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続きです。いちゃいちゃも続きます。

よろしくお願いします。


 私は明るさと寝苦しさを感じて目が覚めてしまった。じっとりと汗ばんでキャミが体に貼りついて気分が悪い。隣では響子さんが苦しそうに眉をひそめて眠っている。時間を確認すると9時半過ぎだった。私はそっと腕を伸ばしてリモコンを取りエアコンをつけた。そして静かに響子さんの方に向き直り頬づえをついてほんの少しの間だけその寝顔を見ていた。


「きょうちゃん。すぐに涼しくなるよ」


 私はそう呟いて響子さんの顔に貼りついていた真っ直ぐなダークブラウンの髪をそっと指で払い、うーんと唸った響子さんの頬を撫でてベッドを出た。まずはお手洗いにいかないと。


 私は花を摘んだあとにリビングの扇風機をつけてカーテンを開ける。暑い。暑いけれど空気の入れ替えは大事だと思って窓を開ける。


「暑すぎる」


 私は遠慮を知らない夏の日差しと絡みつくような湿気にウンザリしながらキッチンへ向かう。口をよく濯いでから水を飲み、野菜ジュースを飲む。それからタバコに火をつける。響子さんは吸わないけれど私が換気扇の下で吸うのを許してくれている。

 吸い終わると洗面所に行って髪を後ろにまとめ、歯磨き、洗顔、お手入れと朝の用事をこなしていく。

 それから一度寝室を覗いてみる。既に涼しくなっていて響子さんはタオルケットを抱いて眠っていた。そのタオルケットと代わりたい誘惑に駆られたけれどなんとか堪えて再びキッチンへ向かい、氷をたっぷり入れたグラスにアイスコーヒーを注いでまたタバコを吸った。


 私はアイスコーヒーを持ってリビングへ戻り扇風機の前に陣取った。スマホをチェックしようとするとロック画面にトークアプリの通知が表示された。小島菜々子(こじまななこ)白石和美(しらいしかずみ)。いったいどこのどちら様だったかなと記憶を辿る。そして程なくBARで話をした女性たちだと思い当たり、ふたりの容姿を思い出した。送られてきたメッセージは、書き方は違っていても仕事頑張れ、仕事が落ち着いたらまたBARで会いましょう、という同じような主旨だった。


「ふむ」


 私の最後のミッションはそれなりに順調なのかも知れないと思った。けれど昨日の今日ではこのお誘いのメッセージに対して特に何かを感じることは無い。

 私は取り敢えずメッセージを既読にして、了承した旨とスタンプを送った。それから一旦スマホを置いて立ち上がり、窓を閉めてエアコンを入れた。 私はソファに座ってアイスコーヒーを飲みながらちらっとスマホを見て、返信が少し素っ気なかったかなとも思ったけれど、今の正直な気持ちなのだからと思い直してこのことを頭から追い出した。


 時刻は10時5分。響子さんはよく眠る人だから起きるにはあと1時間くらいはかかるだろう。それなら私は響子さんが起きるまで夏物バーゲンでもチェックしていようかなと思ってスマホには手を伸ばした。

 服だのバッグだのと色々と検索しているうちにリビングはかなり涼しくなってきた。検索しながらソファにだらりと転がっている私は意味もなく睡魔と戦っていた。



 ふと目を覚まして周りを見回すと響子さんがキッチンで水を飲んでいるのが見えた。私は寝起きの、しかも冷房で少しだるい体を一気に起こしてソファに座り直した。響子さんは私が起きるのを見て慌てて口から飲み口を離していた。


