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ずっと君を見ていたい  作者: みどー
エピローグ
52/52

#12 ―エピローグ―


 ざわざわと騒がしげな声が聞えてくる。

 その声はこれから始まるであろうイベントに期待に胸を膨らませているのか、忙しくなく、絶え間なく聞こえてくる。

 目を閉じて精神統一している僕にとって邪魔でしかない音のはずなのに、その声が何故だか心地よいと思えてしまうのが不思議だ。


「おい、達也! そろそろ時間だぞ!」


 声を掛けられて、目を開ける。

 その途端に強い光が目に入って、一瞬目が眩む。

 屋根がついているはずなのに、夏の日差しは、それすらも関係ないと言いたげに、その猛威を振るっていた。


 僕はしばし眩んだ目を直そうと、辺りを見渡す。

 すると、先程まで自分が着ているのと同じ白と青のユニフォーム姿の選手で埋め尽くされていたベンチからは半分以上の人数が消えていた。

 その代わりに目の前には、ユニフォームの上から防具をつけた少し小太りな男が立っていた。


「おい、なにボーッとしてんだよ、達也? 大丈夫か?」


「ああ、問題ないよ。すぐに行くから、先に行っててくれ、キャプテン」


「急げよな!」


 僕に急ぐように言いつけて、少し小太りな男――青蘭高校野球部キャプテンにして、キャッチャーの松井はベンチから出て、走っていく。

 その松井が走っていく後姿を見ながら、僕は右手にグラブをはめて、その感触を確認するように、左手拳をグラブに二度叩き込む。

 すると、右隣からポンと肩を叩かれた。

 僕が振り向くと、そこには僕と同じユニフォームに身を包んだ、坊主頭なのにどこか爽やかな顔立ちをした少年の顔があった。


 少年は不思議そうな顔して、僕に話し掛けてくる。


「どうしたよ? まさか、緊張でもしてんのか?」


「まさか。そんなわけないじゃないか。そっちこそ、これから試合だってのに僕に構ってくるなんて、緊張してるんじゃないの?」


「あ、そう。ならいいが」


 きっと僕を心配しての事だったのに、僕がそれをつっけんどんな態度で返したものだから、少年は詰まらなげな表情して返してくる。


 そして、少年は青い帽子を被ってから、左足の感触を確かめるようにその場でトントンと足踏みをして、ベンチから立ち上がった。

 それから、少し前に進み出て、こちらに振り返る。


「そんじゃあ、行こうぜ、達也!」


 少年は笑顔を見せて、僕を誘う。

 それに僕は――。


「うん。行こう、浩介!」


 僕は少年に――浩介に誘われる形で立ち上がる。

 そして、先を歩く浩介の後を追いかけるように、ベンチからグラウンドへと出た。


「あ! 出てきた! おーい、コウちゃーん!」


 ベンチから出ると、ベンチ上のスタンドから声が聞えてきた。

 その声は僕や浩介がよく知っているものだ。

 その声に、僕も浩介も振り返り、ベンチ上を見る。

 すると、青蘭高校の制服を着た女生徒が両手を振っているのが見えた。


 彼女だ。


 けれども、何故だか、手を振るその左手にはグラブがはめらている。

 きっと、お守りのつもりなのだろう。

 それを見て、僕は彼女らしいと微笑ましく思えた。


「あ、タッちゃんも出てきた! おーい、タッちゃーん!」


 彼女はいつものように僕と浩介の事をおかしな呼び方をして、大声で呼ぶ。

 それに僕は顔から火が出そうになった。


「ば、馬鹿! 恥ずかしいから、人前でその呼び方はするなっていつも言ってるだろー!」


 僕が咎めるように叫ぶと、彼女は悪戯がばれた子供のように舌を出してはにかむ。

 一方で浩介はケラケラと愉しそうに笑っていた。


「二人共、頑張ってね! ちゃんと見てるからね!」


 彼女は僕と浩介に笑顔でそう言うと、グラブをはめていない右手で拳を作り、それを前に突き出す。

 それに僕らも応えるように、浩介は右手拳を、僕は左手拳を彼女に向けて高く掲げ、


「おう、行ってくるぜ」


「うん、絶対に勝つからね、由香!」


 僕らは彼女にそう告げてから走り出した。


 やっと始まる。

 眩しい太陽の下で、僕らの夏が。




ご愛読、ありがとうございました。

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