目指す方向
しばらく進むとトレントやドライアドの気配が増えてくる。すでに木漏れ日の光がだいぶ少なくなってきている。一度軽い昼休憩にと足を止めたけど、警戒は怠らないようにしないとな。
正直どっちに進めばいいかもわかりづらくなってきてるけどとにかく西北西の方面にとベードに足を進めてもらっていた。目指しているのは超巨大樹とやらがある場所だ。
資料では森を進むだけだと見えないから木の上から確認したみたいだったけど、そのまま上空を進もうとして虫の大群に襲われて断念したらしい。
だからどのくらいの距離があるのか、どのくらいの大きさなのかとか詳しくは全く不明。ただ巨大樹の元に四魔帝がいるのではないかという推測がされているようだ。
だから僕もそこを目指したいんだけど、おおよそ西北西ということ以外よくわかってないのでどうにかしないとまずいよな・・・
「そろそろどうにかして一度くらい木の上から確認したほうがいいよな。」
「コ!」
「あぁ、フレウドに頼みたいところではあるんだが、この木の状況でお前飛べるのか?」
「・・・ココ。」
「それは危ないだろ。」
わかってる、木を燃やしながらならいけちゃうだろうな。ただ自然を燃やそうと使う火術は周囲の地形を変える可能性もあって、そうなると周囲の魔物たちが一斉に火の元に集まってくる可能性があるらしい。
それにせっかくの綺麗な森だ。焼いて進むっていうのはできれば避けたいところだ。それは最終手段として、どこかフレウドが飛び立てるくらい広い場所を探したほうがいいだろう。しかしあたり一帯ずっと樹ばかり。そんな開けた場所が都合よくあるだろうか?
「レイト、ベード、開けた場所はありそうかどうかわかるか?」
「ばぅぅ・・・」「きゅ。」
「え、レイトはありそうな場所わかるのか?」
ベードはわからなかったようだけど、レイトはそういう場所に心当たりあるようだ。あるようだけど、僕の頭上から降りてジッと僕のことを見てくる。
「な、なんだよ。」
「きゅきゅ。」
「え、僕もそれくらい感じろって?サーチエリアでか?目一杯広げてるけどそれらしい感じはないぞ。」
「きゅ・・・」
まるでため息をつくように声を上げるとベードに何か伝える。ベードがちらっと僕のほうを向いてくる。
「進行方向変更か?レイトの言う一度開けた場所に向かおう。」
「ばぅ。」
ベードは進行方向をさらに西方面にと足を進める。しばらく進んでいるとサーチエリアに確かに木の感覚がないところが広がり始める。ただ、森のないところが広がる前でベードに止まってもらった。
「きゅ。」
「あぁ気づいたよ。やばいやつなのかあいつは?ここからでもぼんやりと姿は見えてるけど、識別できるかな・・・」
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≪識別結果
ニュトリションデプライブラフレシア 脅:F
周囲の栄養を奪う花。その花の栄養素は周囲の木々であるため、花の周りには木々が生えていない≫
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サーチエリアに引っかかった魔物の気配は、開けた場所の中央に位置する巨大な真っ赤な花だった。こっちにくるにつれてまたトレントやドライアドの気配が減っていたのはおそらくあいつのせいなんだろう。
にしてもまんま花弁の見た目はラフレシアだな。ただ現実のラフレシアって地面からすぐのところに生えてたはずだけど、あのラフレシアには太くて長い茎の部分がいびつな感じで絡まって伸びている。
そういえば現実のラフレシアは臭いんだっけ?あいつもそういう感じなんだろうか?フリップエリアで跳ね飛ばせればいいけど、ダメだとしたらベードとかきつそうだな・・・
「どうするベード、識別結果にはないけど、あいつ臭い匂いとか出すかもしれないぞ?」
「ば、ばぅ!」
「頑張るのか?きつかったらすぐ下がれよ?」
ベードは行けるというのでそのまま木々のない場所にと足を進めてもらう。そして踏み入った瞬間、上空を斜めに向いていた花弁がこちらにと向いた。
「おいおい、気づかれたのか!?」
「ば、ばぅ!」
「わかってる、気配は消してたんだろ!それよりなんか来る!よけろ!」
地面の中から何か来ると気づいてすぐにベードに避けるように指示。僕たちのいた場所に向かって棘だらけの根のような物が突き出てくる。しかし避けた先にもまた根が生えてきてベードはよけるので精いっぱいという感じ。
ネティスの水結界があるとはいえこれじゃじり貧だ、動き回るおかげでちょっと狙いはつけづらいけど、やるしかない!
