蜂の襲来
ログアウトをはさんでさらに二日、ここまでずっと虫たちの気配が途切れることがなかったのに、急激に虫の気配が消えた。
前方に見える樹が今までのと違うものってのがわかる。ビックダークツリーという樹のようだけどロングリーフの樹よりも高いしハードティックツリーよりも太い。そして何より幹の色がほぼ黒のような茶色をしている。
異様な圧迫感をかんじる。まるでこの先に進むなと言われるかのようだ。そしてなんでこの辺に魔物の気配が一切ないんだろうか。進めば魔物たちが近寄らない理由もわかるかな。
巨大樹を目指すためにもビックダークツリーが生える土地にと足を進めていく。ただし駆け抜ける感じではなく、慎重気味に歩くようにとベードに伝えておく。
効果があるかはわからないけど、出来る限りサーチエリアでの察知に意識を強める。相変わらず魔物の気配はないか?いや、地面に何か反応がある。地面にいるなんて何の反応だろうか。
「ベード、右のほうだ。なんかいるみたいだからよってみてくれるか?」
「ばぅ。」
近づいてみるときれいな黄色の花がいくつか咲いているけど、どうやらあれが魔物のようだ。
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≪識別結果
ハニーイエローアカシア 脅:G
たっぷりと蜜を持つ黄色い花。花粉をまくことで自衛しようとするが、周囲の虫にその蜜を取られていく≫
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なんか、かわいそうな存在なんだな。ほとんど見た目は花だけど、一応魔物だから生物なのか?この間のラフレシアといい、花の魔物もチラチラといるんだな。
ってそんな場合じゃないか。蜜のある花があるってことはこの辺はもう蜂のなわばりなんじゃないだろうか?
一応今もそれらしい気配はしないけど注意しながら進んでて正解だったな。他の虫の魔物たちがいないのは完全に蜂の縄張りだからなんだろう。
蜜に手を付けるのもどことなく不安だったのでその場は後にした。ただ警戒しすぎだったのか、結局夜になるまで蜂の気配を感じることもなかった。僕の気配読みのレベルが甘かっただけだろうか?
「その辺どうなんですかレイトさん?」
「きゅ・・・」
「いやなんで聞いてくるんだって、だってレイトのほうが僕よりも気配読むは多分うまいんでしょ?」
「きゅきゅ。」
「うん?レイトも特に気配を感じなかったのか?」
ちょっと微妙な表情しつつも、レイトも魔物の気配を察知したのはあのアカシアの花だけだったようだ。ただそんな状態なのがむしろ怪しいと思ってるんだろうか?
僕もここまで虫の反応がないのは不安な感じはする。でも襲われてるわけでもないから、気にしすぎなんだろうか?
そんな不安のままさらに次の日も巨大樹に向かい足を進める途中、かなり遠くに、数匹の虫の気配が少しの間だけ引っかかった。結構な速さで通り過ぎちゃったけど、しっかりと隊列を組んで飛んでいるようだな。
「今のが蜂だったのか?」
「きゅ。」
レイトもどうやら気配を察知したらしい。あ、でもどっちに飛んでったとかの情報はいらないですよ。追わないからね?
それからも時折僕のサーチエリアの範囲ぎりぎりを蜂の隊列の気配が通り過ぎていく。すごい気になるけど、まさかわざと僕のサーチエリアぎりぎりを飛んでるとか、ないよね?
