出会い 3
こんな月が綺麗な夜は、我が主人マリアンヌ様は月を見ながら物思いにふける。
今日は少し肌寒い、風邪を引かないよう温かいハーブティーでもお持ちしよう。
アンナはハーブティーに入れる蜂蜜を小さな容器に移し、塔へ向かった。
塔の階段を上っている最中にマリアンヌの声が聞こえたような気がした。
声にだして本でも読んでるのかしら?
そんな風にしか思わなかった。
だが扉を開けるとそこには、マリアンヌに剣を向ける見知らぬ青年がいた。
「マリア様!!」
アンナは、大きな声で主人の名を呼びすぐにマリアンヌの所へ駆けつけようとした。
だがそれは青年によってすぐに阻まれた。
「おい!それ以上動くな。騒いだらこいつの首を跳ねるぞ」
面倒くさそうなのがきた。
燃えるような真っ赤なおかっぱの髪、髪と同じ色の瞳。
ただでさえつりぎみの目なのに俺を食い殺そうな勢いで睨んでるもんだから凄い怖い。
まぁ間違いなくこいつがアンナだろうな。
そうリアムは、確信した。
さて、どうやってこいつを追い払うか?
できれば"わがまま姫"以外の人間は傷つけたくない。
だが、こいつが邪魔してくるのなら俺だってタダで死ぬのはごめんだ。
外に兵はあまりいなかった、死なない程度に傷つけてうまく逃げれば…
「ねぇアンナ?私、紅茶が飲みたいの。」
急だった。それもよくわかんないことを言い出したもんで
「「はぁ?」」
と声が2人でそろってしまった。
「おま…なにを…」
「マリア様何をおっしゃられてるんですか?えぇぇとハーブティーでしたらこちらにありますよ?」
使用人も混乱してるのか訳わかんないことを言い出した。
「いいえ。アンナ私は、紅茶が飲みたいの。メイド長が入れたとびきり美味しい紅茶が。だからあなたは、これから城へ行きメイド長を起こして"わがまま姫"が紅茶を飲みたいと急に言い出したとメイド長を起こしなさい。」
「アリア様なに言って…」
「アンナこれは、命令です。」
「そんなことできるはずないじゃないですか!私がここを離れたら」
泣きそうな顔をしながらアンナは必死にマリアンヌに訴えていた。
「できない?なにを言っているのです。王である私の命令ですよ?早くメイド長のいれた紅茶を持ってきなさい。」
まるで相手を牽制するような低い声で言い放った。
『王の命令』そんなの出されたら、この国の人間は誰も逆らえない。
「……はい。かしこまりました。」
アンナは己のくちびるを強く噛み締めながら部屋を出て行った。
静まりかえった部屋で先に口を開いたのはリアムだった。
「あいつ紅茶なんて持ってこないと思うぞ?」
「そうですね。紅茶ではなくきっと兵を呼んでくるでしょう。」
あまりにも楽しそうに言うもんだからこいつは頭がおかしいんだ!そう確信した。
「城からここへ来るまでに誰にも会わなかった。急いで城まで行って兵を連れてきても10分以上はかかる。その意味、わかんない訳ではないよな?それとも死にたいのか?」
「生きたか死にたいのかと問われれば私は生きたいです。やってみたいこともありますし…」
「なら、なぜ殺してくれなんて言う」
「私が"わがまま姫"だからです。」
「はぁ?」
「私が"わがまま姫"である限りいつかは、こうなるとこを予想していました。ですからもし、その時がきたら運命だと思って受け入れよう、そう決めていたのです。」
目を伏せ、マリアンヌは悲しげな表情で話した。
いまだに信じられない、自分で"わがまま姫"だと名乗る少女は本物なのか?
本物であれば俺はこの少女を殺さなければならない。
だがもし偽物ならば?"わがまま姫"の身代わりだとしたら?
考えれば考えるほどわかんなくなる!
「あぁーーーーーー!!」
リアムはそう叫ぶと剣をしまい、マリアンヌの腕を掴んだ。
「今の俺にはアンタが本物か偽物か判断ができない。俺の予定ではさっさとわがまま姫を殺して部屋中にあるって言われてる宝石盗んで、今頃ガッポリの予定だっのによ!想定外の事ばかり起きる!頭のおかしいよくわかんない女の子に宝石の一つもない部屋!」
「ですから私が…!」
「だから俺はお前を盗む。俺がアンタを"わがまま姫"だと判断したらその場で殺す。それまでお前は俺の所有物だ!」
キラキラと輝いている銀髪の髪と相反するような、深い海の底にいるような哀しい青い瞳。
整った顔からは、怒りと悲しみが入り混じった表情をしていた。
''わがまま姫"がいなければきっと普通に優しい青年だったのであろう。
この青年になら、"わがまま姫"として殺されてもよいのかもしれない。
マリアンヌはそう思った。
「わかりました。私の命あなたの自由に使ってください。ですが、そうなるとここから脱出しないとですね?」
「っあ」
決してリアムは忘れていた訳ではないのだが、話し込みすぎてしまった。
そろそろ兵が到着してしまう頃だろう。
「正面突破は、厳しいか…だったら裏から…いや、それも」
「でしたらここから逃げてはいかがですか?」
それは、本棚の裏に隠された人1人が通れるか通れないかそんな小さな穴だった。
「これは?」
「隠し通路です。ここを通ると城の地下通路にでます。ずっと歩いて行くと城の外に出れるのです。それにアンナも隠し通路の事は、知りません。いずれ見つかってしまうかも知れませんが、時間稼ぎにはなると思います。」
「これしかないか…」
例え騙させていたとしても、今とあまり状況は変わらない。
ならば賭けにでよう!そうリアムは思った。
少女の言葉を信じた訳ではない。
己の感を信じリアムは、少女をつれ隠し通路に向かった。
塔からの脱出です。