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「あー、それ以外にも、ルイズの魔法実技を邪魔しただろ? カードを隠したり、取り替えたりしたそうじゃないか」


「ちがうもん!」


 ひときわ大きくルドヴィカが叫ぶ。


「じゃまなんかしてないもん! ルイズちゃんがもってたカードがまちがってたんだもん。しけんのときはおはなししちゃダメっていわれたからこっそりとりかえただけだもん」


 こっそり、とはいえ7歳児。誰の目に見てもその行動は明らかだった。こそこそと周りを気にするルドヴィカをほほえましい目で見ていた。その行動の意味を知らなかったが、ルドヴィカの魔法の才能が突出していることは周知。魔法に関して告げるのならば、事実なのだろう。


「だがな、ルドヴィカ。正しくても間違っていても実力を試すのが試験なんだ。それを邪魔する子は悪い子といわれても仕方がないよ」


「だって、でも、だって」

 ぐずぐずと鼻をすする。


「ルゥ様は間違っていませんわ」

「そのままカードを使用していればルイズさんは死んでいたかもしれません」

「ルイズさんが死んでいても良かったというのですか」

「実力がどうとかいう以前の問題ですわ」


 女生徒たちがルドヴィカの加勢に入る。実際にどう間違っていたかは知らないが、魔法に関してルドヴィカに絶対の信を置いている。

 一方愛するルイズの生死に発展してしまったアンリは「確かに死ぬのはダメだが・・・」と勢いをそがれてしまった。



「彼女たちの言っていることは正しいですよ」


 魔法実技の教官であるカニーレが進み出てきた。カニーレはルドヴィカには遠く及ばないが、国で10人に入るくらいの実力の持ち主である。新たな魔法を構築することは苦手だが、既存の魔法学はほぼほぼ網羅している。ルドヴィカが魔法制御(・・)のために師事している教官でもある。

 当然のように、件の魔法試験の際の立会い教師でもある。


「ルドヴィカさんよりルイズさんのカードを預かりました。魔力量指定の数値設定の『+』が『×』になっていました。プラスで威力を調整しようとして数倍の威力になる魔法式です。試験ですから全力を出したでしょうし、そうなればルイズさんだけでなく、試験を受けていた生徒たちにも被害が及んだでしょう」


「そんなわけないわ。いつもクリス君に最終確認してもらうもの」


 信じられないとルイズが叫ぶ。

 だが試験のためのカードは自分で描くことが求められる。他人に確認してもらっていては試験にならない。


「ルイズさん…。この間の試験のときはボクは実家に帰っていたので…」


 後ろからぼそっとクリスが呟いた。平民のクリスは特待生で寮生活だが、母親の病気が悪化して特別に帰省していた。試験は日時を遅らせて受けていたが、特待生なだけあって実技は満点をたたき出している。ちなみにルドヴィカも満点だ。


「あれ? そうだっけ? まぁでも数倍の威力になるなら万々歳じゃない。強い魔法を行使することが出来るんですもの」


 悪びれもせずにルイズが答える。周囲の人間が息をのむ。何を言っているのだこいつは。


「ルイズさん、きちんと魔法学の授業を受けていますか? 意図した威力以上の魔法を行使するということは、その分魔力も消費するということです。カードに刻まれている以上、その威力を出すために魔力を強制的に引き出されてしまいます。最悪生命力を奪われて死んでしまうこともありえます。また、意図した以上の魔法を制御することが出来ず暴走することも考えられます。非常に危険な行為です」


 カニーレが丁寧に説明するがルイズはうるさいなぁといった表情を浮かべ視線を落としている。

 アンリはルイズに対しては恋愛フィルターがかかりまくっているのでそんなところもかわいいと思っている。ついでに言えば、そんな初歩のことは理解しているから、カード魔法における新たな可能性を見出そうとしたのだろうとひん曲がった好意的な解釈をしてのけた。







「他にもルイズの机に火の魔法陣を描いて脅そうとしたって? 危ないじゃないか」


「ちが、ちがうもん…おどそうとなんか…して…ないもん」


「じゃあどういうつもりだったんだ?」


 目と鼻と頬を真っ赤にして、つまりは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を女生徒から受け取ったハンカチでぐじぐじと拭いて懸命に答えるルドヴィカに、思いやりとか優しさとかの片鱗も見せないアンリ。


