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続きです。糖分過多です。

よろしくお願いします。


 私たちは響子さんの手料理と昨晩の残り物を美味しくいただいた。その後ふたり並んで洗い物をして、今はまったりとした時間が流れている。


 私たちは響子さんが借りてきたDVDを見ることにした。選んでいた映画はお互いに好きで何度か一緒に見ていたものだった。


 ロケットを飛ばそうとするアメリカの少年たちの話とか、バレエに魅せられたイギリスの少年の話とか、浜辺で出会ったアメリカの女性ふたりの恋と友情の話とか、巨大な帝国の侵攻に300人の戦士が勇敢に挑む話とか。


「見たことあるヤツしかないね。どれも好きだからいいけれど」


「まったり見るんだからコレでいいのよ」


「なるほど納得よ」


 私はわかってしまった。そう言った時点で響子さんは寝るつもりだと。



 まだ見始めて10分くらいなのに、驚いたことにと言うか予想通りにと言うか響子さんは私の隣で舟を漕ぎ始めた。


「きょうちゃん。眠いならベッドで寝なよ。シーツも替えたし敷きパッドもやっておいたから」


「一緒に寝る?」


「ううん。コレ見てる。私やっぱりこの映画好き」


 画面にはビーチで仲良く写真機ボックスの中に入って写真を撮っているふたりの少女がいる。


「じゃあここで寝る」


 響子さんはソファに横になって私の膝に頭を預けてきたけれど、私は響子さんを起こした。


「きょうちゃん。寝ると寒くなるかもしれないね」


「んー。大丈夫よ」


「今はでしょ?ちょっと待ってて」


 私は一度響子さんを起こしてベランダに出た。干していたタオルケットを取って埃を落とすためにばさばさと振ってから部屋に入った。

 実際に埃が落ちたかは問題ではない。私は気は心だと思っている。


「コレ、今は熱いから後で掛けるからね」


「ありがとう」


 私は取り込んだタオルケットを四つ折りに畳んでそばに置いて響子さんに膝枕をした。置いてあるクッションを使ったりしてこんな感じ?こうじゃないの?などと言いながらお互い楽な体勢になれるように体を動かした。体勢に満足すると響子さんは程なくして寝息をたて始めた。



 私は何度も見たと言いながらも映画に集中していた。物語が中盤を過ぎて佳境へと向う頃に響子さんがもぞもぞ動き出した。どうやら目を覚ましたようだ。

 響子さんは私の膝から、いててと言いながら起き上がり口元をぬぐってから伸びをしていた。そして私の腿に目をやってその腿を少し擦った。それが済むと響子さんはテレビの方に向くようにしてまた私の膝に頭を乗せた。私は映画から目を離さずに響子さんの髪を撫でた。


「涎付けちゃった」


「平気よ」


「彼女はまだだっけ?」


「うん。もうすぐ」


「そっか」


「うん」


 響子さんはそれっきり黙って映画を見ていた。私はいよいよ佳境に入っていく映画にすっかり見入っていた。


「私、重い?」


「うん」


「重くない?」


「うん」


「どいて欲しい?」


「うん」


「このままでもいい?」


「うん」


「話聞いてる?」


「うん」


「聞いてない?」


「うん」


「麻衣子」


「うん」


「愛してる」


「うん。……ん?」


「ふふ」


「きょうちゃんっ。今なんて言った?ねえ、もう一回言って」


 その言葉はまさに映画が佳境を迎えていた時に聞こえてきた。映像とともにヒロインの歌う歌が流れていた時だった。私はそのシーンと流れる歌が大好きなので凄く集中していた。この歌を聴く度に私はその歌詞に私たちを重ねている。私の響子さんへの想いと同じだなと聴くたびにそう思う。だから私は響子さんが発した言葉をちゃんと聞けていなかった。響子さんはそのタイミングを狙っていたに違いない。


