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思っていたよりも多くの方に読んで頂けているようで感謝しています。
それでは続きです。短めです。よろしくお願いします。
響子さんと週末を過ごして心身ともに充実していた私は、週明けの月末残り2日間の忙しさを難なく乗り切ることができた。当然、愛の力でね。
実は月曜の夜、残業で遅くなった私が部屋でコンビニで買ったサンドイッチを食べていると響子さんから珍しく電話があった。普段私たちはほとんどの用をメッセージで済ませるので何かあったのかと思いつつ電話に出るとやはり何かあった。
響子さんに週末の土曜日に外せない用ができてしまったと言われたのだ。私の気分が一気に落ち込んでいく途中で日曜日は会えると言われて少し持ち直し、翌週のお盆休みは麻衣子さえ良ければ一緒に過ごそうと言われて、実家に帰るつもりのない私は響子さんと5日間も一緒に居られることに気が付いて、私の気分は電話に出る前よりもずっと高く昇って行った。
更に驚くことに、響子さんは土曜日の件は私用だけど浮気じゃないから心配しないでねとまで言ったのだ。それはまるでお付き合いをしているカップルがするもの言いで、私の気分は最高になった。調子に乗った私が浮気じゃないなら許してあげると返すと、響子さんはくすくす笑ってありがとねとお礼を言ってくれた。
「ねぇ。麻衣子は日曜日、ウチに泊まるのよね?」
「うん。そのつもりよ」
「よかった。それじゃ、日曜日にね。おやすみ麻衣子」
「うん分かった。おやすみ、きょうちゃん」
「あ、待って」
私が通話を切るためにタップしようと指を伸ばしたところにそれを止める響子さんの声がスピーカーから聞こえて来た。
「何?どうしたの?」
「好きよ」
「なっ。わっ、わたしもっ。きょうちゃんのこと大好きっ」
「ふふ。ありがとう、それだけよ。じゃあおやすみ」
「お、おやすみ、きょうちゃん」
通話が切れた音を聞きながら、私は腕を伸ばしたままの姿勢でぽすっとソファに倒れていった。最後の会話の衝撃はまさに強烈だった。そのせいで茫然とソファに転がっていた。暫くして気を取り直した私は、最後の会話を何度も繰り返し反復した。それから暫くの間、私はソファの上で呻き声を上げて身悶えていたのだった。こんな会話、もう恋人同士じゃないと思いながら。
こうして迎えた穏やかな月初も午後4時を過ぎた頃、私が部長に提出するための書類と報告書を作成していると私のデスクの電話が鳴った。音とランプが内線だと知らせていた。
「管理部ニ課、羽田です」
「お疲れ様です。総務部の藤宮です」
「ああ藤宮さん。久しぶりね。何かあったっけ?」
「いえ。仕事の事ではなくて報告をと思いまして」
「報告?」
「はい。例の件なんですけど、私から終わりにしました」
私は藤宮さんからの電話に少しも動揺することは無かった。声を聞いても姿が浮かんでも可愛いらしいと思う以外に特に何かを感じることは無かった。やはり響子さんは流石だなと思いつつ、彼女が言う例の件とはアレのことかと思い当たった私は彼女を祝福した。
「おめでとう。よくやったと思うわよ」
「えっと、羽田課長。私、まだそれなりには引き摺ってます」
「ごめんごめん。それもそうよね。でも、なんでわざわざ報告をしてきたのよ?」
「もう、羽田課長と連絡先を交換するために決まっているじゃないですか」
「あー。そうだったわね。いいわよ。どうしようか」
「では、明日か明後日にでもランチでもしませんか?その時に交換して下さい」
「分かった。ちょっと待って……うん。明後日なら大丈夫よ。ならその時に交換しよう。11時半でもいい?」
私はデスクの上の卓上カレンダーに目をやって明後日の金曜日にはランチの予定が入っていないことを確認した。私が時間を伝えると藤宮さんも同じように確認しているようだった。
「えっと……はい大丈夫です」
「じゃあ11時半に一階のエレベーターホールで」
「わかりました。では失礼します」
藤宮さんとの電話を切った後も私の心は平穏だった。そのことに安堵の笑みを漏らしながら卓上カレンダーに予定を書き込んでいると、市川と中村が私をじっと見ていた。市川は普通だけれど中村は非難めいた目を私に向けていた。
