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Iron Executioner  作者: ごまみりん
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歯車


これが、ぼくが[ぼく]を失った日。


ぼくが容れ物を失った瞬間。


ビル・ブラッドという存在が消えた時点。


ぼくが死んだ日だ。



何故死人がべらべらと自分の死に際を喋っているのか。それを説明するのは難しい。少し骨が折れる。



簡単に説明するなら、ぼくは容れ物を失っただけで本体は無事だったということだ。通信端末が壊れても、データが無事だったという風に。



その後の話をしよう。


ぼくとカールは死んだ。互いに互いのコックピットを貫いて。遺体はぐちゃぐちゃだったろう。カールを殺すと、UECNの活動も停止したという。やはりカールがコントロールを握っていたらしい。


ぼくの遺体――細切れはメイナードたちに回収された。さすがに彼らは人間の細切れを持って帰ることに慣れているため、手際よく飛び散ったり潰れた内臓をさっさと集めてくれた。


ぼくだったモノをかき集めて入れた死体袋は翌日アメリカに運ばれた。


細々とした手続きの後、死体袋の中身はアーリントン国立墓地に埋められた。葬儀にはメイナードや大佐、820連隊の同僚たち、カーティス大使が来てくれたようだった。喋ったことは無いが、特殊作戦軍の司令官も顔を出してくれたそうだ。死んだ身ながら、恐縮してしまった。



だがアーリントンに埋められたのは容れ物であって、本体は別の場所へと運ばれた。


ぼくの遺体はほとんどがぐちゃぐちゃになっていたが、脳の損傷はごく軽微な物だった。


それに目をつけた戦争屋共は密かにぼくの脳を盗み、DARPA(国防高等研究計画局)の機密施設に運び込んだ。


DARPAの変態性癖の持ち主連中は、ぼくの脳にぺたぺたと電極や装置を取り付けてぼくを目覚めさせた。


ぼくが目覚めてから初めて見たのは、むかつく大統領補佐官だった。


「おはよう。ご機嫌いかが?」


そう言う補佐官の顔面に唾をかけてやろうとしたが、ぼくに生物としての容れ物は無いからどうにも出来なかった。ぼくが得ている視界もリンクさせたカメラに写された物。ぼくは大昔の電算機のような大きな箱に入れられている。



非人道的。グロテスク。マッドサイエンス。赦されざる行為。冒涜。


言いようはそれぞれだが、ぼくはそういうテクノロジーで存在してはならない類いの物になった。ビル・ブラッドは死亡し、ここにあるのはシステム。戦争屋共が産み出した、史上最悪にして醜悪な救済の歯車。



bless


ぼくの新しい名前だ。加護、祝福、恵み。

戦争屋共はUECNを実戦配備しようとした。だが、人道軍が完成させたAIを使用するわけにもいかない。


そこで、ぼくだった。


ぼくはANGELの中枢に組み込まれて世界中で戦う同胞と共に在る。


全地球戦闘支援パッケージ。


同胞たちに加護を、祝福を授けるために、無数の《私》・『俺』・〈わたくし〉・【僕】が世界中に散らばっている。ECNに、歩兵用デバイスに、戦闘機に、艦船に、衛星に宿っている。様々な所にぼくがいる。ぼくは[ぼく]を失った。






たまにアーリントンのカメラを覗くと、墓参りに来てくれる人がいる。メイナードと大佐だ。


二人で来ることは無いが、二人とも必ずバドワイザーを持ってきてくれる。メイナードは必ず墓の前に座って墓石に話しかけながら飲んでいる。結局、ぼくの分のバドワイザーも飲んでしまう。それじゃあぼくの分の意味が無い。


大佐は柄にも無く、可愛らしい花を持ってくる。それでメイナードと同じく墓石の前で飲んでいるのだけれど、いつも黙って泣いている。情けない顔をしてだ。頼り無いったらありゃしない。



そんなこんなでぼくは気楽にやっている。電子の海を泳ぐのも悪くない。


至るところに宿っているから、世界中何処へだって行ける。一昨日は衛星を経由してルーヴルに行ってきた。カメラ越しではあるが、念願のモナ・リザを見ることが出来た。





これからもぼくは同胞たちに加護を授け続ける。


何処かの誰かの、日曜日のビッグマックとバドワイザーを守るために。





何処でも





どんな時でも




あなたの傍にいる




《私》・『俺』・〈わたくし〉・【僕】は。










ぼくは……










Salvation continues

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