案内されて
僕達と一緒に甘く煮込んだ果物をひとしきり食べて、少しお腹が会った時よりもポッコリと膨らむ蜂達。追加で作った分とかもあるから、今日は合成はなしだなこりゃ。
至福そうな顔をしてたけど、ハっと引き締まった元の顔に戻り僕たちに聞こえないところで何か話している。
こっちはこっちで片付け終えたけど、さすがに無視してテントに入るのはなしだよな?別に眠いわけではないんだけど、ログアウトは早めにしておいたほうが心に余裕が生まれるからね。
『おい、侵入者たち、これを女帝に献上しなければ、おそらく我らだけで食べたことを知られて処罰される。女帝のところまで連れて行くからついてくるがいい。』
「ついてくるがいい、と言われても・・・まぁ現実の12時間までは平気だから余裕がないわけではないか。」
『不服だがついて行ったほうがいいだろう。こいつらならば己が処理できるが、女帝ともなるとわからん。』
わからんっていうけど、相手は四魔帝だぞ?それほどの実力があるってのかレイトは?まさかレイトが四魔帝とか、いやそれはないか。それなら南端の街のほうまで来てるとは思えない。それぞれの居場所があるんだから。
って今はレイトのことよりも蜂についていかないとな。ちょっと待ってもらってテントの片付けも済ませてベードにとみんなで乗り込む。
蜂達の案内について森をすこし進んだけど少し遅い気がする、警戒強めにサーチエリアしつつここまで進んでた時のほうが早いくらいだったかも。
『ここで一度止まれ。ここからは隊の管轄が違うから話を付けてくる。』
「あぁ、それで他の蜂は来なかったのか。」
夕飯時に他の蜂も来るかと思ってたけど、来なかった理由がようやくわかった。すぐに足を止めたから結構管轄は狭いんだろうか。
隊長格の蜂だけが奥にと飛んでいき、他の蜂はここで僕たちの見張りをするようだ。といってもがっつり塞ぐ様子はなく、ちょっとおっかなびっくりという感じだけど。逃げるつもりもなかったけど、そんなにかからず隊長格の蜂が戻ってきた。
『よし、これで他の蜂達にも連絡は行く。後はまっすぐホーネット様のところへと向かうぞ。』
「わかりました。じゃあついていきます。」
さっきよりは少しスピードは上がったけど、やっぱりいつもより遅いなと思いつつ蜂達についていく。道中も一応サーチエリアをかけて進むけど、やっぱりサーチエリア範囲ぎりぎりのところを蜂がかすめていく。
「案内してもらっているけど、やっぱり見張られてるのですか?」
『うん?あぁ巡回か。我らが森に侵入者などいつ振りかだからな。我らと同じように興味を持っているだけだ。』
「そういえば侵入者侵入者と言いますけど、襲ってきたりはしなかったですよね。」
『危険な存在もいるとホーネット様からの通達もあり、我らも確認している。外の虫どもとちがい森を荒らしているわけでもないのもあって、手を出さなかっただけだ。』
「その割には夕飯の時に・・・」
『あ、あれは蜜を奪ったのかと思ったんだ!』
いや、多分だけど甘い匂いにふらふらと誘われてきちゃったんだろうな。僕としては四魔帝の女帝蜂のところまでこうして案内されていくほうが、すぐに攻撃される心配も少なそうでありがたいからいいけど。
そうして夜も明けたころ、少し先がどうやらちょっとだけ開けたところになっているっぽいな。そのままその空けたところにと蜂達が進むので僕達も続く。
木々がなくなり一面にカラフルな花々が咲き誇る景色が広がる。花を踏みつぶさないようにはあるけそうにないなこりゃ。そして何より一番印象強いのは、その花に囲まれるようにそびえたつ超巨大な木だ。
遠くから見えていた樹はあれだろう。結構遠いのにはっきりと輪郭が見える。やっぱりあの下に四魔帝の女帝蜂はいるんだな。
『地に足をついているものならば花はある程度潰すのはしょうがない。ホーネット様は甘いもの以外には寛大なお方だ。許してくれるだろう。』
「ここの花って甘いんじゃないの?」
『いや、甘い蜜が取れる花々だが、お前のあの緑の甘い果物程の甘さはないな。あれをふるまってくれれば大丈夫だろう。』
おうそれって踏むの事態が問題ないんじゃなく、もっと甘いのを渡せば問題ないだろうってことか?うーん、それほんとに大丈夫なんだろうか?
空をかけるウィンドウォークもこの距離は絶対持たないと思うから下を通ると踏むのは確定。でもどうやら巨大樹の近くまで行けば花の生えていないみたいだ。
「じゃあ先に女帝に話を付けてきてくれ。花のないところまで転移で行く。そうすれば踏まずに済むだろ?せっかくこんなにきれいなんだし、できれば荒らしたくない。」
『転移とな、雷兎さんはそんな技まで使えるのか。さすがだ・・・』
「ライト?使うのは僕だよ。」
なんて暢気に返したけど、僕の頭上からおぞましいほどの寒気を感じる。ライトって誰のことかと思ったけど、雷に兎でライトか。おそらく昔の呼び名なんだろう。
『ひっ、す、すいません!』
『・・・いや、知られていることを考慮せず使うなと伝えてなかった己が悪いか。』
そういうと頭上からすっと怖い気配が消えた。あのレイトさん、僕ちょっと手が震えてしまったんですけど・・・
蜂達は逃げるように見張りもつけないで8匹全員で女帝のほうへと飛んでいく。道中よりも速いんじゃないかあれ?
花のないところまで結構な距離あるけど、まっすぐ直線に広げる感じで空間掌握すれば行ける距離だった。掌握してもすぐには飛ばずに、そのあたりを蜂が過ぎて少し待ってから飛ぶことに。
転移すると巨大樹がほぼ目の前にある。近くに蜂の姿がなぜか見えないのでちょっと見上げると、はるか上空に葉が生い茂っているのがわかる。
すぐに蜂の気配がこっちにと飛んできてるのがわかる。どうやらちょうどこの樹の裏側に女帝蜂さんはいるようだ。