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ブックマークありがとうございます。

ここから徐々に砂糖が増えていきます。

よろしくお願いします。


*1話から6話までの誤字脱字等を修正しました。ストーリーには全く影響はありません。

 

「ということがあったのよ、きょうちゃん」


 私は忙しい1週間を乗り切って響子さんと週末デートをしている。

 週末に会えなかったから今週末にデートしようと、失意の中で迎えた週明け早々に響子さんからお誘いが来たのだ。私からお願いしてみようと思っていたから誘われたときは舞い上がってしまった。正確には響子さんは週末に会おうねと言ったんだけれど。それでも私の中ではデートということにしておいた。その週末デートのお陰で仕事がよく捗って、いつもの忙しい時期よりも残業時間を減らすことが出来た。今週の私は無敵だった。主に愛の力でね。

 そんなわけで私たちは今、遅めのランチをしている。


「麻衣子はモテるのね。まぁわかるけど」


「モテると言うか興味を持たれただけ。連絡先を交換したけれど誰からも何もないし」


「麻衣子が忙しいって言ったからでしょ。気を使ってるのよ」


「そうかなぁ」


「そうよ。それで、気に入った子はいた?」


 特にはいないと答えようとしたけれど、一瞬だけ藤宮さんが頭をよぎる。そのせいで顔をしかめてしまった。それを見逃すような響子さんではない。さらにそのあとよぎったビバ○ダム君やらマシュマ○マンの画像のせいで私は持っていたフォークを置いてこめかみを押さえるように指を当ててしまったので、私がおかしいのは明らかになってしまった。


「いたんでしょう?」


 響子さんが探るように覗き込んできた。微笑んでいるけれど少し怖い。早く言いなさいということだろう。


「違うのよ、きょうちゃん。これは別なの。実はね、会社に可愛い女性がいてね。少し気になっちゃって」


「なにそれ」


 どうせ話すことだからと私はざっくりと藤宮さんのことを話すことにした。

 私の話が進むに連れて響子さんの眉間に皺が寄り二重で大きな目がすぼめられていく。これは気に入らないというサインだ。私はその眼差しに耐えきれずに話をしながらも目線を逸らしていた。


「ふ〜ん。そんな人いたの」


「だから違うんだって。彼女はノーマルだから嫌なのよ。それで私、きょうちゃんに忘れさせて貰おうかなって思っているの。ごめんね。なんか勝手なこと言って」


「あ、わかった。それで先週やたらと連絡よこしたりしたのね。麻衣子ったら様子がおかしかったもの。私心配していたのよ」


 響子さんの不機嫌さは私が目的を告げた瞬間に無くなって、その顔にはいつもの優しい笑みが浮んだ。


「うん。ごめん」


「謝らなくていいのよ。私は麻衣子にそう望まれて嬉しいんだから。そういうことなら任せなさい。私がちゃんと忘れさせるから」


「ありがと。きょうちゃん」


「いいのよ」


 響子さんは手を伸ばして私の頬に触れた。それは一瞬で、すぐに手を引いてしまった。


「私が麻衣子を染め直してあげる」


 次の瞬間そう言った響子さんは、妖艶でどこか凄味のある微笑みを浮かべた。それを見た私の身体が鳥肌を立ててぶるっと震えた。手が触れた頬は熱くなり期待と嬉しさで口角が上がる。私は耐えきれずに目を伏せた。蕩けた顔をしていたかもしれない。そう思うと恥ずかしくてたまらなくなった。


