従魔たちの情報の価値
翌日、商業者ギルドの店で袋型ポーチ中と料理セットを購入。そのまますぐに自分の露店に顔を出しに行く。
道中ベードに目を向ける人も少なくなった気がする。多分ベードに慣れてくれたってことだよな。
露店にはモイザとレサキがいたのだけど、ポーチの受け渡しは後でな。早めに来たおかげでトレビス商長も、屋根建築の人もいなかったから、今のうちに色々済ませちゃわないと。
茹で緑甘樹の実と豚肉サンドがもう減ってる、夜に減ったのか?とりあえず昨日の夜のうちに作っておいた100個分の追加。さらにせっかくなので、兎肉サンドも100個作って置いた。
とりあえず様子見で150リラで設定、高すぎたらあとで変えよう。ほんとサンド作りまくりだな、それも白パンがいっぱいあるおかげだ。白パンは1つでサンド5個分に使えるから便利だ。結構横幅は大きく焼き上げられてるからな、この白パン。調味料も野草もかなりの量がある、しばらくは追加不要かな。兎肉は少なめだけど、また露店で購入すればいいもんね。露店作業が終わったところで、トレビス商長が20人を連れて到着した。
「お待たせしてしまいましたでしょうか、これから作業しますね。」
「いえ、大丈夫です、僕が早く来てしまっただけなので。作業員の方々もよろしくお願いします。」
「おぅ、商長からの直々の指名依頼をうけたからな。俺達20人と商長で2日でパパッと仕上げるぜ。それで、そっちの狼と蜘蛛があんたの従魔ってやつかい?」
作業員の一人がベードとモイザ、レサキを見ている。うーん、ちょっと怖いよね、やっぱり。
「そうです、僕の従魔たちですね。危害をくわえなければ各々動いてるだけなので、お気になさらずに。普通に言葉も理解しているので、邪魔な場合は退くように言ってください。」
「ばぅ。」
「――――。」
「おう、それなら助かるぜ、作業の邪魔なときは遠慮なく声かけるぜ。」
まぁ厳密にはもう一人いるんだけど、僕の頭上だし紹介は不要かな。
「私は指示係として作業しますので、少なからず時間もあります。それと、レイト様についてはご紹介なさらなくてよいので?」
「えぇっと、まぁ存在が希薄なやつなので、無理に紹介することはないかと。」
『ん。』
「ん?」
まただ、レイトから声が聞こえたような気がする、なんだろう?
「それもそうでしたね、やはり今も頭の上にいらっしゃるのですよね?」
「そうですね、今も頭上にいますよ、珍しく起きているようです。」
ほとんどスースーと寝息を立てているけど、話題になると起きるんだよな。
「頭の上にも従魔がいるのかい、まぁそこが居場所なら俺達には関係ないな。商長、さっそく予定通り始めちゃいますよ?」
「はい、こちらはスクーリ様と商談をしますので、始めてください。
スクーリ様、ここでは人が通るかと思いますので、南端へ行きましょう。」
「わかりました。作業員の方々、改めてよろしくお願いします。」
「おう、任せとけ、野郎どもやるぞ。」
作業員の人たちはさっそくポーチから様々な大きさの木材を取り出す。聖域が広がってできた広いスペースに資材置いちゃってるけどいいのか?あそこらへんは一応誰の所有でもない土地なんだよな?まぁトレビス商長が許可出してるんだからいいのか。とりあえず商談をするためにも移動しないとな。
・・・道中、リンゴの木が大体8メートルくらいに育っていた。リンゴが生ってはいないようだけど、モイザたちが食べたのか?トレビス商長に聞くと、この高さにまで育ったなったなら、明日には実が付くんじゃないかだそうだ。ついてきたモイザには自由に収穫して食べていいと伝えておいた。
南端の広い部分に移動したら、トレビス商長が椅子と机を出してくれた。これもポーチに入れてるときは、料理セットみたいに小さな四角だった。
すぐに座りたかったけど、レササが近寄ってきたので、僕は以前使っていた料理セットを広げてやる、脚立が一緒になってるからな。レササはさっそく脚立に上って茹で始める。
そのあと僕は広げてくれた椅子にと座ると、さっそく商談が始まった。
「さて、ここのあたりならば本来のお名前でも大丈夫ですね。今回ですが、最初にリュクス様より情報を買いたいと思います。
まずは前回、モイザ様のスキルの情報提供を感謝いたします。長年謎だったレッサーマザースパイーダーのみが糸玉を残さないといった件、あれについて、仮説ですが見当が付きました。マザーになる個体が、他のマザー個体からスキルを貸借し、糸玉を残さないためのスキルを習得するのですよね?」
