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Iron Executioner  作者: ごまみりん
9/14

造反


ヤンキー。同胞。アメリカ人。血生臭い帝国臣民。


「ヤンキーだって?あいつら、アメリカ人なのか?」


「あぁ、愛する同胞さ。まぁ、ただの同胞だったら良かったんだけどなぁ」


メイナードが送ってきた軍の人員情報ファイル。セクションはUS navy。海軍だ。


「これはこれは……腰抜け共じゃないか」


海軍情報部の非公式実動部隊。噂に聞いていたSEALs(海軍特殊部隊)崩れで構成されている木偶。大したことも出来ない、パラミリのパクリ。


「そうだ。海軍の腰抜け共が、UAE軍の迷彩着てやがった。あいつらの生体情報(バイオデータ)を本国のデータと照合したら、笑っちまったぜ……」


「それで、何で海軍のやつらがあんな所にいたんだ?」


状況証拠だけで見れば、一連の件に海軍情報部が関わっているかもしれない。ラングレーの会議室にも海軍情報部だけいなかった。

「さぁな。それはまだ尋問中だ……もう一本貰うぜ」


メイナードは早々に一本開けてしまって、二本目のビールに手をかけた。まだ尋問中なのに、いい御身分だ。まぁ、今のぼくもメイナードのことを言えないのだが。


「お前いいのか?まだ尋問終わってないんだろ?」


「いいんだよ。あいつらは椅子に縛り付けられた子羊を痛め付けて、ストレス解消してるんだ。俺のストレス解消法はコレだからな……他人が仕事してる時に飲む酒は最高だぜ」


パリでもそうだった。こいつはそういうやつだ。パリではコークだったけど。


「何にせよだ……ぼくは海軍情報部が絡んでるに一票だ」


「あ、ずりぃなぁ。言ったもん勝ちじゃねぇかよ。負けたらどうなるんだよ?」


「ビール一杯」


「いいぜ……大穴狙いで絡んでないに一票だ。オールインだ」


気付けば、チップスが無くなっていた。基地内の売店に行けば何かしらのつまみがあるのだが、ぼくもメイナードもソファと一心同体になっていた。つまり、面倒なのだ。


しかし、つまみ無しで飲むのをアリかナシかで言えば、ぼくはナシだ。メイナードもナシだ。いい年した男二人で一緒に買いに行くというのも、なんだ。


「……オモテ」


「ウラだ」


パンッ


表だった。


「最悪だな……ツイてない」


「まぁそう言うなよ。何でもいいからなぁ」


「シュールストレミングでいいな?」


喚き散らすメイナードを無視して、部屋を出た。







基地の中は雑然としていた。


アラブ人に日本人にドイツ人。一昨日、ぼくたちと入ってきたヤンキー。あそこで煙草をふかしてるのは、メキシコ人とエジプト人か。


アンクルサムもびっくりな人種のサラダボウル。


多国籍軍には五ヵ国の軍が参加していた。


それだけ人がいれば知り合いにも会うわけで、売店で適当につまみを漁ってたら日本のECNパイロットに声をかけられた。以前、合同訓練した時に馬が合った男だった。


何してるんだ、と訊かれてつまみを探してると言ったら、謎の物体を渡された。


「何だこれ?」


「あたりめっていうんだよ」


聞けば、イカを乾燥させた物らしい。得体の知れない物を食べることに抵抗はあったが、騙されたと思って食え、と勧められ食べると中々にいけた。ビールと合うかもしれない。


その、アタリメと和食の缶詰とビールを買って売店を後にした。


部屋に戻る前に、基地をぶらついた。


歩いてると、ドイツ人とかエジプト人にガンをつけられた。時には気味悪そうな視線も飛んできた。


そりゃそうだろう。自分たちの基地の一角を占領――ぼくらは片隅を間借りしてるだけなのだが――して、何をしてるのかも分からない連中の一人が、何食わぬ顔をしてつまみを買ってる。それに格納庫の隔壁を吹っ飛ばしてドンパチやったのだ。彼らからすれば、腹立たしいだろう。


そういう視線の中、気弱そうな基地司令とすれ違った。


声をかけて、隔壁を吹っ飛ばしてしまったことを謝罪すると、何かを諦めたような顔をして


「いいですよ……大丈夫です……隔壁が飛んだだけですから……」


と譫言を言っていた。


罪悪感はあったが、それよりも心配が勝った。彼の胃は大丈夫だろうか。あれで、中将らしいから何と言うかまぁ。


大佐が見たら、ケツにドライバーを突っ込みそうだと思った。貴様それでも将官か、鍛え直してやる、とか言って。想像しただけで可哀想。






部屋に戻るとメイナードはいなかった。飲み散らかしたビール缶が、あっちこっちに放ってあった。

メイナードが飲み散らかした缶をまとめて、買ってきた物をテーブルに置いた。


ビールと缶詰とアタリメを開けて、ソファに沈み込む。思った通り、アタリメはビールと相性が良かった。ヤキトリの缶詰も美味かった。あの男には今度会った時、礼を言わなきゃならない。


しかし、ビールを二本開けてもメイナードは戻ってこない。人につまみを買いに行かせて、どういうつもりなのだろう。トイレにしては長すぎる。


海軍情報部員の5人が監禁されている簡易トーチャールーム。メイナードはそこにいた。


「おい、つまみ買ってきたぞ」


「すまんな。でも飲んでる暇は無くなっちまったよ……後、お前にビールを奢ってやらなくちゃならなくなった」


ということは、


「海軍情報部が?」


「あぁ、しっかり、がっちり絡んでいたよ。で、だ……悪いニュースと悪いニュース。どっちから聞きたい?」


「じゃあ、悪いニュースからだ。どっちも変わらないだろう?」


メイナードは肩を竦めて、厄介そうに口を開いた。


「海軍情報部だけじゃない。第三艦隊と、陸軍、海兵隊の一部も関わっていた。あと、DARPAの研究者もだ」


「だから、テスト中のUECNのAIが盗まれたのか……セキュリティクリアランスも情報管理もお粗末だな」


こうも易々と情報が盗まれるていては、そのうち戦略核の発射コードが持ち出されたりするかもしれない。たまった物じゃない。


そう言うとメイナードは笑いながら


「戦略核は言い過ぎかもしれないがよ、情報漏洩ばっかじゃあ俺らの仕事が増えちまう。FBIの国家公安部の連中もな」


楽させて欲しい物だ、と言って鼻を鳴らした。



「それで、もう一つの悪いニュースは?」


メイナードの口角は下がり、笑みが消えた。


「本国に戻るぞ。キューバに入った人道軍がクーデターを起こした」

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