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続きです。

響子さんの昔語りになっています。

少々読みにくいかと思いますがお許しを。

よろしくお願いします。

 

 私が自分をレズビアン、いわゆる同性愛者なのかも知れないと思い始めたのは中学生の頃に部活の先輩がやけに気になる存在になった時だった。男の人なら別になんて事は無かったけど、どういうわけかその先輩は女の人だった。私は部活に出る度に、気がつけばその先輩を探していて、見つければ目で追っていたし声が聞こえてくればそれだけで嬉しかった。それを自覚した時、私は酷く混乱してしまったことを今も覚えている。けどそれが憧れなのか思慕なのか自分でもよく分かっていなかった。


 ある日、放課後の教室で友人達と話をしているといつものように恋の話になった。異性を意識する年頃だから女の子が集まってする話は当然そういった話題が多かった。誰々君がカッコいいだの何々君のことが好きだのと盛り上がって、響子は誰が好きなのかと聞かれた時に私の頭に浮かんだのはやはりその優しい先輩だった。別にいないと答えておいたけど私はかなり動揺してしまった。まさか私は女性を好きになったんだろうかと、好きという言葉で無意識にその先輩を浮かべたその時から私の苦悩は始まった。


 何をどうして良いのかも分からなかったし、何よりもその先輩や友人達に引かれたり気持ち悪がられたりされるのが怖かったから、私は秘めた想いと苦悩を誰かに漏らすようなことはしなかった。そんな私が想いを告げることなどできる筈もなく翌年の春にその先輩は卒業していった。それが私の初恋だったかと言えば、正直よく分からない。それまでにも好きとか可愛いなとか一緒遊べて嬉しいなと思う女の子が何人か居たけど、それが恋心だったかどうかなんて子供の私は意識もしていなかったんだから。



 高校生になると私の容姿は平均よりも綺麗に成長したようで、高校生活にも慣れた頃からたまに同級生や先輩に告白されるようになった。どうしても男の子に恋愛感情を抱けなかった私がそれを(ことごと)く断わっていると、周りの仲のいい友人達からは、響子はレズだからねとからかわれるようになった。私はそれに乗っかることで自分を守ることにして、誰かに恋心を抱かないように友人達やそれ以外の女の子達ともある程度の距離を置くことにした。そのために部にも入らずクラスの委員にもならず、友人達ともほとんど遊びもせずにバイトを始めることにした。そして私が見つけたのはカフェスペースのある小洒落たケーキ屋だった。だったと言っても今もあの街にあるんだけど、とにかく私はその店のカフェでバイトをすることになった。



「この辺りは麻衣子も知ってるよね」


「うん。昔話してくれたからね」


「そこで奈緒さんに出逢ったのよ」


「奈緒さん…その人が初めての人なんだね」


「そんな顔しないで。昔の話だから、ね」


「うん。そうだよね」



 奈緒さんはそのケーキ屋のひとり娘で、パティシエの学校へ行って3年ほど他の店で働いた後に、実家であるケーキ屋に戻って来たということだった。そのケーキ屋はお爺さんが始めて、その息子のお父さんがいずれ二代目となる為に一緒に働いていて、結婚を機にお母さんにカフェを任せるという話になって今のお店になったそうだ。そして奈緒さんはそこの三代目ということだった。そう話してくれた奈緒さんと初めて顔を合わせた瞬間に私は後悔した。わざわざ避けようとしていた恋がそこにいて、早くおいでと私を手招きしていたのだから。奈緒さんは24歳で私より8つ上の綺麗で素敵なお姉さんだった。その時少し話をしただけで、私は可愛くて明るく活発で、優しそうな奈緒さんを好きになってしまった。



「ふーん。そうなんだ。きょうちゃん一目惚れしたんだ。へぇ。ふーん。そう」


「ふふ。焼きもち焼いてるの?」


「別に。焼いてない。焼くわけないでしょ」


「ふふふ。焼いてる。嬉しい」


「うるさいなぁ、もう」



 奈緒さんには当時付き合っている恋人がいたし、私から何かをする事も出来る事もなくて苦しい想いではあったけど、バイトの時に会って話すことが出来ればそれで十分嬉しかった。


