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Iron Executioner  作者: ごまみりん
2/14

指令

なんとか第2話更新です……



ぼくは昔から情報畑の人間と仲が悪い。陸軍の情報保全コマンドの連中とは殴り合いになったし、海軍情報部の奴らとは部隊総出で乱闘になった。


別にぼくから吹っ掛ける訳じゃない。いつも向こうからぼくらに突っかかってくる。そもそもぼくらは特殊作戦軍の直轄だから指揮系統が違うから元から仲が悪い。それに加えて、このザマ。


ぼくは情報畑の人間が嫌いだ。何度でも言おう。嫌いだ。


軍の情報部だから、これで済んでいる。もしも、CIA(中央情報局)とかDIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)の連中と会ったとなると考えただけで頭が痛い。インテリジェンスコミュニティの連中なんか絶対にアクの強い奴らに決まってる。まともに話せないだろう。



こんなに嫌いなのに、大嫌いなのに、ぼくは今バージニア州マクレーンにいる。ラングレー(CIA)の本部で背広や制服を着た偉そうなやつらに囲まれている。


気分は最悪。いや、最悪を通り越している。顔に出ていないか心配になってくる。


それで、何故ぼくがこんな苦行を強いられているのか。話しは遡る。






キューバでの戦闘から二週間が経った日、ぼくは家でバドワイザーを片手にビッグマックを食べていた。


スターバックスやドミノ・ピザの永遠や普遍性が信じられていた時代があった。


だが、スターバックスもドミノ・ピザも今や無数にある飲食店チェーンの一つになった。


でもマクドナルドとバドワイザーの普遍性は保たれていた。


結局、CNNでもニューヨークタイムスでもワシントンポストでもキューバでの戦闘については詳しく報道されなかった。ホワイトハウスで報道官が言った通りのことを書いて、キャスターが喋るだけ。


別にそれが悪いとは言わない。それでぼくらの日常が保たれるならそれで構わない。日曜日にアパートでバドワイザーを流し込む生活が保たれれば。



ぼくは兵士で、軍人だ。人を殺して飯を食べる。仕事柄、ちゃちな倫理観を何処かに置いてきてしまったのかもしれない。


大したことを言ってないニュースを見ていると、着信を知らせるARが滑り込んできた。番号は非通知で、軍の普段使われない秘匿回線が使われていた。きな臭かったが、出なきゃ後で始末書を書かされそうだから仕方なく手のひらに埋め込んだ端末チップを耳に当てた。



