帰還
『お前さんが、転移使えるとか、聞いてねぇよ!卑怯だぞ!』
「え?だってなに使ってもいいって言ったのはそっちじゃん・・・」
僕の転移ゲートに入るわけにもいかずに、走って王都の壁まで来たようだ。合流できたのは僕が適当に門からかなり離れたところに向こうから走ってきてくれたからだけど少し息が上がってるようだ。
『た、確かにそうは言ったがな、さすがにこれは、ひどいんじゃねぇか?』
「でも街の壁に先着いたのだって僕だし・・・」
『そりゃそうだろ!あそこからどれだけかかると思ってるんだよ!』
彼の言う通り、今は日が一度落ちて上った直後な時間なわけで、競争開始したのは光と空の刻は過ぎたころだったから、8刻ほどでついたってことか。それでも十二分に速すぎると思うけど。
僕はというと1刻ほどで現在地には着いてたから、夜の間も一応寝ないでスキル練習したり夕飯食べたりしてたわけだ。もちろん従魔のみんなは僕についてきたから一緒に待ってたけど、フレウドとネティスは途中で寝てたな。
『往生際の悪い。己はお前に負けた時すぐに引き下がったぞ。』
『ちっ!いやまぁ、確かにミーの負けは負けだな・・・認めてやるよ。雷兎、いや今はレイトだったか。お前さんが従魔になったのもなんとなくわかるぜ。』
「ありがとう。これで四魔帝全員に認められたことになるのか。えっと、この後イギルガブラグと戦うことになるらしいんだけど、どうすればいいんだろう?」
『悪いがミーは知らん。おそらくそのうち呼び出し食らうから、今のうち準備進めといたらどうだ?』
「呼び出しを食らう?」
『お前さんの空間術みたいなもんさ。どこにいようが勝手にあの方の空間に呼び出される。四魔帝になって面倒だったのはあれだったからな・・・』
な、なるほど、お構いなしにまさしく呼び出されるってわけか。ただ今すぐってわけではないようだ。もしかしたらこっちの準備を待ってくれてるんだろうか?
『はー、とりあえずミーは帰るわ。・・・今度はまともにレースしようぜ?』
「だってよベード。」
『えっ!?俺ですか!?』
『リュクス、お前と競争したいという意味だと思うぞ。それにベードよりも己単体の方がまだ速い。こやつではベードでは不足だろう。』
「え?僕とやるの?四足と二足じゃ速さが違いすぎるよ・・・」
『いや、どうだかな?まぁお前さんが気がむいたらでいいからよ。そんじゃな!』
それだけ言い残すとあっけなく走り去ってしまった。確かに転移はちょっとずるかったかなという気持ちがなくもないけど、まともにレースしたら負けてたと思うし。
気が向いたらというか僕が時空術のヘイストをもっと早くもっと使いこなせるようになったらレースしてもいいかもしれないな。
『それで、どうするのだ?』
「うーん、とりあえず王都で買い物して、一度家に戻ろうか。」
『それ俺も賛成!俺用の魚もちゃんと買っといてくれよな!』
「はいはい・・・」
お金には困ってないわけだし、買ってあげるのはいいんだけど、邪神イギルガブラグとの戦いか。分身体とか言ってたけど、そんな相手にどんな準備していいのかなんて全くわからないぞ?
とりあえず長期戦も見込んで魔素補填薬は集めておくのと、お世話になったことは結局まだないけど、生命回復系のポーションも買っておくか。あ、でもそもそもポーチとかは転移された時どうなるんだろうか?まぁ持っておくに越したことはないし、買っちゃおうかな。
いろいろ考えながら王都でのお買い物も済ませて、自宅にと帰還。家のリビングでなぜかリザードマンの一人がハンディモップらしきものを持って掃除中だった。確かリザンと名付けたやつだ。
『おぉ!お帰りなさいませ!いつでも帰ってきやすいよう、掃除しておきました!』
「あ、うん。ありがとう。というか今までずっと綺麗だったからそういうものかと思ってたんだけど、もしかして今までは蜘蛛達がきれいにしてた?」
『えぇ、そうですね。彼らから引き継いだ形です。』
「そ、そうなのか・・・」
ずっと連れまわしてる四人だけじゃなく、思ってる以上に従魔たちはいろいろと僕のためにと動いてくれてるようだ。こりゃ感謝しなきゃいけないし、せめて今日くらいはみんな分の料理でも作ろうかね。