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時空術を教わる

 再ログイン完了!さぁやるぞやるぞ!現在は光と土の刻、いつもよりも遅め程度で済んだのは幸いだ。

 えっと、次のログアウトは12時間以内に済ませたほうがいいから、3日ごとにログアウトするのが健全か。


「きゅきゅ?」


「おう、おはよう。さて、なぜか日課になった兎炭作りに励むか。」


「きゅ!」



 そんなわけで、草原ではレイトの兎呼び出しの力を借りて、まとめて一気に13匹を炭化させた。手伝ってくれたお礼はもちろんノビルの根だ。

 そのまま折り返して、光の満つ刻に冒険者ギルドにと到着していた。


「今日も早いな、なんだ、コツでもつかんだか?」


「いえ、ちょっと上のに手伝ってもらったんです。」


 昨日は話す暇がなかったようで、事務的な態度だったけれど、今日は世間話くらいは大丈夫のようだ。


「あー、なるほどな、それで昨日も早かったのか。昨日は悪かったな、書類がたまっちまっててな。」


「いえ、大丈夫ですよ。」


 誰にだって忙しいときはあるもんだ。


「まぁ、あんま頼りすぎるなよ。」


「はい、そのつもりです。ところで、二つほど聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


「おう、俺で答えられそうなことなら、答えるぜ。」


 良かった、こういう相談はドーンくらいにしかできないし。


「1つ目は調味料を探しているんです。塩と油は手に入れたのですが・・・醤油や味噌なんかがあると嬉しいです。」


「しょうゆ?みそ?聞いたことねぇな。どうする?偏屈のギルド長にでも聞いてみるか?」


「あのギルド長に偏屈は使い方間違えてる気がするけど・・・空間術についても聞いてみたいので、一緒に聞いてみます。」


 ギルドに来て思い出したけど、今日は空間術を教わるんだった。つい先に兎狩りに出てしまったよ。

 ギルド長室に入って、明るくあいさつを交わしたら、すぐに僕は謝った。


「すいません、先にくるべきだったのに。」


「ほほっ、まぁそういうこともあるじゃろうて。儂は構わぬ、来るまでは書類整理しておったからの。若い冒険者はむしろそのくらいでなくてはならぬ。」


「そういっていただけると、気も晴れます。」


「さて、ここでは狭いかの。今日は他のものは訪ねてこないよう、すでに周知させておる。では、行くかの。」


「えっ。」


 ギルド長が立ち上がり、空間を手で切り裂くと、切り裂いた場所が歪み、その空間の口が開く。


「ほほっ、驚いたかの?これが転移門、メティシスタイスゲートの魔法じゃ。

 儂の実験用の庭に通じておる。誰も来ぬ場所じゃから、こういう高位魔法を練習するならもってこいじゃ。」


「な、なるほど・・・」


 つまり僕がそれくらいできるように、特訓するってことですか?うーん、いけるのだろうか?

 とにかく、空いた転移門に入っていくギルド長に続いて、僕も門にと入っていった。



 門の先の庭は、広い、とにかく広いの一言。ここは南端の街付近なのだろうか?それとも全く違うところ?

 見渡しても石壁も見えない。地面の芝生は鑑定しても一面ノシバと出るだけのようだ。

 そして庭にある大きな木に目が行く。ただ、あの木は鑑定ができない、阻害されてるのか?


「ほほっ、立派なもんじゃろ?この庭は儂の作った異空間というものじゃ。

 そのいい方でも来訪者であるそなたには伝わるのじゃろう?」


「はい、何となくは理解できます。しかし、これだけの広さですか・・・」


 いったいどれだけの力が使われているんだか・・・


「ほほっ、どこまでも続いてるように見せているのは、空間幻影という魔法技術じゃ。実際にはあの木を中心にそれほど広いわけじゃない。

 あの木がこの空間を作り出す礎ゆえに、識別の阻害はかけておるがの。」


「それであの木は識別できないのですね。」


「今でこそ広いと自慢できるが、ここまでに育てるのに幾年かかったか。始めはあの木も小さかったんじゃよ。儂の魔素を注ぎここまで育てたのじゃよ。」


 なるほど、ここはギルド長が丹精込めてる場所なのか。そんな場所に来ちゃってよかったのだろうか?


