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冒険者ギルドに入ろう

 視界が開けた、まず目に見えたのは、真っ白なレンガのような壁と、10人は一気に通れそうな大きい扉。

 広い空間だけど、見渡しても特に何もなく壁ばかり。後ろにも振り向いてみる。

 頭上よりも高い位置に飾られた、真っ白な女性の像が台座に飾られている。背中から羽が生えているが、その像の顔の表情がつかめない。なんとなくだけれど、これは聖神イリハアーナ様の像なのだと思う。

 台座の下の手の位置にある段には、蝋燭やコスモスのような花がたくさん添えられている。台座の模様は古代のものなのだろうか、文字のようにも見えるけれど解読はできない。

 扉と蝋燭やコスモス以外はすべて白の空間に見とれていると、扉がギギギと開かれた。


「おや、いらっしゃいませ、来訪者の方、他の方々に比べてかなり遅いご到着ですね。」


「え、あ、はい、すいません。」


 白に金の文様が美しい衣装に身を包んだ男が扉から入ってきた。


「ふむ、ご挨拶させていただきますね、私この街の神官を務めさせていただいています。

 アール・グレンドと申すものです。よろしくお願いします。」


「はい、僕は来訪者のリュクス・アルインです。よろしく。」


 あぁ、やっぱり神官だったんだ。そんな雰囲気バリバリな住人だ。

 深々とお辞儀をしてきたけど、僕は目礼ですます。


「どうやら、あなたは今回の他の来訪者の方とは違うようですね。私に名を教えてくれた来訪者の方はあなたで二人目ですよ。」


「二人目?」


「えぇ、皆さんすぐに神殿からでて、向かいの冒険者ギルドにいってしまうのです。」


 うーん、そりゃ印象最悪だよなぁ、この感じだと通り過ぎていく人にもお辞儀してそうだし。


「まぁ仕方ないことなのですよ。

 来訪者の方は私たちとは違うというのは、神託でもうかがっていたことです。

 必要とする方にのみ神殿の機能について、説明するよう受けております。お聞きになりますか?」


 神殿の機能か、少しは知ってたほうがいいのかな。


「はい、お願いします。」


「では、神殿についてですが、神殿は必ず街ごとに一つ存在しています。

 来訪者の方は神殿で祈りをささげると、その地点が『復帰ポイント』になる、そう説明するよう伺っております。

 私たちは神殿で祈りをささげると、帰還石と呼ばれる魔詰石を使用した際に、最後に祈りをささげた神殿に転移します。なので、拠点としたい街の神殿に、皆さん祈りを捧げます。

 特別な地点となる力は、聖神イリハアーナ様の恩恵ですね。」


 おぉっと、こりゃ知ってて得をしたかもしれない。

 説明にはそんなこと書かれてなかったからね。

 まぁ誰かしらは見つけてるだろうから、攻略情報には載ってそうだけど。


「なるほど、ありがとうございます。あの、帰還石について伺ってもよろしいですか?」


「帰還石ですか、申し訳ありません。私は街から出ないので、使用したことがありません。

 冒険者ギルドで伺っていただくといいかと思います。」


「わかりました、では冒険者ギルドに向かってみようと思います。ありがとうございました。」


「いえいえ、聖神イリハアーナ様の恩恵がありますように。」


 また深々とまたお辞儀をしてきた、丁寧な人だ。

 神託による説明でもあるんだろうけど、神殿についても聞けたし、向かいにあるらしい冒険者ギルドに行くか。



 神殿から大通りに出て、ふと神殿のほうを振り返る。巨大な自然の壁に、神殿の門は埋まっていた。

 この壁は上空何メートルあるのだろう、とても上りたいとは思えない。

 どこまで続いているのだろうか、突き抜けるような大通りに沿って、土や石で固められたような自然の壁が続く。

 大通りの切れ目となっている、遠くに僕の5倍の高さはある石の壁があるが、その高さですら自然の壁の高さの前ではかすんで見える。

 あぁ、言っていいのだろうか、わかるよ、この壁はこの世界の境界線なんだろう。よし、気にしないことにしよう。

 大通りにまばらに行きかう人たちは、ほとんどがヒュム、時々ビスタの姿が見える。

 エルフとドワーフが見えないけど、彼らの中に僕と同じ来訪者はいるのだろうか。

 そんなことを思いつつ大通りを通り過ぎて、木造の横に巨大な建物、おそらく冒険者ギルドへと入る。



 見た目通りの中の広さだ。正面はカウンター、受け口が5つもあるが、どうやら今は一つの窓口だけしか空いていない。

 スキンヘッドの黒い革製のような鎧を着たおっさんが座っている。下を向いて、何か書き込んでいるようだ、書類整理かな。

 右側の壁には大きなボードが2つあり、そこにいくつか紙が張り出されている。

 入口より奥側のボードを数人が見ていることから、あれは依頼板なのだろう。手前のボードは5枚しかもう張られていない。


 左側の広いスペースに、8つの丸テーブル、テーブルごとに6つの背のない丸椅子が備わっている。

 すでに4つのテーブルの席が埋まっていて、何やら話しているようだ。

 すべてのテーブルに三角錐のオブジェが中心に置いてあるけど、人のいるテーブルの三角錐は青暗く光っている。おそらく情報漏れ防止のアイテムなんだろう。


 あの中で特に目立つのは、入口の一番近いところに座る体格のでかい赤髪の人だ。

 燃えるような赤の髪も、立てば二メートルは超えそうな体格も目立つが、特に背負った大剣に目が行く。簡素な革製の留め具で付けられているようで、刃の部分もむき出しで、その刃の部分も髪と同じ赤に染まっている。夕焼けのような赤なので、その色からは血を連想することはない。