「んっ。おはよう麻衣子」


「きょうちゃんおはよう」


 響子さんは口を拭っている。少し溢れてしまったらしい。私は響子さんのそばに寄っていく。


「きょうちゃん。なに慌ててるのよ」


「麻衣子が急に起きるから何か怖くて。ちょっと驚いたのよ。なに今の?何かに取り憑かれたの?」


「実はそうなの」


 私は朝からイチャつく口実を得たことを喜び響子さんの背中からひっ付いてそのまま体の力を抜いた。


「ちょっと麻衣子。重いわよ」


「そうよ。私は今、子泣き爺に取り憑かれているんだから。きょうちゃんがキスしてくれると解放されるのよ」


「駄目よ」


「えー。きょうちゃんまだ歯を磨いてないの?」


「そうよ。今起きたばかりだもの。一応口は濯いだけどね。でも麻衣子が頬にしてくれるぶんには構わないわよ」


「残念。これで我慢するか」


 私は背中にひっ付いたまま響子さんの頬に掛かる髪を耳に流して現れた頬にキスをした。


「ふふ。嬉しい。じゃあ顔を洗って歯を磨いてくるわ」


「うん。いってらしゃい」


 私は響子さんを解放した。響子さんは笑みを浮かべて私の頬を撫でて洗面所へ行ってしまった。私はリビングに戻りソファに腰を下ろした。


 響子さんは寝起きの口に厳しい人だった。菌が培養されてどうとか、臭いや粘ついたままキスをしたくもされたくもないと言っていたし、そのせいでキスを嫌がられたくないとも言っていた。お陰で私もそう思うようになった。

 昨夜も私たちはあの後にちゃんとシャワーで汗とか諸々を流してお手入れをしてから眠りについていた。朝起きてふたりで色々とガッカリしたくないでしょう?と言われたことがあってからは、私はそれも当然だと思っている。お陰で眠るのが3時を過ぎていたけれど。

 こうして考えてみると響子さんが私の鼻水にも厳しいのは当然かもしれないと思った。

 



 戻って来た響子さんが私に抱き付いてキスをしてくれた。最初は優しくて最後は深くなっていた。おはようのキスにしては長くて激しくて私は少しだけ興奮してしまった。


「ねえ麻衣子。脱いでくれる?」


「なっ。きょうちゃん?朝からどうしたの?」


「私、したいの。今すぐしたくて仕方ないのよ。ね、お願い」


 響子さんに抱きしめられたまま耳元でそんなことを言われてしまっては私がその気になっても仕方のないことなのではないだろうか。それに私の答えは決まっている。私は響子さんが望むならいつだってかまわないのだから。


「きょうちゃんがしたいなら私もしたい」


「私が脱がしてもいい?」


「いいよ」


 私たちはソファに座ったままだ。響子さんの手がキャミに掛かったので私は両腕を上げた。響子さんはキャミをわざとゆっくりと脱がしていく。布が上がっていく感覚の中に響子さんの指先が少しだけ肌に触れているのが分かる。胸の辺りを過ぎていく時に指先が先端を優しく撫でていった。そのせいで私はぞくぞくしてしまう。キャミを脱がし終えた響子さんの手が短パンに掛かかり私はお尻をあげてそれに応えた。響子さんはまたしても指先を肌に触れさせながらゆっくりと脱がしていった。何か煽られているようで私の気持ちが昂ぶってしまう。お互いの身体を隅々まで知っているとは言え、ショーツ1枚の姿になった私は陽の光の明るさの中で見られているせいもあってやけに羞恥心を煽られていた。


「ありがとう。麻衣子」


 響子さんは私に軽くキスをしてから脱がしたキャミと短パンを手に持って立ち上がり、羞恥で顔を赤くしている私を他所にどこかに行こうとしている。


「きょうちゃん?」


「私言ったでしょ?したいって。コレも洗濯したいのよ。麻衣子も寝汗をかいたと思って。だから脱いでもらったのよ」


 響子さんは私の脱いだキャミと短パンを振っている。響子さんの顔が憎たらしいほどにやにやしている。


「今、洗濯しようとしたら昨日の鼻水ワンピがあったから思い出しちゃって。その仕返し」


 響子さんのにやにやは意地の悪い笑みに変わっている。私は恥ずかしさと怒りが混じり合って睨むことで精一杯だ。何か言いたいけれど言葉か出てこない。私の口は池の鯉のようにぱくぱくと動いているだけだ。


