黒塔竜との戦い
まだ昼には早いくらいの時間にサーチエリアにびりびりとした反応が引っかかった。今までこんな風な反応したことなかったのに。それなりの高さと広さの丘になっているこの上から感じる、多分いるのは四魔帝のドラゴンだろう。
みんな息を飲みつつ、丘を登ると、真っ黒でまさしく塔のような大きさのドラゴンが寝ていた。
----------
≪識別結果
ブラックタワードラゴン 脅:S
戦いを愛する災害のようなドラゴン≫
----------
「脅威度S・・・」
『ん・・・なんだ?オレのこの場所まで何か昇ってきたな?』
うわっ、起きちゃった、僕が小さくつぶやいたせいか?しゃべる声も明らかに女帝蜂とは比べ物にならないような圧を感じる。
起き上がった四つ足の姿は真っ黒なのに神秘的にも感じるほどだ。その背についた大きな翼も広がってさっきよりもさらに大きく見える・・・
『あん?聖族の気配?そこに隠れてるのか。出て来い、戦いに来たんだろ?』
ズイッとこちらにと顔を向けてきた。蒸気で姿は隠して、ベードも気配消ししてるはずだけどやっぱり通用しないか。
「みんな下がってて、僕だけで行く。」
『な!?なぜだ!お前だけで勝てる相手ではないぞ!』
『そうです!なぜですか!俺たち足手まといではないでしょう!』
「そんなことは思っていないよ。でも僕はもし死んでも時間はかかるけど蘇れる。みんなは無理だろ?もし誰か死んだりしたら僕は嫌なんだよ・・・」
『私たちの誰もかけたくない、ということですか・・・』
『俺はどっちでもいいぞ、でもやれというなら手伝うけどな。』
『ニは一緒に戦うよ!』
『・・・いや、己たちの主であるリュクスが一人で行くというならば、止めるのは野暮だったな。みな、主を見守って居ようじゃないか。』
『そう、ですね!主必ず勝ってきてください!』
『主、私も見守っています。』
『早く帰ってきていつも通り飯を頼むぜ?』
『二も待ってる・・・待ってるから!』
「レイト、みんな・・・ありがとう。行ってくる。少し下がっててね。」
『長話は終わったか?待ちくたびれたぞ。それにしてもオレに聖族人種が一人で挑むとはな。』
僕が霧から出ると見下しては来るけど、どうやら話を待ってくれていたようだ。どうやらそういうところは律儀なんだな。
「あぁ、僕だけで挑む。できればみんなには手を出さないでほしいので、向きを変えてほしいんですけど、いいですか?」
『はっはっはっ!オレに面と向かってそんなこと言ってくる奴がいるとはな!気に入った!その提案うけよう!』
僕が左回りに動くとそれに合わせてドラゴンも向きを変えてくれる。その間に悪いけど戦闘準備をさせてもらおう。
空間掌握とクイックアップ、いつもかけてるウィンドシューズに、さらにソイルアダプテーションもかけておく。地面はただの土だけど、少し足元が楽になる。
クイックアップはあんまり効果時間長くない。これだけ離れればみんなには被害は及ばないだろう。
『お?止まったということは準備できたようだな。ではこちらから行くぞ!』
「んなっ!?」
ほとんど溜め無しで口から放たれた真っ黒な炎のブレスが僕にと襲い掛かる。慌ててショートテレポートで避けたけど、避けた先にさらに強大で凶悪な爪が振り下ろされる。避けてはブレスと爪が連続して襲い掛かり、全然反撃する暇がない。
『どうしたどうした!よけてばかりで攻めてこなければオレがいつかお前を捕らえるぞ!それとも、あちらを狙われたいのか?』
「っ!?」
ズイッと急にレイトたちのいるほうにと顔を向ける。そのままブレスを貯めやがった!こいつ、さっき気に入ったとか言ってたくせに僕と一対一するつもりないじゃねぇか!