 叶わないとは言え恋をしていることを自覚すると女性は綺麗になるらしく、私はよりモテるようになった。学校だけでなくバイト先のケーキ屋にもウチの生徒や他校の生徒が現れるようになった。彼らはケーキや焼き菓子を買ったり、カフェを利用して私に話しかけるので、お陰で売り上げが伸びたと奈緒さんファミリーは喜んでいたけど、私はいちいち対応することが面倒くさくてちょっと嫌だった。それからはバイトの帰り道で話しかけられたり告白されたりすることもあった。普通に話せば脈アリだと変に期待されるし、冷たくあしらえば調子にのるなよブスと言われることもあったけど、そのブスに告白したお前は一体なんなんだとこっそり悪態を吐く事もあった。



「モテモテだね。きょうちゃんはキレ可愛いもんね」


「キレ可愛いって?」


「綺麗で可愛いってことに決まってるでしょ」


「あら。ありがとう」



 そしてバイトを始めてから1年を過ぎた頃にちょっとした転機が訪れた。

 バイトが終わり店を出ると悪そうな感じの男の子が三人、私の方へ近づいて来た。彼らのことを見たことは無かったけど、こういう事もたまにはあったので特に気にすることもなく立ち止まって側に来るまで待っていた。告白かなと思っていたらやはりそうで、その内の一人が私に告白してきた。いつものように私がそれを断ると、その男の子がいきなり怒り出して、私の腕を掴み何処かへ連れて行こうとした。他の二人も私を逃さないように、一人はもう片方の腕を掴み、もう一人が背後から私の肩に手を置いた。彼らは何か言っていたようだけど、突然三人の男の子に身体を触られて、痛くて怖くてどうしていいのか分からなくなっていた私は彼らが何を言っているのか分からなかった。やめて下さいと声を上げて抵抗したけど男の子の力に敵うわけもなく、私は強引に何処かへ連れていかれそうになった。でもそこに騒ぎに気づいた奈緒さんファミリーと通りかかった人が駆けつけてくると、彼らは私を離して慌てて逃げて行って、私はその場にほっとしてへたり込んでしまった。私を心配して側まで来てくれた奈緒さんが、着ていたカーディガンを脱いで私に掛けてくれた。別に寒くは無かったから何でだろうと思ったけど、私の身体は恐怖で小刻みに震えていた。それに気付くと私の震えは大きくなってしまって、私はそれを止めようとして両手で自分を搔き抱いた。そんな私を奈緒さんが大丈夫、もう心配ないよと言って私を守るように抱いてくれた。その温もりと優しい声に安心したことで、私は奈緒さんに抱かれたまま泣いてしまった。奈緒さんは私が泣き止むまで優しく労わるように抱いていてくれた。


 それ以来私のバイトが終わると奈緒さんファミリーの誰かが必ず車で私を家まで送ってくれるようになった。そんな手間を掛けるくらいならバイトを辞めれば済むことだからと断ったけど、看板娘に辞められては困ると言われたのでそれに甘えることにした。私は奈緒さんと会えなくならずに済んで良かったと心の底からそう思った。送ってくれるのは大体奈緒さんか奈緒さんのお父さんだったので、私は奈緒さんとふたりで話す機会が増えだことが凄く嬉しかった。お父さんには申し訳ないけど奈緒だけで良いのになと密かに思ったりもしていた。



