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蜘蛛達を連れて街中へ

 もう日の光はほとんどない。大通りの街灯が光を放ち始めている。闇の刻が近いってのに、なんだこのありさまは。


「ほんと、何これ・・・」


 敷地の中がノビルまみれ、あとレモングラスも。一体全体いつこうなったんだ?というか、あんな適当で増えるなよ!いや、さすがは雑草というところなのか・・・露店周りには生えてないことだけはよかった。

 なお、露店のサンドは売り切れていた。その補充は明日な!明日作って補充してやる!・・・いや、明日は先に蜘蛛たちのこと済ませたいな。

 レイトとベードの姿は見えない、夜通し戦闘するつもりだろうか。帰ってきてないのが不安にもなるが、レイトがいれば大丈夫なはずだ。なので僕はこのノビル達を片付ける!全部ポーチには入りきらなそうので、ノビルもレモングラスも露店に突っ込む。

 ノビルは1つ8リラ、レモングラスは15リラ、高いか?安すぎるのも問題と言われたし、とりあえずこれでいいか。

 特大ポーチの半分をノビルとレモングラスで埋めた後は、毟ったのをどんどん露店の展示ケースに入れていく。



 露店から遠いところから始めて何とか終了。一旦全撤去だ、土荒れ放題な感じ。

 とりあえず露店から離れたところから、緑甘樹の実を植えていく。埋めた土をなでて、大きくなれよ、なんてやってみつつ10ほど埋めておいた。森で見た木々の間隔くらいは離したから、多分大丈夫なはず。

 ノビルとレモングラスは明日にしよう、闇の刻からもう時間たってるだろ。下手したら日出でも見れるんじゃないだろうか、今の時間を見たくない。というか、今日は宿に帰ってログアウトだったな。




 ログインして、目が覚めると、光と水の刻だった。いつもは火の刻には起きるんだけど、遅くなっちゃったな。それでも昨日寝たのが闇の抱く刻だったから、6時間か。普通くらいだな、僕の現実の睡眠時間と変わらないと思う。

 すぐに蜘蛛たちのところに行ってやりたいんだが、料理だけは済ませておく。サンド110個分、なれたもので1時間たたずに完成だ。前よりも早くなった気がする、料理スキルのおかげなのかな。トレビス商長の裁縫もめっちゃ早かったもんな。



 南西の扉に行く前に鬼門となるのはこの人波だよね。タイミングを計っているとまた後ろから声をかけられた。


「ガハハッ!またか?」


「サンギリーさん、いつもタイミングよく話しかけてくれますね。」


「ん?気のせいだろ!」


 どこかからずっと僕みたいな通行人を見てるんじゃないかと、僕は思っちゃうよ。


「まぁ、通りたいのは事実です、いいですか?」


「おうよ!」


 サンギリーさんが通る道はやっぱり波が止まる。昨日の朝と同じように、みんなが挨拶をしている。


「サンギリーさんはここの責任者なんですか?」


「違うぞ?」


「そ、そうですか。」


「力自慢なだけだ!」


 うーん、もしかして採石で役に立ってるのかな?まぁこうして通行を手助けしてくれてるから、怖い人ってわけじゃないんだろう。


「ありがとうございます、またこれですが、どうぞ。」


 お礼としては不十分かもだけど、サンドを3枚渡しておく。


「おう!これうまかったぞ!お前が作ったのか?」


「そうですね、一応は僕が作ってます。」


 僕はまだ製作物自体に自分の名前を付けてない。製作物に名前を付ければ、識別したときに製作者の名前も見れるそうだ。有名になりたいとかなら必須だと、露店パンフで見た。

 製作物に名前が載るようにするには商業者ギルドに申請も必要だし、しばらくはなんか面倒だからいいかな、一応露店には偽名付けてるし。


「そうか!どっかで売ってるのか?」


「そうですね、数は多くないですけど東門のすぐ横で売ってますよ。」


 すぐ横、というほどの距離なのは間違いないだろう。門からあの露店がすぐ見える位置なのだから。


「そうか、あんま多くないのか。わかった!」


「ありがとうございました。それと、すぐに折り返すと思うんですけど、その際面倒ごとが起こりそうなので、良ければまたいいですか?」


 なんというか少し残念そうな雰囲気だったけど、なんだろうか。まぁそれは今気にしても仕方ない、それよりもこの後だな。21匹もの蜘蛛を連れて、冒険者ギルドに行かなきゃいけない。