「あの、こんなところに僕来ちゃって、良かったんですか?」


「ふぅむ、しかし空間術を使うのであれば、ここ以上の場所を儂は知らぬ。

 もちろん、ある程度慣れれば人前で使うのは構わぬのじゃが、失敗すれば、場合によっては周囲空間がずっと歪んでしまうからの。

 そんなところに他の者がいて巻き込まれたら、そのものがどうなるのかは儂にもわからぬ。儂も空間術は師の作った空間で行ったものじゃ。

 この空間ならば、何か起きても儂の魔素が満ちておるから、よほどのことのない限りは、すぐに抑え込める。」


 なるほど、失敗したときの安全性も考えてここなのか。


「では、闇の刻になる前には終わらせぬといけぬからの。しかしその前に少し話すことがある。」


「はい、お願いします。」


「そなたはドーンから基本的な火術の使い方を聞いておる様じゃから、術法の基本はイメージというのは理解しておるはずじゃな。

 術法は、一応はスキルアーツとして分類されるが、そういうものは基本、どんなものでも使いやすいすでにできた術法となる。ファイアボール、ファイアメモリーなどはこれに分類されるの。」


 おっと、話すことは術法の基本からか。


「大丈夫です、わかります。」


「ふむ、これから教えるものも出来上がった技の分類じゃ。それを教えるよう育てていけば、他の技も自然とできるようになるじゃろう。しかし、それでは儂と同じ域にまでは来れぬぞ。」


「同じ域・・・」


「そうじゃ、術法だけに限らぬが、スキルアーツと呼称される技以外に、スペシャリティアーツ、自己流の技を編み出すことが必要じゃ。これは他人からイメージを教えてもらっているうちは、絶対に生まれぬ。

 儂の教えは一つの道として覚えておくほどにせよ。儂のは答えの一つにすぎぬ。」


「な、なるほど・・・」


 スペシャリティアーツ、自己流の技か・・・僕たちプレイヤーにとってそれができたらかなり面白い。

 当然僕も目指したい!しかし今は、まず基礎が必要だな。基礎がうまくなきゃそういう話も難しいのはわかる。


「まぁ、今は難しい話じゃろうが、覚えておいてくれ。話は以上じゃ、さっそく始めるかの。まずはファイアボールを手元で作って見せてくれるかの?」


「はい。」


 言われた通りファイアボールを手元で作る。バスケットボールほどの大きさの火の玉を、直接は触れないけど、両手で包むように抑え込む。


「おぉ、本当に充分な大きさじゃの。それだけの力があれば行けるはずじゃ。空間術を使うのならば、それを火ではなく、空気で作るイメージで作るのじゃ。」


「空気で作る・・・」


 ファイアボールはかき消して、イメージを変えてみる。

 うーん、いまいちぴんと来ないな、どういう感じだろう?空気弾ってことか?なんかのアニメで見たようなないような。


「うぅむ、やはり難しいかの。風術に覚えがあると捗るのじゃが、やはりないと難しいのかの。ならばアイテムポーチに手を入れた時を思い出すのじゃ。あの感覚が本来の空間術じゃからの。」


「アイテムポーチ・・・!」


 なるほど、あれに手を入れた感じか!今まで触れたことがなかったのに、あの感覚が違和感なかったのは、もしかして時空術のおかげだったのかな。行けそう!でも何かが足りない・・・


「ぬっ、この気配!スペースボールと唱えるのじゃ!」


「スペースボール!」


 僕の手の包む中で、ボール型に空間が歪んでるのがわかる。火の玉の大きさより半分ほどだろうか。これを僕が作ったのか・・・


「ほほぅ、良く安定しておるの。初めてで、それだけの大きさを安定させられるのであれば、上出来じゃ。そのままできるだけ長く維持できるようにしてみよ。そして大きさを広げようとしてみよ。まずはそこからじゃな。

 ちなみに今そなたの出したものならば、一応は攻撃として使うこともできる。それを標的に当てれば、相手は大きく弾かれるだろう。」


「そ、そういう魔法なんですね。」


 どういう原理なのかはわからないけど、ちょっと怖いな。


「いや、その空間は今は拒絶を意識した空間となっておるからじゃな。おそらくファイアボールのイメージに引っ張られすぎておる。

 もっとアイテムポーチの空間を意識すれば、引き込む空間から、いつでも出し入れできる空間にと、成長していくじゃろう。後は練習に励むとよい。」


「ありがとうございます、頑張ってみます。」


 意識してないとこのボールも消えてしまいそうだ。結構持続させるのもきついな。これだけで空間術の練習になりそうだ。


「ふむ、かなり長く持続できるようじゃの。もう切れてもよいかと思ったのじゃが。

 さて、ではそのままでできることをするかの。何か聞きたいことはあるかの?」


 聞きたいことか、そうだ。


「あの、僕のスキルは厳密には空間術じゃないんです。どうやら時空術というので、時術と空間術の複合術なんですよ。時術については何かご存知ですか?」


「・・・なるほど、そなたを爆弾というドーンの気もわかる。正直に言おう、そなたの持つ力は確かに南端の街にとっては、いささか珍しい力となる、ここでは目立つじゃろう。

 そなたが来訪者だと知っておる儂ら冒険者ギルドの上層部は問題ない。しかし、南兎平原で狩りをするような、初級冒険者たちにとっては、いささか刺激が強くなり、噂が広がって問題視される可能性もある。