「――――。」
トレビス商長がモイザに聞くように話すと、モイザはうなずいた。
「なるほど、これで確証が取れました、ありがとうございます。こちらの情報が確定されたため、かなりの額をお渡ししたいと思います。」
「え、なぜですか?」
「レッサーマザーといえどマザー系統に分類される種族です。そもそもマザー系統は自身の子たちとの連携戦闘に長けています。戦闘が劣勢だと判断すると、自身のみ逃避することもあります。
その際は子供たちが追わせないために盾になるそうです。
さらにマザー系統は死の際に自身の情報を消す力を持っています。このせいで、死体を識別しても情報が得にくいのです。なのでマザー系統の情報自体が貴重となります。
技術貸借の情報のおかげで、マザー系統の情報消去能力の説明が付きます。技術貸借は他のマザー系統も所持しているといえるでしょう。この貴重な情報は王都ですらも重宝されるでしょう。」
なるほど、そこまでの情報だったってことか。マザー系統の魔物の今まで謎とされてきた部分か・・・
それを料理に使っちゃっていいのだろうか?まぁモイザ達にやめるように言うつもりはないけど。楽しそうだし、ある程度は自由にやってほしい。
「わかりました、それだけの情報だったと認識して、報酬に関して受け取らせていただきます。」
「そういっていただけるとありがたいです。では続いてお聞きしたいのは、ベード様についてです。ベード様もレイト様ほどではないのですが、存在が希薄になっています。特に影を歩いているときに姿が認識しづらいです。何か心当たりはございますか?」
あれ、ベードがそんな風になってたのか、多分進化したからだろうな。僕は気が付かなかったな、普通にいるように思える。もしかしてもっと存在が希薄なレイトと付き合いが長いせいかな。
「それは種族が変わったからだと思います、進化したといって伝わりますかね?」
「進化されているのですか!気が付きませんでした。なんという種族に進化されたのですか?」
「ナイトバイトウルフですね。」
「ナイトバイトウルフ、危険度Eの魔物ですね。確か闇夜に隠れ、影に隠れ獲物を捕らえる魔物だったはずです。それで影に入った際に姿が認識しづらかったのですね。」
おう、ベードはそんな狼に進化したのか。伏せながらだけど、どこか誇らしげな顔をしている。
うーん、スキルに潜伏ってのがあったけど、それ系統なのかな?従魔が進化すると危険度がわからなくてきついな。従魔証のほうも勝手に進化対応してくれてるようだし。
「ナイトバイトウルフはこのあたりには生息していない魔物です。ですがこの森で進化したのであれば、ぜひ進化状況を知りたいのですが。」
「う、すいません、答えられないです。」
進化の現場には居合わせなかったし、僕は知らないんだよな。レイトなら知っているはずだけど、どうしようか。
「そうですか、それは残念です。この森で他にナイトバイトウルフが生まれる恐れがないかも答えられませんか?」
「う、うーん、その、答えられないというか、わからないというのが正しいですね。」
『否。』
「ん!?レイト?」
いつの間にかレイトが机の上に乗っていて、首を横に振った。いや、問題はそこじゃない、今レイトから『否』って聞こえたような。
「おや、レイト様は何かご存じで答えてくださるということですか?」
『是。』
うなずいたレイトからは『是』と聞こえた。ぜとひ、つまり肯定と否定の一文字ってことか?使い方あってるのかは知らないけど。
「えっと、どうやらそのようですね。あの、トレビス商長には今レイトが何か言ったように聞こえましたか?」
「えぇ、キュ、とかわいらしい声を上げていましたね。鳴き声の意味は分かりませんがうなずいていただいたので大丈夫ですよ。」
「そ、そうですか・・・」
『ん?』
こっちに振り向いて首をかしげているけど『ん』という風に聞こえた。多分僕だけがわかるってことは、魔物言語のスキルが影響してるな。
「大丈夫ですか、なにか不安面があれば言っていただいても。」
「いえ、大丈夫です、問題ありませんよ。」
今は言ってもしょうがない、とりあえずトレビス商長とレイトで話させよう。
「モイザとベードは飽きたら他行っててもいいんだぞ、この土地の中だけだけどな。」
「ばぅ。」
「――――。」
二人は僕の近くてずっと待機してくれるようだ。そして、今はまだ二人の言葉は理解できないか。