「内緒」


「えー。教えてよ」


「内緒よ」


 私はもう映画どころではなくなった。何を言われたかは言葉の音で何となくわかる。けれど私の願望もあってそう聞こえたのかもしれない。私は言葉を確かめたかった。


「きょうちゃんお願い。ね、ね」


「駄目。教えません。麻衣子がちゃんと聞いていてくれなかったんだから」


「だって、それは映画を見ていたからでしょ。わざとじゃないよ」


「映画と言えば、ソレ終わったわよ」


 響子さんがテレビを指差した。画面には私の好きな曲と共にエンドロールが流れている。


「あ。本当だ。エンディング見逃しちゃったよ。ちょっとごめんね」


 私はリモコンを取って停止させた。それから響子さんを膝から起こしてプレイヤーの前まで行ってDVDを取り出してケースにしまって電源を切った。


「ほんと、麻衣子はそういう所几帳面だよね。いつも感心するわ」


「そんなこと言って。言えばこうするってわかってたくせに」


 そう言いながら戻った私はソファに膝をついて上がって、そのまま膝で響子さんの腿を跨ぐようにしてその上に座り、響子さんの首に腕を回してそこに顔を埋めるように身体を預けた。響子さんはソファに背を預けて私の背に腕を回してくれた。私は顔を埋めた響子さんの首すじに唇でそっと触れた。響子さんはくすぐったそうに身体をよじり私に回した腕に力を込めた。


「バレた?だって麻衣子がしつこそうだったから。話を逸らしたのよ」


「さっきの言葉だってわざわざあのタイミングでも言ったんでしょ。きょうちゃんは私が聞き逃すのわかってたのよね」


「そうかも知れないわね」


「いいよーだ。そう言われたと思っていることにするから」


「いいわよ。私はそう言ったんだから」


「うそっ、ほんとに?」


「ほんとよ」


「やったっ。嬉しいっ」


 私は響子さんの首すじにキスをしてから預けていた身体を離し、そのまま響子さんに深いキスをした。具体的には言わなかったけれど肯定されて凄く嬉しくなった。唇を離して響子さんを見つめると響子さんが私にキスを返してくれた。優しくて甘くて長めのキスだった。


 それがきっかけで私たちは暫くの間ソファの上で組んず解れついちゃいちゃしていた。私が上になってキスをして抱きしめると響子さんがキスを返してくれた。響子さんの唇が頬に触れると私は嬉しくなってより強く抱き締めた。苦しそうな響子さんが不利な体勢を入れ替えようともがき、私が調子に乗って脇腹をくすぐると響子さんも負けじとやり返してくる。くすぐったくてふたりでもがいて暴れてソファから転げ落ちた。私たちはそれが可笑しくて顔を見合わせ笑った。


「好きよ」


「私も好き」


 私たちはもう一度優しく甘いキスをした。




「そうだ。きょうちゃん。ケーキ食べようよ。私用意してくる」


「そうね。私は飲み物を入れるから。コーヒーでいいのよね?」


「うん。お願いね」


 そうは言っても私たちふたりともコーヒー党なのでこの家には紅茶や緑茶が無い。それでも一応聞いて答えるまでが様式美というものだろう。

 響子さんがお湯を沸かしてコーヒーを入れている間、私はお皿に出し終えた自分の選んだピスタチオのクリームを使ったケーキのクリーム部分をフォークでつんつんと触っていた。視線を感じて響子さんの方を向くと私の奇行をじっと見ていた。


「ねぇ。それ何してるの?たまにやってるけど」


「固まり具合を調べているのよ。触ってみたところいい感じ。これは期待できそう」


「麻衣子は何を言ってるの?」


「何って?あ。きょうちゃん、コーヒーその辺でいいんじゃない?あまり入れると薄くなるよ」


 私に気を取られていた響子さんがお湯を大目に注ぎそうになっていた。



「頂きます。あれ?」


「どうぞ」


「何で?」


「どうぞ召し上がれ」


「まあいいけどさ」


 揃うと思った挨拶が揃わなかった。けれど今はそんなことは置いておくことにする。

 私は固まったクリームだけをすくい取りそれを口に入れた。 クリームが冷たくて心地よく、それが私の口の熱で溶けていく。私はピスタチオは油分が多くて口溶け具合がバタークリームと似ているのではないかと何となく思ったのだ。結果としては似て非なるものだったけれどピスタチオの香りがするクリームは濃厚でなかなか美味しい。