「ちょっと麻衣子。まだお昼なんだからそんな顔しないで。見てるこっちが恥ずかしくなるでしょ」


「ごめん」


 やっぱりしていたか。言われた私はさらに恥ずかしくなって俯いてしまった。きっと耳まで赤くなっているに違いない。


「ふふ。麻衣子は可愛いよね。さ、水飲んで落ち着いて。ご飯食べよ」


「うん。食べる」


 私はグラスを手に取り水を一気に飲んで大きく息を吐いた。落ち着いてきたのでフォークを取って食事を再開しようとペンネを突き刺したところに響子さんから声がかかった。


「ねえ麻衣子。もう一回言ってくれる?」


「ん?何を?」


 私はそう言ってペンネを口に入れ、適当に咀嚼して飲み込んだ。響子さんが何も言わないので紙ナプキンで口を拭いてからもう一度聞いた。


「で、何を言えばいいの?」


 響子さんはむくれていた。拗ねている感じだけれど私には意味がわからない。


「きょうちゃん拗ねてる?」


「拗ねてません」


「本当に?」


「そうよ。さ、食べよ」


 響子さんはもりもり食べ始めてしまった。明らかに拗ねていると思うけれど。


「わかった。そうする」


「ちっ」


 私もまた食事に取り掛かる。その時に響子さんの舌打ちが聞こえた気がしたけれど何か聞いても答えてくれなそうだから放っておいた。

 その後は再び機嫌が戻った響子さんと楽しく会話をしながら食事を終わらせた。





 食後のコーヒーを飲み終えた私たちは今から買い物デートをする。


「いいですか。これから買い物をするにあたって、この真夏の日差しの中を歩くつもりは微塵もありません」


「はい」


「したがって地下街もしくは地下通路を駆使して百貨店を巡るということにします。よろしいですね?」


「異議なし」


「じゃあ行こう。麻衣子」


「うん。行く」


「はうっ」


「ちょっと?きょうちゃん大丈夫?」





 私たちは作戦通り地下通路を歩いていく。この街は駅ビルから始まって、少なくとも五軒の百貨店がある。その全てを外に出ることなく行けるという、夏の日差し対策を考える上では中々に素晴らしい街だと思う。考えることは皆同じで地下通路は混雑しているけれど、その分響子さんとの距離が近くなるのでまったく気にならない。私たちは男女のカップルのように気兼ねなく手を繋いだり腕を組んだりすることが出来ない。もどかしい気持ちもあるけれどわざわざ好奇の目に晒されるつもりはない。だからデートのときに限って言えば混雑するのは寧ろ嬉しい。


 私たちは色々とお店を廻り、お互いに服を選び合ったりオススメのコスメを買ったりして百貨店をはしごして行った。響子さんとの買い物はとても楽しい時間だった。


 夕方5時半を過ぎた頃になって外に出て来た私たちは、そろそろご飯を買って帰って家で食べようと話をしていた。


「汗かいたわね。早くさっぱりしたい。そろそろウチに帰ろうか」


「うん」


「明日はウチでまったりのんびり過そうね。適当にDVDを借をかりたから。それに飽きたら近ブラでもしよ」


 私が明日の夜帰るまではずっと2人で過ごすことができる。わかっていても言葉にされると嬉しくなって自然と顔がほころんだ。


「うん。ありがときょうちゃん」


 私は嬉しくてほんの少しの間だけ響子さんの腕に私の腕を絡ませた。こんな場所では不味かったかなと思ったけれど響子さんは気にすることなく笑顔を返してくれた。


「いいのよ。私も嬉しいんだから。じゃあ何を買って帰ろうか?」


「夏の大北海道展やってたね。そこはどう?」


「どこでだっけ?」


「ほらあれ」


 私が指を差す。2人で見上げればビルの壁面に大北海道展と書かれた大きな垂れ幕があった。


「じゃあ、あそこに行こう」


「うん」


「デザートも買ってかない?食べるでしょ?」


「うん。食べる」


「はうっ」


「バタークリームのケーキあるかな、ってきょうちゃん大丈夫?さっきも胸を押さえてたでしょ」


「大丈夫よ。さ、行こ」


「行く」


「はうっ」


「ちょっと。きょうちゃん?本当にどうしたのよ?」






「さ、入って」


「ただいま〜」


「はい。おかえりなさい」


 私は響子さんの部屋に来たときにただいまを使う。理由は単純。私が響子さんを帰る場所だと思っているからだ。以前それを響子さんに伝えたら、嬉しい、いつでも帰っておいでと言ってくれた。私はそれ以来、ただいまと言っている。響子さんは特に何も言わないから受け入れてくれているのだということにしている。