「んん?まぁいいぞ!じゃあちとここにいるな!」


「ありがとうございます、なんかすいませんね。」


「良いってことだ!」


 サンギリーさんには悪いけど、絶対この人波じゃ問題になる。ここはせっかくできた縁だ、頼らせてもらおう。にかっと笑って軽く手を上げてくれるのを横目に、扉を出る。

 扉の大きさと開いてる時間的に、21匹はぎりぎりか。内側からもう一度あけることになるかもな。さて、蜘蛛たちはどこにいるかな。


「モイザたち、いるか?」


 ちょっと大きめに声を上げる。カサカサと森のほうから蜘蛛たちが出てくる、21匹全員いるようだ。


「よし、お前たちに従魔証を付ける、こんな感じのリングだ。脚につけるけど、嫌がるなよ?選ばせてやれなくてごめんな。」


 なんとなくだが、この20匹には初めにあんまり差があるとかわいそうだと思う。できるだけ平等に扱ってやるなら、こうして同じものをそろえるしかないからな。本当はいろいろ選ばせてやりたいんだけど、その時間もなかったしな。


「初めはモイザからだ、あとは名前つけた順に並んでくれ。」


「――――。」


 モイザからもどうやら言ってくれたようで、一列に並んでくれた。渡す順番だけはちょっと申し訳ない、我慢してくれな。モイザが右前脚をこちらに出してくる。

 その脚にトランプのダイアの形のついた糸指輪をはめる。体と密着するちょい手前まですっぽり入ってるけど、大きさはちょどいいようだ。ちらりとそのリングを見たけど、気に入ったかな?列から離れたけど、じっと見つめているようだ。

 まぁそれは置いといて、どんどんリングを付けていく。みんなモイザと同じくらいの位置で止めておく。モイザのはダイアがつぶれないように止めたんだけど、何となくお揃いで。・・・ふぅ、つけ終わったな、とりあえずこれでよし。


「よし、街中にお前らを連れていく。だけど、もしも町中に入りたくないやつがいたら言ってくれ。

 無理強いはするつもりはない。ただ、今付けたのがあれば基本、聖族人種からは襲われない。襲われたとしても反撃してかまわない、相手が悪いことになる。今の話はなんとなく理解できるか?」


「――――。」


 皆が一斉にうなずいたが、何か言ったような感じなのはモイザだけだ。もしかしたら他は機能的に発言ができないのかもしれないな。


「よし、理解できているんだな。じゃあ街中に入りたくないものは手を上げてくれ。」


 ・・・手、いや脚といったほうがよかったか?まぁとにかく誰も上げないので、みんなついてきてくれるのだろう。


「よし、それじゃあ入るが、無理に入ろうとするなよ。扉の大きさ的に3匹ずつくらいはいれるだろうが、途中で閉まりかけたらすぐに入るのを中断してくれ。そしたら内側から再度開けるから、そのあとに入ってきてくれ。入る順番は、また名前を付けた順でいいか?」


 みんながうなずいてくれたので、大丈夫だろう。よし、行くか、大所帯で街中へ。

 証明を水晶にかざしてまずは僕から入る。モイザと2匹が続き、その後ろから3匹ずつ入ってくる。


「戻ってきたな!で、なんだ!そいつらは!」


「僕の従魔たちなんです、危害は加えないでくださいね。」


 サンギリーさんに声をかけられたけど、他の作業員もぎょっとした目でこちらを見てる。

 うん、まぁこうなるよね、知ってた。モイザたちはどこ吹く風で、渋滞しないよううまくずれていってくれてる。


 統率の取れた行動を見て安心したのか、みんな作業に戻っていく。相変わらず時折こちらに目線は感じるけど、もうしょうがない。

 ここまでやっちゃったんだからな。おっと、扉が閉まってあと6匹が外のままだな、惜しかった。

 すぐにもう一度あけてやると、全員入ってこれた。よかったよかった、とりあえず扉につぶされるとかなくって。


「なるほどな!こりゃ騒ぎも起こる!よかったな!俺がいて!」


「本当に感謝していますよ、ありがとうございます。」


 サンギリーさんを先頭に歩き始める。後ろをちらっと見たけど、蜘蛛たちが通り過ぎるまで波を止めてくれてる。

 蜘蛛たちは3匹ずつの7列にきっちり統率の取れている。幅はとるけど、これなら見られる以上の問題は起きないかな。とりあえず採石洞窟分は抜けれたから、これで冒険者ギルドまであと3分の2というとこか。


