ベードの第一部戦
だいぶ日が傾いて闇の刻が迫る中、さっそくベードの組が始まるけど始めは他の組にもよくいる白い羽毛のナイトフライグレートオウルとグラウンドオブブルトンホースの対決だ。
他の組でも馬とフクロウはよく組み合わせでいたけど、その馬たちよりもグラウンドオブブルトンホースは二回りは大きい。僕は他の馬とフクロウ戦はフレウドの前の試合しか見てないけど、きっと違う戦いっぷりになるだろう。
「それでは中央従魔戦、試合開始!」
開戦の合図とともにフクロウは空へと舞い上がる。空中からの戦いを仕掛けるのは当然だろうな。おそらく種族名的にもこの間の識別結果的にも土を操るような種族だろうから、リングは石床だし相手は空だしで戦いづらいんじゃないか?
しかし馬は冷静な面持ちのまま右前足を床にたたきつける。するとリングの石からかなりの量の石の礫がフクロウへと発射された。土術で石まで操れるほどなのか、かなり厄介そうな馬だな。
フクロウも慌てるようによけようとするけど、広範囲に及ぶ石の礫がいくつか当たる。保護術式のおかげで体そのものに当たっていないとはいえ、防護の腕輪と同じで衝撃は受ける。
体勢を崩されて床にと落ちるフクロウに、追撃するように上から踏みつけた。何とかフクロウも動こうともがいていたけど、保護術式が一枚壊れたところで馬が引いていく。
「勝者、グラウンドオブブルトンホース!」
当然だと言うがごとく編まれたたてがみをたなびかせて振り返りリングを後にする。そういえばリングの石を使ったんだよな?はがれてたりしないんだろうか?
そんなことはないか、他にも土術の系統で石を扱う人はいそうだし、僕の試合の時も床を燃やしたり、フレイムランスレインが突き刺さったりしてたけど、一切傷ついてなかったもんな。
少しするとすぐにベードがリングにと上がってくる。相手はビッグヒートゾーンリザードという真っ赤な鱗を持った、人が乗っても平気なほど大きなトカゲだ。
「それでは中央従魔戦、試合開始!」
開戦の合図とともにトカゲは全身を震わせると、その鱗の色が真っ赤からオレンジの色にと変色していく。それをみてベードは姿勢を低くして身構える。
そのまましばらくの間、変色したトカゲとベードのにらみ合いが続く。トカゲは早く攻めて来いと言わんばかりに尻尾を何度も床にたたきつける。確かに何でベードは攻めないのだろうか?あの変色したことで攻めづらいということなんだろうけど・・・
リング外の地面が光りだし、リング上まで照らす。そしてコロシアムの壁の向こうにまで完全に日が隠れると同時にベードが行動を起こす。ベードの体の周囲に足元から影がまとわりついていく。そして完全にまとわりついたと同時にベードの姿が完全に見えなくなった。
トカゲもどこか驚いた表情で周囲をきょろきょろとし始めるけど、どうやら完全に居場所を掴めなくなったようだ。ベードを見つけるのはすぐにあきらめ、変色させた鱗はそのままにその場にがっちりと居座る。
ザシュッと唐突にトカゲの脇腹あたりの保護結界が引き裂かれる。それと同時にトカゲのうろこから火花のような物が散っていた。もしかしてあの鱗が高熱に変温してるのか?
カウンタータイプってことか。直接的じゃない攻撃にも効果はあるんだろうか?いや、トカゲの保護結界が引き裂かれるたびに火花が散るだけじゃない。周囲が明らかに湯気のような気体で歪んで見える。
どんどんと広がっていき、そして、まさしく爆発した。そう表現するしかないかのような光景だったけど、熱の暴走とでも言うんだろうか。どういう技かは知らないけど空気中の湯気が爆発したように見えた。
トカゲのうろこは真っ赤な色にと戻った。スタッフの人の判断的にベードはどうやら場外には出てないみたいだし、保護術式の割れる音もしてない。その色が戻った瞬間を狙っていたのか、トカゲの下から3本の影の槍先が突き出て、トカゲはそれをもろに受けた。
その前から何度もベードの攻撃を受けていたからか、その攻撃でトカゲの保護術式が一枚壊れた。
「勝者、グレートディープナイトウルフ!」
バゥッと大きく一鳴きしてリングを後にした。トカゲは影の槍先のせいであおむけにひっくり返っていたけど、スタッフの人に起こされてリング外にと歩いて行った。
「あの感じのカウンター系ならベードは影で拘束して外に放りだしてもよかったと思うんだけど・・・」
「きゅ。」
「え、ダメなのか?」
レイトが僕の言ったことに首を横に振った。まるで分ってないなといわんばかりに。
「・・・きゅ。」
「あいつののぞんだこと・・・?」
そんな風に言ったように聞こえた。ベードが保護術式を壊す戦いを望んでやったってことかな?なんて考えてる最中にコロシアム内のほうの部屋のドアがノックされた。
「やっぱフレウドか、お帰り。」
「コ。」
ベードは外出口から出入りだというのにこいつは何というか、コロシアム内を我が物顔で歩いてきたのか?というかどうやってノックしたんだ?まぁいいか・・・
インターバルがそろそろ終わるだろう。次の試合はベードが連戦か、相手はナイトフライグレートオウル、大きさとしては少しばかりベードのほうが大きいけど、ほとんど変わらないかな?
