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南の肉の街を目指す道

 南兎平原を進む日中は街道沿いを進んでいることもあって、景色を見るだけの道中になってしまったけど、夜になった今はだいぶ雰囲気が違う。

 まず遠目にだけど、そこら中に不気味な火の玉のような薄暗い光が見える。正直近寄りがたい光景だ、あれが前に聞いたレイスラビットのようだ。あんなのが見える中でのんきにテントを張ってなきゃいけないこっちの身になってほしい。テントの中に備えられてる明かりをつけることで忘れるしかない。

 寝るときのためにローブを脱げば、蜘蛛糸で作ってもらった新しいインナーになる、耐寒性もそこそこいいけど、ゴワゴワしすぎない、いい感じだ。つけてるのをじかに見ると、ちょっぴり窮屈に見えてしまう皮の腕あても外して、寝る準備は完了。旅中の睡眠はこの姿にローブをかけて寝る感じだ。


「頼むぞ、レイト、ベード、モイザ、僕は動けないからな。」


「きゅ。」「ばぅ。」「――――。」


 三人がしっかり返事してくれたので、安心してこのテント内で通算5回目のログアウトを行うことにする。えっと、振り返ってみると18日目ってところか?なんだかいろいろありすぎてこっちの日数を数えてないや。現実で30日間、こっちだと216日間ってとこか?それだけいられるんだからゆっくりやっていこう。ただできるだけ死なないようには注意しないとな。一週間できないと一気にきつくなる。この辺の魔物ならばベードとモイザでも余裕だろうから、しばらくは平気だろう。

 ログアウト後はいつも通り現実の飯と風呂を済ませておく、そういえばDWD内で風呂ってないな、インナーを脱ぐシステムが必要だからだろうか?それとも南端の街にはないだけかな?その辺も南の肉の街についたら調べよう。旅の間にもう一度ログアウトが必要なんだよな。

 ログイン後三人にそれぞれノビル、豚肉、リンゴを食べさせて、僕は甘めの木の実サンドを頬張りながら出発、ここからは3日間夜通し歩くことにするつもりだ。夜寝ないことによるペナルティは疲労回復がないことだ。命と魔のステータスである体力と体内魔素は食事と眠りによって回復するか、専用の丸薬とかポーションがいる。そんなものは持ってないので、身体的疲労感以外は問題なく動けるはずだ。

 そう考えながらゆったりと街道を歩く、時折馬車が僕の横を通過していくけど、かなり速いので御者が通り過ぎるときにこちらをちらっと見る程度だ。


「うーん、お前たちやっぱあっちのほうがよかったか?」


「ばぅ。」「――――。」


 ベードもモイザも顔を横に振ってるから大丈夫なのだろう。特にベードには僕の歩く速度に合わせてもらっててなんだか悪いかな。まぁレイトは僕の頭上だからあんま関係ないし、このまま気楽に進むとしますかね。

 街道沿いに1日夜通し歩いたけど、魔物の襲撃はなし。あってもレイスラビットだろうから平気だったと思うけど。明るくなったおかげで丘が見えてきた、あと4時間も歩けばあの丘まで行けそうだ。大体20時間も歩きどおし、イベントもなしだったけど意外と体の疲れはないな。

 さらに歩いて丘のふもとに到着、一番高い中心に家が何件かたってるのが遠目に見える、あれが集落だな、ここまで来ないと集落の影が見えないのもそういう仕様なんだろうな。そう思いつつ街道沿いに集落を目指した。そうして集落近くについたのが光と氷の刻だった。


「少し早いけどこの集落で昼を食べて出発するか。」


 一応三人に確認をとると、みんなうなずいてくれた。集落には街で見かけたような門兵のようなのはいない、そもそも門がないので誰でも通れそうだ。ただ、集落にいる人々からは、かなり奇異と恐怖の入り混じったような目で見られていたように思う。ちょっとどうしようか、ほとんどの人の目がモイザに向いていると思う。ベードとレイトは気配を消せるけど、モイザはそういうスキル持ってなかったもんな。


「うーん、やっぱここで食うのやめよう、通り抜けるぞ。」


 予定変更、集落の中心の街道をかなり早歩きで抜けてしまう。集落は広くはなく、1時間半ほどで抜けてしまう。昼にはそれぞれにいつものをあげつつ食べながら進むことに。集落内をもうちょっと見たかったが、あんな視線を感じるのは僕が居心地悪い。

 まぁそれもしょうがない、おそらく兵士の人があの集落にはいないのだろう。まったく見かけなかった。守ってもらえる存在がいない場所、普段魔物も見ないであろう聖域内、そこに現れる僕達というわけだ。不安がるのもわかる。

