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Iron Executioner  作者: ごまみりん
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殺意


全く、やくざな仕事だ。


そう思ったのは何度目だろうか。


無人爆撃機(UAV)のウェポンベイに詰め込まれる仕事は世界中探してもぼくたちぐらいだろう。ぼくたちはスマート爆弾じゃない。


そう思ったのは何度目だろうか。


キューバ上空をUAVに抱かれて飛ぶ。いつかと違うのは、救済でないことと、隣で軽口を叩くやつがメイナードだということか。


「おい、始まったぜ?」


ARモニターを見て、メイナードが言う。揚陸挺から海兵隊のECNと隊員が、砂浜に雪崩れ込む。総攻撃が始まった。


海岸線には夥しい数のUECNと人道軍の兵士。プライベートライアンよろしく、ミンチになる海兵隊員。空爆で作られた前衛的なオブジェ。多脚戦車の脚に踏み潰されて、ぺしゃんこになる何処かの誰かの死体。ダンプに轢かれたら、あんな風になるのかな。



「ハハハ……派手にやってるな……」


デジャヴ。今日はよく既視感を覚える。


「さっさと終わらせたいなぁ。お前もそう思うだろ?」


「楽な仕事じゃあないよ」


楽させてほしい物だ。こんな厄介な仕事、二度と御免だ。


「なぁ、この作戦の名前知ってるか?」


ぼくが、「さぁな」と言うと


「Operation Punishumentだとさ」


「懲罰作戦……罰を与えるどころか、皆殺しだろう?皆殺し作戦の方が似合ってると思うけど」


「ネーミングセンスの無さ、極まれりってな……」


ハバナへ向かってUAVは飛ぶ。ぼくらを運ぶUAVの周りには護衛のUAVが2機。ステルスだからレーダーには映らないけど、対空砲火に歓迎されないか心配だった。


同じクラスの武力のぶつかり合い。相違点は物量のみ。ミニチュアの自国との戦争。馬鹿馬鹿しくて、笑ってしまう。







むかつく大統領補佐官からジョン・ドウの破壊を命令されてから、ずっと考えていた。


どうしてカールは合衆国を裏切ったのか。


悩みでもあったのか、軍に不満でもあったのか、金で釣られたのか、思想の為か、元からこうするつもりだったのか。


同期で820連隊に入って、世界中を飛び回ったけど、カールが裏切った理由が分からなかった。

疑問。疑念。疑義。


それなりに信頼していたし、理解してるつもりだったけど。


大丈夫か、と大佐はぼくに訊いた。


大丈夫だ。大丈夫じゃないわけが無い。これは任務で、仕事で、やらなきゃならないこと。大丈夫じゃなかったら、みんなが困る。


みんなって誰?


合衆国民。


顔も知らない、見ず知らずの三億人?


そう。


友達1人の命より重い?


勿論。


じんわりと、そして速やかに。体に染み渡るように、ぼくに殺意がフィックスされる。


驚いた。こんなにも、あっさりと友達に対する殺意が体に馴染むとは思わなかった。これまでの有象無象の対象と同じように、実感の無い殺意がぼくに憑依する。


ぼくは殺せる。カールを殺せる。処理できる。


そう思うと少し哀しかった。ぼくは友達一人殺すのに何の躊躇も抵抗も無いんだな、と。いたって、フラットなままの心。これまでの有象無象の対象と同じように、達成できる。



地上では820連隊の同僚たちが暴れまわっている。ノンストレスなやつら。


疑問も疑念も疑義も、意識の最下層に沈んでいく。沈めたわけじゃない。独りでに、沈んでいった。

倫理が、良識が、麻痺していく。冷たく凍っていく。


ECNパイロットでは無く、同僚たちが忘れかけている特殊部隊員としての部分を叩き起こす。



殺人機械(キリングマシーン)


機械に機械が乗る。まるで、UECNみたい。


いや、ある意味ではそうかもしれない、と思った。


ぼくは殺せる。カールを殺せる。処理できる。


殺せる。殺せる。殺せる。殺せる。殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせるころせる。




日曜日のビッグマックとバドワイザーの為に。









《カウントスタート……》


システムは戦闘。セーフティを解除。宙ぶらりんになった足元。


環境追従迷彩で幽霊になるぼくら。


ARにシミュレーションした通りの情報が流れる。


「それじゃあ、いっちょ仕事終わりのバドワイザーの為にやるか」

メイナードの声が聞こえる。


「大佐に取っておいて貰ってるから、安心しろよ」


「そりゃ、ありがたい」


《20……19……》


「ちゃんとビール奢れよ?賭けに負けたんだからさ」


「分かってるって……そんなにがっつくなよ?がっついてるやつはモテないぜ?」


《11……10……》


「節操が無いよりはマシだ……どっかの誰かみたいに」


「そうかい。でも、お前もなんやかんや隅に置けないよな」


「……何のことだ?」


「これだから、鈍いやつはよ……」



《5……4……》


「そろそろ行くぞ……」


《3……2……》


「了解……」


《1……0……投下》


真っ黒な鎧が4つ、空に放たれた。



いつも通りの浮遊感が、ぼくを包んだ。

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