「ガハハッ!すげぇ奴だな!知りあえたのも縁だ!名前は?」


「あ、えっと・・・スクーリです。」


「そうか!通るなら名を出せ!俺が出てくる!ガハハッ!」


 バシっと背中をたたかれたけど、ちょっと申し訳ないことをしたと思う。自分でもなんで偽名のほうを使ったのかはよくわからなかった。ただ、リュクスの名を出すべきじゃないと思った。

 サンギリーさんはいい人だけど、何かつっかえた部分があった。彼に対してではなかったと思う、多分違うところから。・・・そうか、蜘蛛の団体を連れた人物だ、噂はすぐに広がる。これだけの目撃者がいるんだもんな、あたりまえだ。無意識に嫌ったんだ、そんな噂の中心にリュクスの名前が広がるのを。

 スクーリなら一応偽名だ、広まっても僕にまっすぐはたどり着けないかも。そんなことを無意識に考えたんだろうな、僕は・・・使ってしまったものはしょうがない、ここでは僕はスクーリだ。


「はい、ありがとうございました。またこれですいませんが、一応お礼です。では冒険者ギルドに行くので、これで。」


「あぁ!じゃあな!」


 さらにサンドを6つ押し付けてからサンギリーさんと別れ、大通りを進む。採石の場所は人がすごく多いけど、南西の大通りだって普通に人通りがある。

 道行く人々に注目の的になってる自覚はある。でもそのおかげか、蜘蛛たちが通るためのスペース分道を空けてもらえてる。もうこの際、楽に進めると考えて急ぎ足で冒険者ギルドに行こう。



 冒険者ギルドに到着すると、受付にはクエルムさんのみ。他の冒険者の姿もないけど、クエルムさんは目を見開いていた。

 まぁそうだよな、こんなにぞろぞろ連れてたらそうなる。すれ違う人みんなそんな感じの目をしてたよ、うん。

 こちらが何を言うこともなく、ギルド長へどうぞと言われた。まさか虫嫌いだったか?だとしたら申し訳なかったな。

 そうしてギルド長室に入室。それほど広くないギルド長室に蜘蛛たちは入ってくる。うーん、ちょっと狭いな、ギルド長もさすがにしかめっ面だ。


「そなた、そなたは、くぅ、儂の見込みが甘かったか。西の森の話などするべきではなかったか・・・」


「えっと、なんか申し訳ありません。これ、お詫びになるかわからないですが、どうぞ。」


 差し出したのは切り分けて皿にのせておいた茹で緑甘樹の実。皮は僕が剥いたものだけど、思ってるよりうまく剥けたので、こうして茹でてもってきたのだ、迷惑かけるのは必然だったしね。

 ポーチから皿ごと出てくるのは不思議現象だけど、注意して出し入れすれば、皿上の物が落ちることはない。


「これは、茹で緑甘樹の実?あのクソ固い実の中身じゃと!?ふーむ、いい匂いじゃの。」


 そういって作業机に乗せた皿から、切り分けた一つをつまむ。口に入れた瞬間目を見開く、うん、いい反応だな。パクパクとあっという間に食べきってしまった、一つ分じゃ足りなかったか。


