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Iron Executioner  作者: ごまみりん
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流出


まっくろこげ。


燃えカス。布の燃えカス、木の燃えカス、人の燃えカス。


炭素の塊の傍らには中国製のAK。お小遣いで買えて、誰でも誰かを殺すことが出来る。タイムプルーフされた骨董品。


建築用のパワードスーツをいじくり回して作ったらしい、お手製のECNもどきは産業廃棄物処理場に埋もれた屑鉄のよう。


中国の自治区でも、第三世界でも、東欧でも似たような景色がずっと昔から広がっている。


「何も出ねぇなぁ……」


とメイナードが言った。


ECNの格納部から散布した探索用のナノマシンから送られてくる情報には目ぼしい物は無い。


ジョン・ドウ――UNKNOWNだなんて呼ぶのが面倒になった――が現れた村落――というよりキャンプ。昔ながらの原理主義過激派が根城にしていたこのキャンプには何一つ、手がかりになる物は無かった。

「無駄足になっちまったか?」


メイナードはさっきからECNで地面を蹴っている。悪態をつきながら八つ当たりしてるのだ。


「どうだかな……まぁ、無駄足だったら残念ってことで……」


「勘弁してくれよぉ、こんなへんぴな所にまで来て、手がかり無しで、はい残念はねぇぜ」


「そう言ったって仕方ないだろ?恨むなら上を恨めよ」


「ラングレー止めるかなぁ」


「海兵隊のECNユニットからラングレーだろ?ラングレーの後は何処行くんだ?」


「さぁ……PMCにでも入るよ」

「ペイの良いところ?」


「出来ればな……」


「それだったら、我らがアンクルサム資本とUAE資本は止めとけよ……結果が出たぞ」


ARにナノマシンが集めてきた情報が出る。


ステルスペンキがここから、2キロの地点から検出された。


別にステルスペンキが検出されるのは珍しいことじゃない。この辺りはUAEと日本政府の作戦地域で、ステルスを搭載した特殊戦仕様機も投入されている。


だが、ナノマシンが見つけた粒子は日本、UAE両国が採用しているどの物とも違った。


「ここから2キロ……向こうに行ったってことは……」


ジョン・ドウが原理主義過激派たちをジョン・ドウにして去っていった方向。それは


「俺たちが来た道を戻っていったってことだな……」


ぼくたちが間借りしている多国籍軍の基地がある方に戻っていったということ。


「これはまた……きな臭いったら、ありゃしない」


「とりあえず戻ろうぜ。そろそろ本国から役立たすたちが情報を寄越してくるだろうよ」




ぼくらの予想に反して、本国の連中が送ってきた情報は珍しく有用な物だった。


パリでぼくらを襲ったUECNについて。


陸軍とDARPAが、ぼくらを襲ったUECNをバラして調べたら、使われてたAIは多少の書き換えがあったものの、テスト運用中の機体に使われていたAIと同じ物だったことが分かった。


本国は大変なことになってるらしい。今度こそ、誰かの首がすげ替わるだろう。情報漏洩に開発段階の技術の盗難。


MI6(イギリス秘密情報部)にいるメイナードの友人からも情報が届いた。


SAS(イギリス特殊空挺部隊)のECN部隊が、アマゾンでの麻薬工場破壊作戦中にUECN4機から襲撃を受けたという。返り討ちにしたらしいが、破壊した麻薬工場に何処からともなく増援のUECNが8機現れた時はSASの隊員も心底イラついただろうな、と思った。


「盗まれた技術が、流されてるってワケか……」


「みたいだな。お前の友達の話によれば、アマゾンの麻薬工場にもあるらしいぞ?カルテル辺りに流れてるんじゃないか?」


「かもな……まぁ、その辺りは珍しく有能だった本国の連中に任せるとして。俺らは俺らの仕事をしようや……」


ぼくらは間借りしているUAE軍基地の格納庫前にいる。


ぼくとメイナードとラングレーのパラミリタリーチーム。特殊作戦用のコンバットスーツにM4。環境追従迷彩で、ぼくの体はコンクリートと同化する。


ドアの向こうに忍ばせたナノマシンからの映像では5人、中にいる。UAE軍の迷彩に、アブダビM4。ポーカーをやっている。


「呑気なこった……」


透明なメイナードが笑った。パラミリの連中も小声でクスクス。

「最期のポーカーなんだ。見逃してやれよ……」


メイナードは肩を竦めながら、隔壁用ブリーチングギアをセットした。ドアから離れて、ハンドシグナルでメイナードに合図する。


爆発音と共に隔壁が吹っ飛ぶ。4人の幽霊は煙に紛れて、格納庫にエントリーしていく。


特殊作戦装備のゴーグル越しに浮かび上がる人影に、5.56ミリ弾を撃ち込む。膝、腕、死なない程度に戦力を奪う。


煙が晴れると、コンクリートの床にうずくまる兵士5名と、パリで世話になったUECNが15機。


「ビンゴだな……基地から発信された通信を解析した甲斐があったな……NSAの連中には感謝しないといけねぇなぁ」


「ビールでも奢ってやろう。暗号化されていて苦労したらしいぞ。」

「そうかよ。まぁ、とりあえずサイイド?アラビア語は分からんな……ミスター諸君、じっくりお話しようや……」


パリでもそうだったが、こういう仕事ばかりな気がする。拉致だの拷問だの突入だの。


UAE兵士諸君は気の毒だ。パリの諜報員よろしく、グアンタナモ式の強化尋問と銘打った拷問を受けるのだから。


「ビル、お前もやるか?」


「遠慮しとくよ……」


基地の医療チームと処理班が、わらわらと格納庫に入ってきた。

ぼくらは格納庫を後にした。


明日には本国からDARPAのエンジニアが着く。それまでは、ビールでも飲んでいよう。

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