南端の街の冒険者ギルド長との対面
うぅん、起床、なんだが少し動きにくい?
「こいつ・・・」
昨日はソファーに寝てたはずのレイトが、なぜか僕の上で寝ている、ちょっと邪魔なんだが。しょうがないので持ち上げてずらしておく。
「きゅ・・・」
「なんだ、不機嫌そうに、勝手に乗るな。」
はぁ、こいつはなんなんだ?テイムしたモンスターはこうなるものなのだろうか。もっとこう、従順とかそういうイメージが。
まぁ僕よりも圧倒的に強い相手に急に従順にされても困るけど。
さて、昨日はつい寝てしまったけど、レベルの上がったポイントを振り分け忘れてた。
ステータスにこのレベルポイントを振ると、あげたい数値が1上がるというわけじゃなく。そのステータス上昇量が多くなる。
もちろん多くなるといっても、1ポイント程度じゃ影響力は大きくないらしいが。
ゲーム説明にはそのくらいしか書いてなかったからな。何に振るのがいいのだろうか。
今は1ポイントだけれど、そこからが始まりともいえる。
もし一つのステに全振りしたいなら、上がりやすいと思える、今一番上がってるものに振るのか、自分があげたい好きなものに振るのかを、今から考えるべきだし。
全体的に平均的に振るにしても、何から上げるのか、うーん、悩みどころだけど、きめた。消耗もするし、今後も一番使いそうな魔に振ろう。
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<ステータス>
種:Lv1
職:Lv2
命:1000/1000
魔:530/530 (+1)
力:25
技:50
速:28
知:62
秘:213
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うん、聞いていた通り、レベルポイントを振ってもすぐに上がるわけじゃないな。
このかっこの表記が振ってる数値か。
まぁ次に種か職のレベルが上がった時に期待だな。
さて、この後はやっぱ冒険者ギルドに依頼受けに行くか。
ここにいるだけでも10日後には、また1500リラかかるから、追加したくなった時のために稼がないとな。せっかく覚えた範囲魔法?も使って、兎炭の収集でもするのがいいかな。
あ、その前に質の識別ができるかの、試験うける必要があるのか。
「もしかしたら試験だけになるかもだが、お前も来るか?」
「きゅ?」
ベッドの上で動いていなかったので、しゃがんで声をかけてみたら、のそりと動いて僕の頭に乗ってきた。
うーん伝わってるのか伝わってないのかもよくわからん。とりあえずこのまま向かっちゃって、朝ごはんは途中でなんか買おう。
ついて早々、なぜかドーンに待ち伏せされていた。
「よぉぉ、待ってたぜぇ、残念なお知らせだ。もうお前のことが面倒なのにばれたぞ。」
「な、なるほど、それで僕を待っていたと?」
「お前なら識別試験しにくると思ったからな。ほら、いくぞ。」
「えっと、どこにでしょうか。」
「ギルド長室だ。」
あぁ、面倒ごとの回避は無理そうですね。もし断ったら冒険者で居れなくなりそうだ・・・
入室すると目に入るのは大きな机と、その両端乗せられた書類の山。
そしてその間に座っている、白い髪、白い髭が特徴的な人だ。白髪なのに老けているとは感じさせない、不思議な感じだ。
「いやはや、無理に呼んで申し訳ないの。儂はこの街の冒険者ギルド長をしておる、アーバー・リリィカンというものだ。皆にはギルド長としか呼ばれぬが、よろしく頼むの。」
「はい、よろしくお願いします。」
「それで、そなたにいろいろと話すことがあるが。時間は問題ないかの?」
それ問題あるって答えていいのかな。駄目だよね。
「僕は問題ないです。」
「ふむ、そなたは問題ないか。しかし、その頭の上の兎殿は、あまり長く話すのは問題かもしれぬか?」
「うーん、どうなんでしょう。僕もこいつについてはよくわかってなくってですね。」
ギルド長にはドーンと同じように、レイトが見えてるみたいだけど、ドーンからどこまで聞いてるんだろうか。問題視されてる本人は寝息を立ててるし。
「ふむ、従魔ではないのか?従魔ならば指示を聞くはずなのじゃが。」