「美味しかったようで何よりです。またそのうちお買い上げください。」


「金をとるのか!・・・まぁよい。用件は、従魔登録じゃな、まぁよい、はよう始めよ。」


 皿をこちらに返してくれて、そこに一枚まっさらな紙を用意する。まぁ書き込まなきゃ覚えられないよなぁ。


「はい、では21匹分お願いしますね。まずは、種族はレッサーマザースパイダー。名前はモイザ・アルインです。」


 僕が名前を呼ぶと前足を上げてくれる。その脚の付け根には従魔証が付いていた。


「次に種族はレッサースパイダー。名前はレサキ・アルイン。」


 モイザと同じように従魔証のついた足を上げてくれる。それを見ながらギルド長が紙に書き込みをしている。そんな流れをあと19匹分行ったのだ。



 僕が以上ですといった後も、ギルド長は何やら黙って書き込みを続けていたので、僕も黙ってその姿を見ていた。


「・・・終わったぞ、まったく、こんな仕事初めてじゃわい。あれ一つでは割に合わんぞ。」


「う、うーん、そうは言われましてもね。」


 まぁ割には合わない仕事だよね、冗談も入ってるだろうけど。また何か料理作ってあげる感じになるのかな。なんて思ってたら蜘蛛たちが少し下がって、モイザにスペースを作っていた。そしてモイザがまた器用に体を丸めて、糸を足で絡め始める。そしてこぶし大ほどの大きさにして、僕に渡してきた。


「なるほど、どうやらこれがモイザたちの贈り物のようです。」


「ぬぅぅ!?おぬし、おぬしそれは、その・・・いや、もらっておこう、好意は受け取る主義じゃからの。これなら充分に割に合うわい。」


 何やらたくらむような顔をしてる、何となくわかるぞ。


「あ、トレビス商長には先に見せてしまってますよ。それで従魔証を作りましたからね。」


「ぬぅ!?儂はそんな、これで奴を脅かそうなどと考えておらぬ!」


「そうでしたか、それは申し訳ありません。」


 なるほど、意外とアーバーギルド長もわかりやすい。


「まぁよい、一つ教えておくとするかの。おそらく今日中には狼の討伐活動が終わるかの。

 終わった後は少し町が騒がしくなるはずじゃ。特に東門が騒がしくなると思うので、もし気になるのじゃったら離れておくとよい。」


「そうなんですか、でも東門の横の土地が僕の土地なので、蜘蛛たちはそこにいる予定なんですよね。」


 騒がしくなるのはちょっと予定外だったな。まぁ仕方ない、気になるようなら南東扉のほうの広いスペースにいることにしよう。


「ぬぅ!?あそこの土地を買ったのか!?おぬしはほんとうに起爆剤じゃな・・・おっとすまぬ、気を悪くせんでおくれよ。ということは、やはりあそこの露店はそなたのであったか。名が違う故に確信が持てなかったのじゃが、味が同じじゃったからの。」


「あれ、露店に来たんですか?」


「いや、討伐隊の一人が儂に買ってきてくれたのじゃ。限定数があってなかなか買えぬが、旨くてつまみやすいので重宝するそうじゃぞ。それと儂からのアドバイスじゃ、一人当たりの購入制限をかけておくように。」


「えっと、了解しました。」


 そういえばそんな機能もあったな、何か問題が発生したか?とりあえず今日この後つけに行こう、それで何とかなってほしい。


「それと、もしよければじゃが、茹で緑甘樹の実も売るように。」


 どうやらかなりお気に入りになったようだな。まぁ余裕があれば売ろうじゃないか、茹でるのは簡単だからな。


「余裕があったら売り出しておきますよ、その際はよろしくお願いします。では、いろいろと作業があるのでこれで。」


「うむ、こちらも作業に戻るとするかの。」


 ギルド長のところで結構な時間を使ってしまったな。まぁ従魔登録に時間かかるのは想定済みだったけど。日が高い、光の満つ刻といったところか。冒険者ギルドで時刻を見てくればよかったな。