 あれは美しいといえるだろう、とはいえじろじろ見るのはマナー違反だろう。

 カウンターのスキンヘッドも手元から目を上げて、こちらにしかめ面を見せている。

 まぁ彼しかいないので、彼のカウンター前に立つ。


「冒険者ギルドにようこそ、なんのようだ?」


「すいません、冒険者登録と戦闘指南を受けたいのですが、可能ですか?」


 疲れたような、やる気の感じない人だけど、こっちも同じ対応はよくない。


「ん、あんたやっぱり来訪者なのか、まったく登録ラッシュは終わったと思ったんだがな。」


 あぁ、だからこんな対応なのか。そりゃ5000人を5つの受付でやってたらパンクするだろう。


「どうやら僕で最後らしいですよ、聖神イリハアーナ様がそうおっしゃっていたので。」


 イリハアーナ様の名前使っちゃったけど、大丈夫だろうか。まぁ嘘はついてないからいいか。


「ほぉ、イリハアーナ様の名前出して、虚言をついたらまずいんだ。お前がどうにかなってないってことは、お前で終わりなのは嘘じゃねぇってことだな。」


 おぉっとさすが神様、やっぱ名前を使っての偽りは危険なんだな。


「まぁとにかくだ、冒険者登録からだな、ほらよ。」


 差し出されたのは真っ白な一枚のカード、手に取ってみて裏を見ても真っ白だ。


「置いてからもっと指押し当ててみろ。」


 言われるままにカードを置いて、白いカードに親指を押し付けた。


「いてっ。」


 チクリとした謎の痛みに、思わずカードから指を離した。何だったんだ、今の?

 白いカード、いや白だけだったカードの左上に文字が刻まれている。


----------

リュクス・アルイン

冒険者ランクH

----------


 それだけが書かれているけど、カードの大部分は白いままだ。


「おう、それで冒険者登録は終了だ、その証明の説明は聞くか?」


「え、あ、はい、お願いします。」


 うーん、すぐに飲み込めないけど、あのチクリとした痛みで、このカードに冒険者として登録されたのかな。


「あぁ、んじゃ教えてやる、さっきのでその証明にあんたの情報は登録された。

 あらゆる冒険者ギルドで、あんたの名前とランクは知られることになるぜ。」


 え、それって、個人情報駄々洩れじゃないか。


「ただ、来訪者ってのはそういうの知られるの嫌うんだろ。一応今ならキャンセルもできるからな。

 ただし、その情報はあくまでも生きてるかどうかってのと、犯罪してねぇかくらいにしか使われねぇ。

 まぁ、Aランクなんかの冒険者がギルド使って、その街の噂話の種になることは、しょうがねぇだろうな。」


 あぁ、それはしょうがないだろう。現実だって有名人が自分の街にいたら?

 そりゃ僕だって噂話の一つもしたくなるさ。その感覚と同じってことでいいんだよね?


「それは、しょうがないことですね。」


「まぁそういうのはあるかもしれねぇが、その証明はこの街から出るのには必須だぜ。

 出るときも、入る時も証明の提示は義務だ。行えないやつはすなわち犯罪者さ。」


 おぉう、もうそこから証明は必須といえるんだね。

 あぁでも来訪者の中にはひねくれたのもいるみたいだし、もしかしたら証明を持たずに犯罪者になったのもいたりして?・・・ほかの人のことは考えるのをやめよう。


「犯罪者にはなりたくないですね。」


「まぁ、普通はそうだろうな。だから街を出ようとするやつは証明をギルドで発行するんだ。まぁ、街を出ない連中は証明をつくらないけどな。

 この街に根付いてくらしてるやつは、外から来るものがなくても暮らしていけるからな。でも来訪者は違うんだろ?

 なんかよくわからないけど、王都目指してるそうじゃねぇか。だから面倒な説明なしに、まずは証明登録するんだよ。」


 あぁ、僕たちは異様だろうな、だからこうして無理にでも証明を作らせるのか。

 来訪者という名の犯罪者予備軍が、ぞろぞろと街に来て不安だったのだろう。


「まぁそれだけじゃないぞ、空白が多いだろう。そこにはいろいろと載せることができる。

 証明は他の奴に一目で見える情報だからな。


 例えば職を常に見せることで、パーティーを組みやすくなる。さらに、裏側にステータスやスキル一覧を載せるとかもできる。

 基本的なのだと、商業者ギルドに登録したときに商業者ランクの表示させたり、受けた依頼を表示させておいて、確認に使うこともできる。


 自分で何載せるか決めれるから、好きに変えるといい。ただし、その載せた内容は、ギルドにも共有されることを忘れるなよ。

 あとはあれか、証明にリラをこんな風に入れることもできる、入れたリラは証明から取り出したり、他の奴の証明に移したりもできるぜ」


 いびつな一円玉のような形の銅、多分あれが銅貨だ。それが彼の証明に吸い込まれていった。というか、いつの間に証明を出したんだ?


