extra 3
続きです。
ほのぼの回です
麻衣子がわちゃわちゃやっている様を見守ってあげてください。
よろしくお願いします。
明るさと暑さに目が覚めるとやはり汗をかいてキャミが張り付いていて不快だった。横を見ると響子さんは寝苦しそうな顔をしながらもまだ夢の中にいる。こうした環境でも眠れるのは響子さんの才能だ。流石だわと感心しつつ首を回して時計を見ると時刻は10時を過ぎていた。
私はサイドテーブルに置いてあるリモコンに手を伸ばしてエアコンをつけた。それからいつもの様に頬づえをついて響子さんの寝顔を眺めることにした。
こうして響子さんを眺めているとじわりと涙が浮かんでくる。私の中で込み上げてくる暖かな感情がそうさせる。前にもたまにあったけれど、響子さんとパートナー、恋人になった今とでは涙が浮かぶ理由は当然別なものだ。
私は涙を拭って考える。この感情はただ幸せだというだけではなくて、もっと何か色々と混ざっているように思う。けれど私の中でどうにも上手く整理出来ていない。混ざっているのはきっと愛情とか信頼とか献身とか安心とか、私が響子さんに抱いているそういった諸々の感情だ。勿論、他にもっとたくさんのものが混ざっている。きっとそれを全て含めると愛と呼べるものになるのだろう。
私が響子さんに持つ愛情は特別だ。それを至上の愛と呼ぶことはまだ出来ないけれど、何よりも特別な愛であることは確かだ。
きっと私たちが私たちであるからこそ、何より特別だと思えるのだ。同性愛者。レズビアン。そういうことなのだ。
そうでなくても私が響子さんを愛しているのは確かなことだから、そういう意味で特別な愛だと感じているのだとしても私は全然構わない。マイノリティな私の愛が特別なものになるのは当然のことだと思うから。特別にならない筈がないのだから。
今は穏やかな顔ですやすやと眠っている響子さんもそれを理解していると思う。
その響子さんの穏やかな寝顔を見て、寝室が涼しくなって結構な時間が経っていたことに気が付いて私は考えることをやめた。それから響子さんの髪をそっと撫でて静かにベッドから抜け出した。当然お花を摘みに行くためだ。
「きょうちゃん、早く起きてね」
寝室を出る時に振り返って響子さんに向けてそう呟いた。
いつものように部屋の空気を入れ替えているうちに朝のお手入れを済ませ、一度寝室を覗いてみる。響子さんはタオルケットを胸に抱いて幸せそうに眠っていた。残念ながらやはり後1時間は寝ているだろう。私はリビングへと戻り、エアコンを入れてそのままアイスコーヒーを飲んでタバコを吸うためにキッチンに向かった。
私はキッチンで一服した後にソファに転がってスマホを弄っている。響子さんはまだ起きて来ない。時刻は10時45分になっていた。
「お腹減った」
そう。私はなんだか凄くお腹が空いてしまったのだ。野菜ジュースで誤魔化そうかと思ったけれど、あまり意味がないしお腹がたぷたぷになるのもどうかと思う。それに空腹を意識してしまうとどうにも我慢が出来なくなってくる。
なので昨日買い込んだ冷蔵庫の食材を一つ一つ思い出して何か摘める物はあったかなと考えていると、この前冷凍庫に入れて置いたバタークリームのケーキの存在を思い出した。
凍っていてさぞかし美味しいだろうなとか、食べたいけれど響子さんと一緒に朝ご飯を食べられなくなるかも知れないしなとか少し葛藤したけれど、あの美味しさを思い出してしまった時点で私は既に負けていた。私がアレの誘惑には勝てる筈がない。私は素直に負けを認めて切り分けたうちの一つだけ食べてしまおうと、再びキッチンに向かった。
「あ、不味い」
今、私がラップ越しに手掴みでもぐもぐと食べている冷たくてアイスのように口の中で溶けていくバタークリームと、凍って更にもそもそとしたなんとも言えない食感のスポンジが私の口の中で絶妙なハーモニーを奏でているバタークリームのケーキの話ではなくて、私は重大な案件を思い出したのだ。