「うーん、どうなのでしょうか、レイトという名を与えたときに、僕の縛り名もついたのですが。それで従魔となったことになるのですか?」
「俺は従魔なんて詳しく知らないが、俺はそいつが従魔契約されてないなら、もしかしたら死んでたかもだぜ?」
「そうじゃろうな、それだけの可能性が、その兎殿にはある。つまり、従魔契約はできているようじゃの。縛り名もついておるのであれば、契約ができてるといえる。」
うーん、やっぱテイム成功のインフォもあったし、ちゃんと僕の従魔にはなったんだよね。
「なるほど、じゃあやはり僕よりも、レイトが強すぎるからでしょうか。言うことを聞いてくれる気が、全くしないんですよね。」
戦闘指示とかをしたわけじゃないから、何とも言えないけど。そもそも僕の言葉を正しくわかっているのかさえなぁ。
「ふぅむ、本来従魔はおのれの力を示し、服従されることで契約するのじゃが。聞いた通り契約方法が違ったようじゃな。その影響があったのかもしれぬな。
初めてみるケースじゃから不明な点が多いのぉ。しかし、契約がされているのであれば、まぁ、大丈夫じゃろ。」
「問題があったらじじいが止めろよ、俺達には無理だ。」
「うぅぬ、儂だけで止められるかのう。
敵対せぬことを祈るばかりじゃが、聞けるならば詳しい強さを聞いてもよいのかの?」
「勝手に教えていいのかわからないんですよね。本人に確認もできそうにないので、申し訳ありません。」
僕的には、信頼できる人に自分のステを教えるのはいいけど、教えてもらった他の人のステを広めるつもりはない。従魔と言えど自分の情報じゃないからな。
「ふむ、従魔と言えど意志あるものだったの。
ならばその意志を確認せず、その兎殿の情報を他者に渡すのはよくはないの。」
「あぁ、こいつはその辺わかってる。俺の見る目も捨てたもんじゃないだろ?」
「おぬしが教官となっただけじゃろうが。まぁ、良い冒険者じゃとは思うが。」
ドーンとギルド長は仲がいいのか?なんかいつも話してるようなやり取りだけど。
「さて、では兎殿の話の次で悪いのじゃが、兎の炭の話をしようかの。
あれは今までにない、新しい素材の可能性となったのでな。
炭という素材が、何に使えるか模索をし始めているところじゃ。
他の街にも情報を流していたのじゃが、火を知る街で木を炭にする実験に成功し、作り始めているようじゃの。」
「なるほど、炭は今までになかった素材なんですか。
それは確かに、問題になりそうですね。意図してできたものじゃなかったんですけどね。」
ほんと、初めは意図してできたわけじゃないんだけどね・・・
「お前、来訪者だろ、なんかいい使用法知らないのか?」
「使用法ですか、そうですね、一番よくつかわれるのは燃料ですかね、木炭ならさらに熱すると、着火すると思います。
焚火のような炎は出ないのですが、比較的長時間燃焼するんだったはずです。
あとは、食料保存とかに使うのとか、脱臭効果ですかね。そういえば鉛筆の芯も炭なんだっけな。」
ぱっと思いつくだけでも、炭って結構用途あるのかな?僕は七輪の炭火が好きだったから、一番に思い付いたけど。
「おぉ、それだけ挙げていただければ結構じゃ。
いやはや、来訪者は戦いの力が育ちやすいだけでなく、知識も豊富のようじゃの。この街に残る来訪者がそなただけなのが残念じゃわい。」
「えっ、僕だけなんですか?」
もう他のプレイヤーはこの街にいないのか?そんな、まだゲーム時間で六日目だぞ。
「昨日の馬車で次の街に出て行ったものもいたが、ほとんどのものがギルド登録後にすぐに馬車に乗り、移動したようじゃ。そなたもすぐにここを出たくなってしまったかの?」
そうか、移動馬車か。あんまりちゃんと見てなかったけど、確かに朝方に北門を馬車が通ってたな。
「いえ、驚いただけです、みんなすぐに移動したんですね。僕はもう少しこの街にいる予定ですが、そのうち王都を目指して進む予定です。」
「やはり王都を目指すのか、もしよければ儂らに王都を目指す理由を教えてくれぬかの?」
あれ、住人たちは僕たちプレイヤーが、なぜ王都を目指してるのか知らないのか?