「ではレイト様、ベード様がナイトバイトウルフとなった経緯ですが・・・直接はお聞きできないのがすこし不便ですね。うなずくか、首を振るかでお答えいただきますね。」
『是。』
あぁ、ここからは長い問答が始まりそうだな。よほどじゃない限り静かに聞いてるか。
「ナイト、夜の名を冠するということは、夜に進化したのですか?」
『是。』
「バイトは確か噛むという意味ですね、牙を重点的に上げたのですか?」
『否。』
「違いますか、では何かほかのスキルが影響しているのですよね。」
『ん。』
あ、『ん』は肯定でも否定でもない言葉の時にそう聞こえるのかな。というかレイトも困っているようだな助け舟が必要かな。
「えっと、新しいスキルとして影術、潜伏を所持していました。またスペシャリティに夜隠、夜影術がありました。」
「情報ありがとうございます、では一つずつ確認します。進化条件に必要スキルに影術はありますか?」
『是。』
「潜伏はありますか?」
『是。』
「なるほど、どちらのスキルも条件のようですね。ではスペシャリティも一つずつ・・・」
『否。』
あ、先に首を振ったな、こいつ。
「どうやらスペシャリティは関係ないようですよ。」
「そのようですね、潜伏と影術ですか。インヴェードウルフは潜伏は使わない種族のはずです。
見かけた獲物はすべて襲うのが彼らですから。犬といい狼といい、東の魔物には困ります。実は東にいるはずの鹿の魔物の素材を入手できないので。」
「え、そんなのがいるんですか。」
初耳だな、まぁでもそういうのがいなきゃ飯がないもんな。ベードが何食って過ごしてたのかなんて考えてなかった。鹿肉より豚肉のほうがうまいんだろうな、弱い鹿なんだろうし。
「街付近では絶対見ることはできませんよ。かなり森の奥に生息しているらしいのですがね。そこに行くまでに犬や狼の邪魔が激しいのです。偵察があっという間にレッサードッグにやられる鹿を見たそうで、なんで全滅していないのか不思議なほどだったそうです。」
「そんなに弱いんですね、弱肉強食か・・・」
おそらく設定的に食われるためだけの生き物なんだろう。最底辺の魔物なんじゃないだろうか。
「おっと、話がそれてしまいましたね。潜伏はしない種族ですが、可能性はゼロじゃありません。
ですが影術に関しては不明なんですよね。もしかして、レイト様がご教授したのですか?」
『是。』
「ま、まさか他の魔物に術法を教えるほどとは思いませんでした・・・なるほど、それならこの周辺で新たな発生はまずないといえますね。お手数おかけしました、ベードさんについてはありがとうございます。ただ、申し訳ないのですが、このままもう少しお付き合いください。」
『ん。』
おっと、もうちょっと聞くことがあるのか。それにしても『是』とか『否』とか『ん』じゃなんかあれだな。できれば普段は「きゅ」のほうがいいんだけどな。言葉で聞きたいときにだけ意識すればいいように・・・
そうか!イメージすれば切り替えられるかな?とりあえず今は「きゅ」で聞こえてほしいとイメージ。
「では次は言語についてお聞きしたいのです。私たちの聖族言語についてかなり理解しているようですが、そちらはリュクス様の従魔になる前から理解していましたか?」
「きゅ?」
首をかしげているけど、肯定でも否定でもなかったのかな?ちゃんと鳴き声で聞こえてよかった。
ただ、この話は言葉で聞こえたほうがいいかも、切り替え切り替え。
「聞き方がよくなかったですかね。どのようにお聞きすればよいでしょうかね・・・」
「あ、それじゃあ僕が聞いてみますよ。」
ちょっとそこについては僕が思うところがあったので確認したい。
「わかりました、お任せして拝聴しておきます。」
「じゃあレイト、僕の考えを聞くからさっきと同じ感じで答えてくれ。まず、僕たちの使う聖族言語は言葉として理解しやすいけど、僕にテイムされるまでは完ぺきではなかったかな。」
『是。』
あぁ、やっぱりそうか。何となくは分かっても認識するスキルがなくって理解しきれてなかった。それなら納得がいく、さて次だ。
「聖族言語は言葉が多いから、理解はできるけど発音は難しい?」
『是。』
「魔物言語は言葉が少ないから発音はできるけど、僕たち聖族には理解が難しい?」
『是。』
あぁ、やっぱりそうか、今完全に理解した。レイトたちが聖族言語を覚えても、普通にしゃべれないのは、聖族言語をしゃべるというのが難しいんだ。でも言葉の意味は分かるから、聞く分には理解できる。
