黒塔竜との団欒
さーて、それじゃあ料理の準備をと思ってポーチに手を伸ばそうとしたら、急に足の力が抜けちゃって、膝から崩れ落ちる。
「あ、あれ?」
『何やってるんだ。そうなって当然だ。あれだけの魔法を打ち続けたのだぞ。それでもだいぶ魔素量は上がったようだな。』
「あ、レイト。そういえばそうだったね・・・」
戦ってる間は夢中にショートテレポートだのディメンジョンブレイクだの打ち続けてたけど、あれだって結構な魔素量必要な術法だ。ちょっと確認したら0ってわけじゃないけどもう1000も残ってないみたい。
リンゴジュースと合成した魔素補填ポーションを飲んで少しでも回復しておくか。
『ぬ?それもそうだな。オレも楽しんでたから忘れてたが、聖族人種にしてはかなり魔素量が多いんじゃないか?もしかしてお前、来訪者なのか?』
「え?はい、そうですけど。」
『はっ!なるほどなぁ、それでオレにまで挑みに来たってことか!イギルガブラグ様もいいことしてくれるぜ。』
「えっと、イギルガブラグが何か言っていたの?」
『あん?まぁ来訪者を呼び込んで四魔帝を目指すように言ったから、オレ達四魔帝に暇がないようになるかもしれないって言ってたな。いつだったかは忘れちまったが、結構前だったか?ほとんど寝てたか忘れちまったな。』
「そんな話女帝蜂からは聞いてなかったけど・・・」
『あー、あいつは甘いものにしか興味ないから忘れちまってるかもな。で、薬飲んでるみたいだが飯は作れそうなのか?』
「あ、多分大丈夫です。少しマシになったので。」
ちゃんと力は入るようになったっぽいので、改めて起き上がって料理セットを用意する。
「あ、レイト、みんな呼んできてよ。別に構いませんよね?」
『あん?オレに聞いたのか?構わねぇよ。』
『己が呼びに行くのか?・・・まぁいいだろう。春巻きの野菜多めにしろよ。』
「はいはい、いっぱい入れると作るの難しいんだけど、がんばるよ。」
『その春巻きとやらをオレにも作るつもりか?』
「いいえ、おそらくですけど肉のほうがいいでしょう?あまり質の高いものじゃないですけど、肉はいっぱいあるので、ステーキにしますよ。」
『おぉ!それはいい!やはり飯は肉でなくてはな!わかってるじゃないか!』
いや、まぁ顔というか姿というかで肉好きそうな感じだもんね。ドラゴンに料理なんて作ったことないけど、そんなこと言ったらネティスだっておんなじこと言えるし。とりあえずベードと同じ感じの物をたっぷり作ってみよう。
『主、今つきました!・・・もしかして大量に肉焼いてますけど、俺と同じものをブラックタワードラゴンに作っているのですか?』
「え、うん。そうだけど?」
『そ、そうですか。』
「あ、とりあえず焼きあがったこれ一つ、先に食べる?」
『い、いえ、ブラックタワードラゴンに先に上げてください。』
『ぬ?もう焼きあがったのか?』
「とりあえず一つですけどね。じゃあ先にどうぞ。」
なんかベードが恐れ多いという感じだけど、まぁそれもそうか。相手は脅威度Sでベードは・・・あれ?ベードは今どのくらいに位置してるのかそういえば聞いてなかった。モイザとフレウドも。今日か明日には一度王都に戻る予定だし、聞いてみようかな?