「それでは中央従魔戦、試合開始!」
開戦の合図とともにフクロウは空にと舞い上がろうとする。当然といえば当然だったけど、ベードの影が伸びて拘束し、すぐさま空中に逃げるのを防いだ。
慌てふためくフクロウに詰め寄り、逃げないように注意しながらも影の槍を何度も突き刺し、あっけなく保護術式の一枚を破壊した。
「勝者、グレートディープナイトウルフ!」
小さくベードはうなずいたように見えたけど、すぐにリング外へ出ていく。フクロウは何もさせてもらえずに負けたことでかなりショックなようだけど・・・
おっと、次の試合が始まる。グラウンドオブブルトンホースとビッグヒートゾーンリザード、さてどっちが勝つかな?さっきの戦術のままだと・・・
試合開始の合図とともにさっきと同じようにトカゲはオレンジに変色する。それを見た馬は両前足で床を踏みつけると、トカゲの下の石が一気にせり上がり、壁のようになった。石の勢いでそのままトカゲは場外にと吹っ飛んだ。こっちはこっちであっけない試合だったな・・・
石の壁が崩れてなくなる。剥がれるようにリングの石がめくれてるのかと思ったけど、リングの石には一切傷跡はなかった。モイザの粘土のように魔素だけで何もないところから石を生み出してるのか、それともリングがすごいのかわからないな・・・
ちょっと短めのインターバルが終わってベードとグラウンドオブブルトンホースがリングに上がる。どっちも二勝だから勝った方が次の組み合わせに進める試合だ。どうやらフクロウとトカゲの試合は行わないようだな。
「それでは中央従魔戦、試合開始!」
開戦の合図と当時にベードはすぐさま影を纏い姿をくらます。馬もすぐさま床を踏みしめ、ベードのいた位置にさっきと同じように石壁をせり上げたけれど、どうやらベードには当たっていないようだ。
馬はすぐに警戒を強めながら少しずつ石の壁による。そして後ろ両足で床を踏みしめると、馬の周りから石壁がせり出し、上空以外は完全に石壁に覆われる。
石壁の中が見れないぞ、どうにか見る方法はないのか?と思ってたら石壁が砕かれて、馬が飛び出してきた。馬のいた位置には3本の影の槍先が飛び出していた。
そうか、影術なら石壁とか関係なく上からじゃなく下から狙えるってわけか。それは馬も予想外だったってわけだな。でも今のはある程度かすったかもしれないけど、クリーンヒットとはいかなかっただろう。
影が馬を拘束しようと襲い掛かる。伸びる影を石柱を出して防ぎつつ、伸びる影の先にベードはいるのだろうと体の周囲から出した石つぶてを放つが、微妙そうな表情をしていたので当たっていないのだろう。
それどころか、馬の横腹あたりからベードの影爪が伸びてきて、保護術式を切り裂いた。結構がっつり入ったけど、馬はよろめくことはなかった。
拘束のために伸びてくる影に対応していると時折影の爪で切り裂かれるという感じで、だんだんと馬が劣勢な雰囲気を見せてきていた。
何度目かの影爪が当たったところで馬が切れたようだ。無茶苦茶にその場で暴れ始めると、リング状に何本もの石柱がかなりの勢いでせり上がる。
ドシッっという鈍い音がしたから、ベードに当たったと思う。でもベードは負けずに3本の影の槍先を馬にと伸ばしていた。その影の槍先が馬を貫いたところで馬の保護術式が砕ける。
その音で馬はピタリと暴れるのをやめた。石柱はくだけリングがすっきりするとベードが影を散らして姿を現す。両足伸ばしてうつ伏せの体勢だ、多分上から落ちてきたなアレ。
「勝者、グレートディープナイトウルフ!これにて本日の従魔戦を終了します!第二試合は明日になりますので、勝ち残った従魔の方がお忘れなく参加するよう、従魔契約者の方はお願いいたします!」
正直、あの暴走のような石柱地獄をもっと早い段階でやられてたらきつかったかもしれないな。とはいえこれで勝ち抜けた。ベードが帰ってきたら夕飯だな。勝ち残ったんだしベードにはほしい肉をいっぱい上げようじゃないか。フレウドにもまた油用意してやるか。