「リラの受け渡しは双方の同意が必要になるし、リラの入出金は登録者以外は行えない、証明を紛失することもない、自分から離れすぎると消えちまう。出すときは証明をだしたいと思えば出てくる、便利な道具だぜ。

 後一応言っておくと、死亡したら入金されてるリラはギルドに落ちる。どうやってとかは聞くなよ、ただ証明で生存確認はできるって言っただろ。死亡確認された場合は、即座にギルドが引き落とし、証明を破棄する。あぁ、でも来訪者は死んでも戻ってくるんだっけか?

 まぁ本来ならリラも装備も全部失うだろうから、戻ってくると知っていても、俺達ギルドには関係ない。全部ギルドの物になって証明も作り直しだ。」


 そこは説明にあった通り、育てた力は引き継ぐけれど、装備もお金も初めからか。

 でもほんと電子マネーみたいにも使えるのかこれ、便利だなぁ。


「まぁそんなとこだろ、なんか証明で聞きたいことあるか?」


「いえ、十分です。ありがとうございます。」


「ははは、礼がいえるだけ結構。最近じゃお前たち来訪者に限らず、冒険者だからって礼のない奴も多いからな、ただへりくだる必要はねぇ。ランク低いうちでも、俺たち冒険者はなめられたら終わりだからな。」


 おっと、ぼくの口調についてアドバイスしてくれたのかな。丁寧を心がけるより、いつも通りくらいがいいってことかな。でもあったばかりでくだけて話すのは苦手なんだよなぁ。


「ほんと、いろいろありがとうございます、それで、戦闘指南なんですけど。」


「おう、そうだったなとはいっても、あいつらじゃだめだろうしな・・・」


 彼がパーティー席のほうをちらりと見る、6人の4パーティー、どう見てもあれはレイドパーティーだろう、そこに僕が指南してくれなんて入っていく自信はない。

 さらにチラリとカウンターの逆側を見る。

 どうやら奥からカウンターに戻ってきていたようで、いつの間にか受付準備といわんばかりに何かを書いている女性が見える。


「まぁしょうがないな、他のも戻ってきたし、俺が行きますかね。」


 彼が立ち上がり、そのまま受け付け横のスイングドアから出てきた。そして証明を僕に見せてくる。


----------

ドーン・ウィオネル

冒険者ランク:C

歴:37

職:冒険教官

----------


「ドーンだ、よろしく。」


「リュクスです、よろしく。」


 ランクCってことは結構高いんじゃないのか?まぁきっと年相応なんだろう。


「職についてなんだが、自分の職は隠したいか?」


「うーん、とくには問題ないと思うんですけど。」


 テイマーって普通、ではないか、基礎の5職が普通っていってたし、でも少なからず魔物使いはいるよね?


「じゃあ教えてくれるか、それによってどこに行くか決めさせてもらう。」


「なるほど、僕の職業はテイマーです。」


「・・・すまん、なんだって?テイマー?」


 あ、もしかしなくてもなじみのない職業名だったかな。


「えぇっと、魔物使いというほうがわかりやすいですかね?」


「魔物使い・・・イメージはできるがあれとは違うのか?

 いや、わからないな、すまないが近接戦闘か遠隔戦闘、どちらなんだ?」


 あぁ、どうやらどちらも一般的ではないようで、というか、もしかしたらいないという可能性?

 いやいや、さすがにどこかほかの街にはいて、ここでは知られてないだけだよね。


「自身の戦闘力は高くないですが、メインは遠隔戦闘です、ただ近接戦闘の経験も積めるとありがたいですね。」


「ほぉ、おどろいた、どっちもやりたいとは。まぁやってみるだけやってみるか。戦闘力の自信はあまりなし、なら南兎平原だな、北門まで歩くぞ。」


「南兎平原なのに、北に行くんです?」


「あれお前はここが最南端の街だと聞いてないのか?

 この街の北にある平原だけどな、この大陸の一番南にある平原でもあるんだよ。」


 あぁ、そう言えばそうだった。本当にあの自然の壁は最南端の境界なのか。


「ごめんなさい。聞いてはいたんだけど、つい北に向かうといわれたので。」


「なるほどなぁ、まぁ慣れるしかない。俺でも別の街に行くと、少しの間は違和感感じるしなぁ、おまえら来訪者なら余計に違和感を感じるだろうな。」


 まぁ、そういう表現での違和感はおいおい慣れるしかないかな。


「んま、とにかく行くぞ。遅れずついて来いよ。」


「了解。」


 僕はドーンに連れられて、北にある南兎平原にと向かうのであった。


※変更 土壁→石や土でできた自然の壁


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