 勝手知ったる我が家とばかりにキッチンに入り込んで買ってきた惣菜やらケーキやらを冷蔵庫に入れていく。ついでにペットボトルを取り出して、水を一気に3分の1ほど飲んだ。響子さんは暑い暑いと言いながらリビングのエアコンをつけていた。昼間の暑さでこの部屋の空気も当然暑い。じわっと汗をかいてしまう。


「部屋も暑いわね」


 響子さんがそう言いながらキッチンにやって来た。私がペットボトルを渡すと響子さんもそれを(あお)るように飲んだ。そのせいで響子さんの薄っすら汗をかいて上下に動いている喉元が目に入り私は少し慌ててしまった。


「ね。また汗かいちゃった」


 私はそれを誤魔化すように着ている半袖のブラウスの胸元を摘みんでヒラヒラさせながらそう答えた。それを見た響子さんがペットボトルを置いて私の首すじに顔を近づけてくる。


「どれどれ」


「ちょっと。きょうちゃん?」


  すーっと鼻で息を吸う音を立てながら響子さんが言った。


「汗の匂いがするかと思ったけど、麻衣子はいつもいい匂いがする」


  響子さんがぺろりと私の首すじを舐めた。


「ひっ」


 思わず響子さんの両腕を掴んで押し戻した。私は怒ったような困ったような何とも言えない顔をしていると思う。響子さんはしてやったりと微笑んでいる。


「もうっ、何してんの。汚いでしょ」


「汚いとは思わないけど、しょっぱいはしょっぱいね」


 響子さんはぺろっと舌を出した。それから続けて言った。


「麻衣子はお腹空いてる?」


 突然話が変わって少し呆けたけれど、お腹の具合を考えてみるとあまり空いていない気がする。


「んー、お昼が遅かったからそれほど空いてないよ。どうして?」


「しょっぱくてお腹の空いていない麻衣子に提案があるの」


「なにその言い方は。きょうちゃんだってしょっぱいくせに」


 私は響子さんを素早く抱き寄せてその首すじに唇を付ける。そしてほんの少しだけその肌を吸った。んっと鼻にかかった声を出した響子さんは私を押し戻したりすることなく、そっと背中に腕を回してくれた。私は唇を離してそれを舐めた。


「きょうちゃんもしょっぱいよ」


「うふふ。そうでしょ。だから提案。食べる前にお風呂に入ってさっぱりしない?汗を流したいのよ」


「あ。そういうこと」


 私は首すじから顔を上げて顔を合わせる。私の方が10センチほど背が高い。響子さんはその分だけ私を見上げて頷いた。


「一緒に入るでしょ?」


「うん」


 私は照れてしまった。お互いの身体はとうによく知っている。それでも洗い合うと思うといまだに何だか気恥ずかしさを感じてしまう。そんな私を響子さんが優しく見ている。私は響子さんを抱いたまま。部屋の暑さと響子さんの体温、更には自身の体温に私は煽られてしまった。


「じゃあ、行こっか」


 響子さんが身体を離そうとするのを感じた私は響子さんに回していた腕に力を込めてそれを止めた。


「まって」


「どうしたの?」


「きょうちゃん……」


 私は響子さんを一度すっぽりと私の身体で包んでから、少し離してその顔を見つめた。そして唇に視線を移し私の唇を寄せていく。響子さんは首を少しだけ傾げてそっと目を閉じた。ほんの少し開いたその唇に唇を合わせて私も目を閉じた。


 しょっぱいけれど甘くて蕩けるような時間は1分もなかったと思う。唇が離れたあとも私は響子さんを離さない。お互いに荒くなった息をするたびに私たちの胸が同じリズムで押し合っている。それを感じていると凄く堪らなくなる。響子さんはそんな私の耳元に顔を寄せて囁いた。


「したいのね」


 私は頷いた。せつない気持ちになってしまった私の精一杯の意思表示だった。


「私もしたい。ただしお風呂でね。そのあと綺麗に洗ってあげる。さ、おいで」


  私は頷いた。限界だった。






読んでくれてありがとうございます。

本日はあと3話ほど上げる予定です。

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