「どう説明するのがいいのでしょう、王都を目指しているのは神から聞いた目標、というところですかね、王都が最終目標ではなく、四魔帝を倒すことが、来訪者の僕たちの目標なのです。」
「神からの目標、つまりイリハアーナ様の神託ということじゃな、それにしても四魔帝とは、またずいぶんと危険なことに挑むようじゃの、来訪者は死しても、50日でその肉体と魂が蘇るといわれておるが、それにしても無謀な挑戦といえるじゃろう。
そなた、王都から先の北の地を何というか知っておるのか?」
「いえ、知りません。」
「狂邪の地と儂らは呼んでおる。この大陸の北半分を占めておる場所じゃ。
王国はその地から脅威的な魔物がこちらの地に出てこぬように、大陸を横断するような強力な神聖結界壁を敷いておる。その中央にあるのが王都というわけじゃな。
儂らは南側の魔物を脅威度というて分類しておるが、本来は南側は危険度、北側が脅威度と分類しなくてはならん。
しかし、北側に向かうものなどおらぬからか、いつの間にか南側で脅威度というものが増えてしまったの。この南端の街は特にじゃな。」
「そうだったのかよ、俺でも知らなかったぞそれ。
確かに魔物を識別したときは危って表示されてて、なんで脅威度っていうのかって疑問には思ってたけどよ。周りが言ってるから俺もそうなってたぜ。」
なるほど、南と北で魔物のランク分類が違うのか。まぁ今のを聞く限り脅威のほうが危ないんだろうな。
「脅威度と危険度でどのくらい違うんですか?」
「すまんの、儂は脅威に認定されている魔物のことを知らぬ。王都まで行ければ情報を得ることもできるであろうが、儂ではその情報は得られぬ。
脅威認定の魔物の情報は王都内でのみ扱うことに決められておる。おそらくじゃが、住人に余計な恐怖を与えない為じゃな。」
「そんなことを考えなきゃいけねぇくらい危ないのかよ、悪いことは言わねぇ、リュクス、お前は王都目指すのやめておけ。
いくら死んでもよみがえるといっても、その兎よりやばいのがいるかもってことだろ。命がいくらあっても足りねぇよ。」
確かに、今のままじゃいける気は全くしない。だけれど僕は行くつもりだ、一応はゲーム目標だからね。
「いえ、行きますよ、僕たち来訪者の目標ですからね。」
「ふぅむ、神託に対して言うてよいのかわからぬが、あまり根を詰めるのはよくない。
目標ということは神も期間を定めておらぬのだろう?四魔帝もお互いの牽制ばかりで、無理にこちらに攻めてくることもない。
そなたさえよければ、長くこの街に滞在してほしいものだの。それこそ土地や家を持つほどに。」
「さすがにそういうわけには・・・それよりも四魔帝がお互いけん制しているというのは、どういう話ですか?」
「四魔帝はお互いで縄張りを争っているそうじゃ。魔族同士は弱肉強食、相手を取り込み強くなるものじゃ。
もちろん儂ら聖族も取り込もうとはしてくる。しかし同じ魔族のほうが、やつらにとっては取り込み易いようじゃの。」
なるほど、魔物、というか魔族も、同じ魔族を倒してレベルを上げているっていうわけか。そりゃ聖族だけを狙うわけにはいかないもんな。
「なるほど、教えていただきありがとうございます。」
「いやいや、大丈夫じゃ。ならば、新しい食に使っている素材。ノビルとレモングラスについて聞こうかの。」
「あの二つについてですか。」
あれもたまたま識別してたら見つけただけだからなぁ。
「見つけた理由はなんとなくわかる、識別訓練の為に雑草識別をしたのじゃろ。
この素材が食材になる素材だとわかったのは、来訪者の知識というのも先ほど理解した。問題は、そなたがその素材の情報をどうするのかじゃな。」
「情報をどうするのか、ですか?」
「あぁ、一応じじいも俺もこれについては口の堅い奴にしか話してねぇ。
炭みたいに素材用途がアイテムポーチという重要なものに使われるなら、早めに広めて普及する必要があるが、こういう広めなくてもいいものは、お前の判断に任せることにする。
情報を無償で広めるもよし、情報に金をとるもよし。情報を制限して独占を目指すもよしだ。」
うぅ、たかがノビルとレモングラスでそういう風に言われると、ちょっとどうしたらいいのかわからなくなる。でもとりあえずは、情報独占するつもりはないな。