「襲われたなんて聞いてないよっ」


「大袈裟よ。腕を掴まれて何処かへ連れていかれそうになっただけなんだから」


「ねぇ何言ってるの?そのまま連れていかれたら本当に襲われてたかも知れないのよ?」


「かも知れないでしょ?何もなかったし、もう10年以上も前の話なのよ。とっくにケリがついているのよ」


「でも……」


「心配してくれてありがとうね。でも平気なの」


「うん……分かった」



 奈緒子さんが送ってくれるある日の夜こと、少し寄り道してもいいかと言った。少しでも長く一緒に居たい私は当然OKした。車はなんてことのないコンビニの駐車場に入った。奈緒さんはちょっと待っててと言って飲み物を二つ買って直ぐに戻って来たあと、恋人と別れた話をし始めた。8歳年上の女性の恋愛事情なんて私に分かる訳もなく、私は戸惑いながらそれをただ黙って聞いていた。きっと奈緒さんはぬいぐるみにでも話している気分だったと思う。でもそれが私に話した理由なのかなとも思って、ずっと黙って聞いていることにした。話が終わると私に向かって、聞いていてくれてありがとうと言って、何となく分かっていたからあまり悲しくないけどねと言った。けど私にはそんな事は信じられなかった。俯いてぽつりぽつりと話す奈緒さんは確かに泣いてはいなかったけど、その悲しみに暮れた表情はしっかりと私の中に焼き付いていたのだから。私は奈緒さんに対して何をすべきなのかまったく分からなかったので、奈緒さんがしてくれたことをそのまま返すことにした。そう思いはしたものの、自分からするのは私にとっては初めての経験だから、少し緊張しながら助手席から身体を乗り出して奈緒さんを恐る恐る抱きしめた。奈緒さんは少し身体を強張らせた後、ありがとうと言ってしくしくと泣き出した。悲しんでいる奈緒さんを慰めるために抱きしめたけど、奈緒さんは凄くいい匂いがするし柔らかいし、好きな人をこの腕に抱いていると思うと私は幸せな気持ちになって、このままずっと泣いていてくれればいいのにと思ってしまった。けどやっぱり奈緒さんには笑顔でいて欲しいし、そこはコンビニの駐車場だったから私は奈緒さんが泣き止むまでと思ってそのまま抱きしめていた。



「ふーん」


「何よ?」


「べっつにー」


「また焼きもち焼いてるのね。仕方ないわね。ん」


「んっ」


「好きよ」


「私も好き、ってそんなこと言ってキスされたって私の機嫌は直りませんよーだ」


「ふふ。認めちゃった。麻衣子は素直だよね」


「あ……もう知らないっ」



 その事があってから私と奈緒さんとの距離がまた少し縮まった。仲良くなれて嬉しかったけどその分だけ辛くなってしまった。それでもその繋がりを断とうなどとは少しも思わなかった。奈緒さんは私を良く構ってくれるようになった。たまにではあったけど、奈緒さんの休みの日には私の放課後に合わせて街で遊ぶようになったし、送ってくれる帰り道に一緒にご飯を食べたりするようになった。私はそれで十分幸せだと思って日々を過ごしていた。


 私は高三になって、大学受験のために毎日のように入っていたバイトを減らさなければならなかった。放課後とバイトの帰りの奈緒さんとの時間も月に一度に減ってしまった。私はあと一年で私の恋は何も起こらずに終わるのだろうとそう思っていた。


 夏が過ぎて秋がやって来た頃に再び転機が訪れた。月に一度になったバイト終わりの食事をしながら志望校判定がAだったとか秋の新作がよく売れているとかいつものと変わらぬ話をしていた。そんな会話が少し途切れた後に奈緒さんがふと、告白されて返事をどうしようか迷っていると言った。その人はいい人だけど好きかどうかはよく分からないのとも言った。その後も何か言っていたけど私は何も聞いてはいなかった。奈緒さんにまた恋人ができることやそれが私でないことなど、私はちゃんと分かっていた筈だった。けど、たかだか18の小娘な私がそんな話を本人から聞されては焦りや嫉妬の感情を抑えることなど出来なかった。奈緒さんが誰かのものになってしまう。そう思うとどうしても我慢できなくなってしまった。もし奈緒さんに嫌われたとしてもバイトを辞めてこのまま奈緒さんの前から消えてしまえはいいのだと、それに大学に受かればこの街を離れるのだから何の問題もないのだと、そろそろ帰ろうかと奈緒さんが言うまで、私は頭の片隅でずっとそう考えていた。だから私はその夜の帰り道、走る車の中で奈緒さんに好きですとずっと秘めていた想いを告げた。




この話を入れてあと6話でこの作品は終わりとなります。順調にいけば今週末までには上げられると思います。そのあとは後日談的なものをつらつらと上げていこうと思っています。


後ほどあと1話上げます。

読んでくれてありがとうございます。

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