『ほぉ、いい匂いだな!ではこの大きさでは悪いが一口でもらうぞ。』
「構いませんよ。むしろ精いっぱいの大きさがそれで申し訳ないです。」
『・・・!?この肉は何だ!?こんな小さいからさほどのものではないと思ったのに、香ばしく広がるあじわい・・・』
「えっ、肉は普通の切り裂き豚ですけど・・・」
『多分ガーリックですね。主のガーリックステーキはどんな肉でも最高のものになりますよ・・・』
『何っ!?切り裂き豚でこれほどの味・・・もっとくれないか!?』
「す、すいません。もうちょっとで焼きあがります。」
『主、私も手伝います。』
「ありがとうモイザ。」
相当な量の豚肉ステーキをモイザも一緒に作ってくれたおかげで、ドラゴンが食べる分も、ベードとネティスの分も作りつつ、レイトとフレウドの分も作る。
ドラゴンはそれにも興味を示したようでそっちも食べさせろとはじまったので、作る料理数が増えて散々な感じだったけど、僕の分で途中に蜂蜜を使った丸々鶏の照り焼き風とかも作ったりしたのも食べて、使った蜂蜜が女帝蜂のところのだというと、ちょっとうなりを上げていた。
そんなこんなで何とか満足いく分を食べたようで上を向いて煙を上げていた。
『はぁー・・・良いものを食べた。一つ一つの量は少なかったけど、これだけ食べりゃあ結構満足だ。』
「そ、そう、それはよかった・・・」
『あー、お前らの食料だいぶ減らしちまったな。これでも持っとけ。』
「え?」
ドラゴンが爪でゴリゴリと自分の肩部分をすると、ごとりと僕よりも大きい鱗片が落ちてきた。
「こ、これ、鱗じゃないですか!大丈夫なんですか?」
『あん?何がだ?もしかして痛みとかか?ちょっと身体が痒くてかくとすぐ剥がれんだよ。だからきにするな。』
「そ、そうですか・・・」
えっと、これ識別したほうがいいかな?いや、怖くて識別できないんだけど、とりあえずポーチにすぐ仕舞っておこう、うん。
『ま、飯貰っておいてもっかい戦おうっていうのはあれだよな。本当は腹ごなしにもう一戦したいんだけどな・・・お前との戦い、結構面白かったぜ。今回は引き分けってことで。あ、でも来訪者はイギルガブラグ様に会いに行くんだっけっか?まぁ俺と戦った時点で大丈夫だろ。』
「えっと、どういうことですか?」
『あーなんだっけか?四魔帝との戦いを経てイギルガブラグ様にとたどり着くとかどうとか、やべ、忘れちまったな。詳しく知りたかったら隣の四魔帝の蛇野郎に聞くといいぞ。』
「蛇野郎・・・」
次の四魔帝も爬虫類なのか。いやドラゴンは爬虫類なのかな?まぁいいか。あ、そうだ、一つ頼みたいことがあるんだった。話は通じる相手みたいだし、いいかな?
「話は変わるんですけど、女帝蜂のほうに部下を襲わせるのは控えてあげてくれませんか?結構被害がひどいみたいで・・・」
『あー、侵略か。あれはオレの指示じゃなくかってにオレの縄張りにいるやつらがやってるだけで、戦いにおいてオレがどうこう言うのはなぁ・・・』
「そう、なんですか。」
『・・・まぁでもあいつがいなくなったらさっきの蜂蜜使ったとかいう鶏肉の味も食えなくなるんだろ?しょうがねぇ、なれないことだけど何とかしてみてやる。』
「ほんとですか!?」
『ただし、またオレと再戦しに必ず来いよ?それが条件だ。次はオレが勝つ。』
「え、えっと・・・わかりました。ではまた必ず再戦しに来ます。負けるつもりはないですけどね。」
『はっ!言うじゃねぇか!んじゃオレは向こうの方の奴らに声かけてくるわ。』
ぐっと体に力を入れたと思ったら、そのまま優雅に飛び上がり、羽ばたいて女帝蜂の方面に飛んでいった。あの巨体があっという間に見えなくなる結構な速さだったから、蜂蜜照り焼き相当美味しかったんだろうか?
さて、じゃあ僕達も王都に帰ろうか。宿は引き払ってるし、トランスロケーションで王都の神殿へと転移だな。