「じゃあ洗濯機まわしてくるから麻衣子は服を着ておいてね。目の毒だもの。襲っちゃいそう」


 響子さんはそう言ったものの動こうとはしない。物凄く悪い笑みを浮かべて楽しそうにしている。


「ソレも洗う?」


 響子さんは私のショーツを指差してしてそんなことをのたまった。言われた私の口からやっと言葉が出てきた。


「うっさい!きょうちゃんのバカ!バカ!バカ!」


「え、ご、ごめん。あ、麻衣子」


「ふんっ」


 私は子供のみたいな文句を口にしてプンスカと怒ながら、慌てて謝る響子さんの横を通り過ぎて寝室に入った。呼ばれたようだけれど私は止まらなかった。タンスから私のカップ付きのキャミとTシャツを取り出してそれを身につけた。次に短パンを取り出してそれを履こうとしたときにふとショーツも替えるべきかもしれないと考えてしまったことで私は凄く負けた気分になってしまった。

 着替えを終えずに部屋を出ようとして、私はベッドのシーツが無くなっていることに気がついた。響子さんはそれも洗濯するつもりで持って行ったのだろう。タオルケットはベッドの上で丸まっていた。私はタオルケットを干すためにそれも持って部屋を出た。


 リビングには響子さんが何をするでもなくソファに座っていた。響子さんは私に気づくと直ぐにこっちを向いた。私は何か言われる前に持ってきたタオルケットを口を開きかけた響子さんに放り投げた。響子さんの顔に当たって、うわぷって声が聞こえたけれど気にしない。私はそのまま洗面所に向かい、洗いを始めてそう時間が経っていないであろう洗濯機にモノを脱いで突っ込んだ。それから短パンと新しいショーツを持ってお手洗いに向かった。とても不本意ではあるけれど私は完敗したのだった。



 リビングに戻ったあと私はタオルケットを干し終えそうな響子さんをスルーしてキッチンでタバコを吸っている。そばにアイスコーヒーがある。響子さんが私に新しく入れ直してくれていたと思われるヤツを、ありがたくローテーブルから持ってきたのだ。それを飲みながらタバコをぷかぷかやっているうちに気持ちが落ち着いたのでタオルケットを干し終えた響子さんがとぼとぼとキッチンにやって来たのを見た私は怒りをタバコと一緒にもみ消した。


「ごめんなさい。やり過ぎちゃった」


「ふーんだ」


「怒ってるわよね?」


「そうだけれどそうじゃないのよ。私が怒ったのは恥ずかしいのを誤魔化すためだったと思うのよね」


「そうなの?」


「そうなの。それよりもきょうちゃんに弄ばれたていたことに気付けなかった私の純情が泣いていたことが悔しいの。それが私を傷つけたのよ」


「ごめんね」


 響子さんは私の腰に手を回して私を抱いた。それからそっと私の肩に頭を預けてきた。私も響子さんの腕ごと抱えるようにして背中に手を回してそっと抱いた。


「もういいよ。純情を弄ばれて私のショーツに流れた涙は今頃ワンピに付いた私の鼻水と一緒に洗濯機の中で洗い流されているから」


「麻衣子の言い方、何かいやらしくない?」


「何をどう受け取ってそう言っているのかわかってるけれど、私はただ、きょうちゃんのせいで流れた涙が鼻水とともに洗い流されるって言いたいだけなの。涙に鼻水は付き物だし」


「そうなの?」


「そうなの。とにかく洗濯が終われば私の悔しさも傷も全て綺麗さっぱり洗われて無かったことになるの。干して乾けばそれで終わり。そういうことなのよ」


「それは…つまり許してくれるの?」


「当然よ。せっかくの時間が勿体ないもの」


「そうよね。ありがとう。ごめんね」


「もういいってば。でもきょうちゃん、悪いと思っているなら朝御飯を作ってくれる?私、お腹すいてるのよ。と言うかもうお昼になるよ。ほら」

 

 私が時計を指差すと響子さんが顔を上げて時計を見た。そして響子さんは任せなさいと腕捲りをするフリをした。


「ほんと。じゃあ何か作るから麻衣子はそこら辺で休んでいて」


「いいえ。私はお風呂の掃除でもしてくるよ。それに洗濯が終わったら干すからね。そのあとシーツも洗うんだよね?」


「そう。じゃあ、お願いできる?」


「当然よ」


 私も腕を捲るフリをした。






読んでくれてありがとうございます。

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