ネティスの水結界であの黒炎を防ぎきれるのか?いや、脅威度Sのブレスを防ぎきれるとは思えない、僕が防ぐしかない、でもどうやって?
・・・あれは炎、ならフレウドが毒炎を飲んだときみたいに、炎を愛でる手でもしかしていけるか?そう思った時にはショートテレポートでみんなの前にと出てきていた。
『ぬ?出すつもりはなかったのだが、防ぐというのか?おもしろい!なら防いで見せろ!』
「えっそうなのっ!?ってそんな場合じゃない!炎を愛でる手、フレイムハンド!」
あまりに強大すぎる黒炎が迫るけど、それに向かって僕は炎を纏う手を突き出す。フレウドの体内の毒炎を分離した時を思い出せ!
勢いのあった黒炎はゆっくりになって、僕の手にと黒くまとわりついてくる。ドラゴンが吐き出した分全部が両腕にまとわりついたけど、おかげで全くの無傷だった。思ってる以上にうまくいっちゃったな・・・
『んなっ!?オレの黒炎がすべて吸われただと!?他の身体にはそれは激しすぎて毒ともなるはずだぞ!』
「そう、なんですか?でも僕の体の中じゃなく、腕の周りにまとわりついてるだけですし・・・」
というか全然消えなくて困る。いっそもうこのまま放ってしまうか。両腕を振り下ろし、フレイムブレイクを放つ。
「うぉ!?」
『んなっ!?』
自分の思ってる以上に強大な黒炎の斬撃波がドラゴンに向かって放たれた。それだけあいつの黒炎ブレスは強力だったってことだ。大きな羽を体の正面にと構えて防がれちゃったけど。
『なかなかやるじゃないか、オレの黒炎が返されるなら気軽にブレスは使えなくなったな。』
「そうしてくれると僕も助かりますよ。」
向こうが思ってる以上に体の負担大きいんだよね。クイックアップでショートテレポート使うのが速かったのも切れちゃってるからまたかけなおさないとだし。
というか翼で防いだだけであれをけろっと受けるってことは、やっぱ炎は効きづらいよね。なら空間術でガンガン攻めるしかない。
ディメンジョンブレイクを放つと、向こうはそれを見て飛んでかわした。なんだ防ぐんじゃないのかと思いつつ、向こうの尻尾が僕にと振り払われるのをショートテレポートで回避した。
『今のは危ない技だな。オレに防がせる気だっただろ?』
「さぁ、どうでしょうね?」
それから向こうの攻撃をよけ続けられたけど、こっちの攻撃も一切当たらない。いや、実際は時折だましにフレイムブレイクも混ぜるけど、それはしっかりと防いで、ディメンジョンブレイクだけ避けられてる。
ただ僕がブレスを返してからほんとにブレスはしてこなくなって、肉弾的な攻撃ばかりでさっきよりはよけやすくなった。もちろん一撃でも受けたらとんでもなく痛そうだというのはわかる。
それから結構な時間打ち合ったけど、結局お互い有効打を与えられずにすでに太陽は真上から傾き始めていた。
グルギュルルルととんでもない音がどこからともなく聞こえてきたかと思うと、急にドラゴンは動きを止めた。
『はぁー!久々に動いて腹減ってきたわ!いやぁ、やっぱ戦いはいいわ。最近オレに戦い挑むやつなんていなくてな。あんまがっつりとは食ってなかったんだよな。』
「はぁ、そうなんですか。じゃあ一旦戦い止めて食事にしますか?」
『あん?お前が食わせてくれるのか?』
「うーん?そういうつもりで言ったんじゃないですけど、別にいいですよ?」
『はっ!そりゃいい。このでかいオレの腹を満たせるのか?』
確かにすごくデカイからどれだけ食べるんだという話だよな。というかなんでまたこういう流れになるんだよ。僕は戦いつかれ始めてたから休憩したかっただけなんだけどな・・・だから、戦い続けるよりは全然いいけど。