「独占をするつもりはないです。南兎平原の素材ですから、何かのきっかけにすぐに見つかるでしょう。
初めが僕だっただけなので、情報は広めていただいて構いません。広める方法はお任せしても、いいですか?」
「ほほっ、欲のないことよ。では、情報はしかるべき売り方をするかの。売れた分の半分をそなたに渡す、それでよいかの?」
「おいおい半分かよ、みみっちぃな。」
「い、いえ、十分です。」
半分でもみみっちぃのか。任せるって言ったからお金もらうつもりはなかったんだけどな。まぁもらえるならもらっておこう。
「ふむ、あとは料理の問題についてじゃが、来訪者だからという可能性もある。そこはあまり追及する必要はないかの。
ではそなたがギルドに来た目的、識別試験に入ろうと思うのじゃが、良いかの?」
「えっと、ここで行うのですか?」
「ふむ、儂がここで行えば、通常より早く合格を出してやれる、そなたが通常試験がよいのであれば、無理強いはせぬが。」
「いえ、早いのであればありがたいです。」
通常試験より早く済むなら、それはありがたい。
「ではちょっと準備をするので、待っておれ。」
ギルド長が立ち上がると、何もない空間のはずなのに、その空間が歪んで、ゆがんだ中にと手を突っ込む。そこからなにかの角、何かの花、何かの薬、何かの石を取り出した。
「い、今のは?」
「ほほっ、空間魔法じゃよ。こうして別空間にアイテムをしまう、取り出すことができる。便利なもんじゃろ?」
空間魔法、ということは僕も時空術を覚えてるから、練習すればあんな風にできるのかな?
「俺はじじいしか持ってるの見たことねぇけど、それがあれば旅も楽になるだろうな。
自分の異空間を作れるんだっけか?訓練すりゃ大きくなって、アイテムポーチいらずなんだろ?
しかも自分の異空間だけじゃなく、神殿にならつなげられるんだろ?一度街に行けばいつでもその街に行けるなんて、便利じゃねぇか。」
おぉ、そりゃ便利だ。今はこの街にしかいないけど、次の街に行く前に使えるようになるのもいいかも。ただ、どのくらい特訓すればいいのかわからないな。
「あの、どのくらい特訓したらそれくらい使えましたか?」
「ぬ、はて、どのくらいだったかの、若気の頃じゃったしのぉ。」
「というか、なんでそんなこと知りたいんだよ?」
うぅん、言っていいものだろうか?でも言わなきゃわからないよなぁ。
「実は僕も空間術のようなのを持ってるんです。ですがどう上げていいのかわからず、悩んでいるんです。」
「お前、なんでそんなに爆弾持ってるんだよ、ほんと。」
「ふぅむ、それについては今日はまずいの。明日にドーンを通してまた儂のところに来てくれ。何とか時間を付けておこう。
まずはこの4つの鑑定を行ってくれ。鑑定結果はどれが質いくつかいうだけでよい。」
「はい、わかりました。」
とりあえずじゃんじゃん鑑定するか。
詳しい情報がいらないなら、素材の名前と質だけ識別できないかな。
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≪鉄砕犀の角 質:4C≫
≪半夜闇の花 質:3C≫
≪生命活性の水薬 質:3B≫
≪鉄鉱石 質:3B≫
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おっ、できた。今後はもうこれでいいな。詳しく知りたかったら、もう一度識別かければいいんだし。
「サイの角が4C、花が3C、薬が3B、鉄鉱石が薬と同じ3Bです。」
「お見事じゃな、これで識別試験終了じゃ。」
「おいおい!楽すぎるだろ!羨ましい限りだぜ・・・」
あぁ、やっぱ楽な試験だったんだね。
「そういうでない、これで全識別ができるのがわかったのじゃ。問題なく兎の炭の依頼を出すことができる。他の質指定依頼もじゃんじゃん受けるがよい。」
「はい、ありがとうございます。」
「ほほっ、では今日はこれで終わりじゃ。明日の予定を何とか空けるためにも、儂は書類整理じゃわい。すまぬが、これにての。ドーン、おぬしも退室するのじゃ。」
「了解です、失礼します。」
「はっ、じゃあ俺ももどるぜ。」
ギルド長室からでた後、ドーンにそのまま兎炭の納品依頼を受付してもらい、冒険者ギルドを出たが、時間は日の光がもう真上に上った後だった。