「何?」
「いえ。課長は藤宮さんと仲が良いのかと思いまして」
「課長はあの藤宮さんには随分とお優しいんだなと思っただけです」
市川は何となくそう思っただけのようだったけれど、中村は最近の自分と藤宮さんとの扱いの差に不満を感じたようだった。なぜ中村があのと強調しているのか分からないけれど、取り敢えず中村が私になにをしたのか思い出させてあげることにした。
「別に仲良くはないわよ。ただね、彼女は私を利用しようと何か企んだりしたことが無いし、私に喧嘩を売ったり蹴ろうなんて思っていないようだから普通に接しているだけよ」
ふたりはヤバいという顔をして何も言わずに私から目を逸らして仕事に戻った。私はその様子に笑みを浮かべ再び報告書の作成に戻った。その後30分程で仕上がった報告書と用意した書類を持って、何かあったら呼んでくれと市川に言って部長に報告するために席を立った。
部長に報告書を渡し、昨日までに上げた数字を書類に照らし合わせて報告した。そのあと部長から3月後に新しくなる管理部のシステムについての概要を聞いてその実用性について話し合った。さらにそのあと短くはない雑談をしてから席に戻った。その頃には終業時間はもう過ぎていて、課には市川がちょこんと席に座っているだけだった。
「もしかして待ってたの?」
「はい。課長が席を外した後も特に何もありませんでした」
「そう。ありがとう。ちょっと部長との話が長くなっちゃって。市川はもう帰るのよね?」
「はい。でもその前に課長にちょっとお話がありまして」
「話?まさかとは思うけれど市川、懲りずにまた何か企んでいるのかしら」
「い、いえ。違います。私ではなくて藤宮さんのことです。落ち着いてください」
私がにっこり微笑んであげると、市川が慌てて否定してきた。なぜそこに藤宮さんの名前を出してきたのかは分からないけれど、何も企んでいないのなら良しとしよう。私は素直に謝罪をしてその先を促すことにした。
「そう。疑ってごめんなさい。それで、藤宮さんがどうかしたの?」
「大丈夫です。それはですね、先程の電話で思い出したんですけど、この間彼女が課長の事を教えてくれって言って私にと言うか、私だけじゃなくて、うちのみんなにも聞いていたんです」
「何それ?」
「さぁ?私には分かりません。けど、聞かれたのは人柄とか好みでしたから、普通に答えましたけど」
なるほど。中村があのと強調したのはそれが理由だったわけだ。それにしても藤宮さんはそんな事を知ってどうするつもりなんだろう。例の件について私が情報を漏らした事を上に報告でもするつもりなのだろうか。それならそれで対抗手段は幾らでもあるから別に構わないけれど、それはきっと違う。彼女はそういったことを考えるような子ではない。それに報告するつもりならば、好みや人柄なんて知る必要ないんだから。
「何かしらね。この前相談に乗ったから何かお礼でもしてくれるのかも知れないわね」
「そうですか。私の答えを聞いている間、彼女はやけに目をキラキラさせていましたけど」
私は市川の話を聞いて、藤宮さんのことだから特に疚しいことを考えることも無いだろうと思うことにした。きっと何かお礼をしてくれるに違いない。あのポケットティッシュが何かに化けて帰ってくるのだろう。情けは人の為ならずってところだろう。いや、違うわね。わらしべ長者と言うべきかも知れない。
「まぁいいわ。市川、わざわざありがとね。もう帰っていいわよ」
「はい。私は今らか同期と飲むんですけど」
「そう。私は今日は早く帰って寝ることにしてるのよ。もう若くはないからね」
「その言い方は答えにくいです」
「別に。本当のことだから気にしなくていいのよ」
「そうですか。ではお先に失礼します。おやすみなさい」
「ふふふ。はい、おやすみ。。また明日」
私が微笑んで手を振ると市川はぺこりと頭を下げてオフィスを出て行った。誰も居なくなった課を見渡して藤宮さんのお礼は何だろうなと勝手に期待しつつ、私もデスクを片付けてとっとと帰ることにした。
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後ほどもう1話上げます。
読んでくれてありがとうございます。




