買い出し
太陽が丁度真上に上がった頃、街でも"わがまま姫誘拐事件"の話しで盛り上がっていた。
『なんでも、あのわがまま姫に一目惚れしたってゆう筋肉ムキムキの大男が王女を誘拐したんだってさ!』
『大きな王女様を抱きかかえながら、城からの大脱出したんだって!愛だね!』
『なんでも今、城の兵がわがまま姫を探してるらしいんだけど、兵の人数が少ないらしいよ!あいつらも我儘に懲りごりだったんだな!!』
まるで祝杯をあげるかのように楽しそうに街の皆んながお酒を飲んでいた。
そんな街の噂話を1つ1つ聴きながら銀髪の青年は、市場の買い出しに行かされていた。
『兵は一応あいつの事を探してるが、人数は少ないね…それなら万が一兵が来てもなんとか誤魔化せそうか?』
家に兵達が来た時のシュミレーションをしながらリアムは、おばちゃんに頼まれていた食材を探していた。
肉に人参、じゃがいも、玉ねぎね。
ってかおばちゃんも人使い荒いよなぁ。
あいつに色んな服着せたいからって家主の俺を追い出すし、ついでに夕飯の材料買ってこいとか。
リアムは、おばちゃんに渡されたメモを見ながら大きな溜め息をついた。
「っあ、おっちゃん!これ3つちょうだい!」
「なんだリアム!珍しいなぁ・・・さては、リズさんに買い出し押し付けられたなぁ」
八百屋のおっちゃんがニヤニヤしながら話してきた。
「そーだよ!それよりおっちゃん、なんか皆んな嬉しそーに酒飲んでるけど、どうしたんだ?」
「なんだリアム!おめぇ知らねーのか?わがまま姫が誘拐されたんだよ!ゆ・う・か・い!」
「はぁ?誘拐?」
我ながら名演技をした!褒めてやりたい!
そう思いながら、初めて知ったように驚いてみせた。
「なんでもよ!こーーんな大きな筋肉ムッキムキの男がわがまま姫に一目惚れして、誘拐したんだと!」
「一目惚れ……」
「だよな!びっくりするよな!あんなやつのどこに惚れるんだか!」
おっちゃんは、大笑いをしながら自分の膝をバシバシたたいた。
「でもさ、王女様が誘拐されたってのに街に兵がいないみたいだけど?」
「あぁなんでも5人の兵しか探してないみたいだぜ?」
「っは?5人!?」
「本当だぞ?びっくりするよな!フルーツ屋のおやじの家に今朝5人の兵がきたんだってさ!街で探してる兵も見ないし、きっと城のやつらもわがまま姫が居なくなって、清々してるんだぜ!」
その後もおっちゃんは、色々と話してくれだが、長くなりそうなので途中で帰ってきた。
買い物を終えて、リアムは考え事をしながら家に向かっていた。
たった5人…それしか、あいつの事を探してない?
いや、もしかしたら城のやつらもあんまりあいつの本当の姿を知らないんじゃないか?
なら逆をいえば、その5人はあいつの本当の姿を知ってることになる。
その考えが正しいのであれば、目立つあいつをあんまり他の奴らに会わせるのは危険だな。
フルーツ屋のオヤジの家は、俺の家からだいぶ離れてる。
まぁ普通、隠し通路の近くに居るとは思わないよなぁ。
兵を総動員させられないのなら尚更、可能性の高い所から行く。
大国では無いにしろ、この国を5人で、それもたった1人の少女を探すには時間がかかる。
家に来るのはだいぶ先になるはず。
「っまなんとかなんだろ!」
そんな言葉とともに、いつのまにか家に着いたリアムはドアノブに手を掛けたが、そこでふと疑問が浮かんだ。
王妃は、何も言わないのか?
わがまま姫といえど、娘。
たった5人の兵しか捜索してない事に何も言わないのだろうか?
絵でしか見たことのない黒髪の王妃様の事を思い出しながら、ゆっくりと扉を開けた。
夕飯は、なんでしょう?