイアアローで3匹くらいには間に合う。すぐに3匹を貫いたら杖を手にする。膝ほどもの大きさのある鶏が転がってくるのは結構怖いものだな。でも落ち着いて対処しよう。
8匹がほぼ同時に僕の足元に転がり突っ込んできた。それを飛び越して杖でひと殴り!
「ゴゲっ。」
ひどい声を上げるが、まだ息があるようなので、動きを止めたそいつにさらにもう三撃。それで絶命した。しかし少し手間取ったせいでまた残りの7匹が引き返してきてる。
しかも今度は少し跳ねながら転がってきてる、なんだあの動き、飛び越せない・・・しょうがないか。
「ファイアメモリアル!」
ゴッっと7匹が一斉に燃え始めるが、そのまま構わずに突っ込んできた。でもそれは想定済み、思いっきり横に飛んで、ちょうど7匹が一列に見えるような感じになる。そのまま思いっきり杖で目の前のを吹き飛ばす!ふと杖の先にゆがみようなものができたように見えた。
そして殴りつけた鶏がきれいに吹っ飛び、隣の鶏にとぶつかる、さらにその鶏がぶつかりと、まさしく玉つきに7匹を吹っ飛ばした。
玉つきになった後バラバラに吹っ飛んでた7匹は、ファイアメモリアルの炎が消えてなんと体が無事に残ってた。燃え尽きる前に絶命したおかげかな?これなら素材も取れるだろう。あたりの丸々鶏も含めて解体せずにとりあえず死体回収っと。
それにしてもさっきの杖の感じなんだったんだろうか、あの瞬間少し魔素を持っていかれた感じがする。
もう一度さっきのイメージのままに杖を振ってみる、やはり魔素を少し持っていかれる感覚とともに、杖の先にちいさな歪みのようなのが発生する。この力のおかげでうまい具合に吹っ飛んだようだな。
この感じ、初めて作ったスペースボールに似てる。なにかを弾き飛ばすような空間を作ってる、そんな感じだ。
「弾き飛ばす空間・・・フリップスペース?」
おぉ、言った瞬間に杖を振らなくても杖の先にさっきの歪みができた、しかも少し歪みも大きくなってる。
やっぱり時空術の一つだったのか、無意識に発動するとはね。少しずつでも夜にスペースボールで練習してたかいがあったかな。
「よし、ベード、お前はどうしたい?狩ってみたいか?」
「ばぅ!」
「そうか、他の人に迷惑は絶対かけるなよ、とりあえず飯を食ってるからその間だけ行ってこい。」
許可を出すとさっそうとかけて行ってしまった。レイトはというと駆けていく寸前に僕の頭にと飛び乗ってきた。飛び乗られても不思議と痛くも重くもないんだよな。
まぁベードには自由行動させて、僕は少し遅めのお昼にしますか。今日は卵サンドだな!
なんでか知らないけど、鶏種の産む卵はすべて無精卵、雄だろうが雌だろうが卵を産むらしい謎生態だ。
なんで産むのかはいまだに解明されてないらしいけど、卵がおいしいくて食しても安全という検証結果があれば、まぁ些細なことじゃないかと僕は思う。
出来上がった卵サンドはなかなかのおいしさだったので満足。帰ったら野菜と卵と肉で何かサンドじゃない料理を作ってみるつもりだ。
そろそろただそのまま焼くだけじゃないのがいいな。目玉焼きのせハンバーグにでもするかな。塩は持ってるけどコショウがほしいな。直轄店に売ってたっけな?食品素材にばっかり目に行って、調味料系をしっかり見てなかった。もう一度見ておこうかな。
そんなことを考えつつベードの帰りを待っていたんだけど、遅くなりそうだったらどうするか・・・
杞憂だったようで遠目にベードの姿を確認・・・ん?なんか乗ってる?
「ばぅ・・・」
「コココ。」
「えっと、なんだそいつ?」
ちょっと僕頭痛いよ、なんでベードの頭の上に丸々鶏が乗っているんだ?いや、いろが少し違うな、他の奴は茶色だけどこいつは赤色という感じがするし、丸っぽさが少ない。ほんとなんだこいつ?
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≪識別結果
ラウンドバーンチキン 危:F
火の力を持つ鶏、火を纏う体当たりだけでなく、口から火を吐くこともできる≫
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こいつ、資料で見た丸々鶏の変異種だな。まれにこの草原に現れるから、初心者は注意するようにってあったはずだ。
というかなんでそんなの連れてきたの?こいつは火の耐性を持つらしいから、火術メインの僕は苦手な相手なんだけど。
「きゅ・・・」
「ばぅばぅ!!」
あ、今のはなんとなくわかったぞ、レイトがまさか負けたのかといったんだと思う。そしてベードがまさか違いますよと首をぶんぶんと振ってるんだろう。
首を左右に振るのに合わせて鶏も揺れるけど、動じずに頭の上に鎮座してる。何者なのこいつ?