 丘を下り始めると、先のほうに広大な草原が広がっているのが見える。あれが教えてもらった切り裂き平原というところだろう。南兎平原や丘の大地よりも緑が濃いように見える。そこに向かい、まずは街にと息巻いてると、集落を出てから、先頭をそわそわと歩いてたベードが急に足を止め、東の森のほうを見つめ始めた。


「どうしたベード?」


「ぐぅ・・・」


 何かを訴えているようだけど、少し意思がわかりづらい。ここから東の森はちょうど二つの平原の中間にあたる場所だ。つまり危険度CかB級の孤高の狼の縄張りになるはずだ。


「まさかとは思うが、挑みたいのか?今の僕達ではレイト以外は足元にも及ばないと思うぞ。」


「きゅ。」


「ぐぅ・・・ばぅ!」


 まるでどうしたいと問うかのようなレイトの一鳴きに、顔を下げてたベードは強い意志で一鳴きし、こちらに顔を向けた。そうか、戦いたいということか。まじか、どうするべきか・・・いや、ここは意思を尊重してみよう。


「よし、じゃあ行ってみるが、もしレイトが危険だと判断したならそこまでにする。それでいいな?」


「ばぅ!」


「きゅ。」


「モイザはどうする?進化したとはいえ戦闘的な進化ではないからな、無理についてこなくてもいいぞ?」


「――――。」


 モイザも自分も行くのが当たり前だと言わんばかりに足で東側の森をさす。ならば決まりだな、街道から離れて聖域の丘を東に降りていく。そうして僕たちは孤高の狼の住む森の前まで足を進めた。


「きゅ。」


 レイトが僕の頭上から降りて、こちらを振り向く。どうやら先頭を務めてくれるようだ、心強い。レイトについて森の中へと足を踏み入れる。杖を両手で握り、いつでも戦闘準備はできている。ベードとモイザもいつもより背を低くして歩いてるようだ。レイトも緊張するような足取りでゆっくりと森を進んでいたが、急に立ち止まる。


「きゅ・・・」


「どうした、不機嫌そうな声を出して。」


 ここは少しレイトの声の意味が分かるように切り替えるか、まだ『是』『否』『ん』しかわからないけど。


「ここの狼の縄張りに入ったのか?」


『是。』


「そうか、しかしすぐに襲ってこないのはレイトのおかげかな?」


『否。』


 え、ちがうの?じゃあどうして襲ってこない?レイトがこちらに振り向くと、眉間にしわが寄ってとても不機嫌そうな顔に見えた。顔を動かしていいからついてこいと言わんばかりの感じだった。正直僕はよくわからないけど、とりあえずみんなでレイトについて、どんどん森の奥へ。

 そしてかなり奥にと入ったところで少し木がなく開けた場所になり、その真ん中には苔の生えたかなり大きな石があった。出てる部分だけで僕の身長より高さも幅もあるけど、一部は地面にも埋まっているようだ。ほんのりと光っても見えるその石を識別しようとしたら、うまく識別できなかった。


「なんだ、あれ・・・」


 その大きな石の影から、これまた大きな緑の毛の狼が現れる。石も見上げなくてはいけなかったが、この狼も見上げなくては顔を見ることができない。その姿から感じるのは威厳というべきものだろう。僕は思わず識別していた。


 -----------

≪識別結果

グレーターグリーンフォレストウルフ 脅:F

森の管理者と呼ばれる孤高の狼、他の狼と群れることはないが、この狼にとってその縄張りの木々が群れなのである

己の縄張りに侵入されることを嫌うため、その地に不要なものは即座にその爪に引き裂かれるであろう≫

 ----------


 脅ランクF・・・?危険度じゃなく脅威度ということか!?こいつ、もしかしてレイトより強いのか!?僕にこいつのステータスを見れるほどの技術があれば・・・いや、今はそれより僕達がなぜ殺されずにここまで来れているのか、そういう話になるのか。


『聖族、理解できるか?』


 なんだ!?今の声、聞いたことがない声、透き通るような美しい声、発せられた場所はわかる、この大きな狼からだ。僕は返答として小さくうなずいた。


『其の力、遠目よりみた。小さき狼を助けし力。』


 小さき狼を助けし力?あの愛でる手の癒しのことか。ここからじゃすごい遠くだったはずなのに、それを見ていたというのか・・・


『我が友、要石弱まり、朽ちしとき近し、癒せ。』


「要石・・・?」


 おそらくこの石のことか、朽ちる時が近いっていうのか?僕で直せるのかね・・・まぁやってみるだけやってみるか。石にそっと手をかざして癒しの力、ヒーリングハンドを意識する。淡い緑光が自分の手を包み、そこから光が石全体に飛び散っていく。これかなり魔素使うんだよな、なんというか力が一気に吸われる感じ。そして僕がこうやって力を流してると、石に張り付いていた苔がはがれていくけど、いいのこれ?