 自分の土地について早々、なんだあれ。あそこは確か緑甘樹の実を埋めたところだよな?なんか腰を超えるほどの若木がはえてるんだが、まさかな。

 識別結果は緑甘樹の若木ですか、そうですか。DWDでの農業はこんなに成長の早いものなのか?まぁプレイヤーにとってはありがたいからいいけどさ。

 リアリティのあるとこと、ファンタジー全開のとこの差が激しいな。そういう仕様だと納得するしかないからまぁいい。若木よ、もっと育ち蜘蛛たちに栄養を与えてくれよ。

 そっと手を触れて、なんとなく励まし?を入れておく。ここの問題は終わり、次は露店だな。

 当然のように売り切れてるサンドに100を追加。一人一日5つまでの制限をかけて、値段も200リラにする。急な高騰だ、フハハ、これで買いあさらなくなるだろう。

 ふと思ったんだけど、証明のない人はこの水晶に直接硬貨を入れてるんだろうか?たしかパンフには証明がない人でも硬貨で買えるってあったんだよな。

 でも硬貨で買ってる人がもう一度並んでさらに5個買えるんじゃないか?うーん、証明ならば制限がかかりそうだけど、現金じゃわからんな。

 まぁそんな人がいないと信じよう、というかいないよな?僕が展示ケースにサンドを入れるとこをじっと見ていたモイザが急に体を丸める。

 なぜかまた糸玉を作り出したようで、バスケボールほどの大きさで作り上げた。その糸玉を器用に展示ケースにと入れ込んだ。


「おいおい、なんだモイザ、手伝ってくれるっていうのか?」


「――――。」


 うなずく、肯定のようだな。他の蜘蛛たちも続々と糸玉を作って、展示ケースに入れていく。


「ちょちょ、ありがたいんだけど、今から緑甘樹の実がほしいのか?」


「――――!」


 今度は首を横に振った、どうやら違うようだな。ただ手伝いたいだけか、それとも別の何かを求めてる?


「なんだ、昼飯にほしいのかと思ったぞ、じゃあなんだ?」


「――――。」


 どうやら、ちょっと違うようだな、そういう雰囲気じゃない。モイザが足を差し見つめる先にあるのは・・・


「リンゴの木か、あれがほしいのか?」


「――――。」


 うなずいたようだ、他の蜘蛛たちもうなずいている。まいったな、鞄に残る緑甘樹の実で済まそうと思ったんだけど。そういえば大通りの二つとなりの農家がリンゴの果樹園で露店も出してたな。


「よし、ちょっと売ってるか見てくる。その前にお前たちの糸に値段を付けるから待ってろよ。

 糸を作るのは自由にしてくれ、無理に作らなくていいぞ。ただ金にはなるから、できた金はお前たちにも使うだろうな。」


 こういっておけば多少はやる気出るかな?とりあえず劣蜘蛛の糸玉から値段付けだ。

 最低価格でも250だったか?なんか怖い言い方だったよな。しょうがない300、いや350リラを付けよう。売れなきゃ売れないでもいいさ、一応一人2個までの設定を付ける。今は数も少ないからな、もし余ってそうならもうちょっと考えよう。

 そして劣母蜘蛛の糸玉は最低でも倍だっけ?なんかもういいや、どんと1000リラを付けてやれ。売れなきゃその時考えればいいんだよな。物好きが買うかもしれないし、これでいいだろう。よし、リンゴを買いに行くか。

 東門への大通りは今は人が少ない、門近くは人がいないほどだ。昼時はここのあたりは人が少ないようだな。二つ先の農地まで3人くらいとしかすれ違わなかった。

 露店を見るとリンゴの実を発見。一つ54リラか、半端だし結構なお値段するんだな。でも僕の所持金はなんと130264リラ、購入制限の50まで買い込むよ。あとリンゴの苗木が売っていたのでそちらも制限上限の3つ購入。こっちはひとつ188リラ、なんということでしょう。残額127000リラ、奇跡かな?

 僕はこういう端数のない数字のほうが好きだからな、きれいなのはいい。何よりわかりやすいからな、端数があると分かりづらいんだよね。ルンルン気分で自分の土地に帰宅。

 蜘蛛たちはすることもなかったせいなのか、糸玉を作っていた・・・まぁいいや、勝手に入れてくれてるし、ありがたい。みんながひとしきり玉を作り終えたところで声をかける。


「お前ら、リンゴ買ってきたけど、すぐに食うのか?」


「――――!」


 一斉に集まってきた、とりあえずモイザから順に投げてやる。皮のついた丸のままだったけど、どういう反応するかな?モイザが初めにリンゴにと触肢を突き立てる。

 そのまま少しかじって、シャクシャクと食べ始めたようだ。緑甘樹の実のようにすする感じじゃないんだな。他の蜘蛛たちも食べ始めたようだ。僕もリンゴを一つ、皮ごとかじってみる。

 シャクっとしたいい歯ごたえ、ふむ酸味のほうが少し強いか?でも美味しいなこれ、そのまま食べれる。シャクシャクと僕が食べ終えるころには、蜘蛛たちも食べ終えたようだ。


「器用に芯を残してるな、適当に埋めといてくれって言って、できるのか?」


「――――。」


 首を横に振る、さすがに土堀能力はないか。くわを取り出して、適当に穴をあけて、僕の芯をそこに入れ込む。蜘蛛たちもまねるように入れてくれたので、とりあえず埋めておく。