「子どもの悪戯でも、見過ごせないものもあるのよ。物を壊したり盗んだりするのは弁償できるけど、死んでしまったらそれもできないわ」


 そしてルイズ。ルドヴィカは進んで壊したり盗んだわけでもなく、逆に命の危機を救ったといっても過言ではないのだがその点は華麗にスルーして、諭すように語りかける。


「ル、ルイズちゃんが…」


 話そうとしたが鼻水で鼻がつまりうまく話せない。ハンカチでぷぴーと鼻をかむ。


「ルイズちゃんがね。つくえにまほうじんをかいていたのよ」


「は?」


 一同首を傾ける。

 そんなことを気にすることもなく、ルドヴィカは一生懸命説明する。


「れきしのじゅぎょうでね。おーさまがナナイおーこくをつくったときのおはなしをしてたの。そのときにね、ルイズちゃんがつくえにまほうじんをかいてたの。でもね。そのまほうじんはまちがってたの。だからね、ルゥがね、かきなおしてあげたのよ。まちがってたよっておてがみもかいたのよ」


 つまりは授業を聞かずに机に落書きをしていたが、その落書きが間違っていたため、親切心から正しく書き直したが、運悪く発動してしまった。ということらしい。

 ルドヴィカとて発動可能な魔法陣が不用意に机に書かれている危険性くらいは理解している。練習用や携帯用の魔法陣の中には最後の一つを描かないことで敢えて未完成のままにして発動させないこともあるのだが、残念ながらルドヴィカはしっかりと描くことしか教えられていなかった。


「手紙?」


「ル、ルイズ? 俺の記憶が正しければ、あの時、ルイズの机の上に紙が貼ってあったよな。それを『何このゴミ』って見もせず丸めて捨ててたやつが手紙だったんじゃないか?」


 魔法陣発動時に一緒にいたデビッドが確認を取るが


「あれは魔法陣を隠すために貼ってあったものでしょう。所詮子どもの浅知恵、ばればれだったけどね」


 そのばればれに見事に引っ掛かったことは考えない。


「ちがうもん。おてがみだもん」


 ルドヴィカの言葉はルイズには届かない。


「ルゥ様のお手紙を捨てるなんて」

「真面目に授業をお聞きになっていないの?」

「落書きで、しかも机に、魔法陣なんて危険ですわ」

「間違っているなんて」


 女生徒達にはしっかりと届いた。全面的にルドヴィカに味方の彼女たち。

 アンリは安定の恋愛フィルターで、授業中にも新しい魔法陣を考えているなんてルイズは天才だなぁと明後日どころか来年くらいの方向を向いた好意的な解釈をしていた。









「それにな、ルイズを階段から突き落としたそうじゃないか」


「ちが・・・」


 ひっくひっくとやや痙攣を起こしたような呼吸になりつつ必死に否定の言葉をつむいだ。


「ル、ルイズちゃんが・・・」


「ルドヴィカ。なんでもかんでもルイズのせいにするのは見苦しいぞ」


「ひぅ」


 なんでもかんでもルドヴィカのせいにしているアンリ。


「ルゥ様のお話を聞いてあげないなんて」

「こんなにかわいらしい声なのに」

「何をおいても優先されるべきです」

「泣き顔もかわいいなぁ」


 女生徒たちの応援を受けてルドヴィカは一生懸命お話しする。


「ルゥは……かいだん…のぼってた…だけだも…。おりて…きた…ルイズ…ちゃ…きが…つかなくて…あし………あたっ………」


 ぐずぐずと鼻をすすりながら懸命に説明する。

 つまりは背の小さなルドヴィカに気付かずに降りてきたルイズの足がルドヴィカにあたってしまい結果的にルイズが階段から落ちてしまったのだ。

 だがしかし。


「え?ルゥ様蹴られたの?」


 女生徒の一人が気がついた。結果的に階段から落ちるという大事になったのはルイズだとしても、その前にルイズの足がルドヴィカに当たっている。そして登っていたのがルドヴィカということは本来落ちていたのは下にいたルドヴィカのほうだ。

 幼いルドヴィカは悪役令嬢よろしく足を引っ掛ける、なんてことはできない。大人にあわせた階段の段差はルドヴィカには少し高くて、いつも一生懸命「うんしょ、うんしょ」と声を出しながら上り下りをしている姿を生徒たちはほほえましく眺めていたものだ。



「私が階段から落ちる原因になったのは間違いなくルドヴィカさんにあると分かっていただけたかしら?」


 ルイズが得意顔で言い放つ。そもそも声を出して登るルドヴィカに気付いていれば落ちる原因なんてものもなかったはず。そんなことは一ミリも思うことなくルドヴィカが悪いと言う。

 アンリは何重にもめぐらせた恋愛フィルターで、凛としたルイズもかっこいいなぁとどうでもいい場違いなことを考えていた。




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