木々に囲まれ
上空を飛来する虫の反応が増えてきた。ラフレシアの時のハエっぽい反応もあるけど、他の虫の反応もある。ただ木の葉の合間を飛んでるようだから姿がなかなか見えない。
襲われてるわけじゃないから神経質になりすぎてもいけないだろうけど、何かわからないのが上を飛んでるのはちょっと不安だな。というか虫と暫定してたけど飛んでるから鳥とかの可能性もあるのか?
いろいろ考えはしたけど、結局しばらくは何事もなく森を駆け抜けていく。サーチエリアで違和感のある魔物反応を察知したのは昼休憩を終えて少し走りだしてからだった。
「せっかく走り出したのに止めてごめんよ。でもなんかこの真正面にドライアドの反応が固まってるんだよ。」
「ばぅ?」
細身の木のような魔物反応なので多分スレンダーリーフドライアドだろう。まるで僕らの行く手を塞ぐかのように横に囲むような形に並んでいるっぽい。とはいえここからならその反応を無視して横に大きくそれれば進めるだろう。
「あいつらがあそこで何してるかわからないけど、とりあえず避けて進んでくれるか?」
「ばぅ。」
ベードに細かい指示をしつつ大きくよけて進んでもらえば、あっけなくスルーすることができた。
「きゅ?」
「え?よかったのかって、何が?」
「きゅ・・・」
わかってないならいいとそっけなく返されたけどなんだったんだろうか?ちょっと疑問は残りつつも、その後また時折ドライアドやトレントの近くを通ったけど、特に何かされるでもなく、また夜が近づいてきた。
「今日はこの辺でキャンプにするか。それで今日寝るときに僕は一度[ログアウト]・・・っていってもわからないか。起こしても起きない深い眠りにしばらくつくから、その間に万が一テントが襲われたりしたら申し訳ないけどよろしくな?」
「きゅ。」「ばぅ!」「――――!」「コ!」「ぐぁう!」
みんなが気を張っててくれれば、多分大丈夫だろう。夕食と合成も終えてテントに入ったらすでに約一羽は毛布で僕より先に寝息を立てていたけど・・・
ログインすると体を揺さぶられているのがわかる。いつもはログイン後も目を覚ますまでは寝かされている。つまり揺さぶられているってことはと考えが巡り、がばっと毛布から起き上がる。
僕を揺さぶっていたのはモイザで、その横にレイトもいたけど、他三人が見当たらない。
「どうした、なにがあった!?」
「きゅ。」
「え、囲まれてる?」
よかった、今襲われているわけではないのか。いやよくはないか、サーチエリアで確認するとテントから離れたところだけど、トレントとドライアドに完全包囲されてるようだ。
「まったくなんだっていうんだよ・・・」
「きゅ。」
「え、昼の無視が原因?」
あぁあれか!いやいや、無視できるなら無視するだろ!今回は無視するわけにもいかなそうだけど、テント片付けるくらいまでは待っててくれるだろうか?
テントの中にいても仕方ないのでまずは外に出ると、テントの三方向をベードとフレウドとネティスがじっと見張っていてくれていた。
「起きるまで見張っててくれたのか、ありがとう、さっさと片付ける。」
ほんとにさっさとテントを片付けて、どうしようかと考える。突破するだけなら多分、ベードに乗って進む正面を炎で破ればあんまり早くないトレントからは逃げれるだろう。
ドライアドは動きは速いんだろうか?トレントもトレントで攻撃を受けたわけじゃないから、厄介な技を持ってる可能性はある。なんていろいろ考えてたらトレントでもドライアドでもない感じの反応がこちらにと近寄ってくる。この感じは人か?
それでも臨戦体制は崩さずにいるが、向こうは気にもせず木々の中から姿が見えるほどに近寄ってきた。髪が緑の葉で、肌が木目調だけど、確かに人の姿をしている。
「・・・識別できない?」
「こっちに敵意はない。囲んで申し訳なかったが、話をしたいだけだ。」
低い男声で普通に語り掛けてきた。人と同じ形の両手をひらひらと振って敵意がないことをアピールしてくる。襲ってくるならとうに襲ってきてると思うし、とりあえず害はないのかな?
「今識別できないといったな。もしかして君は人に対して識別したことがないのかい?」
「えっと、人に対してはそういえばやったことがないような?」
「そうか。こんな見た目だが自分は魔族人種でね。ほら、後頭部に角があるだろ?」
そういって僕に背後を見せてくる。よく見ると確かに後頭部に葉っぱの髪に交じって同じ緑の角が下向きに二本生えている。
「人という存在に対して識別していないと、人種の識別ができなくなるんだ。自分ももう君の識別はできないね。」
「あなたは、なにものなんですか?トレントやドライアドの主?」
「いや、そういうわけじゃないが、この辺のトレントやドライアドには慕われているかな。話っていうのは君についてだ。もしかして四魔帝が一人、エンプレスホーネットを訪ねるつもりかい?」
「えっと、そのつもりですけど・・・」
思わぬところでこの先の四魔帝の存在を知れてしまった。ホーネットってことは蜂なんだろう。本当に四魔帝は虫だったな。
「やはりそうか。ここらへんですら女帝の部下がすでに管理している。何を目的に会いに行くつもりはわからないが、個人的にはお勧めはしないぞ。」
おそらく進行方向的に僕達が行く方向を察したんだろうけど、そうはいわれても一応の目標の一つだし、危険はある程度承知のうえで進んでるからな。
「いえ、そういわれても進みますよ。」
「そうか。ならばもう一つだけ、部下の中でも蜂には危害を加えないことだ。」
「どうしてそんな忠告をしてくれるんですか?」
「なに、友の数体が助けられたという話をしていたからな。」
そういうと姿は見えないがトレントやドライアドのほうに顔を向けた。木々の魔物たちが友か。ある意味僕の状況と似てるかもしれない。
というか助けたのって芋虫くらいだと思うけど、数体ってことは何かどこかで助けたのか?記憶にないんだけどな・・・むしろ記憶にあるのは燃やしたトレントのほうだ。
「あ、でも、そのトレントを一体燃やしちゃったので、そのせいで怒っているのかと・・・」
「あぁ、所詮魔物の世界は弱肉強食。別に何の怒りもない。場合によっては虫たちに体の根こそぎ食われてしまう個体もいるが、虫たちに対して恨みや怒りを持つものはいないだろう。」
「そんなことがあるなら、ここは虫だらけですし、他の場所に移ればいいじゃないですか。」
「ここは土壌がいいから自分は元々出ていくつもりはないよ。ただそもそも普通は自分の土地からは出ていけないのさ。そこで生まれた限り、相当強い魔素を持つか、従魔にでもならなければ・・・そうだ、君は従魔を大切に扱っているようだね!よかったら数体だけここを抜けてみたいというものがいるんだが、連れていくかい?」
「えっ!?」
なぜかそのあとちょっと待っててといわれると、奥からドライアド3体とトレント5体を連れてくる。なんか断れる雰囲気でもないので僕がテイムをかけると、あっけなく従魔にとなってしまった。
「いやぁ!よかったな!他の土地をぜひ見てくるといい!」
「・・・連れて歩くわけにはいかないので、一度僕の土地に送らせてもらいますよ?」
「おぉ!それはさらにいいことだな!」
バサバサと体を揺らしてるけど、あれは喜んでいるんだろうか?というか口はあるけど言葉は発せられないのか?
ちょっとステータスを見たけど、聖族言語のスキルは発現したようだ。そのうち対話できるといいんだけどな・・・
この後はお話終了まで駆け足気味に話を進めていきます。
ご了承ください。