「美味しい」


「そう。よかったわね」


「うん。きょうちゃんのは?」


 響子さんのケーキはオーソドックスなイチゴショートだ。


「美味しいわよ」


「そっか。はい、きょうちゃん。あーん」


 私は響子さんに一口分をフォークに乗せて差し出した。響子さんがそれを口に含んでもぐもぐとやっている。私はお返しを待っている。


「ん、美味しい。はいお返し。どうぞ」


 響子さんがショートケーキをフォークで切って差し出してくれたけれど私は待ち構えていた口を閉じた。


「あーんは?きょうちゃんあーんでしょ、あーん」


 響子さんはくすくす笑った。


「なによ?」


「麻衣子は可愛いなと思ったのよ。はい、あーん」


「あーん」


 私はショートケーキを食べながらやはり生クリームよりもピスタチオのクリームの方が濃厚で美味しいと思った。口に溶けてから消えるまでの残り方が違う。生クリームはあっさりとしているけれどピスタチオのクリームは余韻を楽しめる。私独自の判定により軍配はピスタチオのクリームに上がった。そのなかなかの口溶けに私は満足した。それでも1日冷蔵庫で寝かせた往年のバタークリームのケーキには敵わないと思っているけれど。

 お互いに食べさせ合いながら響子さんにそう説明しているうちにケーキを食べ終わってしまった。響子さんは、へえとかそうとか返事を返していた。まったく興味が無かったんだろう。私はいつか必ずバタークリームのケーキを響子さんに食べて貰おうと思った。そう言ったら顔を顰めたけれど私は気にしないことにした。




 私たちは夕食を作るまで再びDVDを見ることにして近所をブラブラするのは止めて置くことにした。外が暑すぎるからだ。食材はあまり無かったけれど素麺でも茹でればいいよねと言う話になった。

 今は5時を過ぎたところだけれど熱気と湿気で空気がどんよりとしている。洗濯物を取り込むためにベランダにいるのも息苦しく感じるぐらいだった。

 ちなみに取り込んだ私の涙と傷と悔しさのヤツはちゃんと綺麗に洗われて乾いていた。響子は、よかった。ほんとにごめんねと言ってくれた。私は笑って頬にキスをしてそれに答えた。





「強いのにね」


 私はDVDをしまいながらいつもの感想を言った。今回も少数は多数に一義的には勝てなかった。当たり前だけれど。


「本当にね。それでも数には敵わないと言うことよね」

 

「やっぱり似ている気がする。私たち、全然違うんだけどさ」


「私たちに重ねると嫌な気分になるわ。だけど全然違う」


「そうだよね」

 

 歴史は繰り返す。使い古された言葉だけれど真実だと思う。どれだけ強くても多数派の意向にそぐわなければ、少数派はいずれ淘汰される。けれど全てが消えてしまうことは決してあり得ない。必ず個として生き残っている。そしてその個が再び集まり大きくなっていつかは認められていくのだ。歴史上にはそういう事例はいくつもある。それならいっそ私達も認めてほしいと思ってしまう。せめて法律によって女性同士の結婚を、男女がする結婚と同等の法的な権利を認めてほしい。勿論認められたからと言って嫌悪や好奇、差別が無くなることは無い。生理的に無理だと言うのならもはやそれを止めることなど出来るわけがないと思うから。無くならないのなら私は別にそれでいい。私はただ、恋愛から結婚をして一緒に生活して、いずれは老いてどちらかの死を迎えるという人生の形、私の人生に確かな絆、心の支えが欲しいだけだ。私が生きていく上でそういった大切なものができたなら、たとえ同性婚をしたことで嫌悪や好奇、差別に晒されたとしてもきっと私は前向きに生きていける筈だから。

 私達は少数派ではあるけれど確かに存在している。私達全てが消え去ることなど決して無いのだから。

 この映画はこんな思いを私に抱かせる。本当に全然違うんだけれど。


「また考えてるのね」


 響子さんが心配した顔をして私に言ったけれど、私は特に落ち込んでいるわけではない。だから笑顔を見せた。


「うん。結婚できたらいいなってね」


「いい麻衣子。理解されないのはね、私たちのせいじゃないのよ。時代が私たちについて来れないだけなのよ」


「ふふふ。きょうちゃんはどこの科学者なのよ」


「麻衣子」


 響子さんが両手を広げて私を呼んだ。私は嬉々としてその中に入っていった。

 実は初めて一緒にこの映画を見た時から、私がこの映画を好きな理由にこの行為も含まれることになった。見終わった後に考え込んで落ち込んでしまった私を響子さんが抱きしめて慰めてくれた。それ以来この映画を見るたびに響子さんは私をこうして抱いてくれている。

 私の理由を響子さんが分かっているのかは分からないけれど、きっと分かっているのだろうと、響子さんに優しく包まれながら私はそう思っていた。






また後ほど1話上げます。

読んでくれてありがとうございます、

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