鼻水。それは寧ろ忘れたままでいた方がよかったと思えるヤツだ。私は響子さんのキャミに付けてしまったであろう昨夜の鼻水のことをすっかり忘れていた。
不味いなぁとは思ったけれど今から確認するのも何だし、まぁどうせ付いているに決まっているのだから甘んじて怒られようとも思う。けれどもしかすると響子さんは汗で濡れてしまったと思ってくれるかも知れない。
そんなことは今まで一度も無かったし、これからも決して有るとは思えない。とは言え少しくらい淡い期待を抱いてたとしてもそれくらいはいいのではないだろうか。
なら取り敢えずはその線でいってみるのもいいだろう。
「おはよう麻衣子」
「わぁ。きょうちゃん、すっごい寝汗。キャミもいっぱい濡れている感じよね。ねぇ、早く脱いじゃったら?私今から洗濯しちゃうから。ね?」
「そう?麻衣子がエアコンを入れてくれていたから今はそんなことないと思うけど。まあ、朝方は確かに暑かったわね」
「で、でしょっ。暑かったもんねー。その時汗いっぱい掻いたでしょ?だから早いとこキャミ脱いで洗濯しちゃお?」
「そうしようかな。胸の所がやけにてかてかしてるのよ。触ると少しねばついてもいるし」
「な、なんでだろうね?と、とにかくキャミを洗濯しちゃおうよ」
「麻衣子」
「な、なに?」
「わかるでしょう?」
「ごめんなさい」
「おっふ」
とても残念なことに私の脳内シミュレートは失敗に終わった。それから何度か試みたけれど、どうも上手くいかなかった。それでもああでもないこうでもないと必死に考えていたら、私はついにもの凄くいい案を思いついてしまった。
つまりこうだ。洗濯を理由に響子さんを起こして鼻水付きのキャミを脱がし、覚醒する前にこれを着てねと新しいキャミを渡してしまうのだ。当然響子さんは目は覚ますけれど、寝ぼけているうちに終わらせてダッシュで洗濯機に突っ込んで洗濯してしまえば、もはや証拠はどこにも存在しないという訳だ。
完璧だ。これなら何も恐れることはない。うふふ、本当になんて完璧な絵空事…いや違うわね、青写真よね青写真。そうそう。うふふ、なんて完璧な青写真なのかしら。
気付けば私は、ひとり不敵な笑みを浮かべていた。
「やろう」
私は決めた。やはり私は天才だったのかと浮かべていた不敵な笑みを更に深めた後、側にあったアイスコーヒーを飲み干して、バタークリーム塗れの口を綺麗にするために念入りに口を濯いだ。
私は行動を開始する。先ずは一度洗面所に向かい他の洗濯物をいつでも洗えるように準備をしておく。こうしておいて脱がしたキャミをそれらと一緒にすぐに洗えるようにしておくのだ。素早く注水を始めて鼻水キャミを濡らしてしまえば、万が一洗濯機から取り出されても鼻水を確認することは困難だからだ。
「洗濯準備よしと」
私は洗剤と柔軟剤もすぐに使えるようにした。それからちゃんと指差し確認をして、満を持して洗面所の出て、そのままリビングを過ぎて寝室に入っていった。
響子さんはさっきと同じで幸せそうな顔をしてそれはもうよく眠っている。起こすのは忍びないけれど、私の安寧のためには仕方のないことなのだと自分に言い聞かせる。
私はタンスから響子さんのキャミを取り出して静かにベッドに近づいて、そっと響子さんに話しかけた。
「きょうちゃん」
「…ん」
「きょうちゃん。洗濯始めるからキャミを脱がすよ」
「…ん?…んー」
私がそう声をかけると、響子さんは寝たままの格好でゆっくりと万歳をしてくれた。むにゃむにゃと両腕を上げたその姿を見て、もうなんでこんなに可愛いのよと思って抱き締めたくなってしまった。けれどまずは危機を乗り切る方が先だからとぐっと我慢をして私はキャミに手を掛けた。
響子さんは寝たままの状態だから凄く難しいけれど、起き上がらせて完全に目を覚まされても困る。私はそう思ってその格好のまま脱がせることにした。そして私は手早くしながらも完全に起きてしまわないように優しく丁寧に脱がすという至難のワザを遣って退けることに成功した。
