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Iron Executioner  作者: ごまみりん
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救済

よろしくお願いします!!



全く、やくざな仕事だ。


つくづくそう思う。


無人爆撃機(UAV)のウェポンベイに詰め込まれる仕事は世界中探してもぼくたちぐらいだろう。ぼくたちはスマート爆弾じゃない。


ただでさえ狭いウェポンベイにばかでかい鎧を纏った男が4人。暑苦しいったらありゃしない。


《投下10分前》


無機質な合成音声がぼくたちに目的地が近いことを知らせる。


ウェポンベイの中のAR(拡張現実)モニターに地上の様子が写される。炎に包まれる海岸線、逃げ惑う非戦闘員をM4で撃ち殺す同胞。一緒にトリガーを引くPMCの連中。いつもの戦争の光景。見飽きた光景。


大義名分の元に行われる虐殺。ハーグの検察部も目を瞑る覇権国家の優越。


「ハハハ……派手にやってるな……」


隣の同僚が笑う。カザフスタンの方が派手だったと言うと「あぁ……そうだな、あれはやばかった」と心底懐かしそうな顔をしていた。戦場の記憶でノスタルジーに浸れるなら幸せだろう。僕には出来ない芸当だ。


同僚は僕の右肩部の装甲を軽く叩いた。


「しっかりやろうぜ?」


「分かってる。それより装甲を叩くのはやめてくれよ」






2005年、ボストンダイナミクス社が<ビッグドッグ>を開発してから戦争は変わった。


軍は頓挫した次世代戦闘システム計画を復活させ、ボストンダイナミクスを含め、様々な企業がDARPA(国防高等研究計画局)と変態的な技術を開発した。環境追従迷彩、装甲繊維、次世代型M4カービン、多脚型戦車。ぼくらが搭載されているMQ28 プラネットホークもライアン・エアローティカル社とDARPA、国防総省が共同開発した。特殊作戦用多目的型UAV。


前世紀の先人たちはそういった技術を結集して、次世代戦闘システム<ANGEL>を完成させた。天使の名を冠するシステムの加護を受けた合衆国はたくさんの国を救済してきた。

対テロ戦争と同時に反米思想を持つ国家を片っ端から焼き尽くす。理由は様々で、テロ支援国家だから、テロリストが統治してるから、東海岸へ流れる麻薬の源泉だから、条約違反の兵器の不法所持や使用、国家安全保障会議(NSC)と統合参謀本部の気分で振るわれる正義の鉄槌。


そんな救済が始まってから一世紀が経った頃、ANGELの最後のピースを嵌める兵器が開発された。


それがぼくらが今装着―――搭乗している、歩兵戦闘支援パワードスーツ<Executioner>、通称ECN。


ぼくたち第820特殊機甲歩兵連隊は特殊作戦コマンド(SOCOM)において唯一ECNを専門に運用する部隊だ。SOCOMの殴り込み部隊、暴れん坊とも呼ばれてるらしい。


ECNで敵地最前線の危険域に降下して暴れまわる部隊の何処が特殊部隊だというのか分からないが、いつもブリーフィングはコソコソとペンタゴンの地下室で行われる。


それでいつもの如くペンタゴンで仕事を貰って、ECNを着こんでUAVに積まれる。





そんな訳でぼくらはキューバの上空にいる。目的地はハバナ市街地。


仕事は、より多くのキューバ革命軍兵士を殺すこと。DevGru(海軍特殊戦開発グループ)が国家評議会議長の首を取るまで前線を掻き乱すこと。


攻撃を仕掛けた理由は「合衆国に麻薬を流し込んでいた組織を国家ぐるみで支援していた」とかで、DEA(麻薬取締局)のECN部隊も戦闘に参加していた。2015年に国交が正常化されてから一世紀で合衆国はキューバを滅ぼそうとしている。


でも本当の理由は、もっぱら国家評議会議長の発言がワシントンの官僚の気にくわなかっただけという噂だ。






合成音声が投下までのカウントを始める。武装のセーフティーを解除して、システムを戦闘(コンバット)に切り替える。視界にARが展開され、情報が矢継ぎ早に流れる。


ウェポンベイのハッチが開かれて、足が宙ぶらりんになった。


ガコンッという迫撃砲のような音と共に浮遊感に襲われる。鈍色の空に放たれたECNは重力に従い地へ吸い寄せられていく。


FCS(火器管制システム)にロックされた敵がどんどん表示されるが、IFF(敵味方識別装置)に味方と識別されたマーカーの方が圧倒的に多かった。


タンカラーの海兵隊所属のECNや六脚戦車が街を蹂躙している。


「いい感じじゃねぇか?ビル」


「そうだな、いい感じに焼けてる。戦局は決まってる」


「でも俺はウェルダン派なんだ。もっと火を通さなきゃな」


「カール、やっぱり狂ってるよ。お前」


真っ黒に塗装されたECNでコロニアル様式の街並みを壊していく。カラフルなクラシックカーを踏み潰し、AKを持って突っ込んでくる民兵をECN専用アサルトライフルから放たれる7.62ミリ弾がミンチにする。


悲鳴と銃声と爆発音。合衆国の救済の福音。


ARに敵性ECN信号が表示された。中国製のエセECN<ZH-74>が四機接近してきているようだ。


右肩部の20mmバルカン砲で弾幕を張る。六門の砲身が回転して張られた弾幕は中国製を黙らせる。


運良く弾幕をやり過ごした一機が突っ込んできたが、同僚がパイルバンカーで屑鉄にした。特殊戦用に改修され杭の先端にHEAT弾が取り付けられていた為、敵機はぐちゃぐちゃにへしげて、火だるまになっていた。

息をつく間もなく、前時代の戦闘ヘリが二機ぼくらにミサイルを撃ち込んできたが、そんなミサイル程度でECN<M75>の装甲を溶かせる筈も無い。左肩部のSAM(地対空ミサイル)を発射すると前時代の遺物は蚊のように落ちていった。


キューバ革命軍はもう壊滅していた。今ぼくが殺しているのは民兵か非戦闘員ばかり。考えてはいけない。倫理観を意識の最下層に沈め、FCSにロックされた人形の糸を切っていく。




《展開している全部隊に通達……救済は為された。繰り返す、救済は為された》


通信が入り、ぼくたちの仕事が終わったことを知らせる。天使に逆らった者の首は落とされ、焦土という救済がもたらされた。


これから掃討戦に移行するのだろう。市街地戦仕様の二足歩行型陸戦ドローンがぼくらと同じようにUAVから投下されている。人の手はここまで、後は機械の仕事だ。


早い物じゃ既に5.56mm弾を子供に撃ち込んでいる。背中から何発も撃たれた子供は体を穴ぼこだらけにして、突っ伏したまま動かない。


そこら中にそんな物が転がっていて、頭がぱっくりいってる物もあれば、首と体が離ればなれになっている物もある。


ワシントンはキューバ人を根絶やしにするつもりなのだろうか。どうせCNNでもニューヨークタイムスでも報道されないが。


「ビル、早く戻ろうぜ。喉が渇いちまった……バドワイザー飲みてぇな」


同僚の声に頷き、回収地点に向かいブースターを吹かす。


救済がもたらされた地に、長居する必要は無い。血と硝煙の匂いが立ち込める場所に長居したいと思う奴の気が知れない。


ドローンが5.56ミリ弾を撃つ音は止まない。


しばらくは救済は続くだろう。

肩を落とした鉄の背中は新たな救済をもたらしに行く。

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