 まぁ、土中で肥料になるよな?次に苗木を取り出して植えておく。

 膝ほどまですでに育っている苗木が元気に育ち、緑甘樹のように蜘蛛たちに栄養を与えてくれるといいな。頑張ってくれよと軽くつついておく。


「とりあえずお前たちはここで待機してもらうぞ、問題ないか?」


「――――。」


 うなずいてくれる、大丈夫そうだな。


「よかった、そこの柵と壁には直接糸を這わせたりするなよ。なんか巣作りが必要だったら今うなずいてくれ。すぐには小さい柵くらいしかないけど何とか作ってみるぞ。」


 うなずいたので、とりあえずでも巣を張る場所がほしい感じかな。じゃあ早速この自動柵生成の杭を使ってみるか。


「なら離れててくれ、危ないからな。」


 結構広い範囲になるように杭を打ち付けてみる。膝と腰の間くらいの高さまで打ち付けると、それ以上は刺さらないようだ。

 四方に打ち付けた杭のでっぱりをそれぞれの杭に向くようにすると、杭と杭の間から、うねうねと木の棒が生え始める。

 杭と同じ高さまで伸びると、棒同士に木が伸び始める。そんな風景を見てたら結構早くに柵に囲われた場所が完成した。超えられなくはないけど、ちょっと高くないかこれ。


「まぁいいや、こんなもんでいいか?内側にもう一つくらい柵必要か?」


「――――。」


 首を横に振ってるということは、こんなもんでいいってことかな。モイザがほかの蜘蛛たちに足で指示を出し始めると、できた柵の中にさっそく糸を這わせ始めたようだ。

 これで巣ができるんだろう、新しい住処にしてくれればそれでいい。そういえば雨を見ていないが、雨が降るのであれば屋根とかもつけてやりたいな。


「さて、僕は料理の続きをしに宿に戻るぞ。緑甘樹の実の蔕取りに時間かかりそうだからな。」


「――――!」


 モイザにそういうと、何かを伝えるように首を横に振る。なんだ、どうしたいんだかちょっとわかりづらいな。

 うーん、とりあえず緑甘樹の実を取り出してみる。そうするとモイザがそれを欲するように足を動かす。


「なんだ、これも食いたかったのか?なら今蔕取ってやるよ。」


「――――!」


「なんだ、ちがうのか?そのまま渡せってことか。」


 否定の首振りだったので、よくわからないけどそのまま渡してみる。そうするとその木の実の蔕に器用に糸を巻き付け始める。

 そして足で木の実を固定、触肢で糸の撒かれた蔕部分を掴む。そこから器用に足で木の実を回していくと、なんということだろうか。

 蔕の部分とともに皮が少し取れている。僕が剥いたときほどじゃないけど、これならば刃を通せる。というか、一つ疑問。


「おいおい、こんなことできるなら僕がやる必要ないじゃないか。」


「――――!」


 首を横に振って否定する、そして僕のことを足でさす。んん、僕のおかげってことに感じるな、どういうことだ?そうだ、ステータスを見ればなんでかわかるかな?