「で、ベードは僕にどうしてほしいんだ?」
「ばぅ!」
「コココ。」
うーん、さすがに鳴かれるだけじゃ。何を欲してるのかわからん。そう思ったら鶏は口を開くと、翼を口の中を指すように動かす。
「まさか飯がほしいのか?」
「ココ。」
うなずかれた、空腹なのか、なるほど。
「まさかベード、こいつが空腹で倒れてるのを助けたということか。」
「ば、ばぅ・・・」
小さくうなずいたようだ。うーんまぁベードが助けたいと思ったのならそれもいいか。問題はあるんだけれども。
「まぁわかった。それで何を食いたいんだ?たしかなんかのゲームでは種を餌にしてたような気がするんだが・・・」
「コココ。」
種という言葉に首を横に振った、違うのか。
「さすがにわからないな、どうすればいいんだ?」
「コ、コケ、コ・・・」
鶏が翼を口の前に出し、すごく小さな火を出して口の中に運ぼうとしたけれど、ぐったりとしたような感じで、その火を口には運べなかったようだ。
うーん、もしかして火がほしいのか?いやまさかな、でも一応やってみるか。とりあえずファイアボールを両手に包むように出してみる。
「コ!コココ!」
「お、おぉう!?」
鶏が興奮するように大きく口を開けると、僕の手のファイアボールから火が吸われていく。本当に火が食事だったのか。火耐性どころか吸収くらいなんじゃないかこいつ。
バスケボールほどの火球があっという間に吸い尽くされて、鶏も腹いっぱいといった感じに胸を膨らませて、何度もうなずいている。満足いったようで何よりで。
ベードもどこか安心したようなあきれたような表情だ、いったいこの短時間に何があったんだか。
そして満足げだった鶏がこちらを真剣な目でじっと見つめてくる、あ、この感じは・・・
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≪対象をテイムしました
ラウンドバーンチキン
名前を付けてください≫
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うーん、テイムですね、なるほど!ははは、まぁいいか。これでいつでも卵が手に入るのか?こいつは卵産むかの情報なしでわからんけど。
さて、名前、名前ね・・・バーンにしたいけどちょっとありきたりすぎる気もする。燃えるってことは炎の感じだろうからこうするか。
「よし、おまえはフレウドだ、問題ないか?」
「ココ。」
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≪個体名が確定しました
フレウド・アルイン
種:ラウンドバーンチキン≫
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「きゅ。」
「ココ?コッ!」
「ん?なんだ?おぉ!」
レイトが何か催促するようにフレウドに声をかけたら、少し力を入れたような感じの後にお尻付近を翼でごそごそとした後に、僕にと卵を差し出してきた。
こいつも卵を産めるんだな、まぁ無精卵なんだろう。とりあえず識別してみるか。
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≪識別結果
燃丸鶏の卵 質:3E
温かみのある卵だが無精卵のようだ、加熱調理の際は強火でないと半熟になる≫
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半熟になりやすいということか?よくわからないけど、丸々鶏の卵は質2Bだったから、比べたら全然いい品質だ。夜にでもいただこう。今はこれ以外に確認事項がある。
「よし、仲間になるならステータスを見せてもらうぞ?」
「コ。」
すごく簡素にうなずいたけど、まぁ大丈夫だろう。
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<キャラクター>
名:フレウド・アルイン
性:雄
種:ラウンドバーンチキン
<ステータス>
種:Lv22
命:2900/2900
魔:360/1260
力:91
技:108
速:154
知:257
秘:217
<スキル>
【転体Lv22】【炎魔法Lv5】【聖族言語Lv1】
<スペシャリティ>
【卵産】【炎食】
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おう、なんというか、何とも言えないちぐはぐな感じの奴だな。スキルも何もないといっていいんじゃないか?
魔のステータスがかなり減ってるのは多分さっきまでもっと減っていて、僕の炎で回復したとみるべきだな。
「結構消耗してるみたいだが、もっと火術でよければ食べるか?」
「ココ。」
首を横に振った、どうやら食事はもういいようだ、それよりも少し眠たそうな感じがする。
「おっと、寝る前にちょっとまってくれ。モイザの作ったこれがある。」
モイザ作の帯巻きだ。あまり長くないのは、モイザがいろいろ試行錯誤して作っている中の一つだからだ。これならフレウドの頭にちょうどいいと思う。
まず従魔契約の力をこめる。ベードの首輪に触れつつ、帯巻きに同じ力を入れる感覚をイメージ。
「コンフォームプルーフ。」
帯の一面に淡い黄色の光で文字が浮かび上がる。よし、うまくいったようだな。あとは文字が内側になるようにハチマキのように巻いてやれば完成だ。
赤い姿に白の鉢巻か、いいといえばいいんだけど・・・今度モイザに染色も習わせてみるといいかもしれない。
「よし、寝てていいぞ。ただし街のギルドにまで行くから、勝手に従魔登録するからな。」
「コ・・・」
そのままうなずくのと同時に寝てしまったようだ。というかベードの頭の上のままでいいのか?ベードも困惑気味だけど、仕方なしという感じか。
「まぁ自分で連れてきたんだからなしっかり面倒見ろよ?」
「ば、ばぅ・・・」
ベードがしょぼくれるようにうなだれても頭から落ちないフレウドをみて、ちょっとレイトみたいだなと思った。
鶏の名前ちょっと気に行ってない感じあるけど、使っていけば慣れるかな・・・