 そう考えれば、ドーンの機転はよくできておるな。まだ街でそなたの噂は聞かぬので、うまく隠蔽できておる用じゃの。」


「はい、おかげさまで。うまく人のいないところを案内してもらいましたので。」


 ほんと、そういうところはドーンに感謝しないといけない。


「そういう面も含め、明日からの依頼を変更する必要がありそうじゃの。

 おっと、今は時空術のことじゃったな。ならば時術も教えよう、とはいっても儂は使えぬので、聞いた話を伝えるだけになるがの。」


「いえ、かまいません、お願いします。」


「ふむ、ではこれも、アイテムポーチで説明しよう。

 アイテムポーチにかけられている時術式には、時間経過停止というものが使われておる。

 中に入れたものが品質劣化しないようにと、非常に複雑に、何人もの魔素を組み込んで使われるものじゃな。もっとも、大量数に組み込むからか製作に時間はかからぬようじゃが。

 時術はその名の通り、そうした時間を操る技じゃな。初めから標的の時間停止、というわけにはいかぬじゃろうが。そうじゃな、アタックラビットくらいに使うのであれば、その動きを遅くするようイメージするとよい。逆に自身が早く動けるようイメージするのもよいぞ。

 そしてイメージだけで難しいときは技名を使うのじゃ。先ほどのスペースボールのように、技に名を付けてやるとよい。

 そうしたものはスキルアーツとなるのじゃが、どうしてもうまくいかない場合は、スキルアーツをまとめた書がある。

 時術は重宝されてるゆえ、入手には時間がかかるじゃろうが、他の術法のであれば入手できるゆえ、そこから何か得るのもよい。」


 ふむふむ、そっか、技名か。時間系っていうとヘイストとかスロウとか思いつくな。

 空間系もスペースってつければ結構いけそう?とにかくイメージして、イメージに似た技名を口に出せばいいのか。


「とりあえずは詰まるまで独自に頑張ってみます。」


「ほほっ、良い心がけじゃの。さて、もう日の暮れる刻の頃かの。そなた、食事はどうするつもりじゃ?ドーンに何やら調味料について聞いておった様じゃが。」


「えっ、なぜそれを!?」


 思わず、ここまで維持してたスペースボールが霧散してしまった。その話はドーンにはしたけど、ギルド長にはしてないはずだ。


「儂はギルド長じゃぞ、ギルド内のことは手に取るようにわかる。何ての、ドーンにつけてた空間術で少し盗み聞きしたのじゃ。空間術を教えられる日が来るとは思わなかったからの。ドーンを通すであろうそなたが来るのが、待ちきれなくてのぉ。」


 いやいや、笑ってるけど何してるんですか・・・


「と、とりあえず夕食も自作予定ですよ?」


「ふむ、やはりそうか。ならば卵から作った調味料、マヨネーズを持っているのじゃが、使って作ってみてくれぬかの?」


「マヨネーズ!いいですね!」


 肉とマヨは結構相性がいい、ぜひ使ってみたいとこだ!


「ほうほう、提案に乗ってくれるかの。ならば儂が食材を出すので、作ってもらおうかの。そなたは料理準備をしておいてくれ。」


 言われた通り僕は料理セットを出す。

 ギルド長はそれを見た後、空間に手を突っ込んで肉と野菜を取り出して、料理机の上に並べていく。そして何気なく肉を識別する。


「こ、これは魔牛肉!」


「ほほっ、ドーンにあの店に連れられたのかの?この街でこの肉を出すのはあそこくらいじゃろうて。あとはメインのこれじゃ。」


 瓶に入ったそれは、識別すると丸々鶏の卵マヨネーズとでる。瓶マヨネーズとはまたDWDならではだな。そりゃ現実のようなマヨネーズ容器はないよな。


「卵を輸入しての。この街で作られるリンゴ酢、油を使って作るのじゃ。これも来訪者の知恵の一つなんじゃがな。」


「へぇ、そうなんですか。」


 なるほど、おいしいものを求める人が作り出したのか。ちょっと納得。


「言っていた醤油、味噌というものも、確か開発されておるはずじゃ。どちらもこの街まではめったに輸入されぬ、二街先のものだったはずじゃ。ほぼ商業ギルドが独占しておる状況じゃの。」


「そう、ですか・・・」


 じゃあ試験に使ったのはやはり醤油だったんだろうか。


「まぁ今手に入らぬものはよいじゃろう?それよりもはよぅ作ってくれぬかの?儂は空腹じゃ。」


「あ、はい、すいません、作りますね。」


 そうして作り上げた魔牛マヨステーキは、高い質の材料を使った甲斐もあってか、出来上がりも4Aと上々。こってりと濃厚な風味に舌鼓を打つことができたのだった。

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