途中、裏返ったキャミが響子さんの顔にかかる際、鼻水が顔を擦ってしまわないかと心配になったけれど、もう今更の話だから運を天に任せて気付かなかったことにした。
後は新しいキャミを着せて、鼻水キャミを洗濯すれば万事解決、すべて上手くいくだろうと私は顔をニヤつかせた。
「きょうちゃん、これ着よう」
「んー」
再び万歳をした響子さんのなんと可愛いらしいことか。このまま抱き締めてキスとか色々したいなぁなんて思ってしまうくらいの姿がそこにあった。そして私は隠すものがなにもなくなった響子さんの豊かな膨らみと可愛らしい先に目を奪われてしまった。
ここで本能のまま行動するのか、冷静になって作戦通りに行動するのかという二つの選択肢に一瞬悩んだけれど、私は妥協案として両方の膨らみの先に一回ずつ唇で触れるだけにしておくことに決めた。これくらいなら大丈夫。多分、いやおそらく、いや絶対。
「きょうちゃん」
そっと囁いて私は素早く一つ目に触れた。響子さんはほんの少しだけむずがっただけで特になんということもなかった。これなら全然平気よねと調子に乗った私は二つ目を含んでほんのちょっとだけ遊んでみた。響子さんはんっと呻いたけれど、これもまた特には問題なく済んだ。
そうなるともう少し戯れてもいいんじゃないかなと思うのが世の常人の常というものだろう。私は顔を上げて、まだ腕を上げたまま微睡んでいる響子さんの様子を窺いながらそんなことを考えていた。
ではもう一度と先をそっと含んで遊び出した瞬間にんっと呻いた響子さんが私の頭を両手で抱えてしまった。うぐっと間抜けな声を出した私の耳に、麻衣子は何をしてるのと響子さんの優しい声が聞こえてきた。
「な、何って。これはね、あ、愛情表現よ。そう愛情表現」
「そう。もう伝わったから大丈夫よ」
「そ、そっか。ならよかった。じゃ、じゃあ終わりにするね」
「ふふ。ねぇ、キャミを着せてくれるんでしょ?この格好、ちょっと恥ずかしいのよ」
慌てて頭を上げた私に響子さんはそう言った。恥ずかしいと言いつつも微笑んで万歳をして私を待っている姿はそう思っているとは到底思えなかったけれど、私は再び豊かな膨らみに目を奪われながらも響子さんの頭からキャミを着せていった。
「ありがとう。じゃあもう少し寝るからね」
すっかり目が覚めたかと思っていたら、響子さんはまだ寝る気満々だったようでさっさと横になってしまった。うんと返事をしようとして私はあることに気が付いた。
「きょうちゃん。お手洗いは平気なの?」
「んー。行きたいけどもう少し寝ていたいのよ。後30分くらい大丈夫」
「そっか。じゃあ私は洗濯してくる」
「うんお願いね」
私はその声を聞きながらキャミを持って洗面所に向かった。なんだかよく分からないけれど、取り敢えずクリア出来たのかなと安心しつつ、私はキャミを洗濯機に突っ込んでスタートを押した。洗濯物の量が確認され注水が始まって鼻水キャミが濡れていく中、適量の洗剤や柔軟剤を入れていく。
それをしながら私は考える。響子さんは大丈夫と言ったけれど、尿意を長い時間我慢しても良いことは無い筈だ。私の母親は毒素がたまるからすぐに出しなさいと言っていた。それが本当かどうかは分からないし、医学的な根拠に基づいたものでもないだろう。けれどその言葉は、幼い頃からそう言われていた私に刻み込まれている。
勿論、響子さんが今すぐにどうこうなるとは思わない。今だって響子さんはどうということは無いだろう。それでも私と一緒に居る時ぐらいは気をつけて貰いたいと思う。もしもそれが原因で将来的に響子さんが身体を壊すようなことになったとしたら?駄目よ。そんなことは絶対有ってはならないし、私が絶対にさせない。私の大切な響子さんは私が守るのだ。
「よし。お手洗いに行って貰おう」
私は洗濯機の蓋を閉めて再び響子さんの待つ寝室へと向かった。今の私は思い込んだら一直線、お手洗いに行って貰うという使命感に燃えている。響子さんには迷惑なだけな話かも知れないけれど。
ほのぼの回後編に続きます。
後程もう1話上げます。
読んでくれてありがとうございます。