「はい、こちらマクドナルドルート666店でございます。注文はチーズバーガーで……」


「ビル・ブラッド中尉、そんなにも減給されたいか?」


「冗談ですよ……普段使われない秘匿回線から着信があれば怪しみますから」


着信の相手は上官だった。


「まぁ、緊急用の回線だからな。用件は分かるな?」


「何となく。それで何処に行けば?」


「ラングレーだ。チケットは送っておいた、明日の15時だ」


用件を伝えると上官はさっさと通話を切った。僕がラングレーに行くことを嫌がることを見越していたのだろう。


通話が終了したと同時に、航空機のチケットARが表示された。


拒否権は無かった。




そういう訳でぼくはラングレーにいる。


エントランスを潜ると黒服二人に連れられて、殺風景な会議室に入ってお偉方に囲まれている。



「ビル・ブラッド中尉、ご苦労」


ぼくを呼びつけた上官、クレア・アルバーン大佐は机に足を乗せてふんぞり返っていた。


「大佐、恥じらいって知ってますか?」


「何だそれは?美味いのか?」


これだから、行き遅れとか言われるんだとか思っていると周りの男たちが咳払いをして空気を引き締めようとした。


「大佐、こちらの方々は?」


「我が国の情報機関の連中だ」


背広を着てる奴らはCIAにNSAとDIA、制服を着てる連中は陸軍情報保全コマンドと空軍情報・監視・偵察局、海兵隊情報部らしい。みんな大嫌いだ。


「大佐、ぼく一人なんですか?」

普段のブリーフィングなら現地集合で同僚たちと一緒にやる筈なのに、今会議室にいるのはぼくだけ。電話よろしく、どこかきな臭い。

「そうだ、お前一人だ。早速で悪いが、これを見てくれ……」


大佐が指を鳴らすと、ARスクリーンに映像が流れた。


場所は分からないが、山岳地帯でのECNの戦闘記録映像。おそらく不正規戦だろうなと、ぼくは思った。なんのへんてつもない、救済の過程の記録。だった。


突然映像が乱れ、ブラックアウトした。


「これは?」


僕の質問に答えたのは背広を着たCIAの男だった。


「中央アジアにおける我々のECNユニットの戦闘記録だ」


「パラミリタリーの?」


映像が巻き戻る。


「そうだ。山岳地帯における不正規戦だった」


「最後は撃破されたようですが?」


「そうだ。これを見てくれ」


巻き戻っていた映像が止まり、ブラックアウトする前の瞬間が写し出されて、一部分が拡大される。

「これについてどう思う?」


見たこともないECNだった。ぼくらの機体と同じように真っ黒に塗装され、右手には特殊戦仕様のパイルバンカー。メインアームはイタリアのメカニカ社製のライフル。


正直に言ってくれと大佐は言っている。


「見たところですが……装備は特殊作戦仕様、黒い塗装はステルスペンキでしょうね。パイロットの腕も相当ですが、ECN自体の性能も桁外れです。おそらく第7世代ECNと同等かと……」


「勝てるか?」


「どうでしょう……かなり厳しい戦闘になりますね」


会議室は重たい空気に包まれ、唸るような声を挙げる者もいた。

「君の意見は分かった。次にこの資料を見てほしい」


CIAの男からファイルが僕のARに送られてくる。ファイルの一ページ目には統合参謀本部部外秘とあった。つまりトップシークレットということだ。


ファイルを見るのを躊躇していると大佐に「許可は取ってある」と促され、二ページ目に進んだ。



「これは……」


第6世代ECNをベースにした自律型無人ECN(Unmanned Executioner)、UECNのテスト運用。


「噂では聞いてましたが……とうとうECNも無人化の時代ですか」


「そういう計画もある、だが問題はそこではない」


「と言うと?」


「57ページだ」


57ページを開くと、テスト運用中のUECNの暴走事故についての報告書が添付されていた。エジプトでの性能テスト中に、友軍のECNを攻撃。7機を大破させた後、HEAT弾を5発撃ち込まれ活動を停止。


「失敗ですか、AIの制御が上手くいかなかったんですか?」


「いや、DARPAと陸軍が共同で調査してるが原因は不明だ。だが……」


「ここからは僕が……」


眼鏡をかけた柔和な笑みを浮かべる男が割って入った。


「NSAのキャルヴィンと申します。CIAのマイルズさんの話の続きですが、UECNの暴走と同時刻にエジプト国内で件の未確認ECNが確認されました。試験場から17キロの地点です。その後インテリジェンスコミュニティ総出で追跡しましたがロストしました」


「ロストした地点は?」


「ロンドンです。ですが17時間前にフランスで未確認ECNが捕捉されました。14時間前にはDGSE(フランス対外治安総局)のECN部隊が郊外で作戦を実施し、全滅しました。DGSEの機体は第6世代型特殊戦仕様Typhoon-βです。パイロットシグナルがロストするまでに5分とかかってません。間違いなく奴の仕業です」

「この状況を鑑みて、統合参謀本部は未確認ECN――UNKNOWNの破壊を決定した。この任務にビル・ブラッド特殊作戦軍中尉を派遣することになった」


大佐はそう言うが何故、部隊ではなくぼく一人の派遣になるのか。


「まずお前には大使館付きのケースオフィサー(現場担当官)と合流して情報収集に当たってもらう」


「ぼくにヒューミントをしろと?それだったらラングレーのパラミリでも陸軍のグリーンベレーでも良いでしょう?」





最初からドンパチするわけじゃなくて、退屈な諜報活動なんてごめんだ。それにぼくに情報を集めさせるということは、ここに雁首揃えて座ってるアメリカ合衆国が誇る情報機関の面々は何一つとして掴めてないということだ。天下のアンクルサムもヤキが回ったのかもしれない。


これまで黙りこくっていた陸軍の情報保全コマンドが口を開いた。


「今の合衆国には君ほどバランスのとれた人員はいない。君はデルタ(陸軍第1特殊作戦部隊デルタ分遣隊)から現部隊に転属している。ECNパイロットとしても特殊部隊員としても能力が高い君にしか出来ない任務だ」


制服を着た軍の情報部の面々は一様に頷いた。背広組は僕から視線を反らさない。また拒否権は無いようだ。まぁ仕事だから拒否出来ないのだけれど。



「12時間後に出発してもらう。大使館で現場担当官と合流したらまた連絡する。以上だ」


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