新しい場所
トントントンとリズミカルな音が部屋の中に響いた。
もう、朝か…。
リアムは、パンの焼ける匂いをおなか一杯に吸い込みながらソファーから起き上がった。
「っあリアム!おはようございます。」
台所にいた少女が笑顔で挨拶をしてきた。
プラチナブロンドの長い髪を高い位置で1つにまとめている。
薄ピンクの地味なワンピースだが、それでも彼女の美しさが損なわれることはなかった。
「あぁおはよ、マリア」
マリアと呼ぶと少女は、とても嬉しそうに微笑んだ。
何やってんだ俺は…
『はぁ…』
リアムは、マリアに聞こえないように小さなため息をついた。
3ヶ月前のあの日、隠し通路から逃げてきた俺たちは、街外れにある小さな雑木林の中にいた。
「まさか、ここに出るとはな」
それでかぁと1人でリアムは納得していた。
その様子をマリアは不思議そうに見ていた。
「この場所をご存知なのですか?」
「あぁここ幽霊でるって有名な場所だからな」
「ゆっゆっゆうれいですか?」
そう言いながら目にいっぱいの涙を溜めてリアムの腕にしがみついてきた。
剣を突きつけられても涙1つ見せなかったのに、幽霊で泣きそうになるとか
「変なオンナだな」
と笑いながら言ってしまった。
それを聞いたマリアは、少し悔しそうに頬を膨らませながら
「だって幽霊は、触れませんし物を投げても通り抜けてしまいますし…」
とゴニョゴニョ言っていた。
「怖いの理由が、物理攻撃できないからって」
堪え切れなくなってさらに大声で笑ってしまった。
それに反論しようとしたマリアだったが、うまい言葉がみつからなかったのか頬をさらに大きく膨らませるだけだった。
せっかくの美貌が台無しだなと思いつつも、これはこれで可愛いのかもしれない。
そう思ってしまた自分は、今思えばこの時点でいや、最初に会った時からもうダメだったのかもしれない。
「からかって悪かったって。だからそんな顔すんじゃなぇよ」
怖がりの妹が生きてたらこんな感じだったのだろう。
妹の事を思い出しながら、マリアの頭を優しくぽんぽんと叩いたが、それと同時に妹がなぜ死んだのかも思い出しすぐに手を引っ込めた。
俺の顔が怖かったのか、マリアは俺の様子がかわったのを見てすぐに手を離し
「申し訳ありません。」
と一言だけ言って少し後ろに下がった。
あれから何も喋らなかった。
聞こえるのはフクロウの鳴き声とお互いの足音だけ。
マリアは逃げようともせず、ずっとついてくる。
この空気を作ったのは、、、自分だが耐えられないのもまた事実。
何か喋ろうかそう考えていると後ろから『痛っ』と小さな声が聞こえた。
後ろを振り向くとマリアは、足を触っていた。
そういえばこいつ、裸足だった。
マリアの足元を見ると血だらけだった。
「なんでもっとはやく言わない!血だらけじゃないか!」
「……ごめんなさい。」
小さな声でうつむきながら謝っていた。
「ッチ」
リアムは、舌打ちしつつもマリアを抱きかかえた。
「っきゃ」
小さな悲鳴が静かな雑木林に響いた。
急に男性に、俗にゆうお姫様抱っこをされたのだ。
心臓がバクバクする。
顔が熱い。
間も無く朝日が昇ろうとする時間。
まだ薄暗くて良かった、こんな顔が見られなくて良かった。
マリアは安堵するも、この鳴り止まない心臓の鼓動が聞こえてしまうのでは無いかと心配になった。
この音が聞こえないように、マリアは必死だった。
何か喋らなくては…
「あの、どうして…いや、その……重くないですか?」
「いや?ってかアンタ軽すぎ。もうちょっと食った方がいいんじゃね?」
「その、少食なもので」
テンパって変な事を言ってしまった。
声が近くで聞こえる。
顔も近い。
どうしよう?まだ音が止まない。
もっと何か、何か喋らなきゃ!
「っああの、どうして助けてくれたんですか?」
「助ける?何のことだ?」
「今こうして、怪我をしている私のことを助けてくれています。」
「勘違いするな。俺はアンタが"わがまま姫"だったら殺すって言ったろ?病気とか怪我で死なれたら迷惑なんだよ」
そうだ、この人は私を殺しにきたんだ。
マリア何を勘違いしてるの?
この人はあの物語の王子様ではない。
私を助けにきてくれた訳ではない。
こんな気持ち迷惑になるだけだ。
マリアは、掌をギュッと握りしめながら気持ちを落ち着かせた。
「あの、1つお伺いしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「私達は、どこに向かっているのでしょうか?」
そう、俺は女の子を連れて帰る予定は一切なかった。
今頃隣国に行き、盗んだ宝石を売り家を買って生活するはずだった。
だから何も考えてなかった。
女の子を急に連れて来ても何も言われない場所そんなの1つしかない
「俺ん家だな」
ってかそこしか思いつかなかった。