逆に僕は魔物言語があるけど、なかなか言語を理解できてない。それはほぼ単語ほどしか発音していない発音で、結構複雑な意味を持った言葉になるからなんじゃないだろうか。そしてもちろん、そんな複雑なのを僕がいえるはずはない。
今の僕の状態は英語でいうとイエス、ノーは聞こえる。他ななんて言ってるのか聞こえない。イエス、ノーより、相手は日本語がわかるので普通にしゃべるほうがいい。そんな感じなんじゃないかな。
「申し訳ありません、今の話は・・・」
「あ、すいません、ちょっとこっちの話が混ざってましたね。」
「いえ、大丈夫です。今の話だけでもほしい情報を得られましたので、私はそれまでで十分です。情報購入のお話は以上ですので、、次のお話に入らせていただきます」
あれ、聞いてくるかと思ったんだけど、引いてくれちゃったな。さて、情報売却の話は終わったなら、言語理解をオフにしておこう。多分そんな感じのスキルアーツだよね。
レイトも頭上にと戻ってきた、そこがお気に入りなんだね。さて、お金の話になるのかな、覚悟しないとな。
「大丈夫です、お願いします。」
「今回の3つの情報は非常に高額になってしまうため、金銭面でお渡しするのではなく、違うものをご提供するという形にします。」
なるほど、そうきたか、ということはこの屋根張りの費用ということかな。
「今回ご提供するものは一部地域の雨防止用屋根張り。それだけでは全く足りませんので、住居となる家。そして新たな土地として南東側の広がった土地です。」
「は?え?」
あ、思わず変な声出ちゃった。
「ご希望でしたら向かい側の土地も・・・」
「ご希望じゃないです、十二分です、ありがとうございます。」
「はい、では承諾いただいたということで、ここにサインを。」
トレビス商長の出した書類をちゃんと確認しておく。屋根建築、家建築、土地譲渡ね、他はないね?よし、大丈夫だな、裏にも何もない。
「サインはスクーリ様でお願いします。」
「う、了解です。」
書き始めようとしたらまさかの偽名指定。まぁいいよ、そっちで書いておきます。
「はい、承りました、このような形になってしまい申しわけありません。」
「いえ、大丈夫です、ちょっと多すぎて驚いてるくらいです。ちなみに、向かいには何ができるんですか?」
「向かいは今すでにある解体所を一度解体して広げる予定です。」
あの施設解体所だったのか、それにしては人の出入り少ないような。というか少ないのに広げちゃって平気なのか?
「解体所って結構な人数が使うんですか?」
「はい、私たち商業ギルドでは特に活用しております。私たちの建物の空間術式では建物内しか自由に行き来出来ない為、解体所に行くまでは徒歩になってしまいますが、大量の魔物の解体を行うならばやはり施設が必要ですからね。
一応どんな方でも利用できるのですが、冒険者の方はほとんど自身で解体してしまうので、大通り沿いを一見すると利用者は少ないように見えますね。大通りより北側の通路のほうが家も近いですから。」
なるほど、北側にも通路があって、そっちから人が入ってるのか。まぁ僕としてはそれでありがたい。そのまま広がってくれるなら、余計な心配はしなくていいかな。
というか何の気なしに門とか大通りとか見てたけど、昨日石壁だけだったのにもう門できてたな。そこまでの大通りもしっかり続いてた。もちろん南東の扉もちゃんとできてる。一体全体いつできたのやらだな。
「結構長くお話してしまったようですね。そろそろ昼食時ですよ、リュクス様はどうしますか?」
「そうですね、皆さんは持ち込みの食事があるんですよね?」
「作業員たちのことですか、彼らには露店で買うように伝えておきました。」
おぉう、まじか!それはちょっと申し訳ないぞ?
「え、えっと、僕が作って渡したら、まずいですかね?」
「構いませんが、リュクス様はお優しいのですね。では作業長に伝えてまいりますので、製作してお待ちください。すぐに作業できるよう、サンド系でお願いいたします。」
「わかりました。」
軽くお辞儀しあった後、トレビス商長が露店方面にと歩いて行った。僕は料理セットを用意して、サンドイッチ準備だ。ちょっと特別に豚肉と兎肉のダブルサンドにしてみるか。
どっちの肉も野草の風味にマヨとしょうゆもよくあう。そのうち器材があればホットサンドも作ってみたいな。
そろそろ人物紹介と世界設定その2とかを書きたいけど、
もうちょっとだけ進ませないときりがよくないんだよね。




