うまくいかないこともある
昼飯にと帰宅すると、部屋に肉の焼けるいい匂いが漂ってきていた。この匂いはいつも作ってる豚肉の匂いか。
料理スペースを見ればモイザが渡しておいた豚肉をフライパンで焼いている。器用にも糸で足とフライパンを固定しているけど、熱とかで糸溶けたりしてないのかな?白パンがサンド用の大きさに切り分けてあるので、どうやらサンドを作っておいてくれてるようだ。出来上がった料理用にと渡したポーチに詰めてくれているのかな。
ちょうど肉が焼きあがってサンドの片側にと乗せる、そしてマヨ瓶を器用に開けたら、近くのスプーンですくって肉の上に塗ってから、白パンを折り曲げてサンドした。
そこでこっちに気づいたようで、その出来立てを差し出された。せっかくなのでもらっておく。
モイザの作ったサンドには野草を塗してはなくて、マヨとしょうゆとパンというシンプルなものだ。でも作り立てだからか、それだけでもおいしく感じる。
「まぁでも、あんまりありすぎてもしょうがないし、これくらいでいいぞ。」
「――――。」
受け取ったポーチにはすでに26個も出来上がっている。そういえば肉焼いたのはこれが初めてじゃないのか?たしか渡そうとしても、何というか微妙な顔をしていたはずだ。扱えるようになったのは進化した影響かな?
素材用にと渡した豚肉入りポーチと野草入りポーチも渡そうとされたけど、とりあえずそのまま持っててもらうことにした。
モイザが脚立からのいたので、脚立は一旦どかさせてもらう。これも買っておいてよかったな。こうしてモイザが料理できたし。
さて、ではやってみますか豚足くんの処理。うまく料理できるかな、豚足なんて扱ったことはないけど。
野草みたいな感じで適当にやってもうまくいくかな?まずは鍋にでもかけてみようか。茹でれば食えそうな気がする。
沸騰した鍋の中で足一本を茹で始めると、あっという間にドロドロに溶けてなくなってしまった。蹄部分とか、骨とか、そういうのはないの・・・?
ちょっと茹で汁を識別してみたけど、茹で汁じゃなくって汚染された水になってるみたい。さすがにこりゃダメだわ。料理セットの一部に搭載されている廃棄口を開けて流し込んでおく。
どこでもない廃棄用区間につながっているらしく、DWDのトイレの廃棄先もその先らしい。まったく行きたくはないけど、どんな場所なんだとは思う。
さて、豚足茹でても駄目だったけど、どんな感じなのか一回識別してみるかね。
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≪識別結果
切り裂き豚の四つ足 質:1C
人には特に用途のないリッピングホグの足、煮ても焼いてもすべて溶け落ちる≫
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先に識別しておけばよかったなぁ・・・こりゃさすがにどうしようもない。というか貰ってこなきゃよかった。せめて土に植えれば肥料くらいにはなるんだよね?いや、ならないけどなんとなくで埋めてるだけの可能性もあるな。
しょうがない、残り799本の脚はすべて廃棄します。200ももらわずに10くらいにしておくんだったなぁ、端材についてはあんまり使わないように気を付けよう。
廃棄のために袋からどさどさと出してた豚足達を見てしまい、ちょっと気持ち悪くなる。見ないようにしよう・・・
散々な目にあったけど、汚染された水も人には特に用途のない水だったし、端材は全部こういう風に見えるんだろう。本当にこんなのの中に用途のあるものがごくまれにあるんだろうかね。
あぁ、そう言えばもう一個問題児がいたのを忘れてたよ、似たような文面だからこいつも駄目だろうな。
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≪識別結果
甘すぎる水 質:1B
甘すぎるため特に用途のない水、なにかを茹でた後のため温かい≫
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緑甘樹の実を皮を全部剥いてから茹でたらできちゃった水だ。何かに使えないかとずっととっておいたけど、無理だろうな。モイザもどこか残念そうな目で見てたけど、これも捨てておこう。こんな感じで素材が端材になることもあるってことだね。失敗料理みたいなもんだろうか。
まぁあんまり落ち込んでもしょうがないか、とりあえず料理の為にも今日はこの後ショッピングだ!露店周りと、できれば店を見て回ろう。
「僕は買い物に出かけてくる、モイザとベードは申し訳ないけどまた留守番で。モイザは料理セットは置いていくけど、料理はとりあえずなしで頼む。一応この袋にリンゴと豚肉入ってるから、食べたかったら食べてくれ。」
「ばぅ!」「――――。」
リンゴ20、豚肉20を小分けさせた小ポーチを机において、とりあえず出発。まずは中央に向かって何件かあった露天を見て歩こう、朝は見ないように必死だったからな。
この南の肉の街は歩く人々は南端の街よりもやはり多い、大通りならさすがに普通に歩けるけど、横目に狭そうな通りを見るとかなりごった返してる。近道とかあるかもしれないけど、基本は大通りあるこう・・・
人の多さに比べて、南端の街よりも露店の数は少ない。所々にちらほらと露店を出してる場所は見かけたけど、売り物は肉や野菜じゃなく、壺だの壁飾りだのそういうものばかりだ、人もあまりよりついている感じじゃない。
南端の街はそこら中に兎関係の露店があったのに、なんでこの街は露店少ないのだろう?むしろ南端の街が多いだけだのかな?あと可能性があるのは、大通りから所々に伸びてる人5人くらいが通れそうな横道。
馬車2台、いや3台は通れそうな大通りと比べたら、脇道と言えてしまうほどの広さだろう。あんな感じの道沿いに人がひしめいているようなので、そっちには露店があるのかもしれない。
でも僕はあぁいうところには正直行きたくない。人の流れがちゃんとしてればまだ平気だけど、ごみごみしすぎてて気持ち悪くなりそうだ。
「さて、どうするかね・・・」
思わずつぶやいてしまった。この街で食材になるようなのを買える良い店、もしくは商業者ギルド直轄の店はどこにあるのだろうか。
困ったら冒険者ギルド、と行きたいけど残念ながら冒険者ギルドの場所も知らない。探すにしても、もし冒険者ギルドが南端の街と作りが違うと、入り口開けっ放しじゃないかもしれないし。
なんだかんだ中央看板まで歩いてきちゃったけど、はてさてどうしたものかね。
「きゅ・・・」
「そんなあきれたような声出さないでくれよ・・・」
レイトにもやれやれといったような感じでため息のような鳴き声を出される。うん、さすがに僕も思った、ちょっと考えなしに行動しすぎた。
明日に宿屋の人に聞いてみよう、あの水晶で呼び出せば多分来てくれるだろう。今日はまぁいろいろ痛い目を見たということで、いったん帰ってゆったりするか。