「ステータスを見るぞ、いいな?」


「――――。」


 よし、大丈夫のようだな、どれどれ。


------------

<キャラクター>

名:モイザ・アルイン

性:雌

種:レッサーマザースパイダー

<ステータス>

種:Lv29

命:5100/5100

魔:210/210

力:55

技:892

速:98

知:55

秘:11

<スキル>

【操糸Lv71】【牙Lv30】【毒生成Lv30】【統制指示LV58】

【分担指示Lv12】【聖族言語Lv1】

<スペシャリティ>

【技術貸借】【分体生命創造】

------------


 おぅ、結構お強いですねモイザさん。特に操糸というスキルが高いな、さすが蜘蛛といったところか。統率指示も高いな、いろいろ命令してるからなんだろう。

 んで、問題は多分これだな、スペシャリティの技術貸借というやつだ。ちゃんと能力がわかるわけじゃないけど、文字通りならば・・・


「技術貸借というやつで僕から技術を借りた、ということか?」


「――――。」


 うなずいて肯定か。なるほどこのスペシャリティすさまじいな、人のスキルを借りれるのか。

 さすがに無制限ではないだろうな、僕がテイムしたからだろう。それとおそらくそこの子分たちのも行けるはずだ。


「まぁ僕のスキルなら無断に使ってくれて構わない。何か困ったなら使ってくれていいぞ。というかまさか、これの蔕剥きを手伝ってくれるという話か。」


「――――。」


 うなずいて肯定してくれると、さらに5匹横に並ぶ。そうか、貸借だから借りるだけじゃなく又貸しができるのか。うーん、宿でやるより早そうだな。


「よし、みんなどんどんやってくれ、僕はここで茹でる。」


 今はちょうど柵の作業で移動したおかげで東門からは遠い位置、南東扉のほうの広いスペースにいる。ここなら茹でてもそれほど問題にはならないはずだ、多分。

 モイザたちには残った緑甘樹の実を73個を渡しておく。みんなモイザにならって蔕を取り始めてくれる。

 僕は料理セットを広げて、さっそくモイザが蔕取りしたのを茹でる。皮を取ってから茹でるより、このほうがおいしいんだよね。

 ギルド長にもって行く分に剥ききって作ろうとしたら、失敗してしまって、鍋の中が甘い茹で汁になった。

 それはそれで使い道がありそうだったんで、鍋ごと封印中。これは別の鍋なのである、セットの鍋が2つあってほんとよかったよ。

 ただ、こっちの鍋は厚底鍋、小さい鍋じゃない。水の量を多くできるから、一気に茹でるにはこれのほうがいいんだろうけどね。

 沸騰を確認、火を弱めて茹で始める。一度失敗してからは、しっかりおたまで確認しながらのゆで上げだ。・・・うーん、このくらいかな、鍋から掬い上げよう。


 ----------

≪識別結果

 茹で緑甘樹の実 質:2B

 皮が付いたまま茹で上げられた緑甘樹の実

 熱により中身の甘さが和らいでいるが、外皮は固くなっている≫

 ----------


 うん、ちゃんと出来上がったな。こうして茹でると外皮は確かに硬くなるのだが、内側からは逆に刃を入れやすくなる。

 切り込みさえ入れてしまえば、そこからは不思議なほど簡単に手で剥けてしまう。でも外皮は堅いので、そちらからは手をつけれない。不思議木の実過ぎるよ、ファンタジーすぎる。

 もうこういうものだと思うしかないんだけど、いまいち慣れないな。まぁまだ2回目だしな、しょうがない。

 そこでローブがぐいぐいと引っ張られていることに気が付く。振り向くとモイザがローブを引っ張っていたようだ。

 まさかもう木の実が剥き終わったのかとみてみたが、モイザは3つほど剥いて持ってきていたようだ。


「なんだ、これをすぐに作ってってことか?ならこれ食うか?」


「――――。」


 差し出した茹で緑甘樹の前にしたモイザから、一瞬じゅるりという音が聞こえた錯覚がしたが、首を横に振った。こんどはなんだっていうんだ・・・まさか!


「おい、まさかと思うが、今度は料理をしてみたいのか?」


「――――!」


 3度もうなずいて肯定してくる。おぅ、まじですか。


「ちょ、ちょっと待ってろ、確かいいものがあったはずだ。それまでこれでも食ってろ。」


 茹で緑甘樹の実を食べたそうには感じたので渡しておく。そして僕は露店横まで走る、そこに目的のものがあるからだ。置いてあるのは木製の脚立だ、しかも頂上が結構広いタイプ。

 多分モイザも乗れるほど広い、なんでこんなものが置いてあるのかって?知らん、トレビス商長に聞いてくれ、犯人候補は彼女だけだ。

 おそらく果樹ができたときの採取用にだと思うんだけど、今は必要もないので目に入れないようにしていた。まぁモイザが希望してるなら、いろいろやらせてみようと思う。なんせそのほうがおもしろいからだ!