いろいろ考えてたけど、蜂に襲われることどころか、昼飯も走りながら済ませたのに出会うことすらなく、結局日が暮れていく。
「はぁ・・・僕が考えすぎなのか?」
「きゅ。」
「え、そうでもないのか?」
「きゅい。」
「そうだよな。気は抜けないよな。今日はできれば[ログアウト]したかったんだけど、やめて置いたほうがいいかな?」
「・・・きゅきゅ。」
「え?なに?ごめん。翻訳入れるよ。」
やばい、また翻訳しないとわからないような内容だったか。慌てて翻訳オンにしてもう一度答えてもらう。
『むぅ、もう一度か。己は揚げたての野菜春巻きが食べたいのだ。だから夕飯はしっかり作ってほしい。そのかわり夜も含めて番は任せろ。』
「えっと、[ログアウト]って意味わかったの?」
『ぬ?前も言い直していただろう?その言葉は意味不明だが、夜にお前の気配が全くなくなるあれであろう。確かにあれは無防備すぎるからな。』
わぉ、さすがレイトさん。というかログアウトしてるときは気配無くなってるというレベルの話じゃないよな。多分。
さて、レイトも所望してるわけだし、しっかり夕飯は作ってあげたほうがいいよな。僕は今日は甘いものを食べたいし、モイザとネティスの分として果物でも茹でるかな。
リンゴに桃にミカンも茹でると結構おいしい。緑甘樹の実も久しぶりに自分で茹でて周囲に甘い果物の匂いが漂い始める。モイザもいつもはおとなしいけど、こういうときだけは少しだけそわそわと足を動かしてる。まぁモイザだけじゃなくネティスもそわそわとしてるけど。
うん?なんか隊を組んだ虫の反応がサーチエリアにまた引っかかったな。いや、引っかかっただけじゃない!?なんかこっちに近寄ってきてる!?
「いったん中断!みんな戦闘態勢をとってくれ!」
『おい、すぐに仕掛けるな!いったん様子を見ろ。』
あ、いろいろやってたけど翻訳切るのを忘れてた。だけど正確なレイトの指示は今はありがたいのかもしれない。僕はすぐにでも攻撃できるようにしてたよ。そして8匹の蜂がしっかりとフォーメーションを組んだままこちらにと近寄ってくる。
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≪識別結果
ミニオンズキャリアーワスプ 脅:D
女帝の手下である蜂。女帝のために蜜を運ぶ者たちであるが、女帝の縄張りを守るための戦う力も持っている≫
≪識別結果
ミニオンズリーダーワスプ 脅:C
女帝の手下である蜂。女帝のために蜜を運ぶ者たちの隊長格であり、強さもワンランク上である≫
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識別すると一匹だけ違う種類なのが分かったけど、女帝の手下らしい蜂達はそれぞれに槍のような物を手に持っていて、見た目の違いは隊長格の槍だけ色が黒他は黄色って違いしかない。
で、何をしに来たんだこいつらは?みんな戦闘態勢ではいるけど、槍を向けてはきていないので、向こうは戦闘意思はないんだろうか?
『侵入者たちよ、これは何の匂いだ!』
「うぉ!?え、えぇと、その、匂い?」
翻訳そのままだからか、蜂の隊長格が声かけた内容がよくわかる。槍を急に向けてきて威圧的な感じだったけど。匂いと言われると、今ちょうど茹でてる果物とかの匂いか?それにつられて近づいてきたのか?
『侵入者たちが来てたのは他の隊からの知らせで聞いていたが、この甘い匂いは何だ!まさか蜜を奪ったのか!?』
「い、いや、違いますよ、そこの鍋の果物茹でた匂いですね。」
『おいおい、己たちはお前らの蜜は奪ってない。己を怒らせたくないなら去るといい。』
レイトがいつもより低い声で脅したけど、僕はそれよりあんな遠くにいたはずなのに僕たちが侵入してきたことを知ってたことが驚きだ。
『ぐっ!貴様らが侵入者であることに変わりはない!蜜ではないという甘いこの匂い正体を食わせて確かめさせろ!』
『・・・だ、そうだが、どうする?』
「いや、どうするって言われても、じゃあ食べていきます?」
ネティス分に多めに作っておいたから8匹分くらいは何とかあるかな?ただあげちゃうと同時に作ってた他料理の分だけじゃネティスが足りなくなるから、こりゃ追加必要かもしれない。
昨日一日休んだせいか、全く進まなかったので遅くなった。