ディヴィジョンマウンテン第80層
79層を終えて一休憩の後、80層にと突入する。この階層にも79層と同じ大きさの川や池もあるけど、中央にもはや湖といっていいんじゃないかというほどの大きさの池がある。
資料では池ということになってるけど、実物見るとほんとに湖だなこりゃ。ギリギリ向こう岸見えるから池なのか?このでかい池にこの階層のボスがいるらしい。お、ちょうど上にあがってきたな。
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≪識別結果
マウンテンポンドマスタースピリットトラウト 危:B
山の池のヌシである精霊鱒。その大きさと神秘的な見た目はまさしくヌシと呼ぶにふさわしい存在だろう≫
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「で、でかい・・・」
水面に顔だけ出して識別できたのはよかったけど、その姿がでかいのなんの。50層のムカデほどではないけど、ベードよりは確実に大きかったな。でも美しい鱗だったな。青色に近い色で強弱をつけた鱗は精霊鱒という種族だからだろうか。
さてと、あいつを倒さないと進めないんだろうけど、また潜っちゃったのどうするかね。いや、ベードがキラキラした目でこっちに振り向いてるけど。
「ばぅ!」
「やっぱベードが行く?よし、やってみていいぞ。」
「ばぅ!」
今度は真剣な感じで返事すると右前足を上げてじっくりと力をためているようだ。右前足に冷気が集中してるのがベードの上からでもわかる。
ためた冷気を右前足を水面にたたきつけることで池に伝えていく。ベードの触れたところから水の波紋のように結構な速さで池全体が凍っていった。
「おぉ、やっぱすごいな氷術・・・もしかしてこれで倒せちゃうのか?」
なんて気楽に思ったけど、さすがにボスレベルはそうはいかないようで。凍ったはずの池がミシミシと音を立てはじめ、表面にひびが入ったかと思うと一気にすべての氷が割れる。
そしてあっという間に元の池に戻ってしまい、でかい魚影もあちこちに動き回ってるのがわかる。なんというかイライラしてるような感じだな。
「!!後ろによけろベード!」
「ばぅ!?」
一応サーチエリアをかけ続けててよかった。宙に急に現れたのは大量の水の槍先。その数100は確実にあるだろう。よけたけど、こちらを狙ってきてたわけじゃなく、池の周りに無作為に降り注いでいる。
位置がばれてたわけじゃなかったのはよかったけど、あんな無作為な手段をとってるとは思わなかったな。水の槍先の雨は止んだけど、遠めに見える魚影も相変わらず池の中をずっと動き回ってる。
下手に手出ししてこちらの位置がばれたら、さっきの槍先の雨が全部こっちに降ってくるんだよな?それはさすがに避けたいところだ。
もう一度ベードに乗せてもらうのがいいのか?いや、多分またすぐに氷を砕いて暴れだすだろう。もしかしたら今度は近寄れなくなるほどずっと暴れ続けるかもしれない。
「一気に片をつけるのがよさそうだな。さすがに水から外に出せば少しは鈍るだろ。」
「ばぅわぅ・・・」
「いや、ベードの責任じゃないぞ?相手が悪かっただけだろ。ここは僕がしっかり捕まえる。とどめはベード、モイザ、フレウドに任せるぞ?」
「ばぅ!」「――――!」「コ。」
「スペースエリアコントロール、ディメンジョンバインド!」
四属性の技じゃ水の中での拘束は威力が弱まるうえに、相手は動き回ってるから壁を使って空中に追い出すのも下手したら避けられる。空間掌握して動き回るでかい魚影の位置を把握して、次元拘束で次に進む先を狙って捕まえる!
よし、捕まえた!ギチギチと暴れながらも、また宙に水の槍先が大量に現れる。その槍先は今度は完全にこっちに向いてる・・・
「くそっ!?よけれるかベード?モイザ、フレウド、撃ち落としたり防いだりの用意しておいてくれ!良いからおとなしく、お前は外に出てろっ!」
まるで吊り上げるかのようにグイッと腕を引っ張り上げると、巨大な魚が池から引き上げられた。そのまま宙にと拘束し続けようとするけど、水の槍先が僕たちにと降り注ぎ始める。
ベードがよけつつ、モイザの粘土の壁が防ぎ、フレウドの風が槍を切り裂き、何とかかんとか当たらないように立ち回れてるけど、ずっとこちらに降り注ぎ続けてて、まったくベード達が魚に反撃する隙が無い!
「くそっ!いつまでふらせつづけてるんだよっ!?このやろっ!」
思わずイラついた拍子に握っていた手をよりいっそグイッと握りしめる。その瞬間巨大な魚がグェっと低くも大きい声を上げる。そして降り注ぐ水の槍先の雨も宙に浮かんでいた大量の槍先もすべて消える。
次の瞬間、巨大な魚の次元拘束されていた個所が引き裂かれてばらばらになって消滅した。
「お、おぅ・・・今のモイザの糸の技みたいな感じか?」
「――――・・・」「きゅ・・・」
次元が違いますとちょっと呆れられるようにいわれる。レイトにもそれができるならもっと早くやれと言われたけど、今できるようになったみたいなんだよ!
また無意識に技が出たような感じだったのか。時折こういうことがあるな。そういう仕様なんだろうか?なんにせよ倒せてよかったと今は思うべきか。
「ってベード!ちょっと足元掠ってるじゃないか!」
「ばぅ。」
「かすり傷?いや、これ結構深そうだぞ!できるだけすぐ治す、ヒーリングハンド!」
ベードはずっと動き回り続けてるから気づいてなかったけど、足に水槍の刺さった跡が残っていた。痛そうにはしてない顔だったけど、ちょっと血がにじんでかわいそうなことになってる。
でもそれほどでもないのはおそらくまわりが凍ってるおかげだろう。刺さってすぐに凍らせて致命傷にはならないようにしたってことかな。
「なかなか器用なことはいいけど、無理はするなよな?」
「ばぅ・・・」
ヒーリングハンドで何とか治して上げれたけど、一応僕は重いだろうからとベードに乗らずに80層の残りを進む。といっても他の魔物がいるわけじゃなく、ベードが時折川や池を凍らせたところを進む感じだったけど。
ウィンドシューズかけてたから滑らず進めたし、ゆったりではあったけど80層の昇り側階段につく。踊り場の祭壇を灯したらさっそく夕飯の準備に取り掛かることにしよう。