『我が友、癒されている。続けろ。』


 不安そうに見つめたのがわかったのか、続けるように催促された。まぁいいよ、僕なんかあなたからしたらひとひねりだもんね。こういうイベントもありだと思うし、続けてやろうじゃないの。

 意気込んだはよかったものの、石の苔が剥がれ落ちるころには日は暮れ、森は不気味なほど暗くなっていた、今の明かりは大きな狼だ、なんか淡く光っているのでその周囲くらいならばなんとか見える。僕は地べたにぐったりと座り込んで、少しうなだれていた。さすがに疲れたよ、ちょっとステ見たけど魔素はもう残り100を切っていた。


『我が友、癒された。礼を言う。』


 ----------

≪職レベルが3上がりました3ポイントを任意のステータスに振り分けてください≫

≪種レベルが1上がりました1ポイントを任意のステータスに振り分けてください≫

 ---------


 おぉう、アナウンス来たからテイムしちゃったかと一瞬焦っちゃったよ。しかし、なんか一気にレベル上がったな、なんでだ?まぁいいか、あとでステータスを確認すればわかるかな。とりあえずポイントは全部を魔につぎ込む。回復魔法もどきのこれに、こんなに魔素消耗するなら振っておいて損はないだろう。慣れたらもうちょっと消耗低くなったり回復量多くなったりするのかな?


『礼だ、弱き狼よ、こちらに。』


「ばぅ?」


 ベードが呼ばれて大きな狼にと近づく。すると狼からベードに淡い光の粒が流れ込んでいく。幻想的な風景に息をのんでみていると、ベードの体の周りが大きく光りだした。この光は見たことがある、モイザ達と同じ光だ、でも今度は大きさが全然違う。とてつもなく大きい・・・

 光がやむとそこには僕の背丈ほどの体格になったベードの姿があった。姿が違ってもベードとわかったのはなんとなくだった。漆黒の毛並みをたなびかせ凛々しくなった彼は思わず美しいと言いたくなる姿だ。


----------

名:べード・アルイン

性:雄

種:グレートディープナイトウルフ

<ステータス>

種:Lv9

命:23600/23600

魔:1040/1040

力:1045

技:1019

速:5005

知:392

秘:105

<スキル>

『牙Lv45』『爪Lv31』『聖族言語Lv3』『潜伏LV44』

『影術Lv4』『騎狼Lv1』

<スペシャリティ>

『夜隠』『夜影術』『大狼』

 ------------


 やっぱりグレートになったのか、そりゃこれだけの大きさだもんな、馬車馬と比べたら高さは同じくらいだと思うけど、横幅分に少し大きいかもしれない。ステータスもかなり上がったな、種族的に進化したんだろう。ナイトバイトからディープナイトに代わってるし。


『ん・・・』


『そういうな、聖族には必要だ、その狼に乗れる。与えし礼を生かせ。』


 不機嫌そうなレイトにそう返した緑の大狼は、歩いて石の後ろにいってしまった。やばい、こっちからもちゃんとあいさつ位しないと、と思って石の後ろに追いかけたが、すでにそこに狼の姿はなかった。あの巨体でもう気配がわからないのか、やっぱ脅威に位置付けられてるのはすごいな・・・僕たち戦闘態勢だったけど、多分襲われてたら全員死んでいただろう。ちょっと判断ミスだったかな。まぁこうして生きているのだから今回は良しとしよう。

 さて、伏せて乗ってほしそうにせかしているベードに乗りますかね。モイザも乗れそうかな?僕の後ろに乗って、糸で体を固定したようだ、器用だね。モイザが僕用にと、ベードの首輪と糸をつないで手綱代わりにしてもらった。しっかりつかんでも首輪が締まることはないようだ。これなら安心だな。それでは出発、目指すは北方面だ。


「で、ベードよ、北方面って言ってわかるか?」


「ばぅ!」


 眼下でうなずく、どうやら大丈夫のようだな、なら方向はベードに任せてしまうか。ダッっと駆け出すベード、速い、速すぎる!風が痛い!耳が痛い!


「少し、スピード、おとせっ!」


「ばぅ?」


 危うくベードに殺されるかと思った・・・ぐったりしつつ、スピード調整をしてもらいながらゆっくりベードへの騎乗に慣れていった。真夜中の森をベードを乗りこなすために過ごすとは、思いもしなかったな。


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