新しい場所 2
リアムの家は、雑木林の近くにあった。
2階建の小さな家。
この辺りは、幽霊が出るって噂のお陰で他の所より住んでる人が圧倒的に少ない。
静かに過ごしたいってやつにはピッタリの場所だった。
もちろん幽霊信じてないやつ限定だけど。
「おいここで大人しくしてろよ、今薬持ってくるから」
リアムは、家のソファーにマリアを座らせ薬箱を取りに行った。
「まぁアンタにしてみたら、小汚い犬小屋みたいな家だだろうけど、しばらくはここにいてもらうぜ」
諦めな!そんな意味を持って言ったつもりが、マリアの反応は思っていたのと全然違っていた。
「いいえ!とても素晴らしいお家です。人が生活してるって感じがします。」
生活ね、、、確かにこいつが居た部屋は、人が生きるために必要最低限な物だけ、生活してるってよりは、生かされてるって感じだったな。
薬箱を見つけたリアムは、マリアの足をそっと触った。
明るい所で見ると思ってた以上に酷かった。
足も熱い。これじゃあ今夜あたりに熱出すかもしれないな。
これじゃあ歩くのも辛かっただろうになんで、もっと早く言わないんだ!
リアムはぶつけられない怒りを胸にしまいこみながら、消毒液をつけ包帯を巻いた。
「ありがとうございます。」
それは、美しい笑顔だった。
先程までの怒りがどこかに消えてしまう、こんな顔されたら、男なら誰だって許してしまう。
卑怯だ!そう思った。
「あの…」
「なんだ?」
「あなたのおなま、、、」
ドンドンドン!それはとても激しいノックの音だった。
リアムは兵が来た!と思い身構えた。
「リアムーー!電気ついてんだから、起きてんだろう?開けてちょうだい!野菜持ってきたのよ!」
それは、隣に住んでいるおばちゃんの声だった。
なんだおばちゃんかよ、と安心したが今、おばちゃんを家に招き入れるわけにはいかない!
なんせコイツがいる!
「おばちゃん!今ちょっと手が離せないんだ。あとで行くから!」
後でなんて言い訳しよう。
リアムは、ため息をつきながら言い訳を考えていた。
「なんだい!じゃあ勝手に開けちまうよー!」
と予想外の言葉と共に扉を開けたおばちゃんの顔はとてつもなく驚いていた。
「えっと、おはようございます?」
意外にも先に口を開いたのは、マリアだった。
おばちゃんは、まだ口をあんぐりとさせている。
そりゃあそうだ、こんな平民の家に王女様が居れば誰だって驚く。
やべぇどうしよう、、、
「おばちゃんこれは!」
「リアム!!!」
おばちゃんのドスの効いた声が部屋に響き渡る。
「あんた!こんな綺麗なおじょさんどこで誘拐してきたんだ!いくら女っ気がないからって!」
そう言いながらリアムの顔に思いっきりパンチを食らわした。
「いや、ちが!」
「なにが違うんだい!あんたをこんな子に育てた覚えはないよ!しかも!こんな綺麗なお嬢さんに怪我までさせて!あんた男として最低だよ!」
おばちゃんは泣きながら俺を殴っていた。
泣きたいのは俺の方だ!
「あの、おばさま?私リアムさんに助けていただいたのです。ですから、殴るのはやめて頂けませんか?」
「助ける?誘拐じゃなくて?」
信じられないって顔で俺を見てきた。
実際俺もマリアの言葉を信じられなかった。
「はい。税金が払えず、兵に追われてました。兵からうまく逃げられたのは良かったのですが、家に帰ればまた兵が来るかもしれない、、、。どうしたらいいか分からず、泣いていた所にリアムさんが声をかけてくれたのです。こうして手当てもしてもらいました。」
「本当かい!よかったぁ。殴って悪かったわね、リアム」
おばちゃんは安心したのか、おいっきり背中を叩いた。
「いってぇ!おばちゃん酷いじゃないか!俺の言葉を聞きましないで急に殴ってくるなんて!」
俺が変な言い訳を言うより良かったのかもしれない。
そう思いつつもリアムは、おばちゃんに文句を言った。
「いやぁだってねぇ?あのリアムが、こんな綺麗なお嬢さんを家に連れてきてるの見たら誘拐だって思うだろ?」
「あのってなんだよ!俺だって女くらい…」
「ふーん女くらいねぇ」
おばちゃんの顔がニヤニヤしてきた。
これ以上は、やばい!そう思った時だった。
「とても仲がよろしいんですね。」
マリアの楽しそうな声が聞こえた。
「あぁ!リアムが小さな時から面倒見てるからね!母親みたいなもんさ!」
「母親ですか、こんなに素敵なお母様なんてリアムさんが、とても羨ましいです!」
絶世の美女に褒められて嬉しいのは、男だけではないようで、そんな照れるねぇと言いながらおばちゃんはとても嬉しそうだった。
「そういえば、お嬢さんなんて名前なんだい?」
「マリアンヌと申します。ぜひマリアと呼んでください。」
「可愛らしい名前だね!私はリズっていうんだ。おばちゃんでもなんでも好きに呼んでくれていいからね!」
「はい!ありがとうございます!では、リズおばさまと呼ばせて頂いてもよろしいですか?」
「おばさまなんて、ガラじゃないけどね」
なんて言いながらおばちゃんは、俺の背中を嬉しそうにバシバシ叩いてきた。
「そういえば、マリアちゃんはその様子だと、身一つで兵から逃げてきたんだろう?家にもしばらく帰れないだろうし、しばらくここに居たらどうだい?あぁリアムの事なら心配しなくてもいいよ!この子ヘタレだからこんな綺麗なマリアちゃんに手出せないだろうしね!万が一の時は、大きな声を出してくれればおばちゃんがすぐに助けに行くからね!」
家主の俺を置いて話が勝手に進んで行く。
元々そのつもりだったが、改めて言われると、どうしようもない気持ちになる。
そんな、俺の気持ちなんて御構い無しにどんどんおばちゃんが勝手に話を進めていった。
「マリアちゃん、私の若い時の服でよかったら後で持ってくるからね!地味なもんしかなくて悪いけど」
「あの、そんなにお世話になる訳には」
「いいんだよ!おばちゃんがやりたいだけなんだからさ!」
それじゃあ洋服持ってまた、後でくるからね!と言っておばちゃんは嵐のように去っていった。
おばちゃんは、いつの時代も最強です!