 ポーチにも入れずにそれを鍋前に運ぶ。僕の胸ほどの高さのあるこの脚立からなら、ちょうど鍋の中がモイザには見えるだろう。

 喜ぶようにモイザが脚立にと昇っていく。傍らには皮の残骸があったので、食べたは食べたらしい。左足の一つずつに器用に3つの木の実をもってだ、すごいシュール。

 おたまを前足でつかもうとしてるが、さすがに無理だろう。そう思ってると、おたまの持ち手にある穴にと脚を突っ込んだ。器用に鍋からおたまを何度も出し入れしてる。そして鍋の中に木の実をほぼ同時に投入、まじか。

 好奇心からちょっと鍋の中を覗いてみる。一つの木の実をおたまで何度かつついているようだな。モイザの目は真剣そのもので、ジッと鍋の中を見つめている。

 ・・・僕が茹で上げたのと同じくらいの時間だったはずだが、とても長く感じる緊張感のある時間、そう思った。

 茹で上げの時は瞬時で、そっと鍋横に置いておいた皿に、しっかり湯切りしてから置いていく、こりゃ一つの皿に3つが限界だな。出来上がったのを見ると、質2Cと出ている、さすがに少し劣化したか。

 でも十二分な成果だと思う、モイザすごいな、万能かな?いや、これも僕からスキルを借りているのか、料理のスキルだよな。うーん、こうしてスキルを借りて使うのが好きなのか?それとも別の目的があるのだろうか。

 モイザは自分の茹でた木の実を見た後、蔕取りしていた一匹、レササのほうに向いて指示を出す。

 正直一気に名前を付けたので、識別しないと名前がわかりません。ほんと、みんなごめんな、従魔登録すんだら従魔証で名前分かるから。


------------

<キャラクター>

名:レササ・アルイン

性:雌

種:レッサースパイダー

<ステータス>

種:Lv10

命:900/900

魔:10/10

力:31

技:174

速:41

知:22

秘:1

<スキル>

【操糸Lv21】【牙Lv5】【聖族言語Lv1】

<スペシャリティ>

 なし

------------


 そう、ステータス見えちゃったんだよ、なんかごめんな。


「すまんなレササ、許可も取らずステータスを見た。」


 声をかけたが、首を傾げられた。うーん、気にも留めてないって感じだな、よかった。そしてレササは皿を器用に持つと、露店のほうにと歩いて行った。・・・ん?まさか!


「おいちょっと待ってくれ、それ値段登録する必要あるから!というか切れ目入れたほうがいいはずで、ってもうあんなとこに!あぁ、追いかけるしかないか・・・モイザ、この机のここをたたくとさっきのとこに皿が出てくる。この数なら多分3つづつ乗せれば残りの皿で平気のはずだ!」


 レササは結構離れちゃったし、モイザはいつの間にかまた茹で始めてるし。実はちょっと前まで知らなかった皿出し機能を伝えてレササを追った。

 何とか露店のところで合流、おかしい、僕のほうが速のステは高いぞ?焦ったせいなのだろうか、まぁいいや。レササが茹で緑甘樹の実を展示ケースに入れていく。

 うーん、これ追記説明入れておけばいいか。蔕のない部分から刃を入れて皮を剥いてください、でいいか。こういう機能もあるのは便利だよな、ほんと。これは、一人一つにしておくか、あんま数を持ってないし。

 値段は、蔕剥いただけで200って言われたんだっけ?もう300でいいや、うん。レササが皿を持って戻るようなので、ついて戻る。戻ったら、すでに新しく2皿分出来上がっている。


「ここに皿を入れるんだ、そうすれば後でまた使える。」


 皿補充用の口を開けたら、そこにレササが皿を入れてくれた。そして3つずつ乗った2皿をもって、露店のほうにとまた歩いていく。ルーチン出来上がってるな、後ろの3匹もせっせと蔕を取っている。

 料理はモイザが担当し続けてるようだ、なんでだろうか。蔕取りを他にやらせたのにな、まさか料理にはまったのか?

 うーん、モイザは20匹の母なんだよな多分、そのせいなのかな?わからん、まぁいいや、僕は隣のコンロでサンドを作るよ。もしかしたらその間のベードとレイトが帰ってくるかもしれないしね。

万能お母さん(˘ω˘)


もうちょっとしたらサブストーリーを流す予定です

そこでどこまでふれようかな。

風呂敷広げすぎて回収できなくならないようにします。


※追記

いつの間にかブックマーク数2000超えてました、ありがとうございます!

1000の時もいつの間にか過ぎていて言えなかったので、

人によっては半端な数字と思うかもですがありがとうございます!

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