「フレイムブレイク!」
放った炎の斬撃波はまっすぐ花に向かっていくけど、地面から出てきた棘の根の塊がその斬撃波を防ごうとしたけど、あっけなく切り裂いてそのまま花の本体にとあたる。
当たったはいいけど、距離もあって防がれたことで威力が落ちてたのか、花は切り落とせなかった。でもへにゃりとしおれてこっちへの攻撃は止まったからかなりのダメージのはず。
「一気に片を付けるぞ・・・ん?」
なんか違和感があるきがすると、サーチエリアに空からくる反応が増える。しかも結構な速さがあるぞ!上空を見ると黒い異様な姿をしたレイトやモイザほどの大きさのハエが花目掛けて飛んできているようだった。
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≪識別結果
スピーディーダーティーフライズ 脅:F
速さのある汚れた蝿。腐臭に釣られるようにどこからともなく現れる≫
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「なんで急にハエが寄ってきたんだ?」
「ば、ばぅ・・・」
「え、臭い!?僕はそれほど気が付かなかったけど、あいつやっぱりそういう習性あったのか!これ以上呼ばれるのはまずい!ベード、モイザ、フレウド、ネティス、ハエたちを落とし始めてくれ!フレイムブレイク!」
「ばぅ!」「――――!」「コ!」「ぐぁう!」
どこからともなく集まってきたハエどもは26匹にも及んでいた。すぐにラフレシアにとどめを刺すようにフレイムブレイクを放つ。その瞬間ハエどももこちらに気づいたようで気持ち悪い羽音を立てて迫ろうとし始める。
ただフレイムブレイクに気づいてないのか、花を守ろうとしたのか数匹が巻き込まれてぶった切れた。ラフレシアも完全に根が切れてぼとりと地面に花弁が落ちたので、多分死んだと思う。
他のハエたちに向かってネティスの水光線が薙ぎ払われる。その線上にいないハエたちはベードの氷、モイザの石、フレウドの炎の槍先が襲い落としていく。
ちょっとあたりがハエの死骸だらけで不愉快な感じだけど、何とか処理できた。ダンジョンだったら死骸が消えて楽だったなと思いつつ、予備ポーチを出して全部収納しておく。このポーチは今後汚そうな感じのものようだな・・・
ようやく目的の上空からの確認ができそうだ。フレウドがまかせろと言わんばかりに自身の胸を羽でたたく。
「はぁ・・・僕だけ乗せるように出力抑えろよ?あんまり長持ちしないんだから。」
「コ!」
「ベード、モイザ、ネティスはここで待っててくれ。万が一があると危ないからな。」
「ばぅ。」「――――。」「ぐぅ。」
ちょっと不安そうにみんなうなずいてくれる。安心してくれ万が一のために空間掌握しておくから。落下しそうになったら転移で戻って来る。
そういうとフレウドが少し不満そうな顔してたけど、自身の体に炎を纏わせ、僕が乗れるくらいの大きさのフェニックス体系になる。
またがると温かさはあるけど、ほんと燃えたり熱かったりしないのな。そしてそのまま森の木よりも高くへと舞い上がる。
「コ?」
「うーん、そうだな、たぶんあれだろ。」
北北西方面にこの周囲よりもさらに大きい木の影のようなのが見える。多分あれが巨大樹だろう。ただあの周囲に生えてる木も十分大きそうな感じだ。とにかくあっちの方に進んでみるしかないか。
何事もなくぶち地面にまで戻ってこれたけど、フレウドはやっぱりちょっときつそうな感じだった。やっぱまだまだ練習必要だな。