表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Iron Executioner  作者: ごまみりん
13/14

妄言



「待ちくたびれたぜ」


カールは言った。普段通りの、少しがさついた声で。ARに写る表情も、なにくわぬ、いつもの顔で。メイナードと似た口調で。


「悪かったな」


「詫びはいらねぇよ」


カールはぼくに背を向け、空を仰いだまま続けた。


「ビル、お前にはここがどんな風に見える?」


ここ。ハバナ。更地。核無しの世界終焉のリハーサル会場。救済が為された地。


「俺にはな、将来のアメリカに見えるんだよ。この瓦礫だらけの、埃っぽい場所が」


カールの瞳は、酷く哀れな物を見るようなものだった。空を仰ぐのを止め、辺りを見渡した。ゆっくりと、目に焼き付けるように。


「将来のアメリカだって?」


「あぁ、馬鹿馬鹿しいと思うか?」


「裏切り者の戯言。もしくはジャンキーの妄言」


カールは笑った。


そう言うと思った、と言ってぼくを見据えた。


「俺ら、世界中を飛び回ってきたよな……地球を何周もした。北半球も南半球も、西半球も東半球も関係無く殺し回ってきた。たくさん殺してきた。大人も子供も男も女も……何の罪もないやつらをたくさん」


「何が言いたい?」


「俺らは何故殺してきた?俺らは恨みでも持ってたか?いや、そんな物欠片も持っちゃいなかった……一つも持っちゃいなかった。なのに、俺らは奪っていった。愛を命を、家族を……殺したやつらから全て奪っていった」


「だから何なんだ?」


「お前は、おかしいと思ったことは無いのか!?自由と民主主義を輸出するとか言って、やってることはただの侵略戦争じゃないか!!人道支援軍と銘打った占領軍が居座り、親米政権という名の植民地を作る!!どこに自由と民主主義があるんだ?」


「少なくとも国務省のデータでは、人道軍が入った後の経済状況は良くなっている。救済は為されてるんだよ」


「救済?ハッ……何処が?誰が救われた?アメリカだろ?資源が手に入って……戦争屋や企業の連中は救われてるだろうよ。じゃあ、そこの国の国民はどうだ?大切な物を根こそぎ奪われ、いらない物を押し付けられ、何が救いだ」


カールの瞳には、先程までは無かった輝きがあった。何の光かは、すぐに分かった。ぼくらが決して持ってはいけない光。


「お前は軍人失格だよ。カール」

「軍人の前に、一人の人間だ。ビル、力を貸してくれ」


この男は、ぼくに手を貸せと言ってきた。自分を殺そうとしてるやつにだ。


「ぼくにお前の同志になれと?」

「そうだ。お前がいれば、必ずこの国を変えられる。本当の民主主義と自由を取り戻すんだ……」


酷くむず痒い言葉。希望に満ち溢れている。内容の無い、非現実的な言葉。


「ぼくに革命云々を為せと?」


また何か喋っている。嬉々として、御大層なことをつらつらと。


呆れた。呆れて、呆れすぎて、笑ってしまいそうだ。ぼくは今どんな顔をしているのだろう。


カールはまだ喋っている。高尚な革命精神をべらべらと。


「カール、国を動かしているのは誰だ?」


「……何を」


「官僚だよ。それと政治家。こいつらがいなけりゃ、国は動かない。いくら自由があろうと、真の民主主義を取り返そうと、ふんぞり返って国益を考えるやつがいなきゃどうにもならない」


「主権は国民にある」


「官僚も議員も国民さ。国民が戦争を起こす。マジョリティなんだよ、救済を望む声は。前時代、アメリカは外交で戦争で失敗し続けた。もう失敗したくない、自分たちが世界をリードしていく、苦汁を飲むのはもうごめんだ。そういう気持ちが国民の間に広がっていった」


「それは間違っている」


「それはお前の意見だ。マイノリティの小さな小さな声だ。聞いて欲しくて、構って欲しくて蜂起したか?ノイジーマイノリティになりたくて?」


ぼくの言葉にカールは顔をしかめた。


「ぼくらは考えちゃいけない。ちゃちな倫理を何処かに置いて来なければならないんだよ。特にこういう仕事なら、尚更だ。だけどお前は、それを忘れた。ちゃちな倫理で、足らない頭で考えた。本当に軍人失格だ」


「考えない人形になれってか……お前はいつもそうだった。任務に忠実で、言われたことを完璧にやる」


「それが軍人で特殊部隊員の仕事だろ。ぼくらは戦争で飯を食うんだ。当たり前のことだ」


戦争で飯を食って、日曜日にバドワイザーを飲む。戦争で。


「ぼくはそういう当たり前を守るよ。日曜日にバドワイザーを飲む生活を。間違ってようが構わない。国のことなんて、動かすやつらが考えればいい。この風景が将来のアメリカなら、それもいいだろう。まぁ、どうしたらアメリカが更地になるかは置いといてな……」


「なるさ、必ずな。核で、通常兵器で」


「核?アメリカに核を撃ち込む国があるとでも言うのか?」


「無いと言えるのか?」


「質問を質問で返す時のお前は最高に大嫌いだよ……世界の核抑止は正常に機能している。核を撃ち込めば撃ち返される。メリットは一つも無い」


「一国どうしならな……」


「どういう意味だ」


「アメリカを除く核保有国が全て、敵に回ったとしたらどうだ?」

正気じゃない、と思った。ありえないことを、突拍子も無い、一蹴すべき戯言。現実的じゃない。


「ありえない」


「そうかな?」


「密約でもあると?」


「さぁな。でも世界中で反米意識は高まっている」


「それが核保有国にも伝播する……馬鹿馬鹿しい」


「世界に絶対は無い。絶対的な帝国も……」


硝煙の匂いと埃を含んだ風が吹き荒ぶ。空は真っ赤。遠くから兵器が爆発する音が花火のように聞こえる。


「お前を殺すよ」


「悪いが殺される訳にはいかないんでな……お前が死んでくれ」

カールはライフルを捨てて、格納部から高周波ナイフを取り出した。


ぼくもライフルを捨てた。ARには残弾ゼロとあった。メイナードがあんな数のUECNをけしかけたのは、この為だったのかもしれない。ぼくとナイフでやりあう為に、サシで決着をつける為に。


永遠のような、一瞬のような時間。ぼくらは向かい合っていた。



ブースターの爆音と鉄の軋む音。


引き寄せ合うように迫る互いの機体。


振り下ろされる黒い刀身。その瞬間はスローモーションのようだった。ゆっくりと、コマ送りのように刀身が近付く。


コックピットが悲鳴を上げる。嫌な音。圧迫感。狭い。頭に過る、これまでのこと。


大佐


メイナード


じいさん


ばあさん


母さん


父さん



…………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