対決イギルガブラグ
僕の前にいたイギルガブラグの上半身の姿が消えて、代わりに僕とほぼ同じくらいの背になった、今度はちゃんと下半身まであるイギルガブラグが現れた。
ただ、何も身につけていないのがちょっと気になる。下半身も真っ黒な毛で覆われてて危ないものが見えたりはしてないけど。
「そいつがお前に戦ってもらう今回の俺様の分身体だ。大体実際の俺の1000分の1くらいの強さか?どこまで戦えるか見せてもらおうじゃねぇか。もし勝てたなら、願いの一つでも聞いてやるよ。」
目の前の分身体も口を開いているけど、聞こえてくるのはそこからじゃなくこの空間のすごく奥の方からな感じがした。
「願いをかなえようってやつですか・・・」
「まぁ勝てたらの話だぜ?まずはそっちから来いよ?」
今度は分身体からちゃんと声が聞こえてきた。そして僕に手招きまでしてる。先に攻撃して来いってことか、結構舐められてるな・・・
まぁ相手は神なんだからその余裕も当然なのかもしれない。なら今一番威力のあるだろうこの技を打ち込んでみるしかない。
「スペースエリアコントロール、ディメンジョン、ブレイク!」
「おぉ、空間断裂撃!しょっぱなからこれを打ってくるとはな!だが・・・」
イギルガブラグは僕から放たれたしっかりとは目に見えないけど、空間が裂けていくような斬撃波を、右手でいとも簡単に振り払ってしまったようだ。
「うっそ!?」
「残念だな、もう少し威力があるかと思っていたんだけどな・・・」
そんないかにも残念そうな顔されても困る。最大威力ってわけではないけど結構しっかり魔素を込めて打ったつもりなんだけどな。
「それじゃあ今度はこっちからいくぜ?ディメンジョンブレイク!」
「いっ!?ヘイスト、ショートテレポート!」
イギルガブラグが放ったディメンジョンブレイクは僕の技が幼稚に見えるほどしっかりと目視できて、それでいて斬撃波の大きさも倍以上はあるし、早さも倍ほどあった。
無理やりヘイストでテレポートする速度を速めていなければ避けきれたかすら怪しい。振り返るともう空間の奥の方にと消えていってたけど、かすりでもしたら重傷だったんじゃないかあれ?
「おっ、避けられたか。ちょっと意外だったな、ならもう少し楽しめそうか?」
「こ、これ以上は勘弁してください!」
「駄目だな、俺の分体が倒れるか、お前が倒れるまでだぜ?この分体が死んでも俺様には何の影響もないし、お前だってもし死んじまっても、さっき言ったようにすぐに生き返らせてやるよ。他のやつが死んだときに長々と休ませるのは精神への影響がないようにする救済処置だからな。お前ほどのやつなら平気だと思うぜ?」
「だと思うで殺そうとしないでください!?」
「殺すつもりではやってねぇよ。いっただろ?俺は戦いを楽しみたいだけなんだよ!クロスディメンジョンブレイク!」
さっき真上に避けたのを見てたのか、今度は十字型に放ってきやがったよ!まだヘイストは切れてない、すぐにショートテレポートで当たらそうな位置にと転移する。
しかしテレポートしたはずの斜め上の真正面に、さらにばつの字に放たれたディメンジョンブレイクが迫っていた。
「っ!ショートテレポート!!」
とっさに再度テレポートを使えたから何とか避けれた?いや、少しかすったようだ。振り返ったら腰につけてた杖の根元が落ちてる。腰の杖は8分ほどの長さになってしまっていた。
「ほぉ、今のよけきるとは思わなかったぜ?ほとんど猶予は与えなかったつもりなんだけどな?」
「っ・・・」
どう戦えばいいんだ?こんなのポンポン出してこられたらいつかは避けきれなくなる。僕の技だってあっけなく切り払われた。
いや、でもやるしか道はないのか。そう向こうだって言ってたんだし、多少なりとも死ぬくらいの覚悟でやらないとな。黒竜の時以上の絶望だけど、あのときだって死ぬ気で向かっていけたんだ。そう、それは一重に・・・
「生き返れるって言っても、できれば死にたくないよな。負けたりしたらレイトもベードもモイザもネティスも、僕の家で待つ従魔達にも顔向けできないもんな。」
「やっといい目になったじゃねぇか。黒に挑んだ時のような目によ。」
「・・・いきます。」
「よし来い。今の状態でもう一発撃ち込ませてやる。」
今出せる全力を出すんだ。ヘイストは切れるたびにかけなおす、ずっとかけてなきゃ多分対応しきれない。気持ち悪くなるとかそんなのよりも、せっかくなら勝ちたい。
そう思うと体中から力があふれてくる。血液というより魔素が体中を駆け巡ってるようだ。それと同時に頭の中に一つの技のイメージか流れてくる。右手をぎゅっと握りそのまま空間を殴りつける!
「ディメンジョンインパクト!」
「!?」
瞬間的にイギルガブラグの体が少し宙に浮く。ただ普通に両足のみで着地すると、少しだけ腹をさすっている。そしてこちらを見てにやりと笑った。やばい、くる!
「・・・なるほどな。ディメンジョンインパクト。」
「ショートテレ、ぐはっ!?」
頭がちかちかする。おなかがめちゃくちゃ痛い。宙に吹っ飛ばされながらぼーっとそんなことを考えて居た。そして僕の体は闇に覆われた地面と言